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59 ただ愛されたかっただけなのに。
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何故、どうして、そんな事をしたの。
何故、どうして、そんな事をされたの。
ただ、愛されたかっただけなのに。
《本当に、そうだね》
僕ら悪魔の家には、7つの大罪に呼応する水晶玉が有る。
それらは強く現れた感情を切っ掛けに、全てを記録する能力が有る。
『本当に、悪趣味が過ぎる』
《どう思う、精霊》
『分かっているだろうボティス』
《相変わらず、小さく可愛い白い牡鹿、なんだね》
『ネネもヒナも気に入っている』
《そして、そうあろうとしている事の現れ、随分と精霊らしい事をしたね》
『眠らせ、夢を見せただけだ』
《その結果、こんなにも素晴らしい装置が生まれた》
どの悪魔の家に繋がる試練の間、そこに存在する鋸球体。
数多の悪魔や人が考えたモノ。
けれど誰もが言葉にせず、形にすらしなかったモノ。
誰の手も借りる事無く罰を与え、リセットを続ける、新たな地獄。
それは復讐心から始まり、理解を得る事が目的となり、救いを与えられた場所。
地獄と定義するのは当然の事、全てが、揃っているのだから。
『だが』
《クトゥルフの事だね、彼なら大丈夫、既に捕らえられている状態での関与。コチラ側に干渉する力は無い、ただ話し、観るだけ》
『そうか』
《また、直ぐにそうやって消えて。折角、君の為に、あ。まぁ良いよ、君達の為に作ったのだから》
けれど、ティーセット一式ごと、持って行くのは止めてくれないだろうか。
アレは彼女達のお気に入りの、あぁ、その為の悪戯なんだね。
『おはようございます』
「はい、おはようございます」
先日はとても大変でした。
動物園でヒナ様とネネ様が抱き合いながら泣いていたかと思うと、不意に静かになり。
ヒナ様からお伺いしていた、白く小さな牡鹿が、2人を眠らせたと仰った。
ネネ様の護衛はネネ様を抱え、僕は僕でヒナ様を抱え。
取り敢えずはと馬車に乗せ、お屋敷に連れ帰ったのですが。
白い牡鹿は勿論、ラプラスの悪魔も既に消えており、代わりにボティス伯爵が家に訪れ。
何が起きたのかを、説明して頂きました。
精霊は人種の心に呼応する。
だからこそ精霊は眠らせた。
どうしようも無い悲しみを遠ざける為に、と。
『いただきます』
「はい、どうぞ」
実際、精霊の影響力が強いロミオ様は、泣いておられました。
あのままでは周囲の精霊種をも巻き込み、悲嘆の影響が出ていただろう、と。
精霊が最も呼応するのは悲しみと喜び。
例えそれが自身から発された感情では無くとも、精霊の系譜であればいずれ影響を受けてしまう。
しかもヒナ様とネネ様は、純粋な人種の血が入っている。
その影響力は強く広く出てしまう為、こうせざるを得なかった、と。
そして落ち着かせる為にも、先ずは僕らが心と状況を整えねばなりませんでした。
この事を説明するワケにはいかない、心を抑え閉じさせては、次は悪魔の怒りを買ってしまいます。
ですのでお手伝い頂きました。
ヒナ様が泣き止まなかった所をロミオ様が訪れ、その場を収め馬車へ乗り込み。
お2人共に、眠ってしまったのだ、と。
そして起床後、ネネ様は幾ばくか恥ずかしそうにしてらっしゃいましたが。
ヒナ様には大きな変化が有った。
不安げで悲しみを浮かべた様な表情をなさり、ネネ様から離れなかった。
ロミオ様の見解では、他と同じく触れ合いと安心、離別と不安が直結したのだろうと。
その行動は、僕へも現れました。
眠る前は話をして終わるだけ、だったのですが。
子供を寝かし付ける時と同様の事をして欲しい、と。
侍女に言わせると、赤ちゃん返り、だそうですが。
