いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

文字の大きさ
48 / 62
3章

3-19

 翌朝、ノア様の熱は下がったが念のため医者に診察を受けることになっていた。あんなことをした後なので、二人きりで話すことに多少の躊躇いがある。なので、同じ部屋に医者がいてくれることは正直とてもありがたい。
 ベッドで横になったまま診察を受けるため、朝の支度は医者が帰った後だ。俺はなるべくノア様が視界に入らないよう視線を落としておくことにした。フルーレ司祭による襲撃があった後だ。本当であれば相手が医者であっても護衛をしなくてはいけないが、今の俺は平常心でいられる自信がない。
 早く終わってくれと祈りながら、医者はノア様の寝巻きを脱がし、心音や脈拍を確認している。傷跡もほとんど見えないくらい薄くなっているらしい。
「サー・サミュエルが光魔法を使えて本当によかったですのぉ。少しでも対処が遅ければ手遅れになっておった」
「油断していた僕に責任がある。ジョシュアには負担をかけたね」
「いえ、私はすべきことをしたまでです」
 当たり障りないことを言って、なるべく視線を合わせないようにする。頼むから早く終わってくれ。できればそのまま自分で着替えて、何か仕事を与えてくれ。一緒にいると昨夜のことを思い出して、正気ではいられなくなってしまう。
 思い返せば、腹の中に射精してしまった。女性ではないから妊娠することはないが、全くもって無害ということはないだろう。一体どんな大勢だったかも知らないから、体に負担がなかったか、痛むところはないかなど聞くこともできない。
 頭の中でぐるぐる疑問が湧いてくる。しかし、医者がいる手前ノア様に聞くこともできない。いや、例えここに二人きりでもきっと尋ねることはできなかっただろう。俺ばかりが気にしていて、ノア様はやっぱりいつも通りの態度なのだ。もしかしたら「なんのこと?」と言われてしまうかもしれない。それほどまでに、ノア様からは昨夜の名残を一切感じられなかった。
「うむ、問題なさそうだの」
「よかった。ありがとうございます、ドクター」
 どうやら無事に診察が終わったらしい。念のために解熱剤と化膿止めを処方してもらい、何かあれば我慢せずすぐに呼ぶよう言った後、医者は部屋を出て行った。そうして俺とノア様の二人きりになる。
 さあ、ここからどうしよう。
 前回も同じようなことを考えていた。俺が悩んでいる間に、ノア様は気まぐれに俺を押し倒し、施しを与えてきた。もし今回も同じだったら。これから連合軍との本格的な戦闘が始まるというのに。俺はこんなことばかり考えていて本当にいいのだろうか。
「ジョシュア、どうしたの? まだ眠たい?」
「いえ、そんなことは……っ、あ」
 思わず顔を上げて、ピシリと体が固まった。
 ノア様はまだ寝巻きをはだけさせたままで、肩から腹まで素肌が見えている状態だった。俺と比べて肌は白く、きめ細やかだ。ここ最近、訓練を重点的に行なっているためか以前よりも体ががっしりとしてきたような気がする。
 それでも線は細く、どこか柔らかさを感じさせた。うっすらと腹に残った傷跡が痛々しいが、薄桃色が陶磁器のような肌と無性にマッチしていて、扇情的ですらある。
 この体が、昨日、俺にまたがっていたのか。
 この体を、昨日、俺は汚したのか。
「あ……」
「ジョシュア? どうしたの?」
「や、えっと……、すみません! 今日は自分で着替えてください!」
「ええ!? ちょっと、どこ行くの!?」
 羞恥心と罪悪感と、それからほんのわずかな別の感情がないまぜになり、もうどうしようも無くなってしまった。頭の中がぐちゃぐちゃになり、居ても立ってもいられなくなり。俺は一目散に部屋から飛び出した。
 ノア様は驚いたように俺の名前を呼んでいたが、聞こえないふりをして屋敷の廊下を全力で走り続ける。一体どこに向かっているか自分でもわからない。自分の中から込み上げ続ける感情と、熱と、動揺をどうにか発散させたくてひたすら走り続ける。
 中庭の石につまずいて転んだ後、ようやく自力で呼吸できる感覚を思い出した。心臓がずっと痛くて、涙が出そうだった。芝生の上に寝転んで空を見上げる。それまで太陽を覆っていた雲がゆっくりと風に吹かれて流れていく。額から汗が流れ落ちて目に入るが、それさえ些細なことのように思えた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
完結に向けて頑張ります 5月中旬頃完結予定です その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。 ​死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。

冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ
BL
1年前、困っていたところを助けてくれた人に一目惚れした陽依(ひより)は、アタックの甲斐あって恩人―斗希(とき)と付き合える事に。 だけど変わらず片思いであり、ただ〝恋人〟という肩書きがあるだけの関係を最初は受け入れていた陽依だったが、1年経っても変わらない事にそろそろ先を考えるべきかと思い悩む。 その矢先にとある光景を目撃した陽依は、このまま付き合っていくべきではないと覚悟を決めて別れとも取れるメッセージを送ったのだが、斗希が訪れ⋯。 イケメンクールな年下溺愛攻×健気な年上受 ※印は性的描写あり