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衝撃 2
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「嬉しいなあ。やっと思い出してもらえたすか?」
はっとして顔を上げた。この言葉は私に向けられたものではなかった。安藤は佐々木を見つめながら皮肉な笑みを浮かべている。
「思い出したもなにも……。眼が合っただけじゃねえか」
「私は佐々木さんのこと知ってたけどね。会いたくて仕方なかったわ。一日も早く殺し
たいと思ってたからね」
「俺は安藤さんにケンカ売った覚えはねえぞ。女には好かれたことねえけど、その分恨
まれる筋合いもねえ。じゃなきゃ世の中理不尽すぎるだろ?」
「あんたねえ」
安藤の目つきが鋭くなる。
「あんたが俺を殺そうとしていた理由は知ってる。一昨日の夜、ナイフを持って俺に詰
め寄ってきた時、丁寧に教えてくれたからな。安藤さん、あんたの考えは間違ってない
よ」
「じゃあ、やっぱりあんたが琴音を殺したんだな?」
突飛な発言に凍りついた。
「そうかも知れないな」
「やっぱりあの時殺しておくんだった」
安藤は心底後悔しているようだった。
安藤の言葉が本当なら、私も佐々木を許す訳にはいかない。だが、状況が理解できない私でもこれだけは分かっていた。佐々木は人殺しをするような奴ではない。
「なあ安藤さん、あんた俺に言ったよな?琴音を殺したのは俺だって」
「ああ」
「何でそう思ったんだよ?」
「そんなことあなたに言う必要はないわ」
思わず安藤の肩を強く握った。
「教えてくれ、安藤」
「……」
渋々といった様子で頷く安藤。
「ありがとな、お前の言ったとおりだ。俺もいい加減目覚めないといけない。
琴音が死んでいたこと自体を忘れているなんて、彼女に対して本当に失礼だ。
全ては俺が情けないせいなんだよ」
安藤はわざとらしく溜息をついた。
「それ以上は言わんでください。琴音は先輩のことを愛してたんすから。
正直、先輩を許せない気持ちは今でも多分にあります。
私自身は先輩のこと殺しても全然いいくらいなんす。
だけどできなかった。
唯一無二の親友の好きな男を殺すことは、どのように正当化しても琴音を裏切ること
に変わりはないから」
「お前にとって琴音を失うことがどれくらい衝撃的なのか。いや……、警察に捕まる覚
悟をしてまで人を殺そうとする程彼女を好きでいてくれたことは感謝している。
あくまでも気持ちだけどな。
だけど、それを実行したことについて許す気はない。お前は罰せれられるべきだ」
「先輩らしいすね、琴音が訊いてたら惚れ直しただろうなぁ。まあ、あの娘のためにも
嘘は言わないことを誓うっすよ。
琴音の葬式が終わって絶望の淵に立たされた私は、彼女の親類の人と一緒に琴音が一
人で暮らしていたアパートに行って遺品整理の手伝いに行ってきたんです。ねえ?」
安藤が遥に問いかけると、遥は微かに頷いた。琴音の遺品整理に同行させたのは遥なのだろう。そう考えると、二人はその時には出逢っていたことになる。
「琴音が死ぬことを予期できなかった自分を責めたわ。
責めて責めて責めまくったっす。何であの娘が死ななくちゃいけないんだ。
そんなことばっかが頭の中をぐるぐる回ってったっす。
そこにいる人は淡々と遺品整理をしていたみたいだけど……、私は一つ一つを確認しな
がら彼女の品を大事に段ボールに入れていった。
そろそろ遺品の整理も目途がついたからって頃に一冊の大学ノートを見つけたんす。何
だこのボロボロのノートは、と思いながら開いてみると……、書いてあったんすよ」
「そんなこと言っていいの?」
遥が脅しにも取れる低い声を上げた。
彼女が声らしい声を上げたのは初めてだ。
「そういう声なんすね?それとも、声色を変えているのかな?」
安藤も反撃する。
「琴音のプライベートのことをここで話すのはどうかと思うわ」
「元婚約者が知りたがっているんだから、教えてあげてもいいじゃないっすか。それと
も、都合が悪いことでもあるんすか?お姉さん」
「やめろっ!」
声を荒げた佐々木に全員が注目する。
「伊吹が真実を知りたがってるんだ。それが伊吹のためだ、お前達も分かっているだろ
う」
