続・ぼくの百合子先生ー小林ハイツの住人達

漱石

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 第三章 佐那子と百合子ー プレイバック PART2

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 (あの時は危なかったわ)百合子は高校時代のある一日を思い出していた。今でも冷や汗
 が出る。
                  
                     ☆
 その日は、夏休み直前の進路指導の日だった。百合子は某国立大学の教育学部志望で、
 進路指導の柴田初代との面談が予定されていた。ところが生徒会担当の黒田から、体育
際の出し物や進行について相談したいことがあるので、生徒会室に来てくれと直接口頭で
言われたのである。
「黒田先生、私、柴田先生の進路指導に出なければならないのですが」と、百合子にしては
珍しく不満と不平を露わにして言ったのだが、黒田は強引に言った。
「わかっているが、そこを曲げて頼む。三上も高校最後の体育祭なんだから協力してくれよ。
 柴田先生には、遅れる理由を連絡しておくから」
 と、言われ渋々黒田に従って生徒会室に向かった。
 生徒会室に入ると、黒田はドアを閉めずに、生徒会室の内線電話で、進路指導室の柴田初代
に電話をかけるのだった。
 百合子は、ドアが開いたままであることに少しほっとしていた。ドアが閉められたら、何か警戒しなければならないことが嫌だったのである。
 黒田が、室内電話で、柴田初代に事情を話している。
すると、電話の向こうから、柴田初代の甲高い声が聞こえてきた。
「わかりましたわ。では、私も進路指導室で、三上百合子さんが来られるのを待つことにします。夕方から夜になると思いますから、三上さんもお腹が空くでしょうから、私が学食のパンでも用意しておきますわ」
 夜に、進路指導室で、”レズ”の噂のある柴田初代と二人きりになることに、百合子は不安だっ
たが、意外にも百合子の夕食の心配までしてくれることに、百合子は少し感動していた。

                    2
 
ちょうどその時、佐那子は明日の授業の予習を図書室でしていた。屈指の進学校である高校は、
毎日、午後九時まで開室していた。
その理由は、家庭の事情で家では十分な学習時間を確保できない生徒のために配慮したものだ
った。
 佐那子は、百合子に気持ちを打ち明け、彼女に厳しく拒絶された日から、百合子とは話を
していなかった。だからといって生徒会の仕事は待ってはくれず、淡々と生徒会役員として
の役割をこなしていた。
図書室からでた佐那子の脇を、柴田初代がスキップして通り過ぎていった。そのうえ”調子はずれの鼻歌さえも聞こえてくるのだ。いつも怒ったような表情で、不満を表しているのにだ。
 佐那子は、この上ない違和感と悪い予感を抱かざるを得なかった。
 佐那子の直感が囁く。(このまま帰れば、私は一生後悔する)と。
 佐那子は正門から踵を返すのだった。

 「あ、お母さん。百合子です。生徒会の活動で、進路指導の先生との話し合いが遅くなったの
  夕食は、先生が気を利かしてパンを用意してくれるらしいから心配しないで」
 百合子は生徒会室を出てすぐに、スマホで連絡を入れた。
 佐那子は、百合子を見失わない距離を保ってついていく…
 
 柴田初代は、進路指導室の机の前で、武者震いしていた。
(あの日本人形のような美少女を今夜、私は抱けるのだ)
 これが露見すれば、自分は犯罪者であり、当然学校を首になる。
 しかし、初代にとってそんなことは三上百合子を犯す興奮の前では、小さなことなのだ。
 初代は、三上百合子が妬ましかった。百合子は、自分が持っていない要素を全て何の
 努力もせずに、生まれながらに持っているのだ。
 知力、美貌、スタイル、etc…
 きっと男子生徒の中には、夜な夜な百合子を「オカズ」にして、自分を”慰めている”ものがいるだろう。自分も同じ輩だった。
 初代は時計を見た。午後八時だった。校庭は既に暗くなっていた。