僕は更に納得しました。
コレが当たり前で、有るべきものだったのかどうか、自身に問いたかったのだと思います。
そして有ったのか、無かったのか、を。
『ご馳走様でした』
「はい、この後は」
『続きを観ます』
「分かりました、では歯磨き後で」
『はい』
ネネ様が作った、試練の間と鋸球体の中が写る水晶玉に、ヒナ様は夢中になっている。
理解しよう、分かろうとしながら、どうしようも無く愚かで汚い者達を眺め続けている。
「休憩もお願い致しますね」
『はい、この2人を次はココで人種として生きさせ、どう思うか確認がしたいです』
【構わないよ、そうしよう】
水晶玉から聞こえた声の主は、ボティス伯爵。
彼もこの装置に関わってらっしゃる。
そしてネネ様には内密に、この水晶玉を渡された。
『それと、この男です、家族にしようと思います』
「何故ですかヒナ様」
【そうだね、何故なのだろう】
『そんなに反対ですか』
「勿論です、ヒナ様の傍に置くにはあまりにも罪深い者です」
『でも近くには似た者は居ません、悪を学ぶにはピッタリな筈です』
「かも知れませんが、何もお身内になさらなくとも」
【何故、身内にする必要が有るんだろうか】
『分かりません、ですが気になります』
【なら、先ずは彼について詳しく知ってみようか】
「はい、是非お願いします」
退場は出来た。
けれど、確かに終わりだ、とは言われていなかった。
「お兄ちゃん、ごめんね」
《気にするな、また来週も休みは有る、その時に一緒に行こうな》
「うん、それまでに元気になるね」
《そうそう、その意気その意気》
俺は弟を守る為、飲んだくれの暴力男を刺した。
そしたら母親に激怒されて、ずっと施設で育った。
あんなに憎まれ口を叩いてた癖に、アレが死にそうになると俺を殴り罵倒しやがった。
けど捕まってくれたから清々してた。
まさか、直ぐに出て来るなんて、しかも俺を頼るなんて思わなかった。
『あの時は、本当にごめんね』
《別に》
『もうお母さん反省したし、しっかりするから、ね?』
《で、どうしたいワケ》
『また一緒に暮らしましょう、ね?』
大昔なら流行ったかも知れないが。
この後どうなるか、この時代の施設で育った奴なら大体分かってる。
その殆どが、同じ目に遭うって。
《良いけど、家は何処にすんの》
『あのね、ちょっと高いんだけど、あの子の小学校に近いココで……』
馬鹿は綺麗事や皮算用だけで生きていけると思ってる、だから俺は逆手に取る事にした。
償わせる為に、懲らしめる為に、利用する事にした。
《ただいま》
『ちょっと、まだあの子が引っ越して来ないのは何でなのよ』
《自由工作だ日記だ何だ子供って荷物が多いの、そっか、分かんないか》
馬鹿は都合が悪くなると泣くか黙る。
だから敢えて優しくしてやる。
折れたら、そこで終わりだからな。
『ごめんなさい』
《良いの良いの、ただもう少し待ってくれないかな。いきなり施設に入れられた時みたいに、心の準備が出来ないと、凄く可哀想だからさ》
『そうよね、ごめんなさい』
《あ、飯作ってくれたんだ、でも奢って貰っちゃったんだごめん》
『そう、じゃあ少し』
《良いよ、生活費が厳しいんだし、腐らせるの勿体無いから食べちゃってて》
『でも、良かったら食べてね』
《うん、ありがとう、皿洗いは俺がしておくよ》
『そう、ありがとう』
《いえいえ》
結局、誰かに依存したいだけ、認められたいだけ。
承認欲求の塊で、母親なんかじゃない。
単なる遺伝子上の繋がりが有るだけの、ダメな大人。
引っ越しが伸び俺が顔を出さないでいると、直ぐに男を連れ込んだ。
『あの人は違うの、ちょっと具合が悪いって言うから』
《良いの良いの、俺ももう大人になったんだし、気にしないで。でも、ちょっと弟を呼ぶのは、もう少し先にすべきだと思う》
『ごめんなさい』
