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疑惑 2
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私が14歳にして味わった絶望的な別れは、その後の人生において想像を絶するほどの爪痕を残した。遥と再会するまでの約10年間、私は彼女の夢を何度も見た。
月野遥という幻想の亡霊に魅せられてしまったのだ。
彼女を失ってから、私は恋愛らしい恋愛をしなかった。いや、できなかったのだ。
それまで二人の女性と付き合ってきたが、どちらも長続きはしなかった。
付き合う期間が長くなればなるほど、遥の亡霊に取り憑かれて底の見えない沼に引きずり込まれていく。その度に自分の存在を全否定された気分になった。
一生涯守ると約束した恋人もろくに救えない奴が、そこまで好きもない女を守ることができる訳ないだろう、と。
お前は一生涯苦しむべきなんだ。罪悪感と劣等感で押し潰されそうになりながら日々の生活を送ることで、私の精神は確実に蝕まれていた。
いつまでも過去のことにこだわっていてはいけない。
そんなことは頭では分かっている。
分かっているのだが、どうしても彼女を忘れることができなかった。
彼女のことを忘れることができたらどれほど嬉しいだろう。もしそんな都合の良い薬があったら、私は喜んで買っていただろう。
そもそも、最初から遥となんか出逢わなければよかったんだ。
出逢っていたとしても、単なるクラスメイトの一人として中学生活を過ごしていればこんなに苦しむこともなかった。
もし遥が事故にあわなければ、付き合っていなければ、中学のキャンプで話をしなければ、出逢っていなければ……。
過去を振り返って、もし、もし、もし……、そんなことを繰り返しても仕方がないことは分かっている。だが、そう思わずにはいられなかった。
言葉では言い表せないほどの後悔のおかげで、私の心にぽっかりと開いた穴は時間の経過と共に大きくなっていった……。
「……本田さん?」
男性の声にはっとする。見上げるとさきほどの刑事が二人が立っていた。
「ああ、刑事さん。随分早かったんですね」
「ええ、佐々木さんから話を訊く前に、本田さんからもう少し話を聞きたいと思いまし
てね」
木村刑事が目配せすると、若い伊藤刑事は私達から離れていった。
「佐々木についてですか?」
「それもそうなんですが、私が話したいこともあるんです」
私の隣りに座りながら木村刑事は続けた。
「先程も少し話しましたが、佐々木さんが中学時代に月野さん一家を助けた件について
です。
この件を捜査していた交通課の人間に当時の状況を訊いてみたんです。
その時は佐々木さんのことを知る上で参考程度に訊いただけなんですが、話を訊いて
いるうちに、一つ気になることがあったんですよ」
「教えてください」
「佐々木さんの目撃証言についてです。
彼の話によると、月野さん一家が乗った車の対向車線を走っていた軽トラが反対車線に
はみ出して停止してしまい、それを避けようとした月野さんの車が運転操作を誤って海に
転落したというものでした。この目撃証言から考えると、これはお互いの車が接触してい
ないというだけで、どう考えても軽トラの過失によって死亡事故が起きたのは明らかです。
交通課は当然軽トラの運転手を特定するために付近の住民や、同じ時間帯を通る車の
運転手から聞き込みを始めたのですが、結局、軽トラの運転手を見つけることはできま
せんでした」
「あの道は人通りも少ないですからね」
その後、軽トラの運転手が捕まったという話は訊いていない。
「私も同じことを考えました。
しかし同時に、事故の発生時間帯に現場の道路沿いで農作業をしていた女性や、雑談を
していた人達もいたことが判明したのですが、その人達は皆一様に軽トラは見ていないと
言ったのです。
彼らのいた場所は事故現場から300メートルしか離れていなかったので、事故後軽ト
ラが走っている姿を見ていてもおかしくはない」
「でも、普通の人はいつどこでどんな車が通ったかなんて気にしていませんよ」
「もちろんです。しかし、軽トラが逃げた先にはガソリンスタンドがあります」
「え?ああ、ありますね」
家族経営でやっていそうな小さなガソリンスタンドだ。
「そこのガソリンスタンドには道路が写っている防犯カメラがありました。そこの経営
者から協力を得て映像を確認したのですが……」
「軽トラは写っていなかったということですね?」
「そうなんです。軽トラどころか、事故前後15分は車一台映っていなかったんですよ」
