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3章
3-19
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翌朝、ノア様の熱は下がったが念のため医者に診察を受けることになっていた。あんなことをした後なので、二人きりで話すことに多少の躊躇いがある。なので、同じ部屋に医者がいてくれることは正直とてもありがたい。
ベッドで横になったまま診察を受けるため、朝の支度は医者が帰った後だ。俺はなるべくノア様が視界に入らないよう視線を落としておくことにした。フルーレ司祭による襲撃があった後だ。本当であれば相手が医者であっても護衛をしなくてはいけないが、今の俺は平常心でいられる自信がない。
早く終わってくれと祈りながら、医者はノア様の寝巻きを脱がし、心音や脈拍を確認している。傷跡もほとんど見えないくらい薄くなっているらしい。
「サー・サミュエルが光魔法を使えて本当によかったですのぉ。少しでも対処が遅ければ手遅れになっておった」
「油断していた僕に責任がある。ジョシュアには負担をかけたね」
「いえ、私はすべきことをしたまでです」
当たり障りないことを言って、なるべく視線を合わせないようにする。頼むから早く終わってくれ。できればそのまま自分で着替えて、何か仕事を与えてくれ。一緒にいると昨夜のことを思い出して、正気ではいられなくなってしまう。
思い返せば、腹の中に射精してしまった。女性ではないから妊娠することはないが、全くもって無害ということはないだろう。一体どんな大勢だったかも知らないから、体に負担がなかったか、痛むところはないかなど聞くこともできない。
頭の中でぐるぐる疑問が湧いてくる。しかし、医者がいる手前ノア様に聞くこともできない。いや、例えここに二人きりでもきっと尋ねることはできなかっただろう。俺ばかりが気にしていて、ノア様はやっぱりいつも通りの態度なのだ。もしかしたら「なんのこと?」と言われてしまうかもしれない。それほどまでに、ノア様からは昨夜の名残を一切感じられなかった。
「うむ、問題なさそうだの」
「よかった。ありがとうございます、ドクター」
どうやら無事に診察が終わったらしい。念のために解熱剤と化膿止めを処方してもらい、何かあれば我慢せずすぐに呼ぶよう言った後、医者は部屋を出て行った。そうして俺とノア様の二人きりになる。
さあ、ここからどうしよう。
前回も同じようなことを考えていた。俺が悩んでいる間に、ノア様は気まぐれに俺を押し倒し、施しを与えてきた。もし今回も同じだったら。これから連合軍との本格的な戦闘が始まるというのに。俺はこんなことばかり考えていて本当にいいのだろうか。
「ジョシュア、どうしたの? まだ眠たい?」
「いえ、そんなことは……っ、あ」
思わず顔を上げて、ピシリと体が固まった。
ノア様はまだ寝巻きをはだけさせたままで、肩から腹まで素肌が見えている状態だった。俺と比べて肌は白く、きめ細やかだ。ここ最近、訓練を重点的に行なっているためか以前よりも体ががっしりとしてきたような気がする。
それでも線は細く、どこか柔らかさを感じさせた。うっすらと腹に残った傷跡が痛々しいが、薄桃色が陶磁器のような肌と無性にマッチしていて、扇情的ですらある。
この体が、昨日、俺にまたがっていたのか。
この体を、昨日、俺は汚したのか。
「あ……」
「ジョシュア? どうしたの?」
「や、えっと……、すみません! 今日は自分で着替えてください!」
「ええ!? ちょっと、どこ行くの!?」
羞恥心と罪悪感と、それからほんのわずかな別の感情がないまぜになり、もうどうしようも無くなってしまった。頭の中がぐちゃぐちゃになり、居ても立ってもいられなくなり。俺は一目散に部屋から飛び出した。
ノア様は驚いたように俺の名前を呼んでいたが、聞こえないふりをして屋敷の廊下を全力で走り続ける。一体どこに向かっているか自分でもわからない。自分の中から込み上げ続ける感情と、熱と、動揺をどうにか発散させたくてひたすら走り続ける。