               ☆
進路指導室のドアを百合子は開けた。外の闇が、指導室の中を射していた。
「いらっしゃい。待ってたわ」
と、初代はまるで自分のマンションの部屋に百合子を招待したかのような錯覚を覚えていた。
一方百合子も室内の空気に、奇妙な違和感を覚えていた。そう、例えるなら湿りのある空気が
室内に流れていた。
(嫌な感じ。自分の成績や偏差値のことならもうわかっているから早めに終わらせて
帰ろう)
百合子は、ドアを閉めた。
「さあ、いらっしゃい。おなかすいたでしょう。パン、買っといたから」
初代は、パンを机に並べた。
「ありがとうございます」
 空腹を感じていた百合子は、一瞬気を抜いてしまった。目の前にいると思っていた初代
が、いつのまにか後ろに立っていたのだ。
ビロードのような黒髪を初代は、手で掬った。
百合子の背に言いようのない悪寒が走った。
(しまった)と、頭では後悔していたが、体は恐怖で身動きできない百合子。
初代が、レズではないかという噂を百合子も知らないわけではなかった。
まさか自分が狙われているとは、百合子は想像していなかったのだ。
              ☆
「内申書は申し分ないわ。この成績なら国立の教育学部に余裕で合格
するでしょうけど、今一つ「ラスト・ピース」が必要ね。なにしろ受験なのだから、
何が起こるかわからないのだから」
百合子は振り返った。彼女にしては珍しい憎悪をその目に宿していた。
初代が蛇のように目を光らせて彼女を見下ろしていた。
「憎らしい。『それは何ですか』と質問もしないのね。ええ、お察しの通り進学指導者の
この学生は優秀ですという一文よ」
「そ、そんなものなくても合格してみせます」
「でも、もし不合格だったら。ご両親はさぞかしがっかりなさるでしょうね」
百合子は怯む。普段娘に勉強しろとは決していわない父と母。
「きょ、脅迫なんて犯罪で、ですよ」
「ええ、そのとおりよ。私あなたを抱けるなら、仕事なんて失くしても、警察に捕まっても
いいと思っているの」
 百合子の恐怖と絶望は、絶頂に達していた。
「は、早くすませて」もう敬語も使わない…百合子。

 
           3
初代は、百合子の黒髪にキスをした。百合子の背中に再びの悪寒が走る。
「立って」初代は囁いた。
百合子は、初代を睨みながらも立った。少し机を離れて、全身を晒す
初代は、目が眩むような興奮と羨望を感じていた。
(なんて美しい立ち姿なんだろう。もう女子高生じゃないわ。モデルじゃない)
初代の百合子に対する羨望は、憎悪に変わった。
(憎らしい、辱めてやる)
初代は、百合子に向き合うとキスしてきた。百合子は嘔吐を催す。
ワイシャツの胸を揉みだす初代。
「アン」たまらず吐息を洩らす百合子。
 スカートをまくり上げる。白磁かと思わせるような脚線美に見とれる初代の
汚い欲情した吐息が百合子の足にかかる。
「もう許して、く、ください」百合子は涙を流した。
初代の指が、純白のショーツにかかろうとした。
バン!進路指導室のドアが突然開くと、黒い弾丸のように誰かが突入してきた。
「百合子ねえさんに触るな!」
田野坂佐那子だった。
両腕を広げて百合子の前に立った。

佐那子は面談の始まりから、進路指導室の横に立っていた。
すぐにでも助けたかったが、本当の進路指導だったら大変だと遠慮していた。
以前の告白で、百合子に拒絶されたショックは消えてはいない。それでも彼女
は、百合子を慕っていた。
 百合子の叫び声が聞こえたが、焦りで手が滑りドアを開けるのに手間取った。
佐那子は百合子を守りたかった。

一方、初代は突然のハプニングに戸惑ったが、もう失うものなどない女に怖いものは
なかった。
「あらぁ。一年生のたしか”田野坂”さんね。あなたも三上さんが好きなのね。私も
そうなの。ちょうどいいわ。ここで三人で楽しみましょう」
「来るな!ばかな中年おばさん」佐那子は嘲るような光をその目に浮かべていた。
初代がもっとも言われたくない言葉が、「おばさん」という単語だった。
マンションで独り鏡を毎夜覗く初代は、自分の容色が、日々衰えていくのを実感
していた。
 「もう私もおばさんよね」と、夜涙にくれる彼女だった。
自分で実感する夜には耐えられる初代だったが、たかが十五六の小娘に言われることには、
初代の我慢も限界だった。
「なんですってぇ!この小娘」初代はもう理性も余裕もなく佐那子に突進した。
「佐那子、逃げて。危ない」百合子は自分のことなどお構いなしに佐那子を庇おうと
走り出したが、目の前で信じられない光景を見た。
初代の腕が佐那子を捕まえようとした、そして腕が佐那子を捕まえたと思った瞬間、
「やー」と、佐那子の気合の声がして、初代の体が宙を飛んだのを百合子は見た。
 佐那子がもっとも得意とする巴投げが炸裂した。
やがて、初代の体は、受験資料の詰まった書架にダイレクトに叩き付けられたのである。
「グ!」初代は一声そう言うと気絶した。書架も一緒に倒れた。
進路指導室は、見るも無残な惨状だった。
           ☆
 佐那子は、手で制服に付いた埃を払いながら言った。
 「百合子ねえさん、ごめんなさい。焦って手が滑ってドアを開けるのに手間取ったの」
 「謝らないで。ありがとう佐那子」百合子は涙ながらに言った。
 佐那子は、百合子に言った。
 「百合子ねえさん。ねえさんのスマホでここの写真をすぐ撮って。そして警察に電話
 するのよ。被害者が写真を撮っている方が、立証の証拠として、価値があるって推理小
 説に書いてあったわ」
 百合子はすぐに佐那子の言うとおりにした。
 佐那子が警察に電話した。
 
