上 下
9 / 21
向日葵の蕾の頃

向日葵の蕾の頃⑨

しおりを挟む
「あっ」

今日は舞ではなかったけど、葵先輩がいた。

なので、少し弾んだ声が前の席から聞こえた。

まぁ、舞は生徒会長だから色々あるんだろうな。

一人納得しようとして、大人しく補習に取り組んだ。

何とかこれからは付いていけそうな気がする。

次のテストは頑張ろう、うん。

最終日の補習も終わって教室を出ようとしたら、

「ねぇ、あなた、一昨日会長の所に来てた生徒よね?」

葵先輩に話し掛けられた。

「えっ、あ、は、はい、そう……です」

まさか話し掛けられると思ってなくてキョドってしまった。

「ちゃんと教えてもらえた?」

「は、はい」

本当は教えてもらってなんかないけど。

「そう、なら良いけど。あの子の教え方分かりにくかったら、私が教えるからいつでも言ってね」

「はい、ありがとうございます」

あー、確かに舞って天才肌だからなー……。

病院で勉強を教えてもらった時、過程をすっ飛ばして結論行くから全く伝わらないことが結構あったことを思い出す。

この間のときはだいぶ改善されてそうだったけど、そうでない時もあるんだろうな。

そして、別れ際にボクの後ろに何故か隠れる様にいる蓮乃に視線を移す。

「……」

「……」

特に二人とも言葉を交わすことは無く、葵先輩は私達行く道と反対方向に歩き去っていった。

でも、去り際の葵先輩の眼差しは少し柔らかくなってたと思う。

「良いの?蓮乃」

「うん」

ボク達も歩き出す。

横を歩く蓮乃の足取りはなんとなく軽やかだった。

分かりやすいんだから。


「あ、そういえば……」

「ん?」

蓮乃と食堂でお昼を食べてると、一昨日のことを思い出した。

「蓮乃は朗読劇って興味ある?」

「ない」

「即答ー」

むしろ食い気味だった。

「かえかえ先輩にも訊かれた」

「まぁ、そうだよね」

ボクだけにしか訊かないなんて無いよね。

「じゃあ、実家に帰ったりするの?」

「ううん」

「そっか」

「さくさくは?」

「ボクも帰らないよ」

「じゃなくて、朗読劇」

「あー、そっちね。うーん、特にする事ないし、ちょっと迷ってる」

「ふーん」

夏休み中、暇を持て余すのもなー。

「……迷うくらいならやってみたら?」

「そう?」

「やらないで後悔するより、やって後悔した方が良い……」

「なるほど……」

蓮乃からこんな名言みたいな言葉が出てくるなんて……。

「今、心のなかでバカにした?」

「し、してない……よ……?」

「もうー!」

「ごめんごめん」

机の下でスネを蹴られた。

でも、そうだね、やって後悔した方が良いよね。
しおりを挟む

処理中です...