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暗い過去 1
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急いで自転車で来たが、病院まで30分もかかった。
「伊吹、こっちだ」
病院の出入口に入ったところで、佐々木が手招きをしてきた。隣には真鍋さんもいる。
「月野さんの容態はどうだ?」
「今は手術中だ。まだ何とも言えん」
そう話す佐々木の髪は何故か少し濡れていて、全身から潮の香りが漂ってきた。
「そうか……」
「取り合えず、ここじゃあ何だから……」
真鍋さんが待合室に眼を向けて、落ち着いて話せる場所を示した。
3人で移動すると並んでイスに座る。
「いいか、落ち着いて訊けよ」
佐々木が真剣な眼を向けた。
「今朝、自転車に乗って本屋に行ってたんだよ。
すると俺の横を軽トラが追い抜いて行ったんだ。
別に何てことはない普通の軽トラだったんだけど……。
俺が何となくその車を眼でおっていると、その車は何故か突然運転操作を誤って対向車線にはみ 出して止まったんだ。
その時には対向から走ってきた乗用車が軽トラの目前まで走って来ていた。
俺が『危ない』と思う間もなく、乗用車は急ハンドルで軽トラをかわすとガードレールを突き破
って海に入っていってしまったんだ」
「その海に落ちた乗用車が、月野さんが乗ってた車か?」
「そうだ、まあその時は分からなかったんだけどな」
「軽トラの方はどうなったんだ?」
「何事もなかったかのように走り去っていったよ」
佐々木は首を横に振った。無言で先を促した。
「これはやばいことになったと思って消防に連絡するとすぐに防波堤に登って、そこか
ら車の様子を見たんだ。
運転席と助手席、それに後部座席に二人乗っていた。
しばらくすると幸いにも後部座席の窓から小学生くらいの女の子が出てきたんだ。
多分妹だろうな。
だけど、その女の子は車外から『お父さん、お母さん、お姉ちゃん』と必死に叫んで、決して離 れようとしなかった。
俺はこのままだと女の子も死んでしまうと思って海に飛び込むと、泣きながら車にしがみつく女 の子を強引に引き剥がして陸に上げたんだ」
女の子は月野さんの妹のことだろう。緊迫した状況に手が汗ばむ。
「月野さんの妹は無事だったのか?」
「うん。少し水を飲んでいたみたいだけど、大したことないって」
佐々木の顔が少しだけ緩んだが、すぐに引き締まる。
「俺が車に戻った時には、既に車のほとんどが浸水していた。
早く助けなければと焦りながら潜って車内を見ると……後部座席にいたのは月野さんだったん だ。正直かなりビックリしたよ。
何で月野さんがここにいるんだ?
そんなことが一瞬脳裏をよぎったがそれどころじゃなかった。
何としてでも月野さんを助けないと!その時にはそれしか頭になかった。
車が完全に沈む前に月野さんを引き出そうとしたんだけど、彼女は完全にパニック状態になって いてシートベルトをはずすことすら忘れたまま外に出ようとしたから、何とかシートベルトをはず させて月野さんを車外に出すことができた」
佐々木はがっくりと項垂れた。
髪が濡れていたのはそのせいだったのか……。
今更ながら気付いたが、佐々木の手にはガーゼが貼られテープでぐるぐる巻きにされてあった。
「命がけで助けてくれてありがとな」
俺は深く頭を下げた。
「伊吹、こっちだ」
病院の出入口に入ったところで、佐々木が手招きをしてきた。隣には真鍋さんもいる。
「月野さんの容態はどうだ?」
「今は手術中だ。まだ何とも言えん」
そう話す佐々木の髪は何故か少し濡れていて、全身から潮の香りが漂ってきた。
「そうか……」
「取り合えず、ここじゃあ何だから……」
真鍋さんが待合室に眼を向けて、落ち着いて話せる場所を示した。
3人で移動すると並んでイスに座る。
「いいか、落ち着いて訊けよ」
佐々木が真剣な眼を向けた。
「今朝、自転車に乗って本屋に行ってたんだよ。
すると俺の横を軽トラが追い抜いて行ったんだ。
別に何てことはない普通の軽トラだったんだけど……。
俺が何となくその車を眼でおっていると、その車は何故か突然運転操作を誤って対向車線にはみ 出して止まったんだ。
その時には対向から走ってきた乗用車が軽トラの目前まで走って来ていた。
俺が『危ない』と思う間もなく、乗用車は急ハンドルで軽トラをかわすとガードレールを突き破
って海に入っていってしまったんだ」
「その海に落ちた乗用車が、月野さんが乗ってた車か?」
「そうだ、まあその時は分からなかったんだけどな」
「軽トラの方はどうなったんだ?」
「何事もなかったかのように走り去っていったよ」
佐々木は首を横に振った。無言で先を促した。
「これはやばいことになったと思って消防に連絡するとすぐに防波堤に登って、そこか
ら車の様子を見たんだ。
運転席と助手席、それに後部座席に二人乗っていた。
しばらくすると幸いにも後部座席の窓から小学生くらいの女の子が出てきたんだ。
多分妹だろうな。
だけど、その女の子は車外から『お父さん、お母さん、お姉ちゃん』と必死に叫んで、決して離 れようとしなかった。
俺はこのままだと女の子も死んでしまうと思って海に飛び込むと、泣きながら車にしがみつく女 の子を強引に引き剥がして陸に上げたんだ」
女の子は月野さんの妹のことだろう。緊迫した状況に手が汗ばむ。
「月野さんの妹は無事だったのか?」
「うん。少し水を飲んでいたみたいだけど、大したことないって」
佐々木の顔が少しだけ緩んだが、すぐに引き締まる。
「俺が車に戻った時には、既に車のほとんどが浸水していた。
早く助けなければと焦りながら潜って車内を見ると……後部座席にいたのは月野さんだったん だ。正直かなりビックリしたよ。
何で月野さんがここにいるんだ?
そんなことが一瞬脳裏をよぎったがそれどころじゃなかった。
何としてでも月野さんを助けないと!その時にはそれしか頭になかった。
車が完全に沈む前に月野さんを引き出そうとしたんだけど、彼女は完全にパニック状態になって いてシートベルトをはずすことすら忘れたまま外に出ようとしたから、何とかシートベルトをはず させて月野さんを車外に出すことができた」
佐々木はがっくりと項垂れた。
髪が濡れていたのはそのせいだったのか……。
今更ながら気付いたが、佐々木の手にはガーゼが貼られテープでぐるぐる巻きにされてあった。
「命がけで助けてくれてありがとな」
俺は深く頭を下げた。
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