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暗い過去 2
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「俺はなにもしてない、できなかったんだ。
月野さんも女の子も、自分の力で自分の命を救ったんだ。
結局、俺は彼女の両親を助けることができなかった。
自分の命がかわいくて、死ぬのが怖くて無理をすることができなかった」
佐々木は俯いたまま応えた。そこから彼の表情を読み解くことはできないが、明らかに自分を責めているようだ。
佐々木は人命を救おうと尽力した。こいつを褒める人がいても責める奴など誰もいない。
だが、人間が乗った車が沈んでいく姿を目の当たりにした佐々木のショックも相当大きいはずだ。月野さんを命懸けで助け、連絡までしてくれたのに、勝手に苛立っていた自分が情けなかった。
「本当にありがとう」
それ以外の言葉をかけることができなかった。
「今は月野さんの無事を祈ろうぜ」
佐々木はとりなすように肩を叩いてきた。
しばらくすると、病院に制服姿の警察官が来て佐々木に事故の状況を訊いていた。
事情聴取を終えた佐々木が戻ってきた。
「今から車を引き揚げるらしいけど、伊吹はどうする?」
「……俺はここにいるよ」
「分かった」
月野さんの容態を少しでも早く知りたかったので、ここで留まっていたかった。それに、車に乗ったままの彼女の両親が無事で済まないことぐらいは俺でも分かる。
「伊吹は月野さんの容態が分かったら連絡してくれ。
俺と真鍋は事故現場に行って両親の様子を見てくる」
真鍋さんは真っ赤になった目をハンカチでおさえていた。彼女も俺と一緒で、ようやく事の重大性を理解し始めたのかも知れない。
「うん、頼む。真鍋さんも頼むね」
「私は大丈夫だから。遥の近くにいてあげて」
彼女はけなげに笑った。いつもの強気で活発な姿とはほど遠い姿だったが、彼女の思いやりには頭が下がる思いだった。
走り去る二人の後ろ姿を見届けて待合室に戻った。
廊下をまたいだ先には両開きの自動ドアがあり、ドアの中央部分に「ICU」という文字が殺風景に無機質に書かれている。
あのドアの向こうでは月野さんが自分の命を繋ぐため、たった一人で闘っている。自分は彼女のために何ができるだろうか……。
祈ること?見守ること?それは何もできないと言っているのと同じだった。彼女のため、と言いつつ自分を慰めているにすぎない。
結局は自分がかわいいんだ。衝動的に膝を強く殴った。
痛みを感じないのでもう一度殴る。
まだダメだ。もっともっと殴らないと!もっと!俺が佐々木と同じ立場に立っていたら月野さんを助けることができただろうか……。
すぐに救急車を呼んだか?佐々木みたいに冬の海に飛び込むことができたか?
月野さんの妹を家族から引き剥がしてでも助けたか?
ほとんど沈んでいた車の中から月野さんを救い出せたか?