《取り敢えず、何も無いにしても、性病検査は受けてよ。もし、万が一にもアイツに移ったら、次は本当に無いからさ》
『分かったわ、本当にごめんなさい』
《じゃあもう仕事に戻るけど、しっかりしてよね、母さん》
『うん、分かったわ、本当にごめんなさい』
そうして散々に待たせ、金も何もすっかり行き詰まらせた頃。
俺と弟は都会に逃げた。
どんなに遠くても、人が少ないと直ぐに探し出されると思った。
だから木は森に、俺達は人の中に紛れる事にした。
そのお陰か、もうアレに会う事は無かった。
「お兄ちゃん、本当に大丈夫?」
《大丈夫、単なる二日酔い》
「何が欲しい?お水で良い?」
《うん、それと味噌汁》
「直ぐ作るね」
《おう、頼んだ》
弟を綺麗な世界で育てる為に、必死に働いた。
良い学校に入れて、良い部屋に住まわせて、塾に行かせて勉強だけ出来る様にした。
身綺麗に過ごす為にも、決して誰も家には近付けなかった。
だからなのか、母親のお陰で騙す事に全く罪悪感が無かったお陰か。
店での立場が上になり、酒が無い場所でも稼げる様になった。
男だろうと女だろうと、どうやって金を引っ張ってくるのか、その講習会でも俺は稼いだ。
そうして偶に店に顔を出しては下の者の相談に乗り、客の相手をし、問題を解決した。
未成年はしっかり弾き、店には借金させない様にと客を厳選し、回した。
弟が成人する前に引退出来る程、金は溜まった。
そこで止めておけば良かった。
欲張るんじゃなかった。
「コレ、兄さんだよね」
弟は脅迫文を受け取っていた。
しかも、死んでやる、って脅迫文だった。
そうして弟は俺の事を調べ、事実に辿り着いた。
《まぁ、だけど気にするな、妬みだ妬み》
「ダメだよ兄さん、騙す手法を売るなんてダメだよ」
綺麗な場所で育てたんだ。
当然、綺麗な事しか言わないのは分かってた。
《分かった、もう止める、その相手にも謝罪する》
「うん、もうダメだからね、絶対だよ」
弟に嘘は吐き慣れていた。
だからまさか、嘘がバレるとは思わなかった。
そうして弟は大学を卒業した直後、俺の前から消え。
定期的に金を送るだけ、になった。
空っぽになった気がした。
例えバレても、何処かで分かってくれるだろう、と高を括ってたせいだ。
弟は俺を許さなかった。
けれど、それは正しかった。
俺は事情聴取を受け、死人が出ている事を知った。
俺のマニュアルを利用した奴が、手酷い追い込み方をして殺された。
しかも、死人は1人じゃなかった。
利用されて自殺した奴も居た。
《俺は指示して無い》
『まぁ、原本も確認しましたが、確かにそうですね。ですが、アナタのお身内がこんな風に騙されても、アナタは黙っていられますか。それとも、自分が守れば良いだけだ、と』
《アンタ、弁護士だろ、そんな脅しみたいな事》
『いえいえ、もしもの事ですし、被害者の方の事を良く考えて欲しかっただけですよ。他意は無い、害意も悪意も。はい、全く、有りませんよ』
俺は直ぐに弟に連絡した。
けれど弟は、覚悟はしてる、それだけしか返事をくれなかった。
守らせてもくれなかった。
もう、どうしたら良いか分からなかった。
何の為に生きれば良いか、全く、分からなくなった。
それからはずっと、家に引き籠り続けた。
『私の兄になって下さい』
《ひっ、何処から、誰だお前》
『試練の間、鋸球体から出してあげます』
《あぁ、お前だったのか》
『いえ、それに鋸球体にも意思は有りません、監視者は居ますがコレは寧ろ怨嗟と許しの塊です』
《怨嗟》
『はい、被害者の恨みです』
《アレは、許される気が全くしないんだが》
『そうですか、ではもう1度戻って下さい。アナタは今回も失敗しましたが、きっと次は分かる筈です』
《やり直す機会、だったのか》
『はい、正しくやり直せば良いだけ、でした』
《告知が、いや、地獄だって事すら忘れてたしな》
