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90 ヒナが初めて怒った日。
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公園に人集りが有った。
それにヒナが興味を示したんで、肩車をしながら覗き込んだんだが、一種の物乞いだった。
しかも最悪な事に、夫に暴力を振るわれている、だからどうか金を恵んでくれないかと。
何処かの誰かが尋ねた。
子供は居るのかと。
女は答えた、夫と一緒に居る、と。
『何故、どうして守ってあげようと思わなかったんですか!!』
ヒナが初めて怒った。
どうやら、女は来訪者か宿星らしく、ヒナの怒号と共に何処からか悪魔シトリーがやって来た。
《ヒナ》
『見えました、全部、見えました』
顔を真っ赤にして、ポロポロと大粒の涙を流しながら言った。
コレは多分、怒りだけじゃない。
《ヒナ、先ずは説明する、良く聞いてくれ》
返事は無かったが、抱き着いて来た。
だから俺は宥めながらその場を離れ、その女の行動理由や原因を説明した。
家庭内別居を説明するには、先ず学習性無力感を知る必要が有る。
要するに、理由の分からない痛みを与えられ続けると、何をしても無駄だと学習し。
無気力になり、抵抗しなくなる状態。
母親は不条理で理不尽な暴力に、当たり前の反応を示していただけ、だと。
『でも、アナタは逆らった』
《俺は長い期間じゃなかった、母親の帰りが遅い日が始まりだった》
俺たちは静かに勉強してた。
けどそれが気に食わなかったらしく、隣の部屋に呼び出され肩を思いっきり殴られた。
それから母親が遅くなる日が有ると、殴ったり殴らなかったり、バラバラだったが。
最後の方は、毎回だった。
俺が何も反応しないのがムカついたらしく、じゃあ弟の方を殴るか、って。
だから直ぐに刺した。
俺だけが我慢すれば良いと思ってた、家で暴れるワケでも無いし、ソイツが居るお陰で風呂も多く入れる様になったから。
けど、半笑いで弟の方を殴るかって、だから刺した。
そしたらもう、腰が抜けて、直ぐに悲鳴を上げながら逃げてった。
俺が我慢したのは、ほんの数ヶ月。
だから無気力になる前に動けた。
けど、大人に暴力を振るう奴は、もっと小賢しい。
『お客さんですか』
《いや、従業員だ》
浮気を逆ギレされて殴られた、今度こそ別れる、ってな。
けど俺は分かってた、どうせ無理だろって。
暴力的だと分かったら、大概は逃げる。
けどソイツは既に寄りを戻したり別れたり、何度も繰り返してた。
だから賭けた。
1年間、別れたままで、無事なら奢ってやるって。
で、数ヶ月後に顔をパンパンに腫らして店を休んだ。
そしてまた数ヶ月後には、もっとボコボコになって、店を辞めて。
最後は刺されて死んだ。
『何で、離れないんですか』
《寂しいから、離れたら可哀想だから、自分にも悪い所が有るから。この人しか居ない、泣きながら反省したって言うから、次こそは大丈夫な筈だ》
『何故、子供に被害がいかないと思うんですか』
《自分さえ耐えれば良い、訴えたりしたら子供の評判に傷が付く、結婚なんてこんなもの》
まさか自分と同じ血の繋がっている子供に手を出すとは思わなかった、まさか悪影響が有るだなんて思わなかった、まさか誰かに暴力を振るうだなんて思わなかった。
『何故』
《認知の歪み、分かるか》
『はい、自分で認識している事と本当がズレる事です』
《最初から、ホストは相手の認識をズラす、大袈裟な愛情表現でさも凄く好かれているように錯覚させる》
『はい、見ました』
《で寂しい、自信が無い、必要とされたい者を探し出し獲物にする。何故、そうした相手を選ぶのか》
『便利だから、都合が良いから』
《そう、言う事を聞きそうな相手に、更に言う事を聞かせる為に強化を行う。会えたり会えなかったり、優しくしたり素っ気無くして、相手を揺さぶる。全ては言う事を聞いて貰う為に》
『何故、そこまでするんですか』
