エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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210 綺麗事と罪悪感。

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《ヒナ》
『食べません、シイラに会えるまで食べません』

《ヒナ、せめて飲み物だけでも》
『飲みます、でも栄養が有るのは飲みません、シイラに会います』

 目が据わってるのは、熱のせいか分からないが。

《分かった、すまんが宜しく》
「はい」

 少し熱が下がり、起きたと思ったらコレだ。
 ある意味、相当共感出来る存在なんだとは思うが。

 シイラが、本当に受け入れてくれるのかどうか。

《すまん、ハンストされた》

「それは、また、ヒナちゃんは」
《まだ下がらないんだ》

「ですよね、直ぐに行きますね」

《良いのか、本当に》
「はい、動揺しましたが、もう大丈夫ですから」

《すまん》
『ありがとう、じゃないかな?』

《ありがとう》
「いえ」
『じゃあ、行こうか』

 それから少しだけ寄り道をし、家へ。
 幾ばくシイラが無理をしていないか、本当に心配だったんだが。

「ヒナちゃん、アイスを食べて下さい」
『はい、食べます』

「ハンストなんてする子には、キーライムシャーベットですよ」

『今なら食べれるかも知れません』
「はい、あー」

『あー』

「どうですか」

『キーライムじゃないです』
「シトラスシャーベットだそうです、新作だそうで」

『食べましたか』
「はい、美味しい、ですかね?」

『はい』
「はい、どうぞ」

『はい、頂きます』

 アイスを食わせ終えると、また熱が出始めたのか、目がトロンと落ち始め。
 コレで、少しは落ち着くかと思ったんだが。

《ヒナ、そろそろ》
『まだシイラと居ます、添い寝をして貰います』

「良いですよ、でも暑くないですかね?」
『兎の着ぐるみに氷嚢を入れたモノを頼むよ』
「はい」
《成程な》

『君の事が心配で、こうして頭が回らないらしい』
『大丈夫です、単なる知恵熱です、死にません』

《だよな、けど良い子にしろよ》
『はい』
「あの、添い寝って、した事が無いんですが」

『大丈夫です、横で寛いで下さい、私が抱き着きます』
「分かりました」

 そこから、本当にずっと。
 ヒナが完全に眠りに落ちても、ただ黙って背を撫でるか、トントンと。

《本当に大丈夫か》
「役に立てるのは嬉しいんですよ、それに頼られるのも」

《俺が言うのも何だが、良く決断出来たな》

「あぁ、振り切れたと言うか、ヒナちゃんへの信頼です。絶対に、後から文句を言わないだろうし、こう頼る事にも後悔しない筈だと」
《あぁ、成程な》

「アレを私も読みました、正直、病的でしたよね。でもまるでフラッシュバックしてるみたいに、次々に反論の言葉が思い浮かぶんですよ、私の中の正論者の声が浮かび続ける」
《けど極論で曲論で、邪論だ》

