エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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《はぁ、すまん、思ったより流れが変わってな》

『いえ、ですが、ハッグは居ない筈ですが』
《あぁ、分かるのか》

『それもですが、ヒト種と相性が悪い場合は別の施設に入ります、特別養護施設です』

《あぁ、で最悪はオセアニアか》
『はい、特別養護施設を回り、それでもダメなら独立かオセアニアです』

 オセアニア率は1割にも満たないらしいが。

《何で行くんだろうな》
『分かりません、文明も何も無いのは流石にどうかと思います』

《だよなぁ》

『レンズは意外と知らない事が有ります』
《おう、若葉マークはマジで知らなかった》

『あのいっぱいの気持ちが、吐き出しても減らなかったのに、レンズに言われて落ち着きました』

《あぁ、命令され慣れてるかどうか、そうした気質か。親にこうしなさい、あぁしなさいって、言われ慣れてるかどうかも有るな。自分で考えるより、指示される方が楽な事を知ってるかどうか》

『手抜きでは』
《まぁ、何でも自分で考えなきゃいけない、全部自分で決めるってのは。ちょっと大変なんだ》

『人種や人は、でしょうか』
《そうそう、何の知識の源泉も無いから、迷うわ間違うわ。正解まで辿り着く時間が掛かるから、時には自分に苛立つ事も有る》

『では、今日はレンズが予定を決めて下さい』

 基本ヒナは自分で決める方なのは。
 悪魔の性質か本来か、どっちなんだろうな。

《じゃあ今日はヒナだけがアイスを食う、ヒナへのお礼だ》

『それはちょっと違う気がします』
《セロリ料理一式》

『何でですか』
《決めて良いんだろ?》

 お、固まった。

『コレは意地悪です』
《おう、コレがお兄ちゃんだ》

 長考だな。

『暫くいつものレンズで良いです』
《おう、けど決めて欲しい事が有ったら言えよ、最低でも2つ選択肢は出す》

『考えておきます』

 さ、何を決めてやるかな。

 先ず工房は俺がヒナを後追いするだろ。
 で、ヒナの次の習い事は工房じゃなくて、運動系を予定してる。

 部活みたいなのは少し早いかも知れないが。
 集団行動的な協調性重視の運動、それと。

《おっ、大丈夫か》

 あんまり不用意に女性に触るもんじゃないんだが、仕方無いよな。

『はい、ありがとうございます』

 幾ら整備された石畳でも、どうしてもヒールが有ると躓き易いよな。
 大変だな女は。

《そっか、じゃあ》
『あの、お礼を』

《いや、大した事じゃないし》

『分かりました、ありがとうございました』
《おう、じゃ》

 そう言えばシイラは意外と転けないよな。
 やっぱり、天然は良く転けるは嘘か。



『あ、お邪魔してます』
『家の前で彼女の落し物を拾いました、パティシエさんだと聞いたので、お礼にとお菓子について教えて貰っています』

『ふふふ、偶然ですね』

 レンズが凄く警戒しています。
 やっぱり良い嘘では無かったらしいです。

《ヒナ》
『ちょっとウ〇コです、付き添って下さい』

《あぁ》

 レンズから驚きと警戒が伝わって来ます。

 何故か分かりませんが、嘘が関係している事は分かります。
 彼女が偶然ウチの前を通り掛かったのは、嘘です。

『レンズ、彼女の嘘のせいで警戒していますか』

《あぁ》
『追い出しますか』

《いや、それは一旦置いといて、何で嘘が分かってたのに関わったんだ?》
『子供は嘘を言います、でも悪意や害意が無い事が殆どです。上手く言語化出来無いので軽い嘘に手を出します、全部を指摘してはいけません、大半は関わりたいからです。なので殆どを無視しています、あの人も寂しくて関わりたいだけなのかと思いました』

《はぁ、しかもヒナは強いし、ココは安全だしな》

『そこまで危ないですか、驚きと警戒でした』

《正直、偶然ですねと言われた瞬間、ヤバいなと感じた。言語化は難しいが、コレはヤバい女だ、そう感じた》

『どうヤバいのでしょうか』

《まぁ、折角だ、暫く関わってみるか》

『はい』

 暫くがどの程度か分かりませんが。
 レンズの警戒度がかなり下がったので、様子を見る事にしました。



『あっ、ごめんなさい』

 ヒナの考えと強さを改めて認識した後、俺は敢えて離れ、本を読みながら完全に無視してたんだが。
 大きな音がしたんで顔を上げると。

 ヒナが、床に落ちたボールと飛び散った生クリームを見ながら、完全に固まっていた。

《大丈夫かヒナ》

 完全に困惑してるな。

『いいえ、お昼寝をすべきかも知れません』
《よし、後片付けは任せて昼寝だ》

『はい』

 コレは怒りなのか何なのか。
 部屋に行くまで、沈黙が続き。

《何が有った》

『ワザと落としました、食べ物が無駄になりました、こんな事をするのは予想外です』
《あぁ、アレは俺が目当てだからな》

『では何故、落としました、レンズに話し掛けませんか』
《俺からの注目を集める為だけに、調理器具を敢えて落とした、だから食材や器具なんてどうでも良い。自分の目的遂行の為なら、何だってやる、それがヤバい奴の特徴の1つだ》

『はい』

 驚きが勝って消化に時間が掛かりそうだな。

《それから俺に話し掛けないのは、それが俺への配慮だと思ってるから》

『全く意味が分かりません』
《話し掛けられる機会を恵んでやってる》

 無。
 だよな、分からないよな。

『全く意味が分かりません』
《あの女の、俺への好意は無いんだよな?》

『良く分かりません、何だか濁っています』

 そう感じ取れるワケだな。

《アレは俺の方が気が有る、と思ってる、けど自分にはそんなに好意は無い。だから俺次第では、付き合ってやっても良い、そう考えてる。だからボールを落として機会をやった、それが相手への配慮だ、そう思ってる。ヒナ、こう言う時はこう、そう口を開けてボーっとする》

