声劇台本集

独身貴族

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バカとパンツは使いよう

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声劇台本【バカとパンツは使いよう】
A♀
B &N♂
C♀
D♂
…………

♪チャイム
♪学校のざわざわ

N:それは昼下がり、学校での出来事だった。クラスメイトの女子が一人、俺に話しかけてきたのだ。彼女は同級生ではあるが、身長が130センチにも満たない、童顔で加えて貧乳ときた。そのため見た目が幼女にしか見えないのが悩みのタネらしい。声をかけて近寄ってきたが、俺と並ぶとどうしても見下ろすことになる。

A:なあ、ちょっといいか。
B:ん?なんだ、どうした。
A:あのな……って、屈むな馬鹿。
B:お前が小さいからだろう。それから、俺の名前は馬鹿じゃない。
A:そんなことわかってるぞ、馬鹿。
B:だから、俺の名前は馬鹿じゃないと言ってるだろ!
A:ああ、もう、しょうのない奴だな。こんな不毛なやりとりをしたいわけじゃない。実はだ、お前に大事な用があってだな。
B:なんだ、もったいぶって。はっ、まさか、とうとうこの俺に告白かッ……!?
A:するわけないだろ馬鹿。この自惚れ屋。
B:じゃあなんだよう。
A:ええっとな、そのだな、お前のパンツが欲しい……のだが。
B:おお、そうかそうか、俺のパンツが……って、えーーーーーーーー!!
A:うるさい。この!(頭を叩く)
B:(目覚まし時計のようにピタリと止まる)