『そうですね』
《戻るしか無い、か》
『はい、一緒に行きましょう、次こそはやり直す為に』
今までに無いパターンだった。
もしかすれば、このアルビノ幼女が蜘蛛の糸なのかも知れない、そう思って俺は着いて行く事にした。
《小さいな、幾つだ》
『ほぼ赤ちゃんです、コチラでは』
《じゃあ抱っこして良いか、腰が辛い》
『はい、どうぞ』
真顔なのが気になったが、その後だ。
同じ部屋に居た他の男女のやり直し、更に追加で加わった女、それらがどう過ごしたか。
全て、見る事になった。
《悪いが、俺の方が幾ばくかマシな気がする》
『はい、そうですね』
《機械みたいだな》
『初めて言われました』
《そうか、良い人間ばかりなんだな》
『はいそうです』
《そうか》
表情を全く崩さず醜聞を眺めているこの子が、酷く不憫に思えた。
良く考えれば、他人様の大事な子供を餌食するマニュアルを売っていたのに、何者かも分からない子供を不憫に思うだなんて。
烏滸がましいと思った。
自分がこの子をこうなる様に仕向けていたかも知れないのに、烏滸がましい。
弟に縁を切られて当然だ。
寧ろ、すっぱり縁を切れた弟を褒めるべきだった。
掃き溜めの鶴で、お前は何も悪く無いって、それだけ言ってやれば良かったんだ。
あぁ、何で俺、死んだんだろう。
『答えはもう少し先に有ります、じゃあ、また』
《あぁ、おう》
何故、どうして、そんな事をされたの。
ただ、愛されたかっただけなのに。
《本当に、そうだね》
僕ら悪魔の家には、7つの大罪に呼応する水晶玉が有る。
それらは強く現れた感情を切っ掛けに、全てを記録する能力が有る。
『本当に、悪趣味が過ぎる』
《どう思う、精霊》
『分かっているだろうボティス』
《相変わらず、小さく可愛い白い牡鹿、なんだね》
『ネネもヒナも気に入っている』
《そして、そうあろうとしている事の現れ、随分と精霊らしい事をしたね》
『眠らせ、夢を見せただけだ』
《その結果、こんなにも素晴らしい装置が生まれた》
どの悪魔の家に繋がる試練の間、そこに存在する鋸球体。
数多の悪魔や人が考えたモノ。
けれど誰もが言葉にせず、形にすらしなかったモノ。
誰の手も借りる事無く罰を与え、リセットを続ける、新たな地獄。
それは復讐心から始まり、理解を得る事が目的となり、救いを与えられた場所。
地獄と定義するのは当然の事、全てが、揃っているのだから。
『だが』
《クトゥルフの事だね、彼なら大丈夫、既に捕らえられている状態での関与。コチラ側に干渉する力は無い、ただ話し、観るだけ》
『そうか』
《また、直ぐにそうやって消えて。折角、君の為に、あ。まぁ良いよ、君達の為に作ったのだから》
けれど、ティーセット一式ごと、持って行くのは止めてくれないだろうか。
アレは彼女達のお気に入りの、あぁ、その為の悪戯なんだね。
『おはようございます』
「はい、おはようございます」
先日はとても大変でした。
動物園でヒナ様とネネ様が抱き合いながら泣いていたかと思うと、不意に静かになり。
ヒナ様からお伺いしていた、白く小さな牡鹿が、2人を眠らせたと仰った。
ネネ様の護衛はネネ様を抱え、僕は僕でヒナ様を抱え。
取り敢えずはと馬車に乗せ、お屋敷に連れ帰ったのですが。
白い牡鹿は勿論、ラプラスの悪魔も既に消えており、代わりにボティス伯爵が家に訪れ。
何が起きたのかを、説明して頂きました。
精霊は人種の心に呼応する。
だからこそ精霊は眠らせた。
どうしようも無い悲しみを遠ざける為に、と。
『いただきます』
「はい、どうぞ」
実際、精霊の影響力が強いロミオ様は、泣いておられました。
あのままでは周囲の精霊種をも巻き込み、悲嘆の影響が出ていただろう、と。
精霊が最も呼応するのは悲しみと喜び。
例えそれが自身から発された感情では無くとも、精霊の系譜であればいずれ影響を受けてしまう。
