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嘘をついた理由
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「何でだよ?何でそんなことを?」
「そんなこと考えてる余裕なんてなかった。
俺は母親の腕を掴んでナイフを取り上げると、彼女から遥ちゃんを引き剥がそうとした。
だが彼女は決して遥ちゃんを離そうとしなかった。
沈んでいく車と一緒に心中しようとしやがったんだ。離せ、離せ離せっ!怒鳴りながら腕
を引き剥がそうとしても、がっちり掴んだ腕の強さは想像以上だった。
この中年女のどこにそんな力があるんだよ、って思ったよ」
「道連れか……?」
佐々木は応えない。
「遥……」
遥は何も応えないまま俯いた。
「そうこうしている間に車は完全に水没した。
母親の腕を殴りつけながら三人一緒に沈んでいくと……、あいつは笑ってやがったんだよ。
遥ちゃんの母親が満面の笑みで俺を嘲笑ってたんだ」
背筋に寒いものが走ってくる。母親がまともな精神状態でなかったことは明らかだ。
「俺は一度海面に上がると、車の上に置いていたナイフを握ってまた潜るとその勢いの
ままに母親の腕をめがけて思いきり突き刺した。
彼女の腕から流れ出る鮮血が海中で煙のように浮かび上がってきたと思うと、彼女は
ようやく遥ちゃんから腕を離した……。
俺達は助かったんだ。めちゃくちゃ嬉しかったよ。
二人が海に沈んでいっちまったのにな」
佐々木がようやく話し終えたという顔で、大きく息を吐いた。そこには十年間溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたかのような安堵の表情にも見えた。
同時に一つ気になることがあった。
遥は母親が自身を道連れに死のうとしていたことを知っていたのだろうか?
今の話だと、彼女の意識がどの程度あったかは分からない。知らなかったとしたら、今の話を訊いて相当なショックを受けているはずだ。
「遥……お前の前で事故の話を訊いて申し訳ない」
腰を折って頭を下げた。
「……いいの。私は知っていたから」
「……そうか」
「この際だから言うけどな……」
佐々木が続ける。
「俺も真鍋から訊いた話なんだけど、遥の両親は首が回らないくらい多額の借金があっ
たらしい。
ほら、彼女の両親が自営で貴金属店をやってたの知ってるだろ?」
驚きはしなかった。こう言うのも何だが、一家心中の理由としては無難なものだろう。
「お前が事故状況を偽った理由の一つは、両親が一家心中を図っていたことを遥に隠す
ためだったんだな。遥の精神的ショックを少しでも軽減させるために」
「そうだ」
「遥達が事故時に寝ていたのも、睡眠導入剤を服用されていたからだろうな」
「あの時の遥ちゃんの様子を見る限り、そう考えるのが普通だな」
何故遥の両親は娘二人までも連れて行こうとしたのだろう?
娘達の将来を悲観したのかも知れない。
それは両親にしか分からない。愛する娘まで巻き込む必要があったのだろうか。いづれにしても、佐々木が嘘をついたもう一つの理由は検討がつく。
「もう一つの理由は、保険か?」
「分かってたのか、さすがだな」
「そんなこと考えてる余裕なんてなかった。
俺は母親の腕を掴んでナイフを取り上げると、彼女から遥ちゃんを引き剥がそうとした。
だが彼女は決して遥ちゃんを離そうとしなかった。
沈んでいく車と一緒に心中しようとしやがったんだ。離せ、離せ離せっ!怒鳴りながら腕
を引き剥がそうとしても、がっちり掴んだ腕の強さは想像以上だった。
この中年女のどこにそんな力があるんだよ、って思ったよ」
「道連れか……?」
佐々木は応えない。
「遥……」
遥は何も応えないまま俯いた。
「そうこうしている間に車は完全に水没した。
母親の腕を殴りつけながら三人一緒に沈んでいくと……、あいつは笑ってやがったんだよ。
遥ちゃんの母親が満面の笑みで俺を嘲笑ってたんだ」
背筋に寒いものが走ってくる。母親がまともな精神状態でなかったことは明らかだ。
「俺は一度海面に上がると、車の上に置いていたナイフを握ってまた潜るとその勢いの
ままに母親の腕をめがけて思いきり突き刺した。
彼女の腕から流れ出る鮮血が海中で煙のように浮かび上がってきたと思うと、彼女は
ようやく遥ちゃんから腕を離した……。
俺達は助かったんだ。めちゃくちゃ嬉しかったよ。
二人が海に沈んでいっちまったのにな」
佐々木がようやく話し終えたという顔で、大きく息を吐いた。そこには十年間溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたかのような安堵の表情にも見えた。
同時に一つ気になることがあった。
遥は母親が自身を道連れに死のうとしていたことを知っていたのだろうか?
今の話だと、彼女の意識がどの程度あったかは分からない。知らなかったとしたら、今の話を訊いて相当なショックを受けているはずだ。
「遥……お前の前で事故の話を訊いて申し訳ない」
腰を折って頭を下げた。
「……いいの。私は知っていたから」
「……そうか」
「この際だから言うけどな……」
佐々木が続ける。
「俺も真鍋から訊いた話なんだけど、遥の両親は首が回らないくらい多額の借金があっ
たらしい。
ほら、彼女の両親が自営で貴金属店をやってたの知ってるだろ?」
驚きはしなかった。こう言うのも何だが、一家心中の理由としては無難なものだろう。
「お前が事故状況を偽った理由の一つは、両親が一家心中を図っていたことを遥に隠す
ためだったんだな。遥の精神的ショックを少しでも軽減させるために」
「そうだ」
「遥達が事故時に寝ていたのも、睡眠導入剤を服用されていたからだろうな」
「あの時の遥ちゃんの様子を見る限り、そう考えるのが普通だな」
何故遥の両親は娘二人までも連れて行こうとしたのだろう?
娘達の将来を悲観したのかも知れない。
それは両親にしか分からない。愛する娘まで巻き込む必要があったのだろうか。いづれにしても、佐々木が嘘をついたもう一つの理由は検討がつく。
「もう一つの理由は、保険か?」
「分かってたのか、さすがだな」
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