入れ替わった彼女

チャロコロ

文字の大きさ
6 / 84

驚愕

しおりを挟む
 気付くと、天井を見つめていた。
 何でここにいるんだ?そんなことをボンヤリ考えながら天井を眺める。
 額と髪にはべっとりと汗が流れて、身体に張り付いたTシャツが不快指数を上げていた。
 俺今何歳だっけ?
 さっきの出来事が夢だと気付かされるのに少し時間がかかった。
 携帯電話で時間を確認すると起床時間の5分前だった。
 一度大きく溜息をつくと、全身を脱力感が覆う。疲れが全くとれない。
 今日も深夜まで仕事だと思うと更に気持ちが重くなった。
 仕事なんか辞めてしまおうか。
 寝起きが悪いせいか、毎朝自問自答をしてしまう。
 遥の夢を見るのはこれが初めてではない。私は遥と別れてから10年近く経った今でも彼女を忘れることができないのだ。
 未練の塊が夢という形で具現化される。何てメソメソした性格なんだろう。自分の性格に嫌気がさす。
 夢の中の月野遥はいつも中学生のままだ。
 私の中で彼女は永遠に中学生なのだろう。成長した彼女を見ていないので、大人になった遥を想像できないのは当然のことだろう。
 思春期の後悔の呪縛から今だに抜けきれない自分が惨めで仕方なかった。
 上半身を起こしてもう一度大きな溜息を出す。
 寝室の扉の奥から小さな物音がした。水の流れる音や食器が擦れる音が微かに聞こえる
 。琴音が来てくれているのだ。
 彼女は大学卒業に必要な単位は3年生までにほとんど取り終え、週一、二回程度しか大学には行っていないはずだ。
 私が逆の立場だったら、食事や掃除、洗濯のためだけにこんな早い時間に起きることはあり得ない。しっかりし過ぎている。扉を開けてトイレに入った後、あくびをしながら挨拶をする。
 「おはようございます」
 キッチンで料理を作っているのだろう。
 彼女の姿は見えないが、声だけが返ってきた。
 私はテーブルに座るとテレビを点けてニュースを見る。
 すぐにキッチンから足音が近づいてくると、私の前で止まってご飯とみそ汁、それに目玉焼きを置いてくれた。
 「ありがとう」
 寝起きで整理のつかない脳みそを働かせるため、みそ汁を飲もうとすると彼女の後ろ姿が視界に入った。
 ん?うん?
 彼女がキッチンに戻るため横向きになった途端、驚愕してお椀を滑らしてしまい、みそ汁を派手にこぼしてしまった。
 テーブルに落ちたみそ汁はすぐに浸食を始め、私の太ももに落ちてきた。
 そんな……。
 私にはみそ汁の熱さを感じる余裕はなかった。
 彼女は物音に驚いて顔を向けると、私に歩み寄ってくる。
 「大丈夫ですか?」
 心配そうに眉を下げた彼女は、テーブル上にあるティッシュを引き出して私の服を拭いた。
 これは?この人は?何でこの人がここに……?
 君とはずっと逢っていなかったじゃないか?
 どうして私の眼の前に君は立っているんだ?
 私は彼女に訊いた。
 だが、これはあくまでも確信に近い確認だ。
 「月野……遥さんですか?」
 「はっ?」
 予想外の質問だったのだろう。
 彼女の動きがとまった。
 ジェットコースターで急降下をした時のように心臓が浮かび上がる
 。眼の前に立っている女性はどう見ても成長した月野遥だった。
 おかしい。
 いや、私がおかしいのかも知れない。
 確信めいたものを感じておきながら、今さらながら自信がなくなってくる。
 まだ夢の中なのだろうか。遥を最後に見たのは中学2年だ。
 その彼女が10年を経た今、こんなところにいるはずがない。
 綺麗な白眼に大きな黒眼がコントラストをなしている。
 瑞々しい肌は夢に出てきた彼女そのものだった。
 うれしい。うれしいうれしい。
 これ以外の言葉が浮かんでこない。思わず笑ってしまった。
 彼女は一度大きく瞬きをすると、口元を緩めた。
 「何言ってるんですか?私は琴音ですよ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

処理中です...