エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

文字の大きさ
148 / 255

146 海の魔獣と来訪者。3

しおりを挟む
「はい、出来ました、ココに決めた1番の理由です」

『どれの事だ』
「お醬油、調味料です、高いんです」

『そうか』
「はい、じゃあ頂きます」
《頂きまーす》
《頂きます》

『そこは分かるのか』
《うん》

《うん、美味しい》
「ありがとうございます」

 返す為に働いたのに、得られてしまった。

《美味しい》

「単に初めてで、何でも美味しく感じてしまっているのでは」
『それは寧ろ幸運な事では無いだろうか』

「まぁ、美味しいですか?」
『あぁ、美味い』

「ただの南蛮漬けなんですけどね」
《もー、ご謙遜を、外には無いですからね?出た人に聞きましたけど、ほぼ和食無いんですよ》

「あぁ、じゃあ何処かに頼んでみましょうか。コレ少し手間なんですよ、揚げ物だし、タマネギが目に染みる」
《アレが毒じゃないのはおかしい》
《うん、分かる》

「ですよね本当」

《もしかして煮付けとかも出来ます?》

 偶に人種は、不思議な事をする。
 嘘を吐いたり、知らないフリをしたりする。

「そりゃ、まぁ、料理の基礎ですから」
《私の分もお願いします》

「構いませんが、お魚が手に入った時だけですからね?」
《払います、マジで、お願いします。ケーキセット1回分》

「いえ、魚は現物支給なので、出来るなら汁物とお米をお願いしたいんですが」
《じゃあそれで》

「はい」

《あ、フライも食べたい》
「タルタルソースは、流石にお金を取りますよ」

《そっか、生のタマネギとマヨネーズか》
「ちゃんとした所で買わないと、万が一が怖いですから」
《死んじゃうのか》

《だねぇ》
「ですねぇ」

《フライ》
「はいはい、殆ど毎日の事ですし、何処かに外部委託してみますよ」

《うん、宜しくお願いします》

 何故、どうして嘘を言ったり誤魔化したり、敢えて知らないフリをするんだろうか。

「はい、じゃあ、後は自由時間で」

《何故、気付かないフリをしたんだろう》
『あぁ、知り合いなのだろう』

「以前の私を知っている、けれども敢えて新しい私を受け入れてくれた。優しさだと思います、蛸さんでも分かりませんでしたか」
『私の血脈に、知識にそうした事を選択した者は居ない、忘れ去られる事を誰もが恐れる』

「向こうは忘れて貰う権利が薄いんです、それが例え被害者でも、犯罪では無くても」
《アレも忘れて欲しいのか》

「川口さん」
《川口さん》

「向こうでも、元男性だったそうですが、それを勝手にバラされ酷い目に遭ったんだそうです」

《何故》
「向こうでは性別を変える事は珍しいんです、なので慣れていない者が多く」
『贄の黒羊になるのだろう、異なるモノは忌避され、除外の対象となる』

「体さえ変わっていたら、女性だと思うんですが」
『弱い群れこそ、些末な違いから排除する、群れを守る為に』

「理屈は分かるんですが、理不尽で不条理だと思います」

 悲しい、悔しい。
 痛い。

《その痛いのはどうすれば治る》

「勝手に治るので大丈夫ですよ」
《早く治したい》

「なら、この中から食べたいモノを教えて下さい」
《カノンは何でも作れるのか》

「いいえ、なので作って貰えると助かります」
《じゃあカノンが好きな料理は何》

「私のはですねぇ……」



 料理を毎日する程、若くも無い、そこまで凄く好きでも無い。
 なので近くのお店に1日1食、フライか南蛮漬けを頼んでいたんですが。

《味が違う》
《だねぇ、悪く無いんだけどね》
「今日は我慢して下さい、次が見付かるまでウチで作りますよ」

《なら僕が次を見付ける》
『では私達は、話し合いに行くか』

「ですね、はぁ」
《美味しいは意外と難しい》

「みたいですね」

 現地の味に合わせる為、魔改造する事には賛成なんですが。
 本来の味を求めて来たのに、魔改造品を出されるのは困る。

《すみません、忙しさで、間違えてしまいました》

 あまり混んでいない揚げ物専門の飲み屋さんに、南蛮漬けやフライを頼んでいたのですが。
 最近は忙しくなり、しかも本来の味付けとは違う品物を出されたので、引き上げさせて頂く事に。