《自信が無い、自分だけを見て欲しい、そうやって制御するのが当たり前だからだ。家庭内暴力には循環するサイクルが有る》
不満を溜め込む時期、爆発させる時期、反省を口にして優しくする時期。
そうして優しくする時期から溜め込む時期、爆発させる時期、また優しくする時期に入る。
優しい時はホストの様に甘くしたり、泣き喚いて謝罪したり、罪悪感が湧く様に酷く落ち込んだ素振りを見せる。
『1度、回り始めると止まらない』
《いや、稀に止まる、より強い脅威だ。殴られそうになって投げ飛ばした女性が来たぞ、その男はもう殴ろうとはしなくなったが、もう好きじゃないと言ってフッてきたらしい》
『強いから、制御出来無いから逃げた』
《けど肉体的に強い女性はそう居ない》
だから痛みで自分が間違えたのかも知れないと錯覚させられ、優しい時期で間違いじゃ無かったんだと思わされ、その繰り返しで間違った認識が染み付く。
自分が悪いから殴られているんだ、好きだからココまでしてくれているんだ、私が見捨てたら死んでしまうかも知れない。
『そう、思い込まされた』
《それに思い込む要因も有る》
寂しいし自信も無いし必要として貰いたい、しかもこんなに怒られる様なダメな自分と一緒に居てくれるのは彼だけ、そして彼の理解者は私だけ。
だから安心する、耐えれば良いだけ、言う事を聞けば良いだけ。
私と彼にしか分からない事だから、コレは愛だ、錯覚なワケが無い。
『脳の分泌物が作用しているだけでは』
《そう、ホストもギャンブルも恋愛も、家庭内暴力も同じ。興奮したりワクワクしたり、楽しい事だと錯覚させられているだけだ》
『逃げられないんですね』
《付き合いが長い程、難しい、それが当たり前だと更に脳が錯覚する。それに金の問題、暴力への恐怖や恥ずかしさ、寂しさ。自分さえ我慢すれば済む筈だ》
『何故、殴るんですか』
《殴らないで話すだけが当たり前、それをを知らない。殴らないと伝わらない、皆も実は影で殴ってるんだろう、殴った方が分かってくれる》
『認識の歪み』
《そう、しかも逃げられても暴力のせいだなんて思わない奴も居る。相手の愛情不足だ、好きなら我慢出来る筈だ、好きじゃないから逃げ出したんだ》
『歪んでます』
《けど歪んだ鏡自身は歪みに気付かない、皆が歪んでるんだ、自分だけじゃない。だから最初は否定する、本当にそう信じているから、一部の者が言う綺麗事だとしか思わない》
『治らないんでしょうか』
《人による、どれだけ治したいかによる。直ぐに自暴自棄になるなら難しい、またそうやって落ち込んだ素振りで誰かを探し、似た様な事をする。暴力じゃなきゃ暴言、無視、相手が嫌がる事をし自信を無くさせ制御しようとする》
『不安だから』
《しかも、その不安に気付いて無いのも居る。恋人が居て当たり前だ。そこまで寂しく無い、ただ偶々恋人が途切れなかっただけ。モテるから、押しに弱いから、嫌いじゃ無かったから付き合っただけだ》
『でも、子供は関係無いです』
《暴力が当たり前、自分は死んでない、だから暴力を見せる事が問題とは思わなかった。それでも片親よりマシだと思った、本当に離れて良いのか不安だった、まさかそんなに傷付いているとは思わなかった》
『大事な物を傷付けられるのは私は嫌です、アナタでも嫌です、受け入れられません』
《自分は平気だから、血の繋がった子供だし平気だと思った。それに懐いている時も有るし、引き離すのは可哀想だと思った、もっと困る状況にしたくなかった》
『何にも、分かってくれてない』
《殴ってる奴と同じで、自分が間違ってると思い込み揺らがない、私の考えが間違っているのは当たり前だから子供が標的にされる筈が無い》
『嫌いです、そんな親、要らないです』
《な、だから俺も捨てた、馬鹿でも親になれるのが悪い》
『早く消えて欲しい、死んで欲しいです』
《俺は生きてて欲しい、どれだけ思考の矯正が難しいか、生きてれば色んな谷地が分かる筈だ》
『見えない所なら良いです、もう私の知らない所で、好きにして下さい』
《そうする》
蔑ろにされる事が当たり前だった。
その事実が分かった時、とても虚しかった。
自分を大切にしなさい。
