カミカゼ

キリン

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「第十四話」鋼鉄の大怪鳥

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 どこからともなく、風を切る音と爆発のような音があちこちから響いては消えてを繰り返している。既に激戦地と化している小笠原第二防衛戦線の空中からでも、海上での空母や戦艦やらが奮闘しているのがよく見える。

 「威吹、こっちの被害状況は?」
 「空母全四隻、健在。戦艦は主力艦が一隻大破しましたが、それ以外は健在。島での地上戦でも小笠原に常駐していた陸軍部隊が粘りの奮戦を続けており……総合して、優勢かと思われます」
 
 海軍への被害が少ないのは幸いだった。
 空母がまだ一隻も沈められていないのも大きい。空軍の戦闘機も今まさに空中を飛び回っているのが見える……どうやら、比較的早くに援軍が到着したらしい。今すぐに尻尾を巻いて逃げなければならないということにはならなそうだが。
 
 「凄いですね……あはは、ここまで優勢なら、私達の出番はないかもしれませんね」
 「はー!? つまんねーの! ”トロー”で”ホネオリゾン”ってやつだろ!?」
 「……いいえ、そんな事はありません」

 玲子と出雲の楽観に、威吹が釘を刺す。
 僅か二日前の小笠原防衛戦にて、俺と同じように”剛翼”の『天使』という特殊個体の恐ろしさを体験した少女の言葉には、重みがあった。

 「『天使』も馬鹿ではありません。敗北からわずか二日、少ないであろう動員可能な兵力を割いてまでここに攻め込んで来たということは、”勝算がある”ということです」
 「威吹の言う通りだ、油断するな。……もしも”剛翼”のような特殊個体が一体でもここにいれば、この戦場はそれ一機の手で地獄に変えられる。そしてそれに対抗できるのは、多分俺達『神風隊』だけだ」

 玲子と出雲は黙った。横目で見える彼女たちの顔は、油断も隙もなく引き締まっている。
 飲み込みの早い子達だ。……とは言ったものの、実際にあの強さの『天使』とまともに殴り合えるのは、多分『八咫』の力だけである。

 必ず来る。この圧倒的優勢な戦況をぶっ壊すに足る、悪魔のような性能を引っ提げた『天使』は。……そしてそれはなんとしてでも食い止めなければ、阻止しなければ、ならない。

 (どこから来る? まず、なにから壊しに来る?)

 空、海、地上。どれを狙っても、その他二つに属する軍事力が牙を剥く。
 やはり、考えすぎなのだろうか。次々と撃破され墜落していく『天使』の残骸を眺めながら、俺は今この空の戦場で誰よりも安堵していた。

 ──陰り。晴天だったはずの空が、いきなり黒く覆われた。
 なんだ、この暗さは。なんだ、この音は。なんだ、この胸騒ぎは。

 「……勇殿、あれは」
 「……」

 空を見上げている『神風』たちと同じ”上”を、なにかに覆われた空を、見上げる。

 「……デカすぎんだろ」

 そこには、ここら一帯を丸ごと陽の光から遮ってしまうような、巨大すぎる鋼鉄の怪鳥が羽ばたいていた。繋がりっぱなしの無線からは悲鳴が響いている……あれは、『天使』だ、と。



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