いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

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4章

4-9

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 ノアが、神に乗っ取られてしまった。
 その事実が頭から離れない。しかし耳にこびりついた「助けて」というノアの声が俺を正気に引き戻してくれる。
 そうだ。俺が、助けなければ。信じると誓ったんだ。何があっても守ると。最後まで隣にいると。
 俺が、ノアの隣にいたいんだと。
 俺が、自分に、そう誓ったから。
「何が神だ、ふざけるな……絶対に取り戻してやる」
 託されたシグネットリングを握りしめる。感情が抑えきれなかったのか、シグネットリングがパキリと音を立てた。そっと手のひらを開いてみると、台座の部分がわずかにずれている。壊れたにしては切れ口が綺麗すぎる。
 不自然だと思いよく見てみると、中から小さな紙が出てきた。
「これは……?」
 小さなリングに隠せるほど、その紙も小さい。落とさないよう慎重に開いてみると、中には百合の花が描かれていた。よく見るとただの百合ではなく、北都サンジーリョの守護神である、女神フィリアの紋章だった。
 なぜこんなものを、ノアは俺に託したのだろう。
 そしてこの紋章の意味は、いったい何だろう。
 考えろ。ノアが意味のないことをするはずがない。きっとノアは、最初からこうなることがわかっていたんだ。国王と対峙し、自分が神に乗っ取られることを想定していた。そして、その後どこに向かうかまで見通していた。
 だとしたら、この紋章の意味は。
「サンジーリョの、総本山か」
 聖都とも言われるサンジーリョには、神の総本山である神殿が建てられている。そこには各地で捧げられた供物が集められ、信仰心の強い人が巡礼に訪れることも多い。ノアが向かったのはきっとそこだ。
 何が理由かは分からないがノアにはまだ自我が残っていた。完全に取り込まれるには時間がかかるのだろう。そうなると、少しでも早くノアのところに向かい、救い出さなくてはいけない。
「それに……久しぶりにお説教だな、これは」
 一人で全部抱え込みやがって。俺に何も言わず、たった一人でこんなにも苦しくて、悲しいことをするなんて。
 お前は本当、どうしてそんなにも自分勝手なんだ。
 今も、昔も。
「ジョシュア! 大丈夫か!」
「レオ」
 割れたガラスの外に、飛龍に乗ったレオが見えた。重たい体を必死に起こしてレオのところまで歩く。一歩、足を動かすたびに胸の奥で何かが燃え上がるような気がした。
 隣にノアがいない。もう二度と戻ってこないかもしれない。俺以外の誰かに奪われてしまった。そう考えると今まで生きてきて一度も感じたことのない感情が込み上げてくる。忠誠か、信頼か、惰性か、盲信か。そんなもの、どうでもいい。
 俺はただ、ノアが欲しい。ただそれだけなのだ。
「レオ、飛龍を借りるぞ」
「え、いいけど……お前大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「詳しくは後で話す。伯爵様に、今すぐ北都に向かうよう伝えてくれ」
「わかった。なあ、どうしたんだお前。別人みたいだぞ」
 そんなこと俺も分からないよ。怒っているわけでもない、悲しんでいるわけでもない。絶望に打ちひしがれているわけじゃない。体が、心が、本能で求めているだけなんだ。
「ノアが神に乗っ取られた。だから、助けにいく」
「ロードが? でもお前だけじゃ無理だろ! 援軍を待った方が……」
「俺が助ける。今までノアのことを心から信じられなかった。言葉では信じていると言っていても、心のどこかでは疑っていた。ノアはそんな俺をわかった上で、理解した上で俺のことを信じ続けていた。だから」
 だから。今度は、俺の番だ。
 目の前からいなくなって初めて気づいた。ノアが俺を形作る大きなものだった、と。
「今度こそ、ちゃんとノアを信じて、俺がノアを助けにいく」
 そう言い残して飛龍の手綱を握り、背中に跨った。何か言いたそうなレオを残して一気に北都へと向かう。冷たい風が頬に触れ、痛みさえ感じる。しかし冷気は熱となり、俺の心をいっそう熱く燃え上がらせた。
 ここから北都の総本山までは、空を飛べば一時間もかからないだろう。
 今まで感じたことのない速さで空を飛ぶ。頭の中ではずっと、ノアのことだけを考えていた。
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