そんな事を言われても、全く意味が分からなかった。
何も蔑ろにしているつもりは無かった。
いつも通り、当たり前に過ごしていただけ。
ただただ、他人の言う自分を大切に、が酷く合わなかっただけで。
傷付けているつもりは無かったのに。
《そんな風に自分を傷付けるなんて、良くないわ》
そう言われた事で、当たり前の様に自分が自分を傷付けているのかと疑い始めた。
そう、全てを疑う様になった。
けれど、疑い続ける事は疲れる。
しかも私には、その生き方が大して苦では無かった。
その生き方が苦なのだ、と知るまでは。
「で、アナタはどうなさりたいんですか」
『どうか子供を』
《アナタは二次的な加害者だ。前の世界の事だったとしても、子供に暴力が当たり前だと思わせる様な状態に置いてたんだ、もう子供に関わるな》
『お願いです!あの子達は私の全てなんです!!どうかもう、しません、本当に直ぐに逃げ出しますから。どうか、お願いします、どうか』
「お相手の祖父母の立場になり、考えた事は有りますか。もしかすれば、いつか、子供達が暴力の影響を受けるかも知れない。けれど四六時中は見張れない、アナタはそんなに危ない橋を一緒に渡りたいんですか」
《子供は居ないが弟は俺が育てた、それに子供時代の記憶も有る。見る目の無い親が嫌いだった、我儘に巻き込む親が大嫌いだった、縋って来る親を見下す気持ちしか今も無い。アナタ、自分の事だけ、考えてませんか》
家族が居るのが当たり前で。
家族の世話をするのが当たり前で。
『他に、何も無いのに、どうしろって言うの』
《俺なら、そんな事も分からない親に育てられたくない、そんな事も考えられないのに。何故、どうして育てたい、アナタが言う育てるって何なんだよ》
『可愛がって』
《アナタにしか出来無い事か、孤児はそんなに不出来か》
『違う、違う違う、そうじゃ』
《アナタ親なんだろ、冷静に対処し続けないと、いつか子供が死ぬんだぞ》
『だから!だから、片親じゃ不安だったから!仕方が無かったの!!』
《ほらな、また暴力が有っても、仕方が無いで済ませるんだろ》
『違う、今度は、今はもう』
《パニクって、否定するだけが親、ね》
違う。
今度こそ、ちゃんと。
『まだですか』
《すまん、もう少しだな》
『時間は有限です』
《だな》
『アナタ、お願い、ごめんなさい。だから』
『謝れば済む教育は良い事ですか』
「程度によりますが、コレは大問題ですから」
《だな、命の危機の問題だ》
『そう大袈裟にするからじゃない!』
《ほら、コレが本音だ》
「残念です、さようなら」
『まっ、待っ』
《さ、大人しくして頂きます、ご同行を》
『キーライムアイスは苦手ですが、キーライムパイアイスは食べれます、食べた事は有りますか』
違う。
今は違う。
私は子供を傷付ける様な親じゃない。
「両方、好きですよ、食べ易いキーライムアイスのお店に行きましょうか」
『はい、でも味見だけで良いです、今日はキャラメルリボンとチョコチョコにします』
「じゃあ私はキーライムと、ロッキーロードで」
《有るのか、ロッキーロード》
『はい、マシュマロが美味しいです』
《それ大丈夫か?マシュマロもヤバいと食中毒になるんだぞ》
「大丈夫ですよ、若葉マークの無い店ですから。それともカスタードパイにしておきますか、近くに有りますよ」
《ミルクとミックスベリーにしておく》
「女子っぽい」
《可愛いだろ》
『はい可愛いです、良い選択です』
《おう、注文は任せた》
『はい、行ってきます』
「あっ」
《どうだった》
「正解でしたね、まだ自身を理解していなかった」
《何で、懲役が有ると思う》
「分かる為の期間だ、と仰りたいんでしょうか」
《それだけ掛かると思っておいた方が、楽だろ》
「確かに、懲役期間内に更生しないなら、刑期延長」
《あぁ、にしても本当に良かった、子供が居なくて》
「ですね、妄想の産物だった」
結局、子供は人形だった。
そして面白半分で匿っていた人種は、刑務所へ。
彼女は、監督所へ。
《この魔法も、もう直ぐ消えるのか》
