エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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220 リコリスと養護施設。3

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『私、妖精種のハッグの血が強いの。だからお父さんとお母さんに捨てられたの、だけじゃ、ダメかな』

「ハッグって」
《良いぞ、復讐したいんだな》
『うん』

《じゃあ、先ずは》
「ダメだって!」

《何でだよ》
「ハッグって」
『意地悪で悪夢を見せたりもする、けど、私は捨てられて傷付いたんだよ?』

「でも」
《覚悟はしてるんだろ、誰に何を言われても良い、誰からも同意して貰えない》
『うん、確かに意地悪しちゃうけど、だって仕方無いじゃない。私にはハッグの血が濃くて、お父さんもお母さんも、子供の私を全然許してくれないんだもん』

「だから、それを我慢しないと」
『我慢したよ?けど迎えに来てくれないんだもん』

「けど、だからって」
《もう嫌われても良いんだよな?》
『うん、恨みでも何でも良いから、私の事を一生覚えてて欲しいんだ。後悔して、絶望して、一生私の事だけ考えて欲しいの』

《よし》
「ダメだってば!!」

《お前だって》
「違う!私はそんな事考えて無い!!」
『あら、そう?後悔して欲しい、悲しめば良い、そんな気がいっぱい漂ってたよ?』

「前は、けど」
『今はビックリして収まってるだけ、また直ぐに後悔して欲しい、悲しんで欲しいって』

「イヤなの!そうやって考えるのも、本当は嫌だけど、でも、考えちゃうから」

『なら、復讐しちゃえば良いんだよ。それで後悔したら、今度は反省して、謝ってみれば良い。でも、大概は本当に呆れられちゃって、今度はお手紙も何もかもが無くなるかもね。産んだ事を後悔して、一生、私の事を考え続けて悲しくなる』

「イヤだ、それだけはヤダ」
『今だけ、でしょ?良い子って大変だよね、だから悪い子になっちゃえば良いんだよ、だってヒト種って必ず良い子しか産まれるワケじゃないんだから』

