話花【ロコノミシリノ】

葵冬弥(あおいとうや)

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ロコノミシリノ④

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「――――てよ」

「……んにゅ……?」

「ねぇ……て、りのっち」

「……ぬへへ」

夢と現実が曖昧なまま、ただ、耳には聞くだけで幸せになるような声が、そう、こころんの声が聞こえる気がする。

このままでいたら聞き続けられるのかな……ぐぅ……。

「起きなさいっ!」

「あいたっ!」

両頬に衝撃が走る。

「っ!?っ!?」

何事!?何事!?

視界がチカチカする……。

「ごきげんよう、寝坊助さん」

「ほほ、ほひへぇんよう……?」

目の前にこころんがいる。

ん?ん?

「ん?ん?」

醒めきらない頭は疑問符ばかりを生み出す。

これは夢?

でも、確かにほっぺたが今めっちゃ痛い。

え?

てか、めっちゃ痛いんだけど。

泣いて良い?

座椅子で寝落ちてたから腰も痛いし。

「さっさと顔洗って来なさい」

そして部屋から追い出された。

何これ……?



とりあえず言われるがままに顔を洗って部屋に戻る。

途中リビングから両親の、あの子にも友達が……!みたいな咽び泣く声が聞こえた気がした。

「おかえり」

「こころんがいる!?」

え、こころんがいるんだけど、夢じゃなかったの。

しかも、パソコンの前の座椅子で体育座りして前後に揺れてるんだけど、何この可愛い生き物。

「なんで!?」

「明日答えをきくって言ったじゃない」

「いや、言ったけど……」

それで朝一で部屋に乗り込んでくる?

「もうお昼過ぎよ」

え?

時計を確認する。

「あ、ホントですね~」

何時に寝落ちたんだろうか……。

どこまで描いたっけ……。

「ま、答えを聞くまでも無いのかしら?」

「うっ……」

てか、こころんに思いっきり寝顔見られてんじゃん!やだ恥ずかしい……!

こころんはさっきからモニターから目を少しも逸らさない。

そこに映ってるものを食い入るように、瞳に焼き付けるように見てる。

「あの、まだ描き途中……」

「構わない」

「いや、寝てる時に変な線入ってるかも」

「構わない」

「ていうか、ラフでぶわーって描いただけだし」

「何となく伝わるわ」

あ、そこは流石になんとなくなんですね。

まぁ、私自身勢いで描いてたから何が何だか読み解くとこからなんだけど。

ポリポリと頭を掻く。

あ、寝癖直してないや。

「ていうかさー、挿絵って言ったって何枚描くの?どのシーン描くの?」

「うーん……」

右手の人差し指を顎に当てる。

「……全部?」

「絵本かよ!?」

いや、そりゃ描けるなら描きたいけどさ!

「流石にそれは時間がかかり過ぎちゃうよ……」

「確かに公開をあんまり遅くさせるのは良くないわね。なら、あなたの描きたいところを描くというのは?」

「それで良いの?」

「とりあえず1話に1枚で。今日のであなたが描きたくなるところって言うのが分かったから」

「そう?」

「熱を入れたくなるところをちゃんと読み取ってくれる理想的な読者よ」

「まぁね!」

ロコノミ氏の熱狂的ファンですから!

ふふーん、と鼻を高くして大きすぎず小さすぎない胸を張る。

「変態のくせに」

「それは、こころんが可愛すぎるからです!」

「同性をも虜にしてしまうなんて、私の美しさも罪ね」

はぁ……と頬に手を当てて首をふりふり。

こんな仕草が様になるなんて流石、こころん。

「それで、どれくらいで描けるの?」

「え、う~ん……1ヶ月……?」

「それで、どれくらいで描けるの?」

あれ、スルーされてる?

「1ヶ月くらいかな~……」

「それで、どれくらいで描けるの?」

あれ、無限ループ?

「さ、3週間……?」

「分かったわ……2週間ね」

「あれ?分かってなくないですか?」

やれやれ、て顔してますけど。

2週間ってあの、学校の宿題とかもあるんだけど……。

「う~ん、とりあえず描いてみます」

としか言えないですよね~……。

「遅れたら今後無視するから」

「そんなご無体な……!」

相変わらず思い通りにならなかったときの仕打ちが酷すぎる!