「どうですか脳内、ゴチャゴチャしてませんか」
《あぁ、多分、英語だけなんだろ》
「あぁ」
彼は話し合いの為に、一時的に英語を習得していたんですが。
それももう直ぐ切れてしまう。
『はい、この番号です』
「3番、丁度同じ数字ですね」
『はい、3人で同じです』
子供が本当には居ないと分かると、ヒナちゃんの怒りは収まり。
すっかり興味を失った。
『はい、お待たせしました、ごゆっくりどうぞ』
『はい、ありがとうございます』
凍った銀製の器に、色とりどりのアイス。
ヒナちゃんの好きな場所、アイス屋さんにケーキ屋さん。
《貰う》
「どうぞ」
『あ、私も頂きます』
「どうぞ」
《無か》
『いえ違います、本当に食べ易いので驚きました』
「ですよね、他はもう少し強いですから」
《ヒナのもくれ》
『ダメです』
《何でだよ》
『くれるのが先です』
《分かった》
『あー』
《ほら、そう変わらないだろ》
『ラズベリーの分量が多い方です』
「どらどら」
《分かるかねアンタに》
「いや、香りが強い方ですよコレ」
『向こうのはもっとブルーベリーが多いです、で向こうは少しだけマルベリーが強いです』
《食ってるなぁ》
『はい、楽しいし美味しいですから』
「ですよね、美味しいし選べるし、万歳魔法」
『万歳、アイス万歳』
はい、可愛いは正義。
《どうだ、今日は疲れたか》
『心の事なら問題有りません、前の私より大変そうな子は居ませんでしたから』
《そうか》
『はい』
守らないお母さんも居ると知っています。
でも、本当は守るのはお母さんです。
それに暴力もダメです。
でも、暴力が無いと分からない者も居ます。
暴力を振るう者です。
殴って黙らせないと、本当にちゃんと話を聴きません。
シトリーに言わせると、舐めているんだそうです。
誂える度胸が有る自分はカッコイイだろう、なんだそうです。
《どうした》
『甘く見積もっている者に、言葉だけで直ぐに分からせる事が出来ますか』
《チャック開いてるぞ》
「成程」
《でもまぁ、今度はキレて殴りかかって来るのも居るしな、制圧が1番だろ。誰しもが言って聞くなら、刑務所も警備員も要らないんだしな》
『うん、はい、そうです』
理不尽で不条理な暴力がダメです。
じゃないと犯罪者に逃げられて、被害が拡大してしまいますから。
《よし、余裕で寝れるな》
『はい、でもアズールのお話しが必要です』
《じゃあ呼んで来る、おやすみ》
『はい、おやすみなさい』
アズールのお話とトントンはデザートです。
私へのご褒美です、誰も傷付けず、殺しませんでしたから。
「お邪魔しますね」
『はい、今日はアイスを食べました、アズールはキーライムアイスは好きですか』
「はい、好きですよ、良くお分かりになりましたね」
『私でも食べれるキーライムアイスが有りました、今度食べに行きましょう』
「はい、ありがとうございます」
土日はアズールを自由にさせる事にしたので、明日から暫くはアズールと一緒です。
一緒にお出掛けです。
それにヒナが興味を示したんで、肩車をしながら覗き込んだんだが、一種の物乞いだった。
しかも最悪な事に、夫に暴力を振るわれている、だからどうか金を恵んでくれないかと。
何処かの誰かが尋ねた。
子供は居るのかと。
女は答えた、夫と一緒に居る、と。
『何故、どうして守ってあげようと思わなかったんですか!!』
ヒナが初めて怒った。
どうやら、女は来訪者か宿星らしく、ヒナの怒号と共に何処からか悪魔シトリーがやって来た。
《ヒナ》
『見えました、全部、見えました』
顔を真っ赤にして、ポロポロと大粒の涙を流しながら言った。
コレは多分、怒りだけじゃない。
《ヒナ、先ずは説明する、良く聞いてくれ》
返事は無かったが、抱き着いて来た。
だから俺は宥めながらその場を離れ、その女の行動理由や原因を説明した。
家庭内別居を説明するには、先ず学習性無力感を知る必要が有る。
要するに、理由の分からない痛みを与えられ続けると、何をしても無駄だと学習し。
無気力になり、抵抗しなくなる状態。
母親は不条理で理不尽な暴力に、当たり前の反応を示していただけ、だと。
