15 / 16
「第十四話」鋼鉄の大怪鳥
しおりを挟む
どこからともなく、風を切る音と爆発のような音があちこちから響いては消えてを繰り返している。既に激戦地と化している小笠原第二防衛戦線の空中からでも、海上での空母や戦艦やらが奮闘しているのがよく見える。
「威吹、こっちの被害状況は?」
「空母全四隻、健在。戦艦は主力艦が一隻大破しましたが、それ以外は健在。島での地上戦でも小笠原に常駐していた陸軍部隊が粘りの奮戦を続けており……総合して、優勢かと思われます」
海軍への被害が少ないのは幸いだった。
空母がまだ一隻も沈められていないのも大きい。空軍の戦闘機も今まさに空中を飛び回っているのが見える……どうやら、比較的早くに援軍が到着したらしい。今すぐに尻尾を巻いて逃げなければならないということにはならなそうだが。
「凄いですね……あはは、ここまで優勢なら、私達の出番はないかもしれませんね」
「はー!? つまんねーの! ”トロー”で”ホネオリゾン”ってやつだろ!?」
「……いいえ、そんな事はありません」
玲子と出雲の楽観に、威吹が釘を刺す。
僅か二日前の小笠原防衛戦にて、俺と同じように”剛翼”の『天使』という特殊個体の恐ろしさを体験した少女の言葉には、重みがあった。
「『天使』も馬鹿ではありません。敗北からわずか二日、少ないであろう動員可能な兵力を割いてまでここに攻め込んで来たということは、”勝算がある”ということです」
「威吹の言う通りだ、油断するな。……もしも”剛翼”のような特殊個体が一体でもここにいれば、この戦場はそれ一機の手で地獄に変えられる。そしてそれに対抗できるのは、多分俺達『神風隊』だけだ」
玲子と出雲は黙った。横目で見える彼女たちの顔は、油断も隙もなく引き締まっている。
飲み込みの早い子達だ。……とは言ったものの、実際にあの強さの『天使』とまともに殴り合えるのは、多分『八咫』の力だけである。
必ず来る。この圧倒的優勢な戦況をぶっ壊すに足る、悪魔のような性能を引っ提げた『天使』は。……そしてそれはなんとしてでも食い止めなければ、阻止しなければ、ならない。
(どこから来る? まず、なにから壊しに来る?)
空、海、地上。どれを狙っても、その他二つに属する軍事力が牙を剥く。
やはり、考えすぎなのだろうか。次々と撃破され墜落していく『天使』の残骸を眺めながら、俺は今この空の戦場で誰よりも安堵していた。
──陰り。晴天だったはずの空が、いきなり黒く覆われた。
なんだ、この暗さは。なんだ、この音は。なんだ、この胸騒ぎは。
「……勇殿、あれは」
「……」
空を見上げている『神風』たちと同じ”上”を、なにかに覆われた空を、見上げる。
「……デカすぎんだろ」
そこには、ここら一帯を丸ごと陽の光から遮ってしまうような、巨大すぎる鋼鉄の怪鳥が羽ばたいていた。繋がりっぱなしの無線からは悲鳴が響いている……あれは、『天使』だ、と。
「威吹、こっちの被害状況は?」
「空母全四隻、健在。戦艦は主力艦が一隻大破しましたが、それ以外は健在。島での地上戦でも小笠原に常駐していた陸軍部隊が粘りの奮戦を続けており……総合して、優勢かと思われます」
海軍への被害が少ないのは幸いだった。
空母がまだ一隻も沈められていないのも大きい。空軍の戦闘機も今まさに空中を飛び回っているのが見える……どうやら、比較的早くに援軍が到着したらしい。今すぐに尻尾を巻いて逃げなければならないということにはならなそうだが。
「凄いですね……あはは、ここまで優勢なら、私達の出番はないかもしれませんね」
「はー!? つまんねーの! ”トロー”で”ホネオリゾン”ってやつだろ!?」
「……いいえ、そんな事はありません」
玲子と出雲の楽観に、威吹が釘を刺す。
僅か二日前の小笠原防衛戦にて、俺と同じように”剛翼”の『天使』という特殊個体の恐ろしさを体験した少女の言葉には、重みがあった。
「『天使』も馬鹿ではありません。敗北からわずか二日、少ないであろう動員可能な兵力を割いてまでここに攻め込んで来たということは、”勝算がある”ということです」
「威吹の言う通りだ、油断するな。……もしも”剛翼”のような特殊個体が一体でもここにいれば、この戦場はそれ一機の手で地獄に変えられる。そしてそれに対抗できるのは、多分俺達『神風隊』だけだ」
玲子と出雲は黙った。横目で見える彼女たちの顔は、油断も隙もなく引き締まっている。
飲み込みの早い子達だ。……とは言ったものの、実際にあの強さの『天使』とまともに殴り合えるのは、多分『八咫』の力だけである。
必ず来る。この圧倒的優勢な戦況をぶっ壊すに足る、悪魔のような性能を引っ提げた『天使』は。……そしてそれはなんとしてでも食い止めなければ、阻止しなければ、ならない。
(どこから来る? まず、なにから壊しに来る?)
空、海、地上。どれを狙っても、その他二つに属する軍事力が牙を剥く。
やはり、考えすぎなのだろうか。次々と撃破され墜落していく『天使』の残骸を眺めながら、俺は今この空の戦場で誰よりも安堵していた。
──陰り。晴天だったはずの空が、いきなり黒く覆われた。
なんだ、この暗さは。なんだ、この音は。なんだ、この胸騒ぎは。
「……勇殿、あれは」
「……」
空を見上げている『神風』たちと同じ”上”を、なにかに覆われた空を、見上げる。
「……デカすぎんだろ」
そこには、ここら一帯を丸ごと陽の光から遮ってしまうような、巨大すぎる鋼鉄の怪鳥が羽ばたいていた。繋がりっぱなしの無線からは悲鳴が響いている……あれは、『天使』だ、と。
0
あなたにおすすめの小説
幻影の艦隊
竹本田重朗
歴史・時代
「ワレ幻影艦隊ナリ。コレヨリ貴軍ヒイテハ大日本帝国ヲタスケン」
ミッドウェー海戦より史実の道を踏み外す。第一機動艦隊が空襲を受けるところで謎の艦隊が出現した。彼らは発光信号を送ってくると直ちに行動を開始する。それは日本が歩むだろう破滅と没落の道を栄光へ修正する神の見えざる手だ。必要な時に現れては助けてくれるが戦いが終わるとフッと消えていく。幻たちは陸軍から内地まで至る所に浸透して修正を開始した。
※何度おなじ話を書くんだと思われますがご容赦ください
※案の定、色々とツッコミどころ多いですが御愛嬌
防空戦艦大和 太平洋の嵐で舞え
みにみ
歴史・時代
航空主兵論と巨砲主義が対立する1938年。史上最大の46cm主砲と多数の対空火器を併せ持つ戦艦「大和」が建造された。矛盾を抱える艦は、開戦後の航空機による脅威に直面。その真価を問われる時が来る。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる