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4章
4-6
ノア様の作戦通り、メリッサ嬢は上空から火器を使っての攻撃を開始した。時折どこからか楽しそうな高笑いが聞こえてくる。それを聞いて、俺はこれからも絶対にメリッサ嬢を怒らせないようにしようと強く誓った。
ハンス伯爵は、逃げ出そうとする修道士たちを捕らえて、逃げ出したり自決したりしないよう強力な牢屋を設置していた。あとは城内にベルリアン兵が攻め込み続けるだけだ。城は広く開かれており、兵士が攻め込むには都合がいい。かつては大勢の国民が訪れ、謁見のために集まっていた。王都の守護神である女神カリスのシンボルである金色で作られた大広間には、干からびた人間だったものが転がっている。
変わり果てた様に絶句するが、それも一瞬のこと。ヘンリー伯爵の指揮のもと、兵士たちが一気に城内に攻め込んでいく。俺とノア様は鎧を脱ぎ、身軽になった。今までの攻撃から考えて、おそらく物理攻撃は考えにくい。それならば重たい鎧で動きが鈍くなるよりは、軽装になって素早く動いた方が有利だろう。
兵士たちに紛れてノア様と共に大広間を駆け抜けていく。国王がどこにいるかは分からないが、考えられるのは限られた人しか立ち入ることのできない、謁見の間か戴冠室のどちらかだろう。
「ねえ、ジョシュア」
「はい?」
刀で兵士を切り捨てたノア様が、不意に声を漏らした。断末魔と雄叫びと、それから命乞いをする雑音の中でも彼の声はやけにはっきりと聞こえてくる。剣に雷魔法を込めて床に突き立てる。足元に雷が伝わり、立っていた兵士たちはその場で崩れ落ちていった。
お互い見ているものは目の前にいる兵士たちだけ。それでも意識の中にははっきりとノア様が存在している。不思議な感覚だ。俺たちは違う人間なのに、切り離すことができないように感じてしまう。
「ノア様、どうしましたか」
「いや。名前を呼んだだけ」
「なんですか、それ」
呆れたように返事をすると、ノア様はなぜか嬉しそうに小さく笑う。
「名前を呼んで、返事が来ることが嬉しかっただけだよ」
「何を言っているんですか。私はあなたの騎士で、従者です。いつでも返事をしますよ」
「うん。そうだね」
階段を駆け上がり、踊り場まで辿り着く。目の前には謁見の間に続く通路がある。戴冠式に使う部屋は、確か謁見の間を越えたところにあったはずだ。なんにしても謁見の間
に向かう必要が出てくる。閉ざされた場所に兵士たちが流れ込んでくる危険は考えられるが、あまり時間をかけることもできない。
流れる汗と返り血を拭き取り、隣に立つノア様に視線を送る。同じようにこちらを見てきたノア様は「行こう」とだけ呟いた。剣の柄を再び握りしめて一歩足を進める。たった一歩だったにも関わらず、謁見の間からは強い魔力が流れてくるのを感じた。
「ここだね」
「そうですね」
「ねえ、ジョシュア」
「はい?」
一歩ずつ、ゆっくりと歩くノア様が再び俺の名前を呼んだ。
先ほどと同じように俺も返事をする。
「ジョシュアは、僕のことを最後まで信じてくれる?」
てっきりまた名前を呼んだだけかと思っていた。だから、続けられた声が本当にノア様のものとは思えないくらい、小さくて、不安そうで、掻き消えそうなことに驚いてしまった。
でも驚いたのはそれだけで、尋ねられたことに対しては驚くことはなかった。
今まで何度も確かめるように聞かれてきて、その度に心から信じられずうまく答えられなかったこの質問に対して。
今日こそ俺は、心から胸を張って答えられる。
「信じます」
ノア様が何者であっても関係ない。ノア様は、ノア様だ。今目の目にいるこの人こそ、俺が信じ、使え、全てを捧げるべき相手なのだ。だからもう迷わない。最後まで信じ抜いて隣に立つ。
今になってようやくその覚悟ができた。
「私は……俺は、あなたのことを信じる。何を考えていても、何をしていても。俺はあなたを、最後まで信じ抜きます」
そう言って、二人で謁見の間に繋がる扉の前で立ち止まる。ここを開けたらきっと国王がいるだろう。生まれた時から絶対的な君主と思っていた相手に、俺たちは剣を向けることになる。
それでもきっと、俺は迷うことなくその手に力を込められるだろう。だって俺には信じるものがあるから。
「ありがとう、ここまで僕を信じてくれて」
「急にどうしたんですか」
「別に。ただ、言いたくなっただけ」
「そうやって一人で勝手に満足して……後で問いただしてやりますからね」
「怖いなぁ。優しくしてね?」
そう言って、二人で笑い合って。
重たい扉に手を置いた。
「行こう……この時のために、僕は生きてきたんだ」
「イエス・マイロード」
ギィ、と重たい音を立てて、扉がゆっくりと開かれた。
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