亡国のモデュラシオン~どうか助けて頂けないでしょうか、幾度やり直そうとも国が滅んでしまうのです~

中谷 獏天

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4 第13近衛騎士団副団長、ロベスピエール・マクシミリアン。

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 穏便な侵略の為、国や城内の地図を制作する中、私はひたすらに帝国の事を学び続けた。
 少しでも隙間を埋める為、より穏便な侵略の為に。

『アントワネット様、あまり根を詰めるのは良くないですよ、今日は踊りの練習でも』
「いえ、苦手ですし、私には必要の無い事ですから」

 気分転換にとダンスに誘って頂けても、もう私に踊る程の気力は無い。
 あんなに好きだった事が、今は苦痛でしか無い。

『ではアントワネット様のご趣味は?』

 もう、趣味と呼べる様な事は、何も。

《実はマリー様は、物語が大好きなのですよ》
『でしたら』
「幼稚な創話に夢見た頃も御座いましたが、今は」

 何もかも、苦痛でしか無いのです。

 本の中で例え夢を見れたとしても、本を閉じると今に戻ってしまう。
 悪しき者、愚かな醜い者が、今ココに存在している事を思い出さなければいけなくなってしまう。

『例え創話でも、物語に夢中になる事を幼稚な行為だとは、ココでは誰も申しませんよ』
「だとしても、今は、落ち着いて読む事が出来ませんので。ありがとうございます、では庭園のご案内をお願いします」

『はい』

 屈託の無い笑みの筈が、私は勝手に傷付いてしまう。
 彼に注意すべき所は欠片も無い。

 あの王でさえ出来無かった事を、あの国に居る者には誰も出来無い事を、彼らは平然と行っている。

 民の為の侵略であると信じ、疑う素振りを見せず、けれども阿らない。
 陰口も噂話も無く、穏やかで静かで、常に気遣いが溢れている。

 ふと、私はココには居てはいけないのでは。
 そう考えてしまう。

 あんな国で生まれ育ったには、確かに多少は賢いけれど。
 根は愚かで愚鈍。

 天国の様な場所の筈が、私には地獄に思えてしまう。

 私の居るべき場所は、ココでは無いのかも知れない。
 寧ろ居るべきは、八大地獄エイトゲヘナ国と呼ばれる、悪魔の住む国。

 悪魔とは、永劫なる生を生き続けねばならない、不死と言う呪いを掛けられたモノ。
 こんな愚か者を嬲る趣味の有る方は居ないかも知れない、けれど、私は。

《お嬢様、あまり上の空では失礼ですよ》
「あ、ごめんなさい」
『庭園の散策やデートの時には、頭を空にする事も必要かと、アントワネット様』

 微笑まれれば微笑まれる程、気遣いや優しさを示されれば示される程。
 私は私の愚かさと無知を自覚させられ、眼前に突き付けられるのです。

 どうしてこんな愚か者が、こんな場所でのうのうと生きているのかと。
 私の中の民草が怒号を発するのです。

 愚かな王妃へと怒りを向け、責め立て続けているのです。

「ごめんなさい、ありがとう」



 アントワネット・マリー、彼女には大きな壁が有る。

『シャルロット、どう思う』
《薄く透明なガラスの様な膜、けれど、だからこそ壊す事の難しい強固な壁。きっと一部でも壊してしまったら、シャボン玉の様に、全てが瓦解してしまう筈よ》