中庭の石につまずいて転んだ後、ようやく自力で呼吸できる感覚を思い出した。心臓がずっと痛くて、涙が出そうだった。芝生の上に寝転んで空を見上げる。それまで太陽を覆っていた雲がゆっくりと風に吹かれて流れていく。額から汗が流れ落ちて目に入るが、それさえ些細なことのように思えた。
ベッドで横になったまま診察を受けるため、朝の支度は医者が帰った後だ。俺はなるべくノア様が視界に入らないよう視線を落としておくことにした。フルーレ司祭による襲撃があった後だ。本当であれば相手が医者であっても護衛をしなくてはいけないが、今の俺は平常心でいられる自信がない。
早く終わってくれと祈りながら、医者はノア様の寝巻きを脱がし、心音や脈拍を確認している。傷跡もほとんど見えないくらい薄くなっているらしい。
「サー・サミュエルが光魔法を使えて本当によかったですのぉ。少しでも対処が遅ければ手遅れになっておった」
「油断していた僕に責任がある。ジョシュアには負担をかけたね」
「いえ、私はすべきことをしたまでです」
当たり障りないことを言って、なるべく視線を合わせないようにする。頼むから早く終わってくれ。できればそのまま自分で着替えて、何か仕事を与えてくれ。一緒にいると昨夜のことを思い出して、正気ではいられなくなってしまう。
思い返せば、腹の中に射精してしまった。女性ではないから妊娠することはないが、全くもって無害ということはないだろう。一体どんな大勢だったかも知らないから、体に負担がなかったか、痛むところはないかなど聞くこともできない。
頭の中でぐるぐる疑問が湧いてくる。しかし、医者がいる手前ノア様に聞くこともできない。いや、例えここに二人きりでもきっと尋ねることはできなかっただろう。俺ばかりが気にしていて、ノア様はやっぱりいつも通りの態度なのだ。もしかしたら「なんのこと?」と言われてしまうかもしれない。それほどまでに、ノア様からは昨夜の名残を一切感じられなかった。
「うむ、問題なさそうだの」
「よかった。ありがとうございます、ドクター」
どうやら無事に診察が終わったらしい。念のために解熱剤と化膿止めを処方してもらい、何かあれば我慢せずすぐに呼ぶよう言った後、医者は部屋を出て行った。そうして俺とノア様の二人きりになる。
さあ、ここからどうしよう。
前回も同じようなことを考えていた。俺が悩んでいる間に、ノア様は気まぐれに俺を押し倒し、施しを与えてきた。もし今回も同じだったら。これから連合軍との本格的な戦闘が始まるというのに。俺はこんなことばかり考えていて本当にいいのだろうか。
「ジョシュア、どうしたの? まだ眠たい?」
「いえ、そんなことは……っ、あ」
思わず顔を上げて、ピシリと体が固まった。
ノア様はまだ寝巻きをはだけさせたままで、肩から腹まで素肌が見えている状態だった。俺と比べて肌は白く、きめ細やかだ。ここ最近、訓練を重点的に行なっているためか以前よりも体ががっしりとしてきたような気がする。
それでも線は細く、どこか柔らかさを感じさせた。うっすらと腹に残った傷跡が痛々しいが、薄桃色が陶磁器のような肌と無性にマッチしていて、扇情的ですらある。
この体が、昨日、俺にまたがっていたのか。
この体を、昨日、俺は汚したのか。
「あ……」
「ジョシュア? どうしたの?」
「や、えっと……、すみません! 今日は自分で着替えてください!」
「ええ!? ちょっと、どこ行くの!?」
羞恥心と罪悪感と、それからほんのわずかな別の感情がないまぜになり、もうどうしようも無くなってしまった。頭の中がぐちゃぐちゃになり、居ても立ってもいられなくなり。俺は一目散に部屋から飛び出した。
ノア様は驚いたように俺の名前を呼んでいたが、聞こえないふりをして屋敷の廊下を全力で走り続ける。一体どこに向かっているか自分でもわからない。自分の中から込み上げ続ける感情と、熱と、動揺をどうにか発散させたくてひたすら走り続ける。
中庭の石につまずいて転んだ後、ようやく自力で呼吸できる感覚を思い出した。心臓がずっと痛くて、涙が出そうだった。芝生の上に寝転んで空を見上げる。それまで太陽を覆っていた雲がゆっくりと風に吹かれて流れていく。額から汗が流れ落ちて目に入るが、それさえ些細なことのように思えた。
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