旧校舎の少女

チャロコロ

文字の大きさ
35 / 42

過去 6

しおりを挟む
 「やっと着いたねぇ。おっ、ガッツもも来てるみたい」
 ガッツという名前に過敏に反応した絵里の眠気は一気に吹き飛んだ。
 腕時計を見ると、午前8時を過ぎていた。3時間も乗っていたみたいだ。
 2人と思い出話に花を咲かせようと思っていた絵里の気持ちは車に乗った途端失せてしまい、酔わないよう眼を瞑っていたいたら、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
 口から出たヨダレを袖口で拭きながらあわてて顔を上げる。
 前に座っていた二人は絵里のことなど気にする様子もなく外に出た。彼女も手鏡で化粧が落ちていないか確認して髪を整えると、深呼吸して心音を落ち着かせながら外に出た。
 「絵里か、懐かしいな。俺のこと覚えてるか?」
 長い年月を感じさせないガッツの微笑みは、絵里をときめかせた。
 そのときめきに表されているように、彼は全く変わっていなかった。
 直毛の黒髪、切れ長の眼に大きな口、話し方まで。
 彼は高校時代からタイムスリップしてきたみたいで、時の経過を感じさせなかった。ただ1つ、彼の手を強く握りながら不安そうにこちらを見つめる小さな女の子がいる以外は。
 2つにまとめた長い髪に大きな眼に白い肌、ガッツに似ていた。
 小さな娘と接する機会のない絵里はとまどいながらも挨拶してみた。女の子は絵里を見るとガッツの後ろに隠れてしまった。
 嫌われてしまったかな。
 ガッツが言った。
 「人見知りしているだけだ。すぐに慣れるよ」
 娘に挨拶をするよう促すと、恥ずかしそうに小さな声で応えた。


 
 日中はガッツの車で付近の名所を観光しながら、夕食の焼き肉の買い出しをした。
 ガッツの性格は相変わらずだったが、やはり1人で娘を育てているせいか落ち着いた性格になっていた。だが、絵里にとってはそれが余計に魅力を感じた。
 ガキ丸出しだった高校時代も良かったが、大人になっていい男になった彼に絵里が心を惹かれないはずはなかった。
 夕方になって焼き肉を始める頃にはガッツの子供も慣れてきたのか、大人の群れに積極的に交じるようになっていた。
 地元の質の良い肉と酒を飲んだことで、絵里の機嫌は戻っていた。時間が過ぎれば人の容姿が変わるのは当然のことだ。気分の良くなった彼女の心は寛大になっていた。
 午後7時を回った頃だった。
 「絵里、ガッツと散歩でもしてきたら」
 突如嬢ちゃんが囁いてくると、背中を押してきた。  
 「ええ、いいよ」
 普段なら気後れするところだが、酒の力で気が大きくなっていた絵里は、言葉とは裏腹に満更でもなかった。
 「子供のことなら心配しないで。少しくらいなら私とヒカリで面倒見るから」
 嬢ちゃんは絵里の返答を待たずにガッツの元へ行って何やら話し始めたかと思うと、2人でこちらに戻ってきた。
 「久しぶりなんだから、2人で散歩でもしてきなさい」
 嬢ちゃんに背中を押され、半ば追い出されるように外に出された。
 「変わってないなあ、あいつの強引なところ」
 「そうだね」
 苦笑いで顔を向けたガッツに、絵里は微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

処理中です...