「改造は構わないんですが、以降は違う名で出して下さい。このままでは本来のお願いから逸脱してしまうので、もう引き上げさせて頂きますね」

 失敗だけが、引き上げの原因じゃないので。
 幾ばくか拗れるのは覚悟するしか無い。

《もう間違えない様にしますので》
『間違える前に何か対策をすべきだったんだが、忙しいのだろう』
「元は楽して美味しく食べたかっただけなので、すみませんが、今までありがとうございました」
『そんな、確かに少しは失敗しましたけど、誰だって』

『そう言って本当に足止めになると思うのか、コチラが大事に捉えていて、ソチラでは些末な事に思っている。コレではどの道、決別する他には無いと思うが』

 この強気の娘さんが苦手なんですよね。
 私も蛸さんも、蛤さんも。

『それは、でも』
《ごめんね、忙しくなってきたし、ココは私が》

『うん、けど諦めたらダメだよ、理不尽にはしっかり対応しないと』

 片や真っ青、片や納得がいかない様子ですが。
 明らかな間違いへのクレームに対して、文句を言われましても。

《本当にすみません、後日、改めてお詫びに》
「いえいえ、ココの方にも、南蛮漬けを気に入って頂けたのは喜ばしい事ですし」
『コレ以上不愉快にさせる気が無いなら、関わらないでくれないだろうか、時間が惜しい』

《ご恩を仇で返す様な事になってしまい、本当に》
「それより、お節介で敢えて言いますが、謝罪より従業員を入れ替えた方が良いかと」

 年が上だからこそ言わせて頂きますが、アレは本当に不味いですよ。

《それが、難しいんです》
「弱味を握られてるんですか」

 あぁ、動揺している。

《そこまででは、無いんですが》
「ココは場合によっては恥を消せます、一先ずは悪魔に相談してみて下さい」

 何を消したいかを、誰かに言う事は苦痛だけれど。
 結局は言うか言わないか。

《ねー、向こうのお店がやってくれるって》

 蛤さん。

《本当に、すみませんでした》
「いえいえ、我慢し続けるか解放されるかですよ、頑張って下さいね」

 どれだけの人が恥の無い人生を送れているのだろうか。
 少なくとも、私には無理だった。

 そして友人も。

『コレから仕事か』
「はい、それに誰も来ないなら、そのウチこのわだかまりも消えますよ」

《今日は蛸の番にするか》
『いや、お前で構わない』
「はいはい、仕事終わりでお願いします、来客が有るかも知れないんですから」

 聖獣や魔獣は過保護だ。

 本人達も不快感を感じるから、らしいけれど。
 悲しみや苦痛を出来るだけ避けさせようとする。

 あくまでも居心地が悪いだけで、好意では無いと思う。

 所詮は単なる刷り込み。
 いずれ飽きて、対価を払い終えたら終わる関係。

 聖獣や魔獣に期待してはいけない。
 知能が高いからこそ、人種同様に互いに用が無くなれば縁が切れる事も有る、と。

 監督所の教官も言っていたのだし。
 誤解はしてはならない。

 また恥になるかも知れないのだから。

『あの、今、大丈夫ですか』
「どうぞ、お茶を淹れますね、苦手な風味は何ですか?」

『ミントが苦手ですが、それ以外なら、はい』
「カモミールとハチミツ、それにミルクはどうでしょう?」

『はい、お願いします』

 夜間勤務で雇って貰う筈が、今は相談員になっている。

 人は思い悩むと眠れない。
 そして羞恥心が収まらないと、更に不安が増す事になる。

 その事を良く理解しているだろうから、と。

「はい、どうぞ、お好みでハチミツを足して下さい」
『ありがとうございます』

 彼女は私の担当する感覚、恥の相談に来たんだろうか。
 それとも、単なる愚痴、だろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。 彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。 ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。 転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。 しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。 男であれば執事、女であればメイド。 「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」 如何にして異世界を楽しむか。 バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

処理中です...