答えは出ない。
項垂れながら貧乏ゆすりをしていると、ズボンに入れていた携帯電話が規則的に揺れた。
意識を取り戻したかのように携帯画面を見て、それが佐々木からの電話であることに気付くと外に出ながら電話に出た。
「伊吹か?まだ病院にいるのか?」
いつの間にか外は暗くなっていた。長い間、意識がとんでいたようだ。
「うん、まだ病院にいる。月野さんの手術はまだ続いてる」
「そうか、こっちも車の引き上げ作業が終わったところだ。
月野さんの両親は車が引き上げられる前にダイバーが陸に上げていたけど、二人とも死んでいた よ」
「……分かった」
「俺と真鍋は親と一緒にそっちへ戻るから。伊吹もメシくらい食っておけよ。
月野さんが元気になった時、お前がダウンしてたら格好悪いぞ」
「そうだな」
やはり月野さんの両親は亡くなっていたか……。
予想通りとはいえ、彼女にこの事実を伝えるのは辛いものがある。
時間を見ると、午後8時を過ぎていた。
病院に着いてから8時間が経過しようとしている。ぼんやりと空を眺めながら深呼吸をすると、気合いを入れ直して院内に戻った。
月野さんも女の子も、自分の力で自分の命を救ったんだ。
結局、俺は彼女の両親を助けることができなかった。
自分の命がかわいくて、死ぬのが怖くて無理をすることができなかった」
佐々木は俯いたまま応えた。そこから彼の表情を読み解くことはできないが、明らかに自分を責めているようだ。
佐々木は人命を救おうと尽力した。こいつを褒める人がいても責める奴など誰もいない。
だが、人間が乗った車が沈んでいく姿を目の当たりにした佐々木のショックも相当大きいはずだ。月野さんを命懸けで助け、連絡までしてくれたのに、勝手に苛立っていた自分が情けなかった。
「本当にありがとう」
それ以外の言葉をかけることができなかった。
「今は月野さんの無事を祈ろうぜ」
佐々木はとりなすように肩を叩いてきた。
しばらくすると、病院に制服姿の警察官が来て佐々木に事故の状況を訊いていた。
事情聴取を終えた佐々木が戻ってきた。
「今から車を引き揚げるらしいけど、伊吹はどうする?」
「……俺はここにいるよ」
「分かった」
月野さんの容態を少しでも早く知りたかったので、ここで留まっていたかった。それに、車に乗ったままの彼女の両親が無事で済まないことぐらいは俺でも分かる。
「伊吹は月野さんの容態が分かったら連絡してくれ。
俺と真鍋は事故現場に行って両親の様子を見てくる」
真鍋さんは真っ赤になった目をハンカチでおさえていた。彼女も俺と一緒で、ようやく事の重大性を理解し始めたのかも知れない。
「うん、頼む。真鍋さんも頼むね」
「私は大丈夫だから。遥の近くにいてあげて」
彼女はけなげに笑った。いつもの強気で活発な姿とはほど遠い姿だったが、彼女の思いやりには頭が下がる思いだった。
走り去る二人の後ろ姿を見届けて待合室に戻った。
廊下をまたいだ先には両開きの自動ドアがあり、ドアの中央部分に「ICU」という文字が殺風景に無機質に書かれている。
あのドアの向こうでは月野さんが自分の命を繋ぐため、たった一人で闘っている。自分は彼女のために何ができるだろうか……。
祈ること?見守ること?それは何もできないと言っているのと同じだった。彼女のため、と言いつつ自分を慰めているにすぎない。
結局は自分がかわいいんだ。衝動的に膝を強く殴った。
痛みを感じないのでもう一度殴る。
まだダメだ。もっともっと殴らないと!もっと!俺が佐々木と同じ立場に立っていたら月野さんを助けることができただろうか……。
すぐに救急車を呼んだか?佐々木みたいに冬の海に飛び込むことができたか?
月野さんの妹を家族から引き剥がしてでも助けたか?
ほとんど沈んでいた車の中から月野さんを救い出せたか?
答えは出ない。
項垂れながら貧乏ゆすりをしていると、ズボンに入れていた携帯電話が規則的に揺れた。
意識を取り戻したかのように携帯画面を見て、それが佐々木からの電話であることに気付くと外に出ながら電話に出た。
「伊吹か?まだ病院にいるのか?」
いつの間にか外は暗くなっていた。長い間、意識がとんでいたようだ。
「うん、まだ病院にいる。月野さんの手術はまだ続いてる」
「そうか、こっちも車の引き上げ作業が終わったところだ。
月野さんの両親は車が引き上げられる前にダイバーが陸に上げていたけど、二人とも死んでいた よ」
「……分かった」
「俺と真鍋は親と一緒にそっちへ戻るから。伊吹もメシくらい食っておけよ。
月野さんが元気になった時、お前がダウンしてたら格好悪いぞ」
「そうだな」
やはり月野さんの両親は亡くなっていたか……。
予想通りとはいえ、彼女にこの事実を伝えるのは辛いものがある。
時間を見ると、午後8時を過ぎていた。
病院に着いてから8時間が経過しようとしている。ぼんやりと空を眺めながら深呼吸をすると、気合いを入れ直して院内に戻った。
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