僕達は大人になれない

チャロコロ

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突然の転校

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 その村は黒い靄で覆われたように、違和感で溢れていた。
 長時間の移動に疲れ、父さんの運転する車に揺られながらウトウトしていた僕は、ふと眼を覚まして辺りを見回した。
 沈んでいた身体を起こすと、正面に「双宝村(そうほうむら)」と書かれた案内看板が眼に入る。
 黒いカビに包まれて、文字の所にまで浸食されてしまっている。
 引っ越し先の村を父さんから訊いていなければ読み取れなかっただろう。
 一週間前の3月28日、寝ぼけ眼でリビングに出ると、父さんから唐突に引っ越しを言い渡された。仕事の都合だという。自動的に、僕の転校も決定した。父さんと二人で生活している僕に他の選択肢があるはずもない。
 父さんのおかげで高校に行かせてもらっている、そんな自覚があったので反発する気は毛頭なかった。
 だが、春から高校三年になり、大学の進学を目指す自分にとって双宝村で暮らすのは一年だけだという気持ちがあった。父さんもそれは理解をしてくれている。
 双宝村。
 父さんが生まれ育ったこの村で、僕も生まれた。
 と言っても、暮らしていたのは二歳までで、それからこうして戻ってくるまでこの地を踏むことは一度もなかった。だからこの村に思い入れもなければ懐かしさも感じない。
 自分にとっての故郷は、数時間前まで暮らしていた場所だった。
 たった数時間前まで当たり前のように生活していた場所を思い返す。
 既に感傷的な気分に浸っていた。
 春休み中なので、親しい友達にしか直接別れを伝えることができなかった。あとはメールでやりとりをしただけだ。深い溜息を漏らして窓から外を見つめた。
 せっかくの田舎なので、受験勉強が本格化する前に釣りや昆虫採り、川遊びを子供みたいに満喫するつもりだった。
 だった……、実際に村を見て、膨らみ過ぎた風船のように僕の気持ちは破裂して一気に消えてしまった。
 蛇のようにうねった細い道を上り下りして、コトコトと心地良い音と適度なエンジン音をたてながら走る車。
 途切れることなく連なる山とガードレールに挟まれ、濃い緑と時たま見かけるソメイヨシノ。いつもなら色鮮やかな絶景に心を躍らせているところだが、今はそんな気分にならなかった。
 真っ白に輝く太陽を見つめ、予想以上の光の強さに顔をしかめた。ここは山の中で、前住んでいた所より太陽に近いから眩しく感じてしまうのかも知れない。
 鬱陶しい太陽光を掌で遮りながら、僕は自分が感じている違和感について茫然と考えてみた。
 道幅は更に狭くなり、アスファルト舗装もそれに比例しておざなりになっていく。
 無遠慮な態度で道路から伸びる木々を避けながら一歩一歩足場を確認するように進む車の様子は、僕達がこれ以上この地に足を踏み入れることを拒み、入った以上は二度と戻ること・裏切ることを決して許さない。
 そんな理不尽で強い力が働いている気がしてならなかった。それと同時に、何故自分がそんな気持ちになっているのか、その理由も判然としなかった。
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