57 / 62
4章
4-9
ノアが、神に乗っ取られてしまった。
その事実が頭から離れない。しかし耳にこびりついた「助けて」というノアの声が俺を正気に引き戻してくれる。
そうだ。俺が、助けなければ。信じると誓ったんだ。何があっても守ると。最後まで隣にいると。
俺が、ノアの隣にいたいんだと。
俺が、自分に、そう誓ったから。
「何が神だ、ふざけるな……絶対に取り戻してやる」
託されたシグネットリングを握りしめる。感情が抑えきれなかったのか、シグネットリングがパキリと音を立てた。そっと手のひらを開いてみると、台座の部分がわずかにずれている。壊れたにしては切れ口が綺麗すぎる。
不自然だと思いよく見てみると、中から小さな紙が出てきた。
「これは……?」
小さなリングに隠せるほど、その紙も小さい。落とさないよう慎重に開いてみると、中には百合の花が描かれていた。よく見るとただの百合ではなく、北都サンジーリョの守護神である、女神フィリアの紋章だった。
なぜこんなものを、ノアは俺に託したのだろう。
そしてこの紋章の意味は、いったい何だろう。
考えろ。ノアが意味のないことをするはずがない。きっとノアは、最初からこうなることがわかっていたんだ。国王と対峙し、自分が神に乗っ取られることを想定していた。そして、その後どこに向かうかまで見通していた。
だとしたら、この紋章の意味は。
「サンジーリョの、総本山か」
聖都とも言われるサンジーリョには、神の総本山である神殿が建てられている。そこには各地で捧げられた供物が集められ、信仰心の強い人が巡礼に訪れることも多い。ノアが向かったのはきっとそこだ。
何が理由かは分からないがノアにはまだ自我が残っていた。完全に取り込まれるには時間がかかるのだろう。そうなると、少しでも早くノアのところに向かい、救い出さなくてはいけない。
「それに……久しぶりにお説教だな、これは」
一人で全部抱え込みやがって。俺に何も言わず、たった一人でこんなにも苦しくて、悲しいことをするなんて。
お前は本当、どうしてそんなにも自分勝手なんだ。
今も、昔も。
「ジョシュア! 大丈夫か!」
「レオ」
割れたガラスの外に、飛龍に乗ったレオが見えた。重たい体を必死に起こしてレオのところまで歩く。一歩、足を動かすたびに胸の奥で何かが燃え上がるような気がした。
隣にノアがいない。もう二度と戻ってこないかもしれない。俺以外の誰かに奪われてしまった。そう考えると今まで生きてきて一度も感じたことのない感情が込み上げてくる。忠誠か、信頼か、惰性か、盲信か。そんなもの、どうでもいい。
俺はただ、ノアが欲しい。ただそれだけなのだ。
「レオ、飛龍を借りるぞ」
「え、いいけど……お前大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「詳しくは後で話す。伯爵様に、今すぐ北都に向かうよう伝えてくれ」
「わかった。なあ、どうしたんだお前。別人みたいだぞ」
そんなこと俺も分からないよ。怒っているわけでもない、悲しんでいるわけでもない。絶望に打ちひしがれているわけじゃない。体が、心が、本能で求めているだけなんだ。
「ノアが神に乗っ取られた。だから、助けにいく」
「ロードが? でもお前だけじゃ無理だろ! 援軍を待った方が……」
「俺が助ける。今までノアのことを心から信じられなかった。言葉では信じていると言っていても、心のどこかでは疑っていた。ノアはそんな俺をわかった上で、理解した上で俺のことを信じ続けていた。だから」
だから。今度は、俺の番だ。
目の前からいなくなって初めて気づいた。ノアが俺を形作る大きなものだった、と。
「今度こそ、ちゃんとノアを信じて、俺がノアを助けにいく」
そう言い残して飛龍の手綱を握り、背中に跨った。何か言いたそうなレオを残して一気に北都へと向かう。冷たい風が頬に触れ、痛みさえ感じる。しかし冷気は熱となり、俺の心をいっそう熱く燃え上がらせた。
ここから北都の総本山までは、空を飛べば一時間もかからないだろう。
今まで感じたことのない速さで空を飛ぶ。頭の中ではずっと、ノアのことだけを考えていた。
その事実が頭から離れない。しかし耳にこびりついた「助けて」というノアの声が俺を正気に引き戻してくれる。
そうだ。俺が、助けなければ。信じると誓ったんだ。何があっても守ると。最後まで隣にいると。
俺が、ノアの隣にいたいんだと。
俺が、自分に、そう誓ったから。
「何が神だ、ふざけるな……絶対に取り戻してやる」
託されたシグネットリングを握りしめる。感情が抑えきれなかったのか、シグネットリングがパキリと音を立てた。そっと手のひらを開いてみると、台座の部分がわずかにずれている。壊れたにしては切れ口が綺麗すぎる。
不自然だと思いよく見てみると、中から小さな紙が出てきた。
「これは……?」
小さなリングに隠せるほど、その紙も小さい。落とさないよう慎重に開いてみると、中には百合の花が描かれていた。よく見るとただの百合ではなく、北都サンジーリョの守護神である、女神フィリアの紋章だった。
なぜこんなものを、ノアは俺に託したのだろう。
そしてこの紋章の意味は、いったい何だろう。
考えろ。ノアが意味のないことをするはずがない。きっとノアは、最初からこうなることがわかっていたんだ。国王と対峙し、自分が神に乗っ取られることを想定していた。そして、その後どこに向かうかまで見通していた。
だとしたら、この紋章の意味は。
「サンジーリョの、総本山か」
聖都とも言われるサンジーリョには、神の総本山である神殿が建てられている。そこには各地で捧げられた供物が集められ、信仰心の強い人が巡礼に訪れることも多い。ノアが向かったのはきっとそこだ。
何が理由かは分からないがノアにはまだ自我が残っていた。完全に取り込まれるには時間がかかるのだろう。そうなると、少しでも早くノアのところに向かい、救い出さなくてはいけない。
「それに……久しぶりにお説教だな、これは」
一人で全部抱え込みやがって。俺に何も言わず、たった一人でこんなにも苦しくて、悲しいことをするなんて。
お前は本当、どうしてそんなにも自分勝手なんだ。
今も、昔も。
「ジョシュア! 大丈夫か!」
「レオ」
割れたガラスの外に、飛龍に乗ったレオが見えた。重たい体を必死に起こしてレオのところまで歩く。一歩、足を動かすたびに胸の奥で何かが燃え上がるような気がした。
隣にノアがいない。もう二度と戻ってこないかもしれない。俺以外の誰かに奪われてしまった。そう考えると今まで生きてきて一度も感じたことのない感情が込み上げてくる。忠誠か、信頼か、惰性か、盲信か。そんなもの、どうでもいい。
俺はただ、ノアが欲しい。ただそれだけなのだ。
「レオ、飛龍を借りるぞ」
「え、いいけど……お前大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「詳しくは後で話す。伯爵様に、今すぐ北都に向かうよう伝えてくれ」
「わかった。なあ、どうしたんだお前。別人みたいだぞ」
そんなこと俺も分からないよ。怒っているわけでもない、悲しんでいるわけでもない。絶望に打ちひしがれているわけじゃない。体が、心が、本能で求めているだけなんだ。
「ノアが神に乗っ取られた。だから、助けにいく」
「ロードが? でもお前だけじゃ無理だろ! 援軍を待った方が……」
「俺が助ける。今までノアのことを心から信じられなかった。言葉では信じていると言っていても、心のどこかでは疑っていた。ノアはそんな俺をわかった上で、理解した上で俺のことを信じ続けていた。だから」
だから。今度は、俺の番だ。
目の前からいなくなって初めて気づいた。ノアが俺を形作る大きなものだった、と。
「今度こそ、ちゃんとノアを信じて、俺がノアを助けにいく」
そう言い残して飛龍の手綱を握り、背中に跨った。何か言いたそうなレオを残して一気に北都へと向かう。冷たい風が頬に触れ、痛みさえ感じる。しかし冷気は熱となり、俺の心をいっそう熱く燃え上がらせた。
ここから北都の総本山までは、空を飛べば一時間もかからないだろう。
今まで感じたことのない速さで空を飛ぶ。頭の中ではずっと、ノアのことだけを考えていた。
あなたにおすすめの小説
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜
天気
BL
完結に向けて頑張ります
5月中旬頃完結予定です
その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
転生したら最強辺境伯に拾われました
マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。
死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。
神子の余分
朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。
おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。
途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。