悪役令嬢に婚約破棄をして貰えました! 

中谷 獏天

文字の大きさ
30 / 40
第1章

26 星の光。

しおりを挟む
 うん、船で爆睡だったよね。
 パトリックとウォルターは起こし合ったらしいけど、うん、コレは寝過ぎだと思う。

「何で起こさない、夜眠れなくなったらどうすんの」
《それは、まぁ、ね?》
『私達で眠れる様にするから大丈夫ですよ』

 その方法よ、出し過ぎて本当に赤い玉が出たらどうすんのよ。
 パトリックは戻せばとか言ってたけど、普通に詰まりそうだよね、色々と。

《さ、食べに行こう、スウェーデン名物》

 お昼過ぎに船で着いたのは、マルメー。

 先ずは宿を取って、お風呂に入って着替えて。
 洗濯は宿の人とキャサリンに任せて、遅いお昼に出掛ける。

 キャサリンはお風呂に入った後、宿のサンドを食べて直ぐに洗濯へ。
 親が厳格な菜食主義者でアイス以外に興味が湧かなくなったんだって、だから差し入れは甘味を買って帰るつもりなんだけど。

「何、この、クロップカコールって」

 原材料表記はされてるから、芋と肉が使われてるのは分かるんだけど。

《食べてみよう、ウォルターは何でも食べられる様に躾けられたし》
『ニガヨモギ以外は、何とか』
「よし食べてみよう」

 芋料理が多いんだよねマジで。
 ヤンソンさんの誘惑ってのも芋料理だし、ハッセルバックポテトとか言うベイクドポテトっぽいのとか、ピッティパンナとか言う角切り炒めとか。

 けど栄養面を考えて、ニシンの酢漬けサンドとクロップカコールとヤンソンさんを注文。

 うん、美味い。
 コケモモジャム美味い、欲しいな1瓶。



《あの、コレは》
「コケモモジャム、非常食にも良いかなと思って、いつもありがとうキャサリン、あげる」

《ありがとうございます、イーライ様》

 この先は再び長旅となるので、丁度欲しかったんですよね。
 こうした気配りをして頂けるのに、パトリックの妹、ローズ嬢は何て勿体無い事を。

 いえ、寧ろ私には良い機会だとは思いましたけどね。
 もし、万が一が有れば、私のモノに出来る。

 好きなんですよね、生意気な子女。

 ですが、すっかり大人しくなられたそうで。
 残念です、屈服させたかったのに。



「はぁ、マジで穏やかなのが逆に悔しいわ」

 イーライが学園を去ったから、マジで静か。
 悔しいな。

 アイツが去ったのが正しいみたいで、マジで悔しい。

《寂しいですね、本当に》

 最後の最後でイーライを休学に追い込んだ、メリッサ。
 平民枠で入学した園芸の才能が有る、男装令嬢。

 まぁ、平民だから令嬢でも無いんだけど。

「お前のせいでも有るからな?」

《果たして、本当にそうでしょうか》

「は、開き直」
《私はただイーライ様の気持ちが分かるからこそ、贈り物をと思っただけです、それを利用したのは貴族の令息や令嬢。単なる平民の私に何が出来たんでしょうか?》

「俺らに」
《関わり始めたのはつい最近ですよね、アナタ方が安心安全だと私に分かると思いますか?》

「いや、まぁ、そりゃそうかもだけど」
《悪く利用された事は凄く残念ですけど、じゃあ私に何が出来たのか。警告なんかすれば私が目を付けられてしまう、理解している、と贈り物をしただけ。それを利用されてしまう事を私に防ぐ事は、本当に出来たと思いますか》

「俺に貴族批判をされても困る」
《なら私を批判されてももっと困ります、貴族に利用された単なる平民、防ぐ術が無かったんですから》

「送らなければ」
《応援もダメですか》

「いや、それは」
《仮に先生方に相談したとしても、ノブレスオブリージュを理解しない平民の戯言か、イーライ様に言い寄りたいだけか。結局は警戒され何も出来なかった筈、それでも何か私に出来たのでしょうか、私はただ、イーライ様は正しいと理解している、そう示したかっただけ》

