リグレットの炎怨

キリン

文字の大きさ
9 / 31

第八話

しおりを挟む
帰りの途中、僕は勇者の事について考えていた。

前回、僕は『勇炎教』が嫌いだと言ったが、別に僕は炎が嫌いなだけであって、勇者という概念は嫌いじゃない、むしろ好きだ。

悪い魔王を正義の勇者が聖剣で倒す、その旅の途中で、頼もしい仲間との絆を深めていく。

ゲームでしか見たことない物語が現実に在るからこそ、此処に来たばかりの僕は心を保っていられたのだ。

そうそう、勇者と言えば条件が必須だ。

聖剣を抜く、体のどこかに痣がある、どれもこれも聞いたことのある条件だが、この世界の条件はまぁ何とも面白みのないものだった。



17歳の白髪の少年。



これが勇者の条件、確かに僕はもうすぐ17歳だが、髪は真っ黒なので条件に当てはまらない。

なので小さい頃、ホープのような同世代の子供は、白い髪の子を中心に勇者ごっこをしていた。

僕はいつも魔物役である、いやまぁ普通は加減を知っている子が多いのだが、どうにもホープだけが木刀でボコボコにしてくるので痛い、冗談抜きで骨が折れた。

そんな訳で楽しい幼少期を過ごしていたことを思い出している僕だが、ひとつ、気がかりがあった。

『またそんな遊びをしたのか、勇者など、くだらない』

このセリフを言う時、ブレイバさんは心底気持ち悪そうにため息をつくのだ。

本人の口から直接聞いたことは無いが、たぶんブレイバさんは勇者が嫌いなのだろう。

みんなの親が自分の子供に戦士になれ魔法使いになれという所を、僕には先生になれと言われた。

勿論、僕は反発した、誰だって勇者になりたい、その気持ちは幼い僕にもあったからだ。

でも、ブレイバさんは珍しく怒った、そして、泣いた。

反発する気も失せてしまった、僕はその場だけの言葉で考えを改めたふりをした。

するとブレイバさんは心底安心したような顔で、小さな僕の事を抱きしめてくれた。

今考えても、何故ブレイバさんがあそこまで反発するのかが、僕には分からなかった。

勇者に恨みでもあるのだろうか?『勇炎教』に聞かれれば殺されるほどの失言を一瞬口に出しそうになり、僕は慌てて口元を抑えた。

そんなこんなしているうちに、僕は自分の家に着いた。

「ブレイバさーん、帰りました・・・・・・あれ?」

鍵が開きっぱなしのままなのに、ブレイバさんがいない。

不思議に思いながら辺りを見渡すと、テーブルの上に紙が置いてあった。

ブレイバさんの字だ、手紙には綺麗な字でこう書いてある。



『         リグレットへ

急な用事を思い出したので、しばらく家を留守にします。

冷蔵庫の中の物を何でも食べていいので、大人しく待っていてください。

それと二つ、言いたいことがあります。

今日受け取ってもらったそれはプレゼントです、受け取ってください。

それと二つ目、これは絶対に守ってください。

何が合っても、私が帰ってくるまでドアを開けない事。 

約束を守ってくれると信じています。               

                   ブレイバより       』



これがプレゼント?思わず手の中の剣を見る。

正直言って、こんな歪な剣を貰っても嬉しくない、どうせならもっとカッコいいのがいい。

それと、だ。

『何が合っても、私が帰ってくるまでドアを開けない事』、余りにも不自然で強調された書き方の文面を、僕は何度も見返した。

ブレイバさんらしくないなぁ、不思議に首を傾げるも、その真意は分からない。

「・・・・・・ダメだ疲れた、今日はもう寝よう」

そう言って、僕は買ってきた食材を冷蔵庫にしまった後、倒れ込むようにソファーに寝転がった。



こうして幸せの水は枯れ、人生という乾いた森は運命の炎に蝕まれていく。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...