旧校舎の少女

チャロコロ

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一縷の望み

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 さっきまでの暗雲が幻であったかのように、青空と積雲をオレンジ色に染めた夕陽が学校をも薄く鮮やかに照らしていた。
 放課後になって生徒がまばらになった教室で、鈴原は茫然と旧校舎を眺めていた。
 縷々子さんに狙われた川原を助けることができなかった。それどころか君島に助けられてしまった上、彼女は消えてしまい自分だけがのうのうと今ここにいる。
 君島が眼の前で消えた。鈴原から溢れ出る思いは絶望しかなかった。緊張が解けて全身から力が抜けてしまい、手すりに掴まっていないと立っていることもできない。
 どうでもいい。何もかもがどうでもいい。
 君島の人生を奪ってしまった。自分を助けなければ、彼女はもっと色々なことを経験できたんだ。代わってあげたい、代わって欲しい。時間を戻すことができるなら……、そんな莫迦なことばかりを考えてしまう。
 日常のちょっとしたことで一緒に笑い、くだらないことで喧嘩して、そんな毎日が永遠に続くと思っていた。
 当たり前に思える日常は、春の雪溶けと同じようにいともあっさりと消えてしまった。
 真っ白になった頭は脱力感で満たされてしまい、呼吸すらも億劫に感じた。
 「昨日も同じだったの?」
 後ろから笹原が声をかけてきた。 
 「……はあ?ああ……」
 訊いていなかったので曖昧に返事をした。
 「昨日も同じように木島がいなくなったってことなんだよね?そして翌日には別人が登
 校してきて、それに鈴原と咲良ちゃん以外の生徒は全く気付かない。
  そうなると、僕の縷々子さんに関する記憶は今日1日しかもたないことになる」
 笹原は3枚の写真を手渡してきた。鈴原が写真を見ると、そこには今日から来た木島の小さい時の写真だった。
 「木島の家に行ってきたんだ。僕と木島は同じバスケ部だったから、木島のお母さんの
 こともよく知ってたし……。
  さりげなく木島の小さい時の写真が見たいって言ったら、喜んで見せてくれたよ。こ
 れが保育園に入園した時の写真で、この時に緊張で大泣きしたとか色々なエピソードを
 つけて楽しそうに話してくれたんだよ。どの写真を見ても、やっぱり今の木島の顔なん
 だ。鈴原の言うことが本当なら、変わっているのは1日分の記憶だけじゃなくて、矛盾
 しないように過去に遡って全ての記憶が塗り替えられているってことなんだよ」
 「そうか……」 
 鈴原の想像通りだった。
 「行くよっ」
 笹原から教室を出るように促される。
 「どこにだよ?」
 「取り敢えず図書室に行こう。あそこなら縷々子さんに関する情報があるかも知れない。
 過去の事件だとか。地元の新聞を漁ってみよう……。
  今はへこんでる場合じゃないよっ、早くするんだ」
 中々身体を動かそうとしない鈴原に業を煮やし、笹原が声を荒げた。
 「もう終わったんだよ」
 「それは……」
 言葉に詰まった笹原。
 「三つの魂を抜く。その噂が本当なら縷々子さんはもう現れないよ」
 「それはあくまでも噂でしょ」
 「何処にでもある学校に噂にしては具体的すぎるだろ。これでお終いだ。当分は平穏に
 過ごせれるだろ」
 「そうかな?」
 「はあっ?」
 半ば自暴自棄になっている鈴原に、笹原は疑問を呈した。
 「今は縷々子さんのことが何も分からないから何とも言えない。僕が疑問に思っている
 のは、縷々子さんは何十人もいる生徒の中で何故木島と川原を選んだかってこと。もし
 かしたら意味なんかなくて単なる偶然だった可能性もある。だけど僕はそうは考えない。
 縷々子さんは恐らく最初から二人を狙っていたんだ」
 「狙っていた?」
 鈴原は思わず最後の言葉を復唱した。
 「そう。縷々子さんは何らかの理由で二人を消す必要があった。そう考える方が普通だ
 と思う」
 「まあな」
 「となると、縷々子さんにとって咲良ちゃんが消えたのは想定外の出来事だった」   
 「そうだな、状況から考えて縷々子さんの標的は完全に川原だった」
 「咲良ちゃんを消してしまったのは、縷々子さんにとって計算外だって」
 鈴原は腕組みをして眉間に皺を寄せながら、自分なりに必死に考えた。やがて思いついたように顔を上げた。
 「また魂を消される人間が出るかも知れないってことだな。三人目の標的がまだ残って
 いる」
 「僕もそう思う。そして、その答えは明日出る」
 「そういうことだな。木島の時と同じパターンだったら、明日川原として登校してくる
 女子は全くの別人のはずだ。問題は君島の方だ」 
 「そうだね。可能性は3つってところかな?1つ目は木島と同じように別人が登校して
 くる。2つ目は消えたまま行方不明扱い。3つ目は以前と変わらない咲良ちゃんが戻っ
 てくる。今はどうなるか検討がつかないけど、何一つ変わっていない咲良ちゃんと再会
 できることを願おうよ」
 「……分かった」
 鈴原は心の中で笹原に礼を言った。
 今はクヨクヨしている場合ではなかった。
 一縷の望みに鈴原は賭けた。
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