エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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56 学園と可哀想な王子様。

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『やっと、一緒に過ごせるよ』
「嬉しい」

 僕は嘗て、王子だった。
 王位継承権を放棄し、愛する者を選んだ。

 僕より優秀な弟が継げば、僕が居なくなろうとも問題無いと思っていた。

『君に子供を授けられないけれど』
「良いの、アナタさえ居れば」

 例え体の繋がりが無くとも、愛し合い続けられると思っていた。
 けれど。

『どうして』
「ごめんなさい、一時の気の迷いなの、本当に」
《アンタ、本当に愛しているなら、そろそろ手放したらどうだ。子を授けてやりたいと、少しも思わないのか》

 僕は頭が真っ白になり、どう歩いたのか、気が付くと見知らぬ場所に寝かされていた。

『ココは』
「あら、頭は痛く無い?大丈夫?」

 どうやら僕は崖から落ちていたらしく、この婦人が家まで運び世話をしてくれたらしい。

『ありがとうございます、助かりました』
「いえいえ、男手が欲しかったので、寧ろ長く居て欲しい位ですから。遠慮せず、しっかり養生して下さい」

『あの、旦那さんは』

「出て行ってしまって、それきりです」

 婦人は3人の子供を抱えた農民だった。
 僕には家に帰る勇気が無く、暫くはと、その家に世話になる事になった。

 そうして子供が大きくなった頃、王族の家族の噂を耳にした。
 次々に病で亡くなり、弟も危ない状態で、まだ幼い甥が王位を継ぐかも知れないと。

 例え王族としてでは無かったとしても、城に帰るべきかも知れない。
 そう思い、家を出る準備をしている時だった。

《あぁ、アンタ、ココに居たのか》

 僕の愛する者を寝取った相手が、婦人の夫だった。

「アナタ、戻って」
《いや、国を出るついでに俺の物を取りに来ただけだ》
『彼女はどうしたんだ!!』

 僕は婦人を気遣う事もせず、男に掴みかかった。

《あぁ、アレに3人目が出来たから国を出るんだよ。お前も出た方が良いぞ、随分ときな臭い噂ばかりだしな》
『お前』

《どうせアンタだって》

 僕は初めて、人を殺した。
 素手で殴り殺してしまった。

 そしてふと婦人を見ると、まるで抜け殻の様に虚ろな目で涙を流しているだけ。

 僕は男を埋葬し、城へと向かった。



《お前に何が出来る》

 殺した筈の男に往来で出会った。
 コレはきっと、悪魔の仕業だろう。

『出来る事を、出来る限りするまでだ』

 そうして横を通り過ぎ、振り返ると男は消えていた。
 やはり悪魔の仕業なのだろう。

 そう思い先へ進んだ7日後だった。

《覚悟をしていた筈では》

 愛していた女の姿をした悪魔が往来に現れた。
 以前と同じ様に、四ツ辻に。

『足りなかったのは認める、だが本当に愛していたんだ』

 僕は婦人とも、彼女とも何もしていない。
 だからこそ、あの言葉が許せなかった。



「家族も国も捨てたお前に何が出来る」

 王都に入る寸前だった。

 既に道すがらには、餓死した亡骸、襲われたのか大怪我を負った亡骸が王都に近付く毎に増え始め。
 僕は幾度も城へ戻る事を躊躇った。

 そして答えは出た。

『本当に、申し訳御座いませんでした』



 僕は短刀で首を切り、死んだ筈だった。
 だが目を覚ますと、幼い頃の自身に戻っていた。

 今度こそ、間違ってはならない。

 そう後悔を胸に父や母に挨拶をしたが。

「いや、もうお前は好きにして構わない」
『そうね、長男だからと、もう無理をしなくて良いのよ』

 自分だけでは無かった。
 僕は見捨てられた。

 いや、見捨てたのは僕が最初だ。
 だからこそ、今回こそはと。

 けれど、両親だけでは無かった。

『私は相応しく無いかと』

《私、真の愛を応援させて頂きたいので、ご機嫌よう》

「いえ、きっと殿下には相応しい方が現れますから、では」

 婚約者候補が全く居なくなった頃。
 僕には更に妹と弟が産まれた。

 僕の世話には、侍従と侍女が1人づつ。
 離宮にて、仕方無く世話をされるだけとなった。



「初めまして、殿下」

 再び、彼女と出会う事になるとは思わなかった。
 彼女は僕の為に、以前とは違い侍女として王宮へ来てくれた。

 例え裏切られた事実が有るとしても、僕は嬉しかった。

『宜しく』

 そうして僕は再び彼女に惚れてしまった。
 それが間違いだった。

 彼女には記憶が有るのか分からなかった。
 だが接するにつれ、無いのだろう、そう思い始めた。

 だからこそ、惚れ直してしまった。

 そして過去の愛に縋り、今度こそはと。
 けれど、再び彼女は逃げた。

「もう、嫌っ」
『コレは君と僕、そして国の為なんだ』

「だから嫌だったのに、もう!本当に手を出さなかったアナタが悪いのよ!!」

 彼女にも、記憶が有った。
 そして僕は、彼女を何も理解していなかったのだと思い知らされた。

『そう、面倒は嫌だけれど、僕が欲しかったんだね』