『でも、アナタは逆らった』
《俺は長い期間じゃなかった、母親の帰りが遅い日が始まりだった》
俺たちは静かに勉強してた。
けどそれが気に食わなかったらしく、隣の部屋に呼び出され肩を思いっきり殴られた。
それから母親が遅くなる日が有ると、殴ったり殴らなかったり、バラバラだったが。
最後の方は、毎回だった。
俺が何も反応しないのがムカついたらしく、じゃあ弟の方を殴るか、って。
だから直ぐに刺した。
俺だけが我慢すれば良いと思ってた、家で暴れるワケでも無いし、ソイツが居るお陰で風呂も多く入れる様になったから。
けど、半笑いで弟の方を殴るかって、だから刺した。
そしたらもう、腰が抜けて、直ぐに悲鳴を上げながら逃げてった。
俺が我慢したのは、ほんの数ヶ月。
だから無気力になる前に動けた。
けど、大人に暴力を振るう奴は、もっと小賢しい。
『お客さんですか』
《いや、従業員だ》
浮気を逆ギレされて殴られた、今度こそ別れる、ってな。
けど俺は分かってた、どうせ無理だろって。
暴力的だと分かったら、大概は逃げる。
けどソイツは既に寄りを戻したり別れたり、何度も繰り返してた。
だから賭けた。
1年間、別れたままで、無事なら奢ってやるって。
で、数ヶ月後に顔をパンパンに腫らして店を休んだ。
そしてまた数ヶ月後には、もっとボコボコになって、店を辞めて。
最後は刺されて死んだ。
『何で、離れないんですか』
《寂しいから、離れたら可哀想だから、自分にも悪い所が有るから。この人しか居ない、泣きながら反省したって言うから、次こそは大丈夫な筈だ》
『何故、子供に被害がいかないと思うんですか』
《自分さえ耐えれば良い、訴えたりしたら子供の評判に傷が付く、結婚なんてこんなもの》
まさか自分と同じ血の繋がっている子供に手を出すとは思わなかった、まさか悪影響が有るだなんて思わなかった、まさか誰かに暴力を振るうだなんて思わなかった。
『何故』
《認知の歪み、分かるか》
『はい、自分で認識している事と本当がズレる事です』
《最初から、ホストは相手の認識をズラす、大袈裟な愛情表現でさも凄く好かれているように錯覚させる》
『はい、見ました』
《で寂しい、自信が無い、必要とされたい者を探し出し獲物にする。何故、そうした相手を選ぶのか》
『便利だから、都合が良いから』
《そう、言う事を聞きそうな相手に、更に言う事を聞かせる為に強化を行う。会えたり会えなかったり、優しくしたり素っ気無くして、相手を揺さぶる。全ては言う事を聞いて貰う為に》
『何故、そこまでするんですか』
《自信が無い、自分だけを見て欲しい、そうやって制御するのが当たり前だからだ。家庭内暴力には循環するサイクルが有る》
不満を溜め込む時期、爆発させる時期、反省を口にして優しくする時期。
そうして優しくする時期から溜め込む時期、爆発させる時期、また優しくする時期に入る。
優しい時はホストの様に甘くしたり、泣き喚いて謝罪したり、罪悪感が湧く様に酷く落ち込んだ素振りを見せる。
『1度、回り始めると止まらない』
《いや、稀に止まる、より強い脅威だ。殴られそうになって投げ飛ばした女性が来たぞ、その男はもう殴ろうとはしなくなったが、もう好きじゃないと言ってフッてきたらしい》
『強いから、制御出来無いから逃げた』
《けど肉体的に強い女性はそう居ない》
だから痛みで自分が間違えたのかも知れないと錯覚させられ、優しい時期で間違いじゃ無かったんだと思わされ、その繰り返しで間違った認識が染み付く。
自分が悪いから殴られているんだ、好きだからココまでしてくれているんだ、私が見捨てたら死んでしまうかも知れない。
『そう、思い込まされた』
《それに思い込む要因も有る》
寂しいし自信も無いし必要として貰いたい、しかもこんなに怒られる様なダメな自分と一緒に居てくれるのは彼だけ、そして彼の理解者は私だけ。
だから安心する、耐えれば良いだけ、言う事を聞けば良いだけ。
私と彼にしか分からない事だから、コレは愛だ、錯覚なワケが無い。
