僕達は大人になれない

チャロコロ

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幻 3

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 震えは次第に大きくなって行き、やがて視界がぶれていく。
 母親の恐怖心がピークに達しているだろうことは明らかだった。
 震え続ける母親……、だが意を決した彼女は、ゆっくりと視線を移していった。
 赤ん坊が見切れ始めると襖だけが映る。
 徐々に背後に視線を移動させる様子はこちらの緊張感をも高めさせた。胸に位置するはずの心臓が耳元で弾んでいる、それ程に僕の心音は高鳴っていた。
 視線はある一点で制止した。やはり躊躇しているのだろう。
 これ以上振り返ることで、今後の自分の人生が大きく左右されてしまう、だがそれと同時に愛する子供を守らなければという葛藤があるのだろう。映像を見ているだけのはずの僕には、何故か分からないが母親の心情が手に取るように分かった。
 やがて、彼女は覚悟を決めた。頷く様に画面が微かに上下すると、視線を勢い良く背後に向けた。
 そこには、誰もいなかった。
 あるのは色褪せた畳と半開きになった扉、それに丁寧にたたまれた洗濯物だけだ。
 ほっとして肩の力が抜けた様子の母親、それに呼応する様に僕の緊張も一気に緩んだ。
 ギギギィー
 その時だった。半開きになった扉が、ゆっくりと開き始めたのだ。
 しかし僕は扉が開いたことより、『扉の音が聞こえた』ことに強烈な恐怖を感じだ。
 今まで、昔の白黒映画を見ていた感覚で無音の映像を見ていた気分で、心のどこかで母親のこととして捉えていたはずだった。だが、『聞こえないはずの音』を訊いたことで、外枠にあったカメラ枠の様な囲いが無くなっていることに気付いたのだ。
 音を訊いたことで、僕は映像の世界に入り込んでしまったのか?
 いや違う。
 僕は映像の世界に入り込んでしまったから、音が聞こえる様になってしまったんだ。
 いや、それも違うのかも知れない。
 僕は、誰かに引き込まれたんだ。
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