『コレは何ですか』
《ポカンとしてる表情だ、唖然、とも言える。以降はコレで頼む》

『はい、分かりました』

 やらせてみたが、マジで間抜けだな。
 後でシイラにも見せてやるか。

《で、何か分かったか》

『試し行為、話し合いの機会を設ける、だったのは分かりましたが。もっと、親しくなってから、穏便に行うモノでは』
《おう、ヤバい奴の特徴2つ目、距離感と行動が他とかなり違う。シイラは例外とするが、基本的には大人は既に多くを経験して、どの関係性ならどこまでして良いかを分かってるし。それこそ、食べ物を粗末にする奴はもう、須らく論外だ》

『ヤバい奴の大前提、食べ物を粗末にする』
《おう、それに物も。自分の物なら多少は分かるが、知り合ったばかりの、ほぼ赤の他人の持ち物を粗末に扱った》

『食べ物や他人の物を粗末に扱う奴はヤバい』
《その通り》

『私は気付けませんでした』
《コレは仕方無い、稀に個性の範囲内で凄い不器用なのも居るから、ヒナは周りと同じ様に常人大前提で接した。ヒナは強いし、ココは安全だから問題は無いが、以降は少しでも自分だけで対処出来そうにない相手は仲間を直ぐに呼べ。友達がそんな奴を相手にしようとしたら、諫めろ》

『はい、分かりました』
《生クリームとボールには後で俺から謝っておく、予測の範囲内だが、暴挙を許したワケでは無いと》

『はい、宜しくお願いします』

《まだ消化に時間が掛かるだろ、暫くアズールと部屋で何かしてろ》
『はい、そうします』

 さ、後はアレをどうするか。
 短気は確実なんだよな、焼き菓子の完成まで待てず行動を起こした。

 コレはマジで、不味い。

《話が有る》

『はい』

 怯えもせず嬉しそうにしやがって。
 この女は、マジでヤバい。

 昨日すれ違った時は、全くそんな気配は無かったのにな。



《偶然は嘘だろ、俺もヒナも嘘が分かる。どうして嘘吐いて、コッチに関わって来たんだ》

 怒ってる。
 でも誤解を解けば直ぐに分かり合える筈。

 だって、何でか理由を、ちゃんと聞いてくれたから。

『だって、態々、助けてくれたじゃないですか』

《いや、単に目の前で》
『裏が無いのに助けるなんて有り得ないですよ、子供じゃないんですから、いつから興味を持ってくれてたんですか?』

《いや、今でも、全く興味が無いんだが》

『嘘』

 ほら、だって困ってる。

《はぁ》

 皆、そうして溜め息を吐いて、それでも全然認めてくれないけど。
 結局は関わってくれる。

 なら、最初から認めてくれれば良いのに。

『私、凄く嬉しかったんですよ。素敵な人に出会えた、優しくてカッコ良くて、けど偉そうじゃない人にやっと出会えたって』

 皆、大和撫子が良いとか、積極的な女性が苦手だって言うけど。

 でも、結局は私に会いに来てくれる。
 私の事、病気って事にしたがるし、最初は怖くて鵜吞みにしかけたけど。

 コレは単なる恋の病。

 しかも、私より相手の方から連絡が来る事が多いし。
 こうして会いに来てくれたり、話そう、って言って来るのは相手なのに。

 何で、私の方が勝手に好意を持ってるだけ、だなんて言うのか分からない。

 もう、私達は両想いなのに。
 コレは単なる恋愛の駆け引きなのに。

《何回、失恋した》

 ほら。

『良く覚えて無いけど、いっぱい』

 可哀想だねって、そう同情してくれる人は、最初は優しいなって思うんだけど。
 怒ってばっかりで飽きちゃうから、私からお別れしてあげてる。

 それだけ、なのに。
 警察だとか、病院だとかって、皆凄く大袈裟。

 それに妬みも。
 私と付き合いたいから引き裂こうとするのに、私が追い掛けてあげないと、全然奥手で下手だから。

 だから、結局は私から色々としてあげるのに。
 皆、文句を言う。

 けど、きっとこの人は違う。
 きっと、私を。

《接近禁止命令を申し立てる》

『何で』
《生クリームとボールを粗末に扱ったからだ、以上》

『そ、そんな事で』
《食べ物と物を粗末に扱う奴と関わる暇は欠片も無い》

『アレは』
《ワザと落としただろ》

 怒ってる。
 優しいから、粗末に扱ったから。

『ごめんなさい、でも』
《ワザと落としたよな》

『それは』
《ワザと落としたよな》

『ごめんなさい』
《ワザと落としたと認めるんだな》

 何でそこまで怒るの。
 物語の中でだって、良く有る些細な事なのに。

 それにアナタの為に、折角、私が会いに来たのに。
 しかもアナタが中々話し掛けないから、私が折角、機会を作ってあげたのに。

『もう良いです』
《じゃあ損害賠償請求だ》

『なんっ』
《罪を認めず謝罪もしなかった、だからボールの修理代金、それと生クリーム代だ》

『それ位』
《ヒナはあまりの事に衝撃を受けた、心理面での損害賠償請求も行う》

『あんな程度で』
《あんな程度、侮辱罪も追加で、裁判だ》

『なんっ、違う』
《何が違うのかは聞いてやる》

 最初と、全然違う。
 偉そうで、分からず屋で、全然感謝が出来無い人だった。

『すみませんでした、もう帰ります』
《おう》

 何で。
 どうして、私を好きになる人って、いつもこうなの。
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