「でも、イヤだ」

 この金髪碧眼の美少女が、本当にハッグの血が濃いとは思えないが。
 リコリス嬢はもう、切羽詰まるわ感極まるわで、大混乱か。

『じゃあ、私が代わりに』
「イヤ!お願い!!教えないで!!」

 リコリス嬢なりに、悪の原理は分かってるんだよな。

 悪しき知恵が広まれば、いつか誰かが悪用するかも知れない。
 例え自分が行わなくとも、いつか身内が被害に遭うかも知れない。

 その理由や理屈は分かってても、自分の中では直ぐに結び付かない。

 ヒナなら、ココまでしなくても分かるが。
 寧ろ、この子は向こうの普通、人種の子としては普通なんだよな。

《だそうだ》

 一体、この少女は何の種なんだ。

『もう少し、詳しく説得してくれたら、納得してあげても良いわ』
「お願い、説得して!!」

 仕方無い、ヒナに来て貰うか。



《助かった、ハッグの血が濃いとは思えないな》
『ふふふ、だって私は妖精種、イレアナ・コスンツァーナだもの』

《妖精女王の原形か》
『良く知ってるのね。けれど9人のウチの1人よ、花の妖精、若しくは露や春の妖精』

《妖精種が本当に多いな》
『そうなの、元の種類が多いから』

 あの子は、リコリスは今、彼の妹に落ち着けて貰ってる。

 そして彼は、彼には、嘘は1つも無かった。
 それに苛立ちも痛みも、確かに有るのに。

 とても優しい。

《何で、あんな嘘を》
『妖精種は滅多に嘘は言えない、それこそ命を賭けないと。けれど私は言える、だからよ』

 ココには、親を恨んでる子は。
 私位だもの。

《俺でも、確かに妖精種だろうとは思うが》
『外見はそう変わりが無いのにね、人種や人に、良く影響するらしいの』

 容姿が整っているだけの、単なる金髪碧眼。
 それだけ、なのにね。

《君は、何でココに居るんだ》

『お母さんの本能に引っ掛かってしまうの。女としての本能、女としての縄張り意識、そうした事にどうしても引っ掛かってしまう』

《種属じゃないんだな》
『そうなの、流石、来訪者様』

《恨みは、少しは有るんだな》
『そうね、母親なんだから女を捨ててよ。今でもそう思ってる、でも、知恵で本能を抑えるには限度が有る』

《娘の女らしさに警戒し、夫にまで過剰に苛立ち、どうしても排除しようとする》
『何度も何度も、出たり入ったり。けど回を重ねる毎に思い知らされた、妻としての立場も必要、母親だけじゃ不安が残る』

《女として、夫婦として結婚してる以上、どうしても完全には捨てきれない》
『そうなの、実際にお母さんはまだ若いし、姉や弟には平気だから』

《君だけが、合わなかった》
『手紙では、私のは代筆だけれど、それなら大丈夫なの。何度も謝ってくれたし、張り合う気は本当に無いのに、どうしても近くに居ると落ち着かない』

《長く居れば居る程、な》
『本当に向こうにも有るのね』

《だな、それこそ父親を寝取る娘も居る位だ》
『うげぇ』

《凄い顔をしても、本当に整ってるな》
『ありがとう、けどね、ちっとも嬉しくないのよね』

《あぁ、けど確かに、人種は怯むだろうな》
『たった外見如きよ?私は家族と一緒に居られるなら、全てを変えても良かった、けどお母さんが反対したの』

 言い淀んでいたけれど。
 もし、それでも合わなかったら、責任が取れないからって。

《だとしても、間違い無く、幸せを望んでるとは思うが》
『本当に手放された、そのまま、自分の人生を生きなさいって。仕方の無い事だけれど、突き放された、見捨てられたって思ってる』

《今でもか》
『けど憎みきれないし、恨みきれない。お母さんはお母さんだし、優しい時は本当に、お母さんだから』

 自己嫌悪に陥る事も有る、それも知ってる。
 でも、結局は開き直るかどうか。

 お母さんは私に子供を作る許可を得ようとした。
 私は止められなかった、だから許可した。

 そして、弟が出来た。

《あぁ、すまん、父親単独でも来ないのか》
『ふふふ、そうなの、何かを感じ取れるのか疑心暗鬼になっちゃうから』

《辛いよな》

『だから、私にも、あの子みたいに魔法の呪文を教えて欲しいの』

 お母さんの事を考えないで済む魔法。
 お母さんを少しでも許せる魔法の呪文。

《いっそ女として張り合うのはどうだ?》

『どう』
《流石に母親でも嫉妬するだろう、超良い男と結婚して、自慢しまくる。成人したら単なる女同士、じゃんじゃん張り合って、父親がもっと頑張る様に仕向ける》

『疲れそう』
《若いのに、いや、謙虚で控え目な性質だもんだ》

『ふふふ、本当に勉強熱心ね、来て浅いんでしょう?』

《どう分かるんだ》
『大抵は匂い、まだココの匂いがほんの少しだもの』

《食べ物か》
『それに体液、だから女性は直ぐに分からなくなるのよね』

 あぁ、目を丸くして。
 想定外だったのね。

《それは、変化してるって事か》
『いいえ、馴染んでるかどうか。魔力、それを保持する膜の間に流れる魔力が、置き換わっていくの』

《あぁ》

『ねぇ、私がお母さんと張り合ったら、お母さんは』
《ダメなら止めれば良い、で次は母親、祖母として張り合うのもアリだろ》

『ふふふ、大人げないけれど、良い案かも知れないわね』
《まぁ、俺が知らないだけで、女ならもっと良い案が浮かぶかもだ。恨んだって構わない、まだガキなんだから未熟な部分が有って当然、その位受け入れるのが親の当たり前だ》