『脳の分泌物が作用しているだけでは』
《そう、ホストもギャンブルも恋愛も、家庭内暴力も同じ。興奮したりワクワクしたり、楽しい事だと錯覚させられているだけだ》
『逃げられないんですね』
《付き合いが長い程、難しい、それが当たり前だと更に脳が錯覚する。それに金の問題、暴力への恐怖や恥ずかしさ、寂しさ。自分さえ我慢すれば済む筈だ》
『何故、殴るんですか』
《殴らないで話すだけが当たり前、それをを知らない。殴らないと伝わらない、皆も実は影で殴ってるんだろう、殴った方が分かってくれる》
『認識の歪み』
《そう、しかも逃げられても暴力のせいだなんて思わない奴も居る。相手の愛情不足だ、好きなら我慢出来る筈だ、好きじゃないから逃げ出したんだ》
『歪んでます』
《けど歪んだ鏡自身は歪みに気付かない、皆が歪んでるんだ、自分だけじゃない。だから最初は否定する、本当にそう信じているから、一部の者が言う綺麗事だとしか思わない》
『治らないんでしょうか』
《人による、どれだけ治したいかによる。直ぐに自暴自棄になるなら難しい、またそうやって落ち込んだ素振りで誰かを探し、似た様な事をする。暴力じゃなきゃ暴言、無視、相手が嫌がる事をし自信を無くさせ制御しようとする》
『不安だから』
《しかも、その不安に気付いて無いのも居る。恋人が居て当たり前だ。そこまで寂しく無い、ただ偶々恋人が途切れなかっただけ。モテるから、押しに弱いから、嫌いじゃ無かったから付き合っただけだ》
『でも、子供は関係無いです』
《暴力が当たり前、自分は死んでない、だから暴力を見せる事が問題とは思わなかった。それでも片親よりマシだと思った、本当に離れて良いのか不安だった、まさかそんなに傷付いているとは思わなかった》
『大事な物を傷付けられるのは私は嫌です、アナタでも嫌です、受け入れられません』
《自分は平気だから、血の繋がった子供だし平気だと思った。それに懐いている時も有るし、引き離すのは可哀想だと思った、もっと困る状況にしたくなかった》
『何にも、分かってくれてない』
《殴ってる奴と同じで、自分が間違ってると思い込み揺らがない、私の考えが間違っているのは当たり前だから子供が標的にされる筈が無い》
『嫌いです、そんな親、要らないです』
《な、だから俺も捨てた、馬鹿でも親になれるのが悪い》
『早く消えて欲しい、死んで欲しいです』
《俺は生きてて欲しい、どれだけ思考の矯正が難しいか、生きてれば色んな谷地が分かる筈だ》
『見えない所なら良いです、もう私の知らない所で、好きにして下さい』
《そうする》
蔑ろにされる事が当たり前だった。
その事実が分かった時、とても虚しかった。
自分を大切にしなさい。
そんな事を言われても、全く意味が分からなかった。
何も蔑ろにしているつもりは無かった。
いつも通り、当たり前に過ごしていただけ。
ただただ、他人の言う自分を大切に、が酷く合わなかっただけで。
傷付けているつもりは無かったのに。
《そんな風に自分を傷付けるなんて、良くないわ》
そう言われた事で、当たり前の様に自分が自分を傷付けているのかと疑い始めた。
そう、全てを疑う様になった。
けれど、疑い続ける事は疲れる。
しかも私には、その生き方が大して苦では無かった。
その生き方が苦なのだ、と知るまでは。
「で、アナタはどうなさりたいんですか」
『どうか子供を』
《アナタは二次的な加害者だ。前の世界の事だったとしても、子供に暴力が当たり前だと思わせる様な状態に置いてたんだ、もう子供に関わるな》
『お願いです!あの子達は私の全てなんです!!どうかもう、しません、本当に直ぐに逃げ出しますから。どうか、お願いします、どうか』
「お相手の祖父母の立場になり、考えた事は有りますか。もしかすれば、いつか、子供達が暴力の影響を受けるかも知れない。けれど四六時中は見張れない、アナタはそんなに危ない橋を一緒に渡りたいんですか」
《子供は居ないが弟は俺が育てた、それに子供時代の記憶も有る。見る目の無い親が嫌いだった、我儘に巻き込む親が大嫌いだった、縋って来る親を見下す気持ちしか今も無い。アナタ、自分の事だけ、考えてませんか》