しかもヒナ様とネネ様は、純粋な人種の血が入っている。
その影響力は強く広く出てしまう為、こうせざるを得なかった、と。
そして落ち着かせる為にも、先ずは僕らが心と状況を整えねばなりませんでした。
この事を説明するワケにはいかない、心を抑え閉じさせては、次は悪魔の怒りを買ってしまいます。
ですのでお手伝い頂きました。
ヒナ様が泣き止まなかった所をロミオ様が訪れ、その場を収め馬車へ乗り込み。
お2人共に、眠ってしまったのだ、と。
そして起床後、ネネ様は幾ばくか恥ずかしそうにしてらっしゃいましたが。
ヒナ様には大きな変化が有った。
不安げで悲しみを浮かべた様な表情をなさり、ネネ様から離れなかった。
ロミオ様の見解では、他と同じく触れ合いと安心、離別と不安が直結したのだろうと。
その行動は、僕へも現れました。
眠る前は話をして終わるだけ、だったのですが。
子供を寝かし付ける時と同様の事をして欲しい、と。
侍女に言わせると、赤ちゃん返り、だそうですが。
僕は更に納得しました。
コレが当たり前で、有るべきものだったのかどうか、自身に問いたかったのだと思います。
そして有ったのか、無かったのか、を。
『ご馳走様でした』
「はい、この後は」
『続きを観ます』
「分かりました、では歯磨き後で」
『はい』
ネネ様が作った、試練の間と鋸球体の中が写る水晶玉に、ヒナ様は夢中になっている。
理解しよう、分かろうとしながら、どうしようも無く愚かで汚い者達を眺め続けている。
「休憩もお願い致しますね」
『はい、この2人を次はココで人種として生きさせ、どう思うか確認がしたいです』
【構わないよ、そうしよう】
水晶玉から聞こえた声の主は、ボティス伯爵。
彼もこの装置に関わってらっしゃる。
そしてネネ様には内密に、この水晶玉を渡された。
『それと、この男です、家族にしようと思います』
「何故ですかヒナ様」
【そうだね、何故なのだろう】
『そんなに反対ですか』
「勿論です、ヒナ様の傍に置くにはあまりにも罪深い者です」
『でも近くには似た者は居ません、悪を学ぶにはピッタリな筈です』
「かも知れませんが、何もお身内になさらなくとも」
【何故、身内にする必要が有るんだろうか】
『分かりません、ですが気になります』
【なら、先ずは彼について詳しく知ってみようか】
「はい、是非お願いします」
退場は出来た。
けれど、確かに終わりだ、とは言われていなかった。
「お兄ちゃん、ごめんね」
《気にするな、また来週も休みは有る、その時に一緒に行こうな》
「うん、それまでに元気になるね」
《そうそう、その意気その意気》
俺は弟を守る為、飲んだくれの暴力男を刺した。
そしたら母親に激怒されて、ずっと施設で育った。
あんなに憎まれ口を叩いてた癖に、アレが死にそうになると俺を殴り罵倒しやがった。
けど捕まってくれたから清々してた。
まさか、直ぐに出て来るなんて、しかも俺を頼るなんて思わなかった。
『あの時は、本当にごめんね』
《別に》
『もうお母さん反省したし、しっかりするから、ね?』
《で、どうしたいワケ》
『また一緒に暮らしましょう、ね?』
大昔なら流行ったかも知れないが。
この後どうなるか、この時代の施設で育った奴なら大体分かってる。
その殆どが、同じ目に遭うって。
《良いけど、家は何処にすんの》
『あのね、ちょっと高いんだけど、あの子の小学校に近いココで……』
馬鹿は綺麗事や皮算用だけで生きていけると思ってる、だから俺は逆手に取る事にした。
償わせる為に、懲らしめる為に、利用する事にした。
《ただいま》
『ちょっと、まだあの子が引っ越して来ないのは何でなのよ』
《自由工作だ日記だ何だ子供って荷物が多いの、そっか、分かんないか》
馬鹿は都合が悪くなると泣くか黙る。
だから敢えて優しくしてやる。