 不運や不幸を恨んだって当たり前。
 私もお母さんも、完璧じゃないから。

 それにこの世界も、完璧じゃない。

『ありがとう、お兄さん』



 多分ですが、こんなに泣いている誰かを相手にするのは初めてです。
 レンズでも、もう少し落ち着いていたと思います。

「わ、わだぢ、ばがだがら。でも、でも、おがあざんも、おどうだんも、ずぎでぇ」

 ちょっと何を言っているのか直ぐには分からないので、解読するのに時間が掛かります。

『はい、好きなのだと私も思います』

「い、いやなおもい、ぢでぼじぐなぐで。で、でも、まだゆるぜなぐでぇ」

『はい、心構えが無いと困惑する事は多いです』
「でも、でも、おがあざんに、あいだいぃ」

『私は、会いたくないです』

「ごべんん」
『構いません、私にはレンズが居ます』

 リコリスが、ピタリと止まりました。

「びなざまも、ふぐしゅう、ぢだいの?」

『まだ考え中です、先ずは良く考えられる消化器官を整えてから、知った後に答えを出すつもりです。私もアナタも未熟です、何事にも先ずは消化器官が重要です、でなければ判断を誤る可能性が高いです』

「ものごどを、じょうかずる、ぞのじょうがぎがん?」

『はいそうです、バランス良く知り、経験して育てます』

「でも、わだぢ、ぐるじぃ」

 離れて不安だったり、悲しかったり、怖かったりするのは分かります。
 トゲトゲで、痛くて、冷たくて熱いです。

 そうした黒いグルグルが、リコリスの中にいっぱいになっています。

『コレは、遠足です、体験学習です。ご両親は生きてます、生きていれば変化します、希望は持てる状態の筈です』

「でぼ」
『はい、希望を持つと絶望します。だから常に半々にします、私を愛していたか愛していなかったか、半々です』

「ごべん」
『構いません、半々の半分は半ば嘘です、あまり期待はしていません。あまり欲しくない気がしています、レンズや他で十分な気がしています』

「ざみじぐない?」

『はい、寂しく無かったですが、寂しいをココで覚えました。向こうの事は良く覚えてませんが、寂しいは無かった気がします』

「ごべん」
『構いません、私は傷付いていません、悲しくはありません』

「わだぢは、まだ、がなじぃ」
『だと思います』

 このいっぱいは、吐き出しているのに中々減りません。

《おぉ、クソ泣いてるなおい》
「ぅう、ごべんだざい」
『コレは誂いです、気にする必要は有りません』

《おう、お兄ちゃんとはこう言うもんだ、慣れろ》
『お兄ちゃんをしているレンズは、私の時と違います、何故ですか』

《お兄ちゃんにも色々有る、保護者用お兄ちゃん、妹用お兄ちゃん。親戚用、大人用、色々有る》

『妹用お兄ちゃんをして貰った覚えが無い気がします』
《チビっ子にはしない》

『リコリスにはしました』
《コレは妹の知り合い用》

『細かいです』
《おう、時に大人は使い分ける。お前もだぞリコリス、施設用でも何でも良いから、ちゃんとしたリコリスをヤれ。じゃないと意地悪なハッグが、マジで意地悪するからな》

 ココにハッグは居ない筈ですが。

『レンズも施設に居ました、言う事は素直に聞いておいた方が良いと思います』

「ぅん、はぃ」
《よし、終わりだ終わり。後でちゃんと、改めてお兄さんだとかお姉さんにお礼を言うんだぞ》

「あい」
《分からない事が有れば聞け、不安になっても同じだ、言わんと誰も何も出来無い》
『それはそうです、レンズも失敗しました、若葉マークの無いお店で買い食いしてお腹を壊しました』

《それ俺の失敗なんだが》
『私の失敗でもあります、知っているか分かるだろうからと、教えませんでした。私もレンズも失敗します、後は挽回出来るかどうかです』

《後は挽回の位置だな、何処まで挽回したいか。自分でゴールの調整をしろ、無理をするな、出来る位置に幾つでも置け》

「あい」

『そろそろ入浴の時間です、顔を洗って来た方が良いと思います、流石に不味いです』

「うん、ありがとう」
『いえ、ではまた』

「うん、また」
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