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絶望 3
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「だいたいさあ、絵里。あんたもガッツが死んで嬉しかったでしょ?ずっと好きだった
人が大学であっさり彼女を作ったかと思ったら結婚して子供まで作ってさ。面白い訳な
いよねえ?」
勝ち誇ったように見下ろす嬢ちゃん。捲し立てるような口調が絵里の心に刺さった。
「ぐっ……」
絵里は言葉に詰まった。旧友の言葉の全てを否定できなかったからだ。嬢ちゃんはたたみ掛けるように続けた。
「こうしてあんたが今だに独身なのも、全部ガッツせいじゃない。ガッツも絵里の気持
ち知らなかった訳じゃないでしょ。私達でも分かるくらいなんだし。あんたのガッツを
見る時の眼はいつもハートマークになってたわよ。
そんな一途な思いに気付きながらガッツは付き合う訳でなく、だからといって突き放
す訳でもなく宙ぶらりんのまま、あなたの大事な青春時代を無駄にしていたのよ。分か
ってる?あなたは人生の半分の時間を浪費したのよ。女として一番美しい時を全て奪わ
れた。もしかしたら、あなたは一生独身のまま寂しい寂しい人生を送るの。死ぬまでね」
「やめてっ」
耳を塞ぐ絵里。
「な・の・に、ガッツは幸せな人生送っている。絵里はずっと好きでも、ガッツはあな
たの存在すら忘れて家族でバーベキューとかやっちゃったりするのよ。『パパー』とか『あ
なた』とかぞわぞわするような代名詞で呼ばれて。
あんたはガッツのことを忘れることができなかったはずよ。好きな人が幸せだったら
それでいい?そんなの嘘に決まってんじゃない。好きな人が他の奴と結婚して幸せに暮
らすだなんて反吐が出るわ。最高に不幸になって欲しいに決まってるわ。とことんどん
底のどん底まで不幸になって、私と一緒にならなかったことを後悔して欲しいに決まっ
てる。ああ、あいつは良い女だったなぁ。って思って死ぬ程後悔して欲しいに決まって
る」
「やめてったら」
絵里が発狂したかのような声を出すと、ピタリと声が止んだ。
「……絵里」
嬢ちゃんは落ち着いた声に戻った。
「絵里だけじゃないのよ。私とヒカリだって不幸になった。ヒカリは受験に失敗して、
滑り止めで受かった大学も結局中退。後は引きこもって菓子を食べるだけの生活。私も
最初は必死に支えようとしたけど、私は私で公認会計士には結局受からず……。就職し
たってのも嘘。仕事なんてしたことないわ。
なのに、あいつ……、ガッツったら。碌に勉強してこなかった癖に県庁に合格して結
婚して……。私とヒカリ、特にヒカリはあいつより何倍も努力してきたのよ。それでも
一つつまずいたらそれでお終い。今となっては仲間内で足を引っ張ってたガッツが勝ち
組よ。あいつは私達を利用するだけ利用したの。今日だって心配する振りをして嘲笑い
に来たに決まってるわ」
「おいっ、これをさっさと捨てに行くぞ」
ヒカリがガッツの死体を担いだ。
人生、無駄、独身、ガッツのせい。
絵里の頭が同じ言葉を反復する。
「これも処分しなきゃね」
嬢ちゃんが木陰から大きな布袋を担いできた。袋はうねうねと動いている。
絵里は、それが何か検討がついたが、何も言わなかった。彼女は無言で付いていった。
100メートルくらい歩くと砂利道の片方が崖になっていて、そこには老朽化した低いガードレールがあるのみだった。
「よっこらせ」
ヒカリはゴミを収集車に入れるように、崖からガッツを投げ捨てた。
「これは私からのプレゼント」
絵里は布袋を受け取ると、紐で縛ってあった口の部分を開けた。
そこには両手両足と口をガムテープで縛られたガッツの子供が入っていて、じたばたと暴れていた。
ガッツに似たかわいい娘。
だけど、半分は私の知らない女の血。
「今助けてあげるからね」
絵里はそう囁きながらガムテープを全て剥がすと、子供は泣きながら彼女に抱きついてきた。絵里は子供の頭を優しく撫でて抱き抱えると、躊躇することなく子供を崖に投げ捨てた。
目覚ましのアラーム音がけたたましく鳴っていた。
絵里ははっとして身体を起こす。額に溢れた不快な汗のせいで髪がべっとりとはりついていた。
それにしても嫌な夢だったわ。
そう思いながら朝食を摂りつつテレビを見ていると、絵里は思わず眼を疑った。どうでもいい芸能ニュースの話をしているキャスターが座っているテーブルの隅に、4月7日と書かれたプラスチック製の小さなカレンダーが置かれていたのだ。母校の初授業の日だ。寝ぼけ眼を擦りながら記憶の糸を手繰り寄せると、母校での引き継ぎや校内を探索したことや昨日の始業式の様子を思い出した。
遅刻してしまう、絵里はあわてて服を着替えた。
朝の職員会議を終えて、緊張しながら教室前の廊下で立ち止まった。出入口の上にある『3年5組』とかかれた表札を見て、深呼吸をして気分を落ち着かせると教室に入った。
絵里は最初から授業をする気はなかった。休みボケの生徒に最初から授業をしても仕方がない。それよりも今回はウォーミングアップを兼ねて自分のことを分かってもらうことの方が先決だ。
彼女は簡単な自己紹介をすると、生徒の顔と名前を覚えるため、一人一人の名前を呼んだ。
人が大学であっさり彼女を作ったかと思ったら結婚して子供まで作ってさ。面白い訳な
いよねえ?」
勝ち誇ったように見下ろす嬢ちゃん。捲し立てるような口調が絵里の心に刺さった。
「ぐっ……」
絵里は言葉に詰まった。旧友の言葉の全てを否定できなかったからだ。嬢ちゃんはたたみ掛けるように続けた。
「こうしてあんたが今だに独身なのも、全部ガッツせいじゃない。ガッツも絵里の気持
ち知らなかった訳じゃないでしょ。私達でも分かるくらいなんだし。あんたのガッツを
見る時の眼はいつもハートマークになってたわよ。
そんな一途な思いに気付きながらガッツは付き合う訳でなく、だからといって突き放
す訳でもなく宙ぶらりんのまま、あなたの大事な青春時代を無駄にしていたのよ。分か
ってる?あなたは人生の半分の時間を浪費したのよ。女として一番美しい時を全て奪わ
れた。もしかしたら、あなたは一生独身のまま寂しい寂しい人生を送るの。死ぬまでね」
「やめてっ」
耳を塞ぐ絵里。
「な・の・に、ガッツは幸せな人生送っている。絵里はずっと好きでも、ガッツはあな
たの存在すら忘れて家族でバーベキューとかやっちゃったりするのよ。『パパー』とか『あ
なた』とかぞわぞわするような代名詞で呼ばれて。
あんたはガッツのことを忘れることができなかったはずよ。好きな人が幸せだったら
それでいい?そんなの嘘に決まってんじゃない。好きな人が他の奴と結婚して幸せに暮
らすだなんて反吐が出るわ。最高に不幸になって欲しいに決まってるわ。とことんどん
底のどん底まで不幸になって、私と一緒にならなかったことを後悔して欲しいに決まっ
てる。ああ、あいつは良い女だったなぁ。って思って死ぬ程後悔して欲しいに決まって
る」
「やめてったら」
絵里が発狂したかのような声を出すと、ピタリと声が止んだ。
「……絵里」
嬢ちゃんは落ち着いた声に戻った。
「絵里だけじゃないのよ。私とヒカリだって不幸になった。ヒカリは受験に失敗して、
滑り止めで受かった大学も結局中退。後は引きこもって菓子を食べるだけの生活。私も
最初は必死に支えようとしたけど、私は私で公認会計士には結局受からず……。就職し
たってのも嘘。仕事なんてしたことないわ。
なのに、あいつ……、ガッツったら。碌に勉強してこなかった癖に県庁に合格して結
婚して……。私とヒカリ、特にヒカリはあいつより何倍も努力してきたのよ。それでも
一つつまずいたらそれでお終い。今となっては仲間内で足を引っ張ってたガッツが勝ち
組よ。あいつは私達を利用するだけ利用したの。今日だって心配する振りをして嘲笑い
に来たに決まってるわ」
「おいっ、これをさっさと捨てに行くぞ」
ヒカリがガッツの死体を担いだ。
人生、無駄、独身、ガッツのせい。
絵里の頭が同じ言葉を反復する。
「これも処分しなきゃね」
嬢ちゃんが木陰から大きな布袋を担いできた。袋はうねうねと動いている。
絵里は、それが何か検討がついたが、何も言わなかった。彼女は無言で付いていった。
100メートルくらい歩くと砂利道の片方が崖になっていて、そこには老朽化した低いガードレールがあるのみだった。
「よっこらせ」
ヒカリはゴミを収集車に入れるように、崖からガッツを投げ捨てた。
「これは私からのプレゼント」
絵里は布袋を受け取ると、紐で縛ってあった口の部分を開けた。
そこには両手両足と口をガムテープで縛られたガッツの子供が入っていて、じたばたと暴れていた。
ガッツに似たかわいい娘。
だけど、半分は私の知らない女の血。
「今助けてあげるからね」
絵里はそう囁きながらガムテープを全て剥がすと、子供は泣きながら彼女に抱きついてきた。絵里は子供の頭を優しく撫でて抱き抱えると、躊躇することなく子供を崖に投げ捨てた。
目覚ましのアラーム音がけたたましく鳴っていた。
絵里ははっとして身体を起こす。額に溢れた不快な汗のせいで髪がべっとりとはりついていた。
それにしても嫌な夢だったわ。
そう思いながら朝食を摂りつつテレビを見ていると、絵里は思わず眼を疑った。どうでもいい芸能ニュースの話をしているキャスターが座っているテーブルの隅に、4月7日と書かれたプラスチック製の小さなカレンダーが置かれていたのだ。母校の初授業の日だ。寝ぼけ眼を擦りながら記憶の糸を手繰り寄せると、母校での引き継ぎや校内を探索したことや昨日の始業式の様子を思い出した。
遅刻してしまう、絵里はあわてて服を着替えた。
朝の職員会議を終えて、緊張しながら教室前の廊下で立ち止まった。出入口の上にある『3年5組』とかかれた表札を見て、深呼吸をして気分を落ち着かせると教室に入った。
絵里は最初から授業をする気はなかった。休みボケの生徒に最初から授業をしても仕方がない。それよりも今回はウォーミングアップを兼ねて自分のことを分かってもらうことの方が先決だ。
彼女は簡単な自己紹介をすると、生徒の顔と名前を覚えるため、一人一人の名前を呼んだ。
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