僕達は大人になれない

チャロコロ

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到着

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 更に30分くらい車を走らせたところで、大きなアクセル音と共に急な坂道を上ると、2階建ての大きな日本家屋の前で車が止まった。
 「着いたぞ。ここが俺の実家だ」
 「でっかい家だなあ。父さん家は金持ちだったんだね」
 田舎は皆こんなもんだ。
 そう言いながら車を降りた父さんと同じタイミングで、日本家屋の玄関がガラガラと開き、40代半ばくらいの女の人が笑顔で迎えてくれた。僕も慌てて車から降りる。
 「いらっしゃーい。久しぶりねえ。あら、大きくなったわねえ」
 「当たり前だろ、最後に逢ったのはこいつが2歳くらいの時だろう。
  ああそうだ、この人は美咲おばさん。挨拶しとけ」
 父さんが笑って応えた。僕は頭を下げる。
 「これからお世話になります。君島涼貴(きみしまりょうき)です」
 もう一度頭を下げた。
 ここで印象を悪くしたら住みにくくなる。子供じゃないから、それくらいのことは理解している。
 「やーねえ、分かってるわよ」
 美咲おばさんは僕の肩を叩きながら微笑んだ。
 目が合ったその時、彼女は悲しげな顔をした……気がした。彼女はさっそく僕達の生活場所について説明を始めた。
 「ここが母屋ね、今は私含めて二人しか暮らしていないけど。涼貴君達が暮らすことになるのが 
 あっちの『離れ』ね。
  離れって言っても電気も水道も通ってるし、風呂・トイレ付きだから普通の家と変わらないけど
 ね」
 美咲おばさんの説明を訊くまでもなかった。母屋と呼び方を区別するために『離れ』と呼ばれているだけで、見た目はどこからどう見ても普通の一軒家だ。
 いや、母屋より少し小さいというだけで、日本家屋の作りは壮麗そのもので、都会の家とは比べ物にならないくらい大きい。
 僕達親子二人で暮らすにはもったいないくらいだ。
 「えっと、あれは……」
 母屋と離れの手前にある、別荘風のログハウスを指差した。
 どう見ても日本家屋とは佇まいの異なる建物で、出来てから十年くらいしか経っていない綺麗なものだった。
 「ああ、あれね。昔おとうさんが釣りの趣味部屋が欲しいって言い出して周りの反対も訊かずに建
 てちゃったものなの。
  それから一年くらいは使っていたんだけど、癌で亡くなってからは誰も使っていないのよ。もっ
 たいないけど。
  あっ、もしこのむさいおじさんと一緒の家が嫌だっていうなら勉強部屋として使っていいわよ。
 どうせ余ってるんだし」
 美咲おばさんは嫌な顔一つせず教えてくれた。
 釣りのためにこんなログハウスを作るなんてどれだけ贅沢なんだ。羨ましくて仕方ない。
 父さんが離れの鍵を貰って中に入ると、緊張が解けて畳で大の字になった。
 美咲おばさんが良さそうな人だったから、というのももちろんある。しかし本当の理由は他にあった。 
 この村に入ってから常に感じていた違和感、それがここにはなかった。
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