いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

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エピローグ

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「ノア、待て! なんで逃げるんだ!」
 ある日の昼下がり、俺は中庭に繋がる廊下を全力で走っていた。目の前には金色の髪を揺らしながら必死に逃げる姿が見える。走る速さは俺の方が上回っているため、少しずつだが背中が大きくなってきた。
「だ、だから! その話は、今度って言っただろ!」
「今度っていつだよ! さっさと腹を括れ!」
 ちょうど昼休憩の時間だったため、中庭には癒しを求めて何人かの人間が集まっていた。そんな場所であの話をすることもできないと察したのか、ノアは一瞬だけ息を飲む。その隙をついて一気に加速し、ようやくノアの腕を掴むことに成功した。
 二人して汗だくになり、ゼェゼェと息を切らしている。側から見たらおかしな光景だろうが、周りの人たちは「またか」と言った感じで見て見ぬふりをしてくれていた。
「頼むから、逃げるのはやめてくれ。心配になる」
「そ、そうだけど! じゃあ追いかけるのやめてよ!」
「逃げられたら追いかけるだろ」
「全力すぎて怖いんだよ、ジョシュアは!」
 走り疲れてその場に座り込む。勝手に逃げられないように後から抱きしめたままにしていたが、流石に諦めたのかノアは大人しくしていた。鼻先をつむじに押し当てる。ハニーブロンドの髪からはサンダルウッドの甘やかな香りがしていた。
「逃げるほど嫌なのか」
「嫌、ってわけじゃないんだ……ただ純粋に、恥ずかしいというか」
「今更だろ」
「だからだよ! 心の準備っていうか、か、体の準備っていうか……」
 モゴモゴ何か呟いて体を縮こませている。その様子を見ていると、胸の奥から温かい何かが込み上げてきた。
 たまらずノアを抱え込んでいた腕に力を込める。汗で熱を帯びた肌がシャツ越しに感じ取られて、ますます胸が熱くなった。
「おー、またやってる。本当に仲がいいなぁ、ジョシュアとノア様は」
「レオ! からかわないで!」
「事実ですよぉ、ノア様」
 通りすがりのレオがニヤニヤ笑いながら声をかけてきた。今までだったら上手に受け流せていたノアが、顔を真っ赤にして噛み付いている。そうやって反応するからレオも楽しんでいるんだけど。
 面白いから言わないでおく。
「いちゃつくなら部屋でやってくださいね。ここ、一応公共の場なんで」
「だからぁ、違うってぇ……」
 以前よりもコロコロと変わる表情が愛おしくてたまらない。ようやく過去のしがらみから解放されて自分らしく生きられるようになったのか。
 困ったように、でも心から楽しそうに笑うノアの顔を見て。
 本当の光はここにあったのだと、強く強くノアの体を抱きしめた。
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