N:と、そこへやってきたのは、共通の友人であるクラスメイトの男女二人。

C:なに、な~に? 騒がしいけど、何かあったの? 
D:こいつが騒がしいのはいつものことだろ。
B:だってよ、これが叫ばずにはいられるかっ……! 明日は雪が降るか、嵐が来るか、いや、世界が終わるかもしれないッ……!
D:大袈裟なやつだな。
C:彼女に関係のあること? もし悪いことだったら……(だんだん声のトーンが落ちる)
B:聞いてくれよ! こいつが、俺のパンツをくれって、言うんだからよう……!
D:なんだ、そんなk……
C &D:えーーーーーーーーーーー!
A:あー、もう、みんなしてうるさいぞ。そんな大声出すことでもないだろ。
C:それ、本当のことなの?
A:ああ。たしかに私はそう言った。
D:何故だーーー! こんな奴のなんかもらったところで一円の価値もないぞ!
C:そうよ。ゴミなんかもらったって嬉しくないでしょ。きっとこいつがまた、くだらないこと言い出したんじゃない? 「俺のパンツはシルクでできている」だとか、「金ウンがついている」とか。
B:ちょっとちょっとちょっと、俺の扱い酷すぎるなあ!
C:あたり前じゃない。日頃の行いを省みることね。
A:あー、まあ、聞いてくれ。実は急な話なんだが、学校の近くに部屋を借りて、一人暮らしをすることになったのだ。
D:一人暮らし……だと。幼女が……危険だ、そいつは危険だ!どこでこいつみたいな変態にストーカーされるかわからないぞ!
B:いや、変態に変態扱いされたくないぞ。
D:何をいう。俺は変態じゃない。幼女を暖かい目で見守る紳士だ。
B:それを変態って言うんだよ。
C:まあまあ、おばかな男子2人は放っておいて……そういえば一人暮らしをするって話、してたわね。
A:それでだな、流石に若い女の一人暮らしは心細くてな……防犯対策を調べたら、男の下着を干して置くといいと書いてあったのだ。
D:なるほど……それで(納得)。
C:でも、どうしてこの馬鹿に頼むの? 
A:年頃の女子高生が、男の下着を買いに行くというのもどうかと思ってだな。それに、自分で言うのもなんだが、この見た目だ、男のパンツをレジへ持っていったところで、店員は私に売ってはくれないだろう。だが、この馬鹿なら二つ返事でくれると思ってな。頼んでみたというわけだ。
D:確かに。いくら現役女子高生といえど、彼女の見た目は幼女そのものだ。「(裏声)パパはどこ?一緒じゃないの?」って言われるのがオチだな。
B:おお!そんな理由なら、パンツの1つや2つくらいいくらでもやるぞ!
C:こら、ここで脱がないの。
A:今ホカホカなのを渡されても困る。あいにく滅菌スプレーも洗濯機も持ち合わせていないのでな。
B:ひどいなあ。俺はバイ菌扱いかよぉ。
D:しかし、確かに一人暮らしは危険がつきものだ。セキュリティ面で考えた方がよくないか? カメラ付きインターホンとか、窓の三重ロックとか。下着よりかは使い物になると思うぞ。
A:ああ、それらはもう設置済み、窓ガラスも防弾仕様だ。侵入者があれば、直ちに警備会社へ連絡が入るようになっている。その辺りは問題ない。あとは、パンツがあれば完璧なんだ。
B:お前の家、金持ちなんだな……俺ん家のドアの鍵は、いまだに閂だよ……
D。いや、閂って。いつの時代の家に住んでるんだお前は。
C:これは重要文化財ものね。
B:へへ、それほどでもー。
C:微塵も褒めてないわよ。
D:しかし、いくらなんでも頼む相手が、こいつじゃなくてもいいんじゃないか。身内の方が頼みやすいだろう。男の兄弟とか、もしくは父親に頼むとか……
C:確か一人っ子だったはずよ。例えいたとしても、年頃の女の子が男の下着が欲しい、なんて言えるわけないじゃないの。
B:理由を話せばわかってくれるんじゃないか?
C:乙女心を考えなさいって、ちょっとは。恥じらう、乙女の心を。
B:いやあ、俺は乙女じゃないからわっかんねえなー。
D:そんなお前に紐パンをやろう。乙女の心になれるぞ。
A:待て待て待て。それはいろんな意味で違う気がするぞ?
B:んんん……わかった。じゃあ、明日、綺麗なやつ持ってくる。それでいいか?
A:ああ、助かるぞ。もう今日から、一人暮らしだからな。早く手に入りそうで、安心したぞ。
C:今日からなの?
A:そうだ。
D:だったら、この俺がひと肌脱いで、馬鹿のパンツの代わりに、お前の家のベランダで、悪い奴が来ないか見張っててやろう!
C:そんなことしてみなさい。あなた明日から学校これなくなるわよ。
B:そうだそうだ! 人の家のベランダで脱ぐなんて、やっぱりお前は変態だな!
C:ひと肌脱ぐってそう意味じゃないわよ……。
A:まあ、引っ越してすぐに、不審者が現れることもないだろう。今夜は、なんとかなるさ。明日、パンツ、よろしく頼むぞ。
B:おう! 任せとけ!

♪学校のざわざわ フェードアウト

B(心の声):へっへっへ……。俺の下着が……あの幼女のベランダに干されるのか……なんと清々しい、晴れ晴れとした光景なんだろう……! 威風堂々とはこのことだな! 俺の下着が無言で、この家の幼女は俺のものだということを物語っている……! ああ、いい! いいぞ!! 何か込み上げてくるものがあるな……!

