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日記 1
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「……どこまで言ったっすかね?そうだ、大学ノートを見つけたってとこでしたね。ノ
ートは日記だったんだす。毎日書いてある訳じゃなかったけど。パラパラめくっていく
と最後のページは自殺した日になってた……」
安藤がカバンから一冊のノートを取り出してきた。
表紙には端正な字で『月野琴音』とだけ書かれている。
私に名乗った河合性は偽名だったのだ。
ページを捲って最後のページを確認する。
8月12日 最後に
今日は本田さんと水族館に行ってきた。地元に水族館があって、彼にお気に入りの場所だと訊いて一も二もなくOKした。私も両親の地元に足を運ぶこと自体久しぶりだ。
生まれて初めて行った水族館には心が躍った。こんなに楽しい思いをしたのは小学生の時以来だ。見たこともない魚に驚いたり、かわいいペンギンの行進に興奮したり、予想外のトドの大きさに驚かされたりしたけど、何と言っても一番驚かされたのは本田さんからプロポーズされたことだった。まだ付き合ったばかりで、私自身まだ学生という身分だから、大学を卒業したら就職して少しずつでも貯金して結婚資金をためなきゃ。
水族館ではそう思っていた。
私は浮かれていた。
浮かれすぎていた。
どこを向いても永遠の闇しか存在せず、一歩踏み出しただけでも頑丈な壁にぶつかり、ぬめぬめの沼に足を取られ、時には地面すらが存在せずに真っ逆さまに落ちて行くこともあった。
ぼろぼろになって、泥水をすすりながらも年齢的には大人になった時、臆病者の私が一度だけ冒険を試みた。
一所懸命勉強して、何とか奨学金で大学に行かせてもらうことになってから、ようやく自分の時間を持つことができるようになった。大学や市の図書館で色々な本と出逢い、『勉強』という言葉の意味が少しだが理解できた気がした。
何一つ誇ることのできない自分の人生において、私には逢いたい人が二人いた。
一人は、お姉さんが好きだった本田さんだ。
当時中学生だったお姉さんが、彼氏の本田さんのことを自慢気に話してくれたからだ。今日は何回眼が合ったとか、話をすることができたとか、キャンプでは一緒にカレーを作っただとか……。今思い出してみると、お姉さんもかわいいことを言っていたと思う。
生活が困窮して、両親の顔色がみるみる悪くなっていったあの頃、私はお姉さんから本田さんの話を訊くことが何よりも楽しみだった。
大学4年になり、就職も決まった頃、私は本田さんに会うことを決心した、何故このタイミングにしたのかは自分でも分からない。
でも、今行かなければ一生逢うことはないだろうし、私も自ら行動することはないことだけは分かっていた。自分なりにパソコンで調べ、興信所にも大金を払って本田さんを探してもらったところ、意外にも簡単に彼の仕事場が分かった。
私は単なる客として彼に接近して話をした後、最後に月野遥の妹であることを告白しようと思っていた。しかし、結局私は妹だということを言わなかった、いや、言えなかった。私達は姉妹だとつくづく実感した。逢って話をしてみたいと思っていた私は欲を出してしまった。遥の妹としてではなく、一人の女として好かれることを願ってしまったのだ。そして、本気で愛してもらえていると分かった時、初めて私が月野遥の妹であることを告白しようと思っていた。
もう一人は私の命の恩人である佐々木さんだ。私達家族が乗った車が海に落ちた時、両親にすがりつくように車から離れなかった私を引き剥がして助けてくれた人だった。彼も本田さんと同様に探してみたが、本田さんとは違い全く居所が掴めなった。だが心配はしていなかった。本田さんは今でも佐々木さんとは交友がある様子だったので、いずれ逢うことができると思っていたからだ。
だけど、ここで終わりだ。
ートは日記だったんだす。毎日書いてある訳じゃなかったけど。パラパラめくっていく
と最後のページは自殺した日になってた……」
安藤がカバンから一冊のノートを取り出してきた。
表紙には端正な字で『月野琴音』とだけ書かれている。
私に名乗った河合性は偽名だったのだ。
ページを捲って最後のページを確認する。
8月12日 最後に
今日は本田さんと水族館に行ってきた。地元に水族館があって、彼にお気に入りの場所だと訊いて一も二もなくOKした。私も両親の地元に足を運ぶこと自体久しぶりだ。
生まれて初めて行った水族館には心が躍った。こんなに楽しい思いをしたのは小学生の時以来だ。見たこともない魚に驚いたり、かわいいペンギンの行進に興奮したり、予想外のトドの大きさに驚かされたりしたけど、何と言っても一番驚かされたのは本田さんからプロポーズされたことだった。まだ付き合ったばかりで、私自身まだ学生という身分だから、大学を卒業したら就職して少しずつでも貯金して結婚資金をためなきゃ。
水族館ではそう思っていた。
私は浮かれていた。
浮かれすぎていた。
どこを向いても永遠の闇しか存在せず、一歩踏み出しただけでも頑丈な壁にぶつかり、ぬめぬめの沼に足を取られ、時には地面すらが存在せずに真っ逆さまに落ちて行くこともあった。
ぼろぼろになって、泥水をすすりながらも年齢的には大人になった時、臆病者の私が一度だけ冒険を試みた。
一所懸命勉強して、何とか奨学金で大学に行かせてもらうことになってから、ようやく自分の時間を持つことができるようになった。大学や市の図書館で色々な本と出逢い、『勉強』という言葉の意味が少しだが理解できた気がした。
何一つ誇ることのできない自分の人生において、私には逢いたい人が二人いた。
一人は、お姉さんが好きだった本田さんだ。
当時中学生だったお姉さんが、彼氏の本田さんのことを自慢気に話してくれたからだ。今日は何回眼が合ったとか、話をすることができたとか、キャンプでは一緒にカレーを作っただとか……。今思い出してみると、お姉さんもかわいいことを言っていたと思う。
生活が困窮して、両親の顔色がみるみる悪くなっていったあの頃、私はお姉さんから本田さんの話を訊くことが何よりも楽しみだった。
大学4年になり、就職も決まった頃、私は本田さんに会うことを決心した、何故このタイミングにしたのかは自分でも分からない。
でも、今行かなければ一生逢うことはないだろうし、私も自ら行動することはないことだけは分かっていた。自分なりにパソコンで調べ、興信所にも大金を払って本田さんを探してもらったところ、意外にも簡単に彼の仕事場が分かった。
私は単なる客として彼に接近して話をした後、最後に月野遥の妹であることを告白しようと思っていた。しかし、結局私は妹だということを言わなかった、いや、言えなかった。私達は姉妹だとつくづく実感した。逢って話をしてみたいと思っていた私は欲を出してしまった。遥の妹としてではなく、一人の女として好かれることを願ってしまったのだ。そして、本気で愛してもらえていると分かった時、初めて私が月野遥の妹であることを告白しようと思っていた。
もう一人は私の命の恩人である佐々木さんだ。私達家族が乗った車が海に落ちた時、両親にすがりつくように車から離れなかった私を引き剥がして助けてくれた人だった。彼も本田さんと同様に探してみたが、本田さんとは違い全く居所が掴めなった。だが心配はしていなかった。本田さんは今でも佐々木さんとは交友がある様子だったので、いずれ逢うことができると思っていたからだ。
だけど、ここで終わりだ。
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