 名門進学校の校庭に、パトカーのサイレンの音が響き渡り、パトカーが到着した。
ほぼ同時に、一台の高級車が校庭に飛び込んできた。
高級車から、早苗と由香里が飛び出した。
 「百合子!」と早苗が泣いて叫び、由香里は佐那子を無言で抱きしめていた。涙で言葉が
出なかったのだ。
 百合子が刑事に証言し、スマホの写真を見せた。刑事も納得し、初代は強かん未遂の容疑
で警察に連行された。初代は、恐怖に顔を引きつらせて、佐那子と百合子を見ると、逃げる
ようにパトカーに自分から乗った。

              ☆
 翌日、百合子も佐那子も学校を休んだ。校長と教頭が二人の家を回り、二人と両親に
土下座して謝った。
「三上百合子さんの進路指導の教員欄には、私が責任を持って推薦書を書きます。
 もっとも推薦書など必要ない成績ですが」と、言葉を添えるのを忘れなかった。
 教頭は、初代の過去の脅迫について卒業生から聞いたという。
 「柴田は、内申書の推薦状の件で、気に入った女生徒に悪戯を繰り返し、大学に
 合格したいなら黙るようにと言ってたということです」
 校長と教頭は、二人の両親から強い抗議を受けて、卒業式の後、責任を取り辞職した。
 
               4
百合子はアパートの自室で鏡を見ながら独りごとを言った。
「ほんとうにあの時は佐那子に助けられたわ。でも、あれはやりすぎだったわね」

春休みの一日、佐那子はベッドで好きなミステリーを読み耽っていた。
スマホが鳴った。百合子からだった。
「佐那子、今からうちに来てよ。両親夜まで帰ってこなくて暇なの」
佐那子に否はなかった。
百合子の家に着くと、百合子に出迎えられ、百合子の部屋に通された。
百合子の部屋は、英語の辞書や文学全集で書架が埋まっていた。
「すごーい、百合子ねえさん。これ全部読んだの」
「まあね。ベッドに座っておしゃべりしましょう」
しばらく二人で他愛もない話をしていたが、百合子は囁く。
「ね、佐那子。あの、その私と”エッチ”したいって本気なの」
「ほ、本気よ。わ、私ねえさんのこと好きなの」
 佐那子は真っ赤になりながら打ち明けた。
 百合子も同様だ。
 「絶対にしゃべらないって誓えたら、していいよ。エッチ」
 百合子は佐那子に口付けした。
 「ねえさん」
 佐那子は、百合子のブラウスを脱がせ、バストに触れた
 「あん、乳首弄らないで、弱いの」百合子は弱く不平を言う。
 「嬉しい、おねえさんが感じているなんて」
 百合子は誘うように、膝を立てる。白のショーツが佐那子の目に飛び込んできた。
 「フフ。裸になりましょう」
 百合子は佐那子に言い、二人は裸になり、心ゆくまで互いの肌を味わいつくしたのだった。
佐那子は、セックスの後、
「私、今日のこと絶対に忘れないわ」と、声を震わせて言った。
「忘れて。柴田から私を守ってくれたお礼よ。誰にも言わないでね」
 百合子は顔を背けて吐き出すように言った。
「おねえさん。私またおねえさんを好きでいていいのよね」佐那子は言った。
「え、ええ。いいわよ。そのかわり今日のこと絶対に秘密よ」
 百合子は眼光鋭く言った。
 「百合子ねえさん。口づけしよう」
 佐那子はねだるように囁いた。
 「もう、しょうがないわね」
 二人は玄関先で口づけした。
        ☆
「どう考えてもあれはやりすぎだったわ。ああ、佐那子が教師に、しかも同じ
 ○○学園に悪夢だわ」
百合子はこのとき知らなかった。佐那子台風が、押し寄せていることを……。



 





 

  
             

 
 
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