N:そして、翌朝。

♪ 学校のざわざわ

B:おはよう、おはよう。ほれ、約束のパーンツ。
A:おいおい、直接渡す馬鹿がいるか……。あ、ここにいたな。
B:なんだよお。新品で綺麗に畳んであるんだからいいだろ?
D:はあ。昨日も言ったが、お前はもうちょっと乙女心をわかった方がいい。
A:おう、おはよう。
B:なんだよ、お前にはわかるのかよ。
D:女子に何かを渡す時は、綺麗な箱に入れて、包装紙でくるんで可愛いリボンをかけろ。これは常識だぞ、ジョーシキ。
A:いやいや、たかが下着にそんな厳重包装しなくても……。
B:そーだそーだ。
D:咳払い)ところで、昨晩は、なにもなかったか? 初の一人暮らし、心細かっただろう。家に帰るまで、不審者につけられていないか、家に入るところを、盗み見られていないか、さぞかし不安で仕方なかったに違いない。
B:ふっふっふ。そこは大丈夫だ。俺が一晩中、この幼女の部屋を見張っていたからな!
D:くそっ、抜け駆けしやがって! じゃなくて。おまわりさーん。ここにストーカーがいまーす。
B:やめろやめろお!!
A:ああ、確かに、1人で過ごす夜は心細かった。最後の切札である、男のパンツがない状態ではな。だが……。うーん。
B:ん? どーした?
A:これ、やっぱりお前に返す。
B:え!? なんでだよう……。
A:お前、パンツに未だに名前を書いてるのか。しかもこんな尻のところにデカデカと。恥ずかしいやつだな。
B:や、それは! ぱ、パンツってだけじゃ、誰のパンツかどうかわからないだろ? だからさ、ほら、俺の名前を書いておけば、一発で男物で俺のパンツだって……わかるだろ?
A:名前を書かなくとも、これはどこからどうみても男のパンツだし、お前のものだとわかったところで、恥ずかしいだけだぞ? もし知り合いが見ていたらどうする?
B:それがいいんだろうが!
A:どこがだ! わたしはまったくもって良くないぞ!
D:自己主張したさが裏目に出たな。
B:く、くそおおお……
(急に強風)
A:ああっ、急に強風がっ……! あっ……!
B:ああああああ俺のぱんつううううううう!! 
D:パンツが、風に煽られて飛んで行っただとおおおおお!?
B:しっかり、パンツ掴んどけよ!
A:いや、なんだ、その、やっぱり指で摘むくらいが、精神衛生的に限界かな、と。
B:新品だから汚くないってば!
C:ほんとに、朝から騒がしいわね。これだから、男子は……。
B:おお、いいところに来たなあ! 俺のぱんつ、見なかったか!?
C:見かけたとしても認識したくないわね、そんなもの……と言いたいところだけれど、探し物はこれかしら。
B:おお、そう、それだ!確かに俺のパンツ!って、ぉい、そんな1メートルもあるハサミのようなやつで、汚れものみたいにつまむなよ! 新品を持ってきたんだから、汚くも臭くもないです!
C:男の下着ってだけでアウトだわ。形からして卑猥よ。不潔だわ。
B:うう……不憫なり。
D:ぐうっ……流れ弾を食らったッァ!
C:残念だけど、こんな幼稚園児みたいな馬鹿の下着を、年頃の女子のベランダに干すわけにはいかないわ。
B:じゃあ、じゃあ、どうするんだ……! いいのか、俺のそのパンツがないがために、不審者が家に押し入り、思いつく限りの屈辱を、彼女が味わう羽目になっても……!!
D:お前のパンツにそこまでの効力を期待していないけどな。
C:うふふ。それで、考えがあるの。
B:と、言いますと……?
C:私がしばらくお家にお泊まりすればいいのよ。
D:それが、どんな防犯になるというんだ。むしろ、女2人の方が危ない。もし、危ない奴が隙を狙って、部屋の中まで侵入してきたらどうする。あわよくば3人プレイという事態になりかね……ぐほぁあっ
C:その汚れた口と脳みそを、何で塞いであげましょうか。え?
A:そうだ! 思い出したぞ! 彼女は今見た通り、腕っ節が強い! 確か柔道、合気道、空手全てにおいて有段者だと聞いたぞ!
B:なにぃ!?
A:しかも弓道、射撃でもかなりの腕があると聞いた! 視力も鷹並み、1キロ上空の鳥のフンを察知して、かわすことができるらしい!
B:なんなんだ、そのスキルは!!? 聞いてないぞ!?
D:ぐふ……彼女が家に一台いるだけで、万事解決じゃないか……
C:そうよ。おっほっほっほっほ。
A:うん、お前は誰かさんのパンツと違って、有能だな! 私もお前と一緒なら、心強い。
C:そういうわけで、残念だけど、あなたたちの出番はないみたいね。今夜から、彼女と2人でラブラブ同棲ライフを過ごすわ。
B:お、俺のぱんつの意味は……
Dなかったな。

 おしまい
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