事故現場から考えて、ガソリンスタンドまでの道中に脇道は存在しない。
つまり、その道を通らざるを得ないのだ。
月野遥という幻想の亡霊に魅せられてしまったのだ。
彼女を失ってから、私は恋愛らしい恋愛をしなかった。いや、できなかったのだ。
それまで二人の女性と付き合ってきたが、どちらも長続きはしなかった。
付き合う期間が長くなればなるほど、遥の亡霊に取り憑かれて底の見えない沼に引きずり込まれていく。その度に自分の存在を全否定された気分になった。
一生涯守ると約束した恋人もろくに救えない奴が、そこまで好きもない女を守ることができる訳ないだろう、と。
お前は一生涯苦しむべきなんだ。罪悪感と劣等感で押し潰されそうになりながら日々の生活を送ることで、私の精神は確実に蝕まれていた。
いつまでも過去のことにこだわっていてはいけない。
そんなことは頭では分かっている。
分かっているのだが、どうしても彼女を忘れることができなかった。
彼女のことを忘れることができたらどれほど嬉しいだろう。もしそんな都合の良い薬があったら、私は喜んで買っていただろう。
そもそも、最初から遥となんか出逢わなければよかったんだ。
出逢っていたとしても、単なるクラスメイトの一人として中学生活を過ごしていればこんなに苦しむこともなかった。
もし遥が事故にあわなければ、付き合っていなければ、中学のキャンプで話をしなければ、出逢っていなければ……。
過去を振り返って、もし、もし、もし……、そんなことを繰り返しても仕方がないことは分かっている。だが、そう思わずにはいられなかった。
言葉では言い表せないほどの後悔のおかげで、私の心にぽっかりと開いた穴は時間の経過と共に大きくなっていった……。
「……本田さん?」
男性の声にはっとする。見上げるとさきほどの刑事が二人が立っていた。
「ああ、刑事さん。随分早かったんですね」
「ええ、佐々木さんから話を訊く前に、本田さんからもう少し話を聞きたいと思いまし
てね」
木村刑事が目配せすると、若い伊藤刑事は私達から離れていった。
「佐々木についてですか?」
「それもそうなんですが、私が話したいこともあるんです」
私の隣りに座りながら木村刑事は続けた。
「先程も少し話しましたが、佐々木さんが中学時代に月野さん一家を助けた件について
です。
この件を捜査していた交通課の人間に当時の状況を訊いてみたんです。
その時は佐々木さんのことを知る上で参考程度に訊いただけなんですが、話を訊いて
いるうちに、一つ気になることがあったんですよ」
「教えてください」
「佐々木さんの目撃証言についてです。
彼の話によると、月野さん一家が乗った車の対向車線を走っていた軽トラが反対車線に
はみ出して停止してしまい、それを避けようとした月野さんの車が運転操作を誤って海に
転落したというものでした。この目撃証言から考えると、これはお互いの車が接触してい
ないというだけで、どう考えても軽トラの過失によって死亡事故が起きたのは明らかです。
交通課は当然軽トラの運転手を特定するために付近の住民や、同じ時間帯を通る車の
運転手から聞き込みを始めたのですが、結局、軽トラの運転手を見つけることはできま
せんでした」
「あの道は人通りも少ないですからね」
その後、軽トラの運転手が捕まったという話は訊いていない。
「私も同じことを考えました。
しかし同時に、事故の発生時間帯に現場の道路沿いで農作業をしていた女性や、雑談を
していた人達もいたことが判明したのですが、その人達は皆一様に軽トラは見ていないと
言ったのです。
彼らのいた場所は事故現場から300メートルしか離れていなかったので、事故後軽ト
ラが走っている姿を見ていてもおかしくはない」
「でも、普通の人はいつどこでどんな車が通ったかなんて気にしていませんよ」
「もちろんです。しかし、軽トラが逃げた先にはガソリンスタンドがあります」
「え?ああ、ありますね」
家族経営でやっていそうな小さなガソリンスタンドだ。
「そこのガソリンスタンドには道路が写っている防犯カメラがありました。そこの経営
者から協力を得て映像を確認したのですが……」
「軽トラは写っていなかったということですね?」
「そうなんです。軽トラどころか、事故前後15分は車一台映っていなかったんですよ」
事故現場から考えて、ガソリンスタンドまでの道中に脇道は存在しない。
つまり、その道を通らざるを得ないのだ。
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