「はい、分かってる筈、なんですけどね。害意は無かった、誰も予測出来無かった、直ぐに気付くのも難しかった」
《あぁ》

 必ず、言葉や反応にワンクッション挟む。
 どう言うべきか、どう言えば誤解が無いかを考える為、時間を取る為の行為。

「あの、寝ちゃうかも、なんですが」
《おう、任せた、サレオス》
『構わないよ、ゆっくりしておいで』

《おう》



 私は、嘘と誤魔化しの境が今でも分からない。

「そろそろ、着替えましょうか」
『はい、汗で目が覚めました』

「じゃあ、先ずは着替えてから、汗を軽く拭きますね」
『はい』

 そして今でも、それらは曖昧なまま。

 嘘、お世辞、誤魔化し。
 その境が曖昧なまま、大人になってしまった。

 なのに、必要としてくれている。

 こうしたお世話の手順は、全て執事君が紙で事前に手渡してくれたから、今でも手伝ってくれているから。
 だから、出来ているだけ。

 私はこんなに無能なのに、なのに必要としてくれている。

「はい、出来た、可愛いパジャマですね」

『着たかったですか』

 ヒナちゃんが、私に求めている事。

「ですね。ヒナちゃんはどうでしたか」
『良く覚えていませんが、好きです』

「成程」
『シイラも小さくなれば良いです』

「成程、確かに」
『ありがとうございます、我儘を聞いて貰っています』

「構いませんよ、ヒナちゃんは良い匂いですから」
『もっと嗅いでも構いません』

「ありがとうございます、横になりましょうか」
『はい』

 本当に、こんな私を必要としてくれている。



「あの、そろそろ、ご休憩を」
『オヤツを食べようシイラ、大丈夫、深い眠りだから』

「はい」

 シイラはまだ、完全には割り切れてはいない。
 もし万が一にも嫌な事が有れば、それは全て罰となり、償いとなる。

 そう考える他に、自身を落ち着ける方法を知らない。

 どれだけ知識を溜め、どれだけ学習しても。
 馴染みの有る考えを捨てるのは難しい。

《おう、お疲れ》
「いえ、美味しそうですね」

《おう、俺が作った》
「凄い」

《だろ。社交界用にな、貴族の先輩、ヒナの友達が指導係なんだ》

「ヒナちゃんのお友達、となると」
《同級生だ》

「あぁ、ですよね」
《そう納得する理由を聞いても良いか?》

「あぁ、下は大丈夫なんですが、上って難しいですから」
《姉が居てもか》

「そこはどうなんでしょうね、逆に、苦手意識が有るかもですから」
《成程な。すまん、食ってくれ》

「はい、頂きます」

 シイラには最初から優しさが有った。
 けれど発露の仕方も、正しい方法も、何も知らなかった。

 言葉を知らない野生児と同様に、身近に正しい見本も無く。
 ただただ、知っている通り、唸り吠える他に無かった。

 なのに、人だから言葉が話せないのはおかしい、だなんて。
 どれだけ、環境や教育を軽んじる言葉だろうか。

 同年代の中に居るだけで、言葉が覚えられるなら、野生児と呼ばれた子供は完璧に言葉を話せる様になっていた筈。
 けれど実際は、完璧に話せる事は無かった。

 どんなに研究者が努力しようとも、脳が育ってしまった時点で、言語の取得には限界点が生まれる。
 だと言うのに、正常な関わりを知らない子供だったと言うのに。

 一体何が、自業自得なのだろうか。

 そう親が育てた事も、育てなかった事も、全て子供に反映される。
 酷く捻じ曲げられた幹は、しかも太く硬い幹なら、真っ直ぐになる事は無いと分かる筈。

 なのに。

《やっぱり、まだだよな》
「あ、いや」

《いや、俺も抜けが有ると思ってな。邪論ってだけじゃなく、アレは単なる綺麗事だ、ってな》

「でも、一部は」
《極一部の事、だけ、な。試験の、あいつらが言ってた事、綺麗事だと分かったから立ち向かったんだろ》

「アレは、まぁ、でもそう反射的に感じただけで」
《反射的に分かった、で合ってた、あいつらは無責任な事を言っただけだ》
『現実を無視し、表面だけを取り繕う。体裁を繕う、または体裁ばかりで現実味のない言葉。辞書にはそう書いて有るよ』

《それに、アレは単なる文句、クレーマーと同じだ》
『承認欲求。注目・同情や共感・繋がりを得たい、根源的欲求に突き動かされた獣』

《クレーマーの対処法が有るだろ、否定や批判をしない、じっくり話を聞き共感してやる。少なくとも、そうすれば、あいつらは収まった筈だ》

「かも、ですが」
《解決策が出ない、しかも解決策に答えを出さなかったろ》

「まぁ、確かにそうでしたけど」
《あぁ、思い出した、道徳の貯金箱。どうだ》

「すみません、生憎未履修で」
『道徳的資格と偏見の表現について。道徳的に正しそうな言葉を口にするだけで、その者の道徳心が満たされる、そして道徳的な行いは時に不道徳的な行いの許可証となる』

《まぁ海外の実験結果だから、全てが俺らに合うとは限らないけどな》

『合理化、再解釈、自己正当化』
《そうそう、有ったな。ちゃんと論文も読んだからな、翻訳されたヤツだが》

「何故、そこに至ったのでしょうか」
《義理の妹が、何でバカは綺麗事ばっかり言うんだって、だから調べた》

「成程」
《アレだ、不良とかが家族は大切だ、親孝行したいとか良く言うだろ》

「本当にそうなんですか?」
《おう、で、それも合理化だ》
『責任転嫁、非人間化、自己正当化』

《あー、自己欺瞞だとか自己認識、それこそ印象操作って単語も有ったな》
『そうだね』

《しかも曖昧さも関わる、解決策が具体的に出ないだとか、そもそも答えが出なかっただろ》

 シイラは嘘を言わない、そして出来るだけ誤魔化さない様にしている。
 それが誠実さ、真面目さだと考えているから。

 けれど、まだ、加減が難しい。
 まだ、マトモな相手との人間関係を始めたばかりなのだから。

「曖昧に、抽象的に、道徳的な事を言って自分の罪悪感を誤魔化している」
『そうだね』

《すまん、直ぐにそこまで言えれば良かったんだが》
「いえ、時間って、意外と大切なのかも知れません。あの時に聞いても、素直に受け入れるには、時間が掛かったかも知れませんから」
『そうだね、人には限りが有るのだから。さ、食べよう』

「はい、ありがとうございます、レンズさん」

《他人行儀は不安になるんだが》

「ありがとうお爺ちゃん」
《よし、食え》

「はい」

 僕だけが、シイラを守り導きたかった。
 けれど、どうしても立場が有る、言葉は関係性に依存する。

 だからこそ、全ての関係性を満たす事は難しいけれど。
 シイラはいずれ僕だけを頼る、だからそれまで、我慢しておこう。

『レンズ』
《何だ?》

『僕のシイラが減る』
《はいはい、茶でも淹れ直してくる》
「あ、ありがとうお爺ちゃん」

《おう》
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