この三人は何かを知っている。そう感じた。私が安藤を促す。
「安藤……、続けてくれ」
はっとして顔を上げた。この言葉は私に向けられたものではなかった。安藤は佐々木を見つめながら皮肉な笑みを浮かべている。
「思い出したもなにも……。眼が合っただけじゃねえか」
「私は佐々木さんのこと知ってたけどね。会いたくて仕方なかったわ。一日も早く殺し
たいと思ってたからね」
「俺は安藤さんにケンカ売った覚えはねえぞ。女には好かれたことねえけど、その分恨
まれる筋合いもねえ。じゃなきゃ世の中理不尽すぎるだろ?」
「あんたねえ」
安藤の目つきが鋭くなる。
「あんたが俺を殺そうとしていた理由は知ってる。一昨日の夜、ナイフを持って俺に詰
め寄ってきた時、丁寧に教えてくれたからな。安藤さん、あんたの考えは間違ってない
よ」
「じゃあ、やっぱりあんたが琴音を殺したんだな?」
突飛な発言に凍りついた。
「そうかも知れないな」
「やっぱりあの時殺しておくんだった」
安藤は心底後悔しているようだった。
安藤の言葉が本当なら、私も佐々木を許す訳にはいかない。だが、状況が理解できない私でもこれだけは分かっていた。佐々木は人殺しをするような奴ではない。
「なあ安藤さん、あんた俺に言ったよな?琴音を殺したのは俺だって」
「ああ」
「何でそう思ったんだよ?」
「そんなことあなたに言う必要はないわ」
思わず安藤の肩を強く握った。
「教えてくれ、安藤」
「……」
渋々といった様子で頷く安藤。
「ありがとな、お前の言ったとおりだ。俺もいい加減目覚めないといけない。
琴音が死んでいたこと自体を忘れているなんて、彼女に対して本当に失礼だ。
全ては俺が情けないせいなんだよ」
安藤はわざとらしく溜息をついた。
「それ以上は言わんでください。琴音は先輩のことを愛してたんすから。
正直、先輩を許せない気持ちは今でも多分にあります。
私自身は先輩のこと殺しても全然いいくらいなんす。
だけどできなかった。
唯一無二の親友の好きな男を殺すことは、どのように正当化しても琴音を裏切ること
に変わりはないから」
「お前にとって琴音を失うことがどれくらい衝撃的なのか。いや……、警察に捕まる覚
悟をしてまで人を殺そうとする程彼女を好きでいてくれたことは感謝している。
あくまでも気持ちだけどな。
だけど、それを実行したことについて許す気はない。お前は罰せれられるべきだ」
「先輩らしいすね、琴音が訊いてたら惚れ直しただろうなぁ。まあ、あの娘のためにも
嘘は言わないことを誓うっすよ。
琴音の葬式が終わって絶望の淵に立たされた私は、彼女の親類の人と一緒に琴音が一
人で暮らしていたアパートに行って遺品整理の手伝いに行ってきたんです。ねえ?」
安藤が遥に問いかけると、遥は微かに頷いた。琴音の遺品整理に同行させたのは遥なのだろう。そう考えると、二人はその時には出逢っていたことになる。
「琴音が死ぬことを予期できなかった自分を責めたわ。
責めて責めて責めまくったっす。何であの娘が死ななくちゃいけないんだ。
そんなことばっかが頭の中をぐるぐる回ってったっす。
そこにいる人は淡々と遺品整理をしていたみたいだけど……、私は一つ一つを確認しな
がら彼女の品を大事に段ボールに入れていった。
そろそろ遺品の整理も目途がついたからって頃に一冊の大学ノートを見つけたんす。何
だこのボロボロのノートは、と思いながら開いてみると……、書いてあったんすよ」
「そんなこと言っていいの?」
遥が脅しにも取れる低い声を上げた。
彼女が声らしい声を上げたのは初めてだ。
「そういう声なんすね?それとも、声色を変えているのかな?」
安藤も反撃する。
「琴音のプライベートのことをここで話すのはどうかと思うわ」
「元婚約者が知りたがっているんだから、教えてあげてもいいじゃないっすか。それと
も、都合が悪いことでもあるんすか?お姉さん」
「やめろっ!」
声を荒げた佐々木に全員が注目する。
「伊吹が真実を知りたがってるんだ。それが伊吹のためだ、お前達も分かっているだろ
う」
この三人は何かを知っている。そう感じた。私が安藤を促す。
「安藤……、続けてくれ」
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