 シャルロットは、俺の妹。
 スレイブニルと鷹の亜人の子、有翼の空駆ける馬、ペガサスと呼ばれる種。

 聖獣として帝国を守る存在。

『つまり、壊すべきでは無い、か』
《けれど扉が見えないの、誰と一緒でも、扉は輪郭さえ表さない》

 魔獣や聖獣には、心の原風景を察する能力が有る。
 けれども人型には、人種には存在しない能力。

『どうしたら良い』
《開けたいと思わなければ現れなくて当然だもの、興味を引いたら良いじゃない》

『それが出来無いんだよぉ』
《止めて、そうやって顔の油を付けないで、はいブラッシング》

『はい』

《私には人種の考え方は分からないわ、何故、誰も入れさせないのかジャンなら分かるのでしょう?》

『いや、アレは逃げてるから』
《やっぱり、単に種付けだけの男の分際で、色恋から逃げるだなんてとんだ臆病者ね》

『勘に頼れないからね、仕方が無いよ』

 アントワネット・マリーは、宿星で間違い無いとされている。
 そして宵いの明星だとも囁かれている。

 けれど、彼女は宿星である事を公言してはいない。
 認めてはいない。

 そう認めないと言う事は、明けの明星、悪しき転生者の疑いは晴れない。



《アントワネット女史》

「ルーパス次期侯爵、はい、何か御用でしょうか」
《ご休息をあまり取ってらっしゃらないそうですが》

「すみません、生憎と勉学が趣味ですので」
《思い詰めた様子が多く、趣味には思えませんが》

「そう怖い顔をしていましたか、癖なのかも知れません、ごめんなさい」
《ご相談頂けませんか》

「あぁ、この地図見て下さるかしら」
《はい、コレが何か》

「コレで王都なんですよ、防衛も何も考えず、王城まで真っ直ぐな道を敷いている」

《戦は何百年も》
「守られていた事に甘んじている事にも気付かない、無知で愚かな王侯貴族が、さも自らを優秀だと思い込み胸を張っている。さぞ可哀想に思われる事でしょう、憐れみが湧きますでしょう、けれど私には同情すら許されない」

《アナタには同情する権利は有ります》
「いえ、放棄してしまいました、侵略を請うた日に。ですのでコレは私の問題、早急に片付ける事が出来ず、申し訳御座いません」

 彼女には大きな壁が有る。
 その壁は押せば柔らかく、ゆっくりと押し返される。

 以降、彼女は笑みを絶やさなくなった。
 決して表情を崩す事は無くなった。



《何をサボっているんだ》
《あらジャン、お生憎様ね、アナタよりお兄様の方が働き者よ》
『うん、もっと言いなさい我が妹よ』

《珍しくマクシミリアンを擁護するとは、どうした》
《アナタが酷く臆病者だからよ、お兄様にアントワネット・マリーの事を任せっきりだそうじゃない》
『そうだそうだ』

《いや、コレでも努力している方なんだが》

《あら、ジャンも苦労しているのね》
『本当かぁ?』

《本当よ、ニガヨモギの沼に鼻まで嵌っているんですもの》
『そんなに』
《シャルロットが人型になれれば楽なんだが》

《イヤよ、人種は脆くて弱いんですもの、私が求めるのは立派な牡馬。出来れば重種馬で》
《ペルシュロンかシャイヤーの様な大きさ、だろう》

《そうそう、覚えていてくれたのね?》
《父にも頼んでいるが、既に殆どが相手付きだ》

《はぁ、そうよね、人種と共に居ないモノは早婚ばかり》
《だが外に探しに行く事は、コレが拒絶しているのだろう》
『だって唯一俺の傍に居てくれた肉親なのに、何処の馬の骨とも分からない馬の子を孕んで帰って来るとか、無理』

《我儘をいつまで聞いてくれるか、だな》

《まぁ、お兄様の寿命が短いから良いけれど、そろそろ妹離れしても良い頃合いよね?》
『ジャンの魔獣を紹介すれば良いでしょう』
《それでは探ろうとしていると示すも同然だろう》

《だからって友人の肉親を使おうとするのも、卑怯よねぇ》
『ねー』
《彼女が宵いの明星であると分かる何かが有れば、魔獣との契約も可能なんだが》

《ならそう追い込みなさいよ、獲物を狩るのだって同じでしょうに》

 魔獣や聖獣の知能は決して低くは無い、寧ろ長寿種ともなれば知能は高くなる。
 コレは人の道理と獣の道理の違い、直感的に、直情的に生きる事を許された側の道理。

 俺達には出来無い生き方を、獣は選べる。

《分かった》
『えっ』
《ほら、やっぱりジャンは頭が良いもの、お兄様ちゃんと言う事を聞くのよ》

『あぁ、うん』
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