家族が居るのが当たり前で。
家族の世話をするのが当たり前で。
『他に、何も無いのに、どうしろって言うの』
《俺なら、そんな事も分からない親に育てられたくない、そんな事も考えられないのに。何故、どうして育てたい、アナタが言う育てるって何なんだよ》
『可愛がって』
《アナタにしか出来無い事か、孤児はそんなに不出来か》
『違う、違う違う、そうじゃ』
《アナタ親なんだろ、冷静に対処し続けないと、いつか子供が死ぬんだぞ》
『だから!だから、片親じゃ不安だったから!仕方が無かったの!!』
《ほらな、また暴力が有っても、仕方が無いで済ませるんだろ》
『違う、今度は、今はもう』
《パニクって、否定するだけが親、ね》
違う。
今度こそ、ちゃんと。
『まだですか』
《すまん、もう少しだな》
『時間は有限です』
《だな》
『アナタ、お願い、ごめんなさい。だから』
『謝れば済む教育は良い事ですか』
「程度によりますが、コレは大問題ですから」
《だな、命の危機の問題だ》
『そう大袈裟にするからじゃない!』
《ほら、コレが本音だ》
「残念です、さようなら」
『まっ、待っ』
《さ、大人しくして頂きます、ご同行を》
『キーライムアイスは苦手ですが、キーライムパイアイスは食べれます、食べた事は有りますか』
違う。
今は違う。
私は子供を傷付ける様な親じゃない。
「両方、好きですよ、食べ易いキーライムアイスのお店に行きましょうか」
『はい、でも味見だけで良いです、今日はキャラメルリボンとチョコチョコにします』
「じゃあ私はキーライムと、ロッキーロードで」
《有るのか、ロッキーロード》
『はい、マシュマロが美味しいです』
《それ大丈夫か?マシュマロもヤバいと食中毒になるんだぞ》
「大丈夫ですよ、若葉マークの無い店ですから。それともカスタードパイにしておきますか、近くに有りますよ」
《ミルクとミックスベリーにしておく》
「女子っぽい」
《可愛いだろ》
『はい可愛いです、良い選択です』
《おう、注文は任せた》
『はい、行ってきます』
「あっ」
《どうだった》
「正解でしたね、まだ自身を理解していなかった」
《何で、懲役が有ると思う》
「分かる為の期間だ、と仰りたいんでしょうか」
《それだけ掛かると思っておいた方が、楽だろ》
「確かに、懲役期間内に更生しないなら、刑期延長」
《あぁ、にしても本当に良かった、子供が居なくて》
「ですね、妄想の産物だった」
結局、子供は人形だった。
そして面白半分で匿っていた人種は、刑務所へ。
彼女は、監督所へ。
《この魔法も、もう直ぐ消えるのか》
「どうですか脳内、ゴチャゴチャしてませんか」
《あぁ、多分、英語だけなんだろ》
「あぁ」
彼は話し合いの為に、一時的に英語を習得していたんですが。
それももう直ぐ切れてしまう。
『はい、この番号です』
「3番、丁度同じ数字ですね」
『はい、3人で同じです』
子供が本当には居ないと分かると、ヒナちゃんの怒りは収まり。
すっかり興味を失った。
『はい、お待たせしました、ごゆっくりどうぞ』
『はい、ありがとうございます』
凍った銀製の器に、色とりどりのアイス。
ヒナちゃんの好きな場所、アイス屋さんにケーキ屋さん。
《貰う》
「どうぞ」
『あ、私も頂きます』
「どうぞ」
《無か》
『いえ違います、本当に食べ易いので驚きました』
「ですよね、他はもう少し強いですから」
《ヒナのもくれ》
『ダメです』
《何でだよ》
『くれるのが先です』
《分かった》
『あー』
《ほら、そう変わらないだろ》
『ラズベリーの分量が多い方です』
「どらどら」
《分かるかねアンタに》
「いや、香りが強い方ですよコレ」
『向こうのはもっとブルーベリーが多いです、で向こうは少しだけマルベリーが強いです』
《食ってるなぁ》
『はい、楽しいし美味しいですから』
「ですよね、美味しいし選べるし、万歳魔法」
『万歳、アイス万歳』
はい、可愛いは正義。
《どうだ、今日は疲れたか》