折れたら、そこで終わりだからな。
『ごめんなさい』
《良いの良いの、ただもう少し待ってくれないかな。いきなり施設に入れられた時みたいに、心の準備が出来ないと、凄く可哀想だからさ》
『そうよね、ごめんなさい』
《あ、飯作ってくれたんだ、でも奢って貰っちゃったんだごめん》
『そう、じゃあ少し』
《良いよ、生活費が厳しいんだし、腐らせるの勿体無いから食べちゃってて》
『でも、良かったら食べてね』
《うん、ありがとう、皿洗いは俺がしておくよ》
『そう、ありがとう』
《いえいえ》
結局、誰かに依存したいだけ、認められたいだけ。
承認欲求の塊で、母親なんかじゃない。
単なる遺伝子上の繋がりが有るだけの、ダメな大人。
引っ越しが伸び俺が顔を出さないでいると、直ぐに男を連れ込んだ。
『あの人は違うの、ちょっと具合が悪いって言うから』
《良いの良いの、俺ももう大人になったんだし、気にしないで。でも、ちょっと弟を呼ぶのは、もう少し先にすべきだと思う》
『ごめんなさい』
《取り敢えず、何も無いにしても、性病検査は受けてよ。もし、万が一にもアイツに移ったら、次は本当に無いからさ》
『分かったわ、本当にごめんなさい』
《じゃあもう仕事に戻るけど、しっかりしてよね、母さん》
『うん、分かったわ、本当にごめんなさい』
そうして散々に待たせ、金も何もすっかり行き詰まらせた頃。
俺と弟は都会に逃げた。
どんなに遠くても、人が少ないと直ぐに探し出されると思った。
だから木は森に、俺達は人の中に紛れる事にした。
そのお陰か、もうアレに会う事は無かった。
「お兄ちゃん、本当に大丈夫?」
《大丈夫、単なる二日酔い》
「何が欲しい?お水で良い?」
《うん、それと味噌汁》
「直ぐ作るね」
《おう、頼んだ》
弟を綺麗な世界で育てる為に、必死に働いた。
良い学校に入れて、良い部屋に住まわせて、塾に行かせて勉強だけ出来る様にした。
身綺麗に過ごす為にも、決して誰も家には近付けなかった。
だからなのか、母親のお陰で騙す事に全く罪悪感が無かったお陰か。
店での立場が上になり、酒が無い場所でも稼げる様になった。
男だろうと女だろうと、どうやって金を引っ張ってくるのか、その講習会でも俺は稼いだ。
そうして偶に店に顔を出しては下の者の相談に乗り、客の相手をし、問題を解決した。
未成年はしっかり弾き、店には借金させない様にと客を厳選し、回した。
弟が成人する前に引退出来る程、金は溜まった。
そこで止めておけば良かった。
欲張るんじゃなかった。
「コレ、兄さんだよね」
弟は脅迫文を受け取っていた。
しかも、死んでやる、って脅迫文だった。
そうして弟は俺の事を調べ、事実に辿り着いた。
《まぁ、だけど気にするな、妬みだ妬み》
「ダメだよ兄さん、騙す手法を売るなんてダメだよ」
綺麗な場所で育てたんだ。
当然、綺麗な事しか言わないのは分かってた。
《分かった、もう止める、その相手にも謝罪する》
「うん、もうダメだからね、絶対だよ」
弟に嘘は吐き慣れていた。
だからまさか、嘘がバレるとは思わなかった。
そうして弟は大学を卒業した直後、俺の前から消え。
定期的に金を送るだけ、になった。
空っぽになった気がした。
例えバレても、何処かで分かってくれるだろう、と高を括ってたせいだ。
弟は俺を許さなかった。
けれど、それは正しかった。
俺は事情聴取を受け、死人が出ている事を知った。
俺のマニュアルを利用した奴が、手酷い追い込み方をして殺された。
しかも、死人は1人じゃなかった。
利用されて自殺した奴も居た。
《俺は指示して無い》
『まぁ、原本も確認しましたが、確かにそうですね。ですが、アナタのお身内がこんな風に騙されても、アナタは黙っていられますか。それとも、自分が守れば良いだけだ、と』
《アンタ、弁護士だろ、そんな脅しみたいな事》
