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1章
1-11
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座ったまま寝たせいか、俺はずっと浅い眠りを繰り返していた。夕方からずっと慌ただしかったせいでまだ頭が整理されていない。ずっと起きているような、寝ているような、そんな不思議な感覚の中で何度もノア様が俺の名前を呼んでいた。
返事をしたいけれど、声が出ない。手を伸ばしても届かない。足元が沼に囚われているような感覚だ。早くここから抜け出さないと。じゃないと、ノア様が一人になってしまう。
「ジョシュア、朝だよ」
「は……朝……?」
「おはよう。よく眠れた?」
耳元から聞こえた声は紛れもなくノア様のものだ。それまでふわふわと浮いていたような感覚から、一気に冷たい石壁とゴツゴツした床に引き戻される。変な寝方をしたせいか体が痛い。
それに、普段は俺が叩き起こしているノア様に起こされるなんて。やっぱり昨日の出来事は夢じゃなかったんだ。
「ノア様、お身体は大丈夫ですか」
「うん。これまでのノアはもう副人格になっているから寝ている間も出てこなかったよ」
「いやそうではなくて……ちゃんと眠れたかを聞いているんです」
こんなひどい場所で快眠は難しいだろうが、それでも少しは疲れが取れていたらいいなと思った。よく考えてみたら俺よりもノア様の方が大きな変化を感じているんだ。いくら何度も経験していると言っても、やはり負担はあるだろう。
主人格とか副人格とか難しいことはわからない。でも、目の前にいるノア様が苦しんでいないかということだけが頭に浮かんでいた。そう伝えると、なぜかノア様は不思議そうな顔をした後、今度は困ったように笑った。
「何がおかしいんですか」
「いや、やっぱりジョシュアはジョシュアだなと思っただけ