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3章
3-9
疲労感と焦燥感を抱えたまま、俺たちは宿屋に向かっていた。誰も口を開こうとしない。望んでいた結果を得たはずなのに、後味の悪さがずっとしこりとして残っているのだ。ノア様も、何も言わずただ前を歩いている。俺は、そんな彼にどう声をかけたらいいかわからず普段よりも後を歩いていた。
いつもと違う様子に気がついたのか、レオが俺に小声で話しかけてきた。
「大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「ただ疲れただけだ」
「本当にそれだけか? 表情が固い。ロードに振り回されていた時と同じ顔だぜ、それ」
レオの言葉が胸に刺さる。ノア様に振り回されていた時とは、つまり自堕落で我儘放題なノア様のことを信じられず、ただ無感情に生きていた時のことだ。それから少しずつノア様のことを信じられるようになっていたのに。今回の件で揺らいでしまったのだ。
ヘンリー伯爵からの密命もある。それも相まって、今まで通りにノア様のことを見られなくなっていた。今までのノア様なら言ったこと全てが実現していた。的確で、無駄のない進言をしていたのだ。それこそ彼の言葉を使うなら「この物語をすでに知っている」ように。
だが、今回の件でノア様の進言が外れてしまった。子供達がいた場所は違っていたし、司祭たちと穏便に話し合いなんかできず彼らはあっさりと毒で死んでしまった。確かに本来の目的は達成できてはいるが、何かが少し違っている気がする。ボタンを掛け違えたような違和感が胸にこびりついて消えてくれない。
「レオ、ノア様の言葉は今まで外れることなんてなかった。なのに、今回に限って二回も外れたんだ。おかしいだろ、こんなの」
「そうは言うけど、ロードだってたまには外すことあるだろ。それに子供たちは助けられたし、同盟も組むことができた。結果的にロードの進言は当たっていたんだ」
「そう、だけど」
レオの言うことに一理ある。むしろそう考える方が自然だろう。しかしどこかスッキリしない。ノア様とどうやって接したらいいんだろう。もし、リベルマでも同じことが起きたら。俺は、ノア様のことを信じることができるだろうか。
悶々と浮かび上がってくる疑念を抱えながら、俺たちは宿屋に戻ってきた。仮眠を取ったらすぐリベルマに出発する。少しでも長く寝ていたいと思っていたが、ノア様に「少し話がある」と言われ部屋に呼ばれた。
今後の方向性か何かだろうかと思って部屋に入ると、以前のように目隠しをされ、ベッドに座らされて。あ、これはまずいと思った時にはもう時すでに遅し。俺は両手を縛られたあと、またこの前と同じような施しを強制的に受けさせられていた。
疲れているし、汗もかいている。決していいものではないだろうに、ノア様はただ黙々と口と舌を動かしていた。ここは屋敷よりも壁が薄い。少しでもおかしな音を立てるとレオたちに気づかれてしまう。必死に声を抑えていると、そちらに気を取られてしまったのか前回よりも早く我慢の限界を迎えてしまった。声を抑えるために唇を噛み締めていたせいで、口の中にじんわりと血の味が広がってくる。最後の一滴まで吸い上げられ、ようやく解放された時にはもう体力も気力も残っていなかった。
「ふ……、っ、ふー……、ぅ」
心臓が激しく鳴り響いている。このまま気を抜くと眠ってしまいそうだ。まだ微かに震えている体を落ち着かせるために何度も深い呼吸をした。そんな俺をよそ目に、ノア様はまた俺のシャツを少しだけくつろげ、何か満足したような声を出したあと「おやすみ」と言って両手の拘束を解いてくれた。
もう、何がなんだかわからない。色々なことがありすぎて、何も考えたくない。ノア様のことも、フルーレ司教のことも、これからのことも。全てを手放して今はただ眠りたい。それ以上意識を保つことができず、俺は深い眠りに落ちていってしまった。
いつもと違う様子に気がついたのか、レオが俺に小声で話しかけてきた。
「大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「ただ疲れただけだ」
「本当にそれだけか? 表情が固い。ロードに振り回されていた時と同じ顔だぜ、それ」
レオの言葉が胸に刺さる。ノア様に振り回されていた時とは、つまり自堕落で我儘放題なノア様のことを信じられず、ただ無感情に生きていた時のことだ。それから少しずつノア様のことを信じられるようになっていたのに。今回の件で揺らいでしまったのだ。
ヘンリー伯爵からの密命もある。それも相まって、今まで通りにノア様のことを見られなくなっていた。今までのノア様なら言ったこと全てが実現していた。的確で、無駄のない進言をしていたのだ。それこそ彼の言葉を使うなら「この物語をすでに知っている」ように。
だが、今回の件でノア様の進言が外れてしまった。子供達がいた場所は違っていたし、司祭たちと穏便に話し合いなんかできず彼らはあっさりと毒で死んでしまった。確かに本来の目的は達成できてはいるが、何かが少し違っている気がする。ボタンを掛け違えたような違和感が胸にこびりついて消えてくれない。
「レオ、ノア様の言葉は今まで外れることなんてなかった。なのに、今回に限って二回も外れたんだ。おかしいだろ、こんなの」
「そうは言うけど、ロードだってたまには外すことあるだろ。それに子供たちは助けられたし、同盟も組むことができた。結果的にロードの進言は当たっていたんだ」
「そう、だけど」
レオの言うことに一理ある。むしろそう考える方が自然だろう。しかしどこかスッキリしない。ノア様とどうやって接したらいいんだろう。もし、リベルマでも同じことが起きたら。俺は、ノア様のことを信じることができるだろうか。
悶々と浮かび上がってくる疑念を抱えながら、俺たちは宿屋に戻ってきた。仮眠を取ったらすぐリベルマに出発する。少しでも長く寝ていたいと思っていたが、ノア様に「少し話がある」と言われ部屋に呼ばれた。
今後の方向性か何かだろうかと思って部屋に入ると、以前のように目隠しをされ、ベッドに座らされて。あ、これはまずいと思った時にはもう時すでに遅し。俺は両手を縛られたあと、またこの前と同じような施しを強制的に受けさせられていた。
疲れているし、汗もかいている。決していいものではないだろうに、ノア様はただ黙々と口と舌を動かしていた。ここは屋敷よりも壁が薄い。少しでもおかしな音を立てるとレオたちに気づかれてしまう。必死に声を抑えていると、そちらに気を取られてしまったのか前回よりも早く我慢の限界を迎えてしまった。声を抑えるために唇を噛み締めていたせいで、口の中にじんわりと血の味が広がってくる。最後の一滴まで吸い上げられ、ようやく解放された時にはもう体力も気力も残っていなかった。
「ふ……、っ、ふー……、ぅ」
心臓が激しく鳴り響いている。このまま気を抜くと眠ってしまいそうだ。まだ微かに震えている体を落ち着かせるために何度も深い呼吸をした。そんな俺をよそ目に、ノア様はまた俺のシャツを少しだけくつろげ、何か満足したような声を出したあと「おやすみ」と言って両手の拘束を解いてくれた。
もう、何がなんだかわからない。色々なことがありすぎて、何も考えたくない。ノア様のことも、フルーレ司教のことも、これからのことも。全てを手放して今はただ眠りたい。それ以上意識を保つことができず、俺は深い眠りに落ちていってしまった。
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