 涙に濡れる彼女の顔を地面に叩き付け、倒れた細い身体の上に馬乗りになり。
 両手では余る程に細い首を、目一杯絞り上げ、更に体重を掛けた。

「あっ、ぐぅ」

 見る見るうちに真っ赤になると、今度は白くなり始め。
 目は血走り、口元には白い泡を吹き始めた。

 温かい、他人の温もり。

 脈打つ血管。
 立ち込める異臭。

 殺すつもりは、もう無い。
 未練も執着も、何もかもが消え。

 僕は少しずつ、手を緩めた。

『僕の事は、何も、考えてくれてはいなかったんだね』

 今思えば、当然だった。
 彼女は単なる庶民、国の為を思う教育も受けず、憂う素養すら無かったのだから。

「くっ、ぁがっ」

 家族の言う事を聞いていれば。
 幻の愛なのだと気付いていれば。

 僕は僕の事を殺したい。

『逃がしてあげるよ、クソ男好きな雌豚が』

 彼女は汚れた姿を気にもせず、這いずりながらも逃げようとし、最後は振り返りもせずに走り出した。

 そうして僕は信用を失うと同時に、信用を得た。
 彼女を切った事だけ、を認められ。

 病の治療の為、真っ先に僕が試される役目を得た。

「あぁ、生き残れたか」
『良く頑張ったわね』

 幸いにも僕は生き残れた。
 そして家族も無事に生き残った。

 けれど、僕の体は幾ばくか不便になり。
 相変わらず、離宮で侍従と侍女と過ごすだけ。

 ただ、それだけの人生を誰よりも長く生き、終えた。



『可哀想です』
《うん、そうだねー》
「僕、まだ分かんないや」
《何処が分からないんだろうか》

「だって、コレ、自業自得じゃない?」

《まぁ、そうだけど》
《分かるけどー、少し位は誰かが許しても良いんじゃないかなー?》
『私達なら、無関係な私達なら、そう思えますが。明日、王子様のせいで国が滅ぶとなったら許せないと思います、大好きな人と離れ離れは許せません』

《あれー?可哀想なの、もしかして王子様じゃない?》
『はい、民が可哀想です、王子様は自業自得です』

《でもー、こんな事になるなんて知らなかったんだよ?》
『いえ、貴族ですら分かる事です、王族教育がなされ理解していた筈です』
《そこは、うん、僕もそう思うけれど。もしかしたら、手抜きをされていたかも、だし》
「でもそしたらー、王様があんなにがっかりして無かったと思う」

《あー、そうかもー》
《まぁ、確かに》
「でも、題名と違うくなるよ?」
『そこです、可哀想だと思えるのは王族の事を知らない、他の国の者』

《あー、そっか、コレ外国の事なんだ》
《そして他国の者が書いたからこそ、可哀想に、何故》
「ねー、可哀想じゃないのにね」

『踏み絵、では』

《踏み絵?》
「新しい遊び?」
《いや、試す為の道具、と言う事だね》
『はい、どんな国で生まれ育ったどんな者なのか、コレで知れます』

《そうー?》
「そうなのー?」
《うん、王族の実態を知らないかどうか、題名に流されてしまうかどうか》
『他にも色々と有るとは思いますが、分かりません』

《そっかー、ならこの本、凄いねー》
「だねー」
《じゃあ、僕らはこの感想で、君達は僕らの意見について感想を書くのはどうだろうか》

《うん、そうするー》
「ありがとー」
『貴族らしいですね、ありがとうございます』
《いや、うん、出来る事をしたまでだよ》

 もし王族教育が手抜きされ、そうなるだろうと思えなかったなら、確かに可哀想だと思います。
 ですが、そんな様子は見受けられないので、王子様は自業自得です。

 私は、民が可哀想でした。
 何も知らないまま、いつも通りにしていただけなのに、たった1人が無責任な行動をして全てを壊した。

 私は嫌いです。
 王子様の風下にも置けません。

《あら、今回はとても熱が入っているのね》
『はい、全く許せません、制裁が生温く感じます』

《そう、それで、本来は風上に置けない、よね》
『臭いモノを風上に置くのが分かりません、腐ったモノは風下に、肥溜めに沈めるべきです』

《そう、感情を優先する事は悪かしら》
『時と事情と立場によります、ですが全てダメでした、税で養われていたのですから全て返還してから一緒に居るべきです』

《では税を返し終えていたなら、その憤りは少しは減るかしら》

『いいえ、誤差の範囲内です。誰も生まれや立場を選べませんが、愚策を選ばない事は出来ます、学びと思考を放棄した結果です』

《では、感情を優先させて良い時は、どんな時かしら》
『喜びや悲しみが溢れそうな時です。ですが側近や友人知人にも問題無いだろうと確認してから行動します、現に私はそうしています、迷惑を掛け嫌われ避けられるのは嫌ですから』

《そう、しっかりと気を使っているのね》
『はい、ですがまだまだです、判断に迷う時が多いので』

《では、どんな立場なら、許せるかしら》

『分かりません、家族を捨てました、私が家族なら許せません』

《アナタが親でも》

『分かりません、でも、どうでも良いなら気にしません』

《なら、許すの範囲内ね、コレはどうすれば許せるかの物語でも有ります。皆さん、明日も物語は続きます、帰って良く考えてみて下さい》

『はい』
《「はーい」》
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