 困る、幾ら男装してても女。
 静かに泣かれると本当、マジで困る。

「俺だって我慢してたんだけど」
《ですが身を守る為に控えていた面も有りますよね》

 クッソ分かってんじゃねぇかよ、貴族の立場。

「だとしても、お前を許せない」
《八つ当たりですね》

 分かってるっつの。

「はぁ」
《私は責めませんよ、其々に事情が有るでしょうから》

「あぁ、なら次はライアン図書委員長でも狙えば良いんじゃないか、あの人も」
《男臭い方はちょっと、唯一と言って良い程、イーライ様しか無理ですから》

「アレで男臭いって」
《イーライ様並みに可愛い方はもう、現れ無いかも知れませんね》

「結局、外見かよ」
《年上の豊満な女性が好きだそうで》

「お前」
《学園内に鳩しか居ないワケでは無いですから、燕だって居るんですよ、ココ》

 最高位直轄の暗部が居るって、パトリック兄ちゃんが言ってたけど。

 まさか、まさかね。
 だってコイツ、平民だし。

「もう俺を探るなよ」
《アナタには全く興味も無いので大丈夫ですから、ご心配無く》

 気に食わねぇ。



《あの、ライアン図書委員長、コレを読んで頂けますか》

 監禁後、新たにイーライ君を守った事で、僕の評判が上がってしまった。
 正直、全く嬉しく無い。

 僕は婚約者を、元婚約者を守れなかったクズなのだから。

『僕はね、婚約者を守れなくて、元婚約者と呼ばざるを得なくなったクズなんだ。君の様に品の良い貴族令嬢が好意を示すべき相手では無いよ、すまないね、ありがとう』

《まだ、そのお相手を》
『いや、もう新しい婚約者と幸せにしているそうだし、僕にそうした未練は無いよ』

《では何故》
『罪の意識、罪悪感と、女性の怖さについて良く理解してしまったんだ。君が例えどんなに心優しい女性だとしても、今はまだ、そうした相手として見る事は全く出来ないんだ』

《でも、気持ちだけでも》
『いつか君が心変わりをして、僕に何か品物を残していた時、きっと君は不安になる筈。コレは君の為にも受け取れないよ、ありがとう、すまないね』

《分かりました、失礼致します》
『すまないね、ありがとう』

 僕は強引な方法でイーライ君を守ろうとしてしまった。

 あの時は本当に、異常だった、常軌を逸していた。
 守ろうとしながらも、何処か攻撃性を含んでいて、僅かに八つ当たりすらも含んでいた。

 無意識に、無自覚に。

「先輩、モテモテっすね」

『あぁ、ケント君、手伝いに来てくれたのかな?』
「まぁ、半々っすね、あのメリッサって女が気に食わない」

『ぁあ、女性物の贈り物については未だに議論が行われているからね、難しい問題だと思うよ』

「何か、開き直られた」
『実際に平民に何が出来たか、僕らは生まれならがらの貴族だからね。けれど、君の祖父は確か、平民だったよね』

「何も考えずに尋ねたら絶対にぶん殴られるんで嫌なんすよ」

『そうして問題を永遠に追求しないままだと、また同じ苦しみを味わうかも知れないよ』

「先輩に何が有ったんすか、実際」

『君が祖父に尋ねたら、教えてあげるよ』
「えー、俺、怒られるの嫌いなんすけど」

『尋ね方だと思うけどね、悩んでもどうしても分からない事が有り過ぎて、糸口が掴めない、とかね』

「全部、入れ知恵だってバレるんすけど」
『そこもしっかり伝えれば良いんだよ、僕に尋ねるべきだと言われ、平民について尋ねる事にした、とね』

「マジでボッコボコに怒られたら」
『食堂で奢ってあげるよ、好きな物を好きなだけ』

「約束ですからね、マジで」
『あぁ、男同士の約束だ』

「はぁ」
『綺麗な字で書くのがオススメだよ、じゃあね』

「うーっす」

 元婚約者は、学園内で酷い虐めを受け、学園を去った。
 そして僕との婚約も破棄。

 表は、そこだけ。
 裏を知る者は、極僅か。

 彼が、ケント君が真実を知ったら、どう思うんだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...