『ペラ……ペラ……』

『サ……サー……カチ……』

む~……うまく線が引けぬ……。

てか、やりにくい……!!!

後ろで漫画読みながら作業監視されるのってなんかむず痒いものなんですね!

私、初めて知りました!

ページ送る音は一応聞こえるんだけど、時折すごく視線を感じるんだよね。

「ねぇ、こころん」

振り向くとベッドの上でサッと顔を漫画で隠して熱中してるので話かけないでアピール。

いや、小学生かよ。

可愛いけど!

「むしろ後ろから見られるより、せめて横に来てよ……」

「いいの?」

「私越しに画面見てるのは分かってるけど、なんかこう私にも視線が当たるからムズムズするの」

「自意識過剰なの?」

「そうじゃないけど!とにかく見るなら横に来て」

バフバフ、と引っ張ってきたクッションを叩く。

「仕方ないわね」

ベッドから降りて嬉しそうにクッションの上に腰を下ろす。

あ~、良い匂いで鼻が満たされる。

これはこれで集中力が途切れそう……。

って、そんなこと言ったら何言わるか分かったもんじゃない。

集中……集中……。

今はこのラフの世界から線を掬い取って、世界を安定させないと。

脇においたスマホに表示している、こころんが書いた世界を確認しながら、私が描いている世界との差を埋めることに没入する。

違う……ここはもっと……自然に……うん……。

 だんだんと描き直す回数が減っていく。

手が描く世界と頭に描かれた世界が一致していく感覚。

カチリと頭から手を連動させる歯車が噛み合うようなそんな感覚。

絵の中に落ちていく。

絵の世界に溶けていく。



「ふーん」

口の中で言葉を転がす。

隣にある、いつも気だるそうにしてる目はいつもより大きく開いて真っ直ぐディスプレイに注がれている。

いつもは私の事チラチラ見るのに。

いつもヘラヘラしてるのにこんな顔もちゃんとできるんだ。

だんだんと形作られていく絵も気になるけど、誰かが夢中に何かしてる顔も気になってしまう。

悪くないじゃない。

普段が普段だけに……ねっ。


『 ガチャ』

「ご飯よー」

「ふにゃ……!」

突然の声に驚いて奇声をあげてしまった。

まぁ、いつもこんな感じなんだけど。

慣れないもんは慣れないもん。

「って、あれ、こころんは?」

隣にあったはずの存在がいつの間にかなかった。

忍者かな、くノ一?

「おやつ食べてとっくに帰ったわよ」

「あ、そうなの……っておやつ!?私のは!?」

「お友達が食べたんじゃない?お盆もわざわざ持ってきてくれて……あなたは何やってたのよ?」

「ホワァッツ!?」

全く、と何があったのかも知らないのに呆れたため息を吐かれる。

「とにかく、早くしないとご飯冷めるわよ。何回も呼んだんだから」

ぐるるるる……!とお腹の虫が唸り声をあげる。

「た、食べますっ……アウチ!」

急いで立ち上がろうとして、テーブルに思いっきり脛をぶつける。

すると、ヒラリとメモが目の前に落ちてきた。

中を開くと、

『 とても集中していたので、おやつ食べておいてあげました。こういうの久々に食べると美味しいわよねっ』

こういうのって私には分からんわ!

何食べたんだよー!

お母さんの事だから、きっと久々にお友達来たし、こころんみたいな美少女だしで良いの出したに違いない。

私も食べたかったー!!!

さらに空腹感が増して、お腹の虫もさらに叫んだ。




『ちょっと!ちょっと!こころんさん!? 』

食後に速攻でメッセージを送る。

「あれ?」

昨日はすぐ返事来たのに既読すら付かない。

ご飯かな?じゃあしょうがない、時を改めるか。

締切厳しいから進めないと……。

スマホをベッドにポイッと投げて、ペンタブを握った。



「くあっ……!」

自分が何を描いてるのか分からなくなってきた。

思い通りに腕が動かなくて思った線が描けない感じ。

ガシガシと後頭部を搔く。

あ~、脳みそがシャットダウン寸前。

「ふぁっ……ふぅ……」

大欠伸を零してスマホを手探りで探して掴み取る。

「まだ既読つかないんだ」

ふむぅ……とりあえず寝よ。

明日学校だし。

忘れずに保存してPCの電源を落とす。

寝る準備に取り掛かった。
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