『いえいえ、もしもの事ですし、被害者の方の事を良く考えて欲しかっただけですよ。他意は無い、害意も悪意も。はい、全く、有りませんよ』
俺は直ぐに弟に連絡した。
けれど弟は、覚悟はしてる、それだけしか返事をくれなかった。
守らせてもくれなかった。
もう、どうしたら良いか分からなかった。
何の為に生きれば良いか、全く、分からなくなった。
それからはずっと、家に引き籠り続けた。
『私の兄になって下さい』
《ひっ、何処から、誰だお前》
『試練の間、鋸球体から出してあげます』
《あぁ、お前だったのか》
『いえ、それに鋸球体にも意思は有りません、監視者は居ますがコレは寧ろ怨嗟と許しの塊です』
《怨嗟》
『はい、被害者の恨みです』
《アレは、許される気が全くしないんだが》
『そうですか、ではもう1度戻って下さい。アナタは今回も失敗しましたが、きっと次は分かる筈です』
《やり直す機会、だったのか》
『はい、正しくやり直せば良いだけ、でした』
《告知が、いや、地獄だって事すら忘れてたしな》
『そうですね』
《戻るしか無い、か》
『はい、一緒に行きましょう、次こそはやり直す為に』
今までに無いパターンだった。
もしかすれば、このアルビノ幼女が蜘蛛の糸なのかも知れない、そう思って俺は着いて行く事にした。
《小さいな、幾つだ》
『ほぼ赤ちゃんです、コチラでは』
《じゃあ抱っこして良いか、腰が辛い》
『はい、どうぞ』
真顔なのが気になったが、その後だ。
同じ部屋に居た他の男女のやり直し、更に追加で加わった女、それらがどう過ごしたか。
全て、見る事になった。
《悪いが、俺の方が幾ばくかマシな気がする》
『はい、そうですね』
《機械みたいだな》
『初めて言われました』
《そうか、良い人間ばかりなんだな》
『はいそうです』
《そうか》
表情を全く崩さず醜聞を眺めているこの子が、酷く不憫に思えた。
良く考えれば、他人様の大事な子供を餌食するマニュアルを売っていたのに、何者かも分からない子供を不憫に思うだなんて。
烏滸がましいと思った。
自分がこの子をこうなる様に仕向けていたかも知れないのに、烏滸がましい。
弟に縁を切られて当然だ。
寧ろ、すっぱり縁を切れた弟を褒めるべきだった。
掃き溜めの鶴で、お前は何も悪く無いって、それだけ言ってやれば良かったんだ。
あぁ、何で俺、死んだんだろう。
『答えはもう少し先に有ります、じゃあ、また』
《あぁ、おう》
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「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
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生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
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しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
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事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
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当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
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