『心の事なら問題有りません、前の私より大変そうな子は居ませんでしたから』
《そうか》
『はい』
守らないお母さんも居ると知っています。
でも、本当は守るのはお母さんです。
それに暴力もダメです。
でも、暴力が無いと分からない者も居ます。
暴力を振るう者です。
殴って黙らせないと、本当にちゃんと話を聴きません。
シトリーに言わせると、舐めているんだそうです。
誂える度胸が有る自分はカッコイイだろう、なんだそうです。
《どうした》
『甘く見積もっている者に、言葉だけで直ぐに分からせる事が出来ますか』
《チャック開いてるぞ》
「成程」
《でもまぁ、今度はキレて殴りかかって来るのも居るしな、制圧が1番だろ。誰しもが言って聞くなら、刑務所も警備員も要らないんだしな》
『うん、はい、そうです』
理不尽で不条理な暴力がダメです。
じゃないと犯罪者に逃げられて、被害が拡大してしまいますから。
《よし、余裕で寝れるな》
『はい、でもアズールのお話しが必要です』
《じゃあ呼んで来る、おやすみ》
『はい、おやすみなさい』
アズールのお話とトントンはデザートです。
私へのご褒美です、誰も傷付けず、殺しませんでしたから。
「お邪魔しますね」
『はい、今日はアイスを食べました、アズールはキーライムアイスは好きですか』
「はい、好きですよ、良くお分かりになりましたね」
『私でも食べれるキーライムアイスが有りました、今度食べに行きましょう』
「はい、ありがとうございます」
土日はアズールを自由にさせる事にしたので、明日から暫くはアズールと一緒です。
一緒にお出掛けです。
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生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
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生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
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その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
「俺が勇者一行に?嫌です」
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異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
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生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
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これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
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地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
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10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
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惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
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