私が死んでも世の中は何も変わらないよね

にゃんこ

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智子のはなし

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猫が2匹、智子ともこの目の前の、塀の上でケンカしている。

なわばり争いだろうか、茶色のトラネコはしっぽの先まで大きく膨らんでおり、相手の白猫は耳を伏せ、しっぽを丸めて小さくなっている。

「あんたらは」

私はヤジのつもりで、彼らに話しかけた。

「なんで生きてんだ?」

高校生になってから、そんな疑問を持つことが多くなった。

時々こうやって、何でもいいんだけど“何か”にこれをぶつけないと、私の中で考えが堂々巡りしてどうにかなってしまいそうになる。

「こんな気分の時は、音楽でも聞こ」

そう思い、ポッケの携帯端末にイヤホンをさしこむ。

「シャッフル再生、と」

作業を終えた微かな達成感とともに携帯端末をポッケに戻す。

と、1曲目に流れてきた曲に悪寒が走った。

ちょっと古いかもしれないけど、最近の高校生なら、中学時代に絶対聴いたことがある、といっても過言じゃないって感じの曲だ。

プレイリストから外してなかったか、大失態。速攻で削除し、スキップする。

なぜ悪寒が走るかというと、好きだった人の好きだった曲だからだ。

最近は聴いてない。なぜって、聴いたら思い出すから。


音楽の歌詞は覚えやすい。メロディがあるからなんだろうけど、不思議だ。

ただ少し厄介なのは、何度も何度も同じ曲を聴いてたら、その曲がその時の周りの状況まで絡めとって、記憶の引出しの鍵になってしまうこと。

その後は平々凡々な邦楽ロックが、延々と流れているうちに、太陽は沈んでいった。歩みは止めない。

「月がきれいね」

カナリアのような、か細い声がした。ふりかえると、見知らぬロングヘアの女と坊主の男が、腕を絡ませながら歩いている。

ここは人通りが少なく、人が住んでる家も近くにはない細い路地だから、誰が何をしようと、とがめられることは滅多にない。

私も、たまたま通りかかっただけなので、月がきれいだとロングヘアが言った次の瞬間に、坊主が壁に彼女を押し付けようと、彼らに何も言わない。

外は寒いだろ外は、と思った。言わないけど。

ああ、人間って汚いなあ。

欲に溺れている動物(人間含む)を見ると、世の中が余計に汚れて見える。

世の中が余計に嫌いになる。

「ごめん、待った?」

気持ちの悪いほどの猫なで声で、街灯にもたれている連れに声をかけた。

「ううん、今来たとこだよ。行こうか、智子」

「うんっ」

そんな私も類にたがわず、汚い人間の一人だ。


時々無性に寂しくなる。
世界中の人が私を忘れてしまったら、こんな気持ちなんだろうな。
そんなときは、川に飛び込んでしまいたい。深く、深く沈んで...溺れる。


時々無性に悲しくなる。
この世の誰からも愛されなかったら、こんな気持ちなんだろうな。
そんなときは、風になって空へ消えてしまいたい。高く、高く舞い上がって...消える。


時々無性に死にたくなる。
本気で悩んで、教室の窓から見つめた空の色、どんなだったかは思い出せない。
ただ1つ言えるのは、屋上も線路も赤信号も、すぐ傍にあるということ。


時々無性に嬉しくなる。
きっと恋人が居たら、こんな気持ちなんだろうな。
そんなときは、なにもかもが愛しく思えてきて、めいっぱい優しくなる。


ベッドとあなたの腕に柔らかく包まれているときに、ふと、そんな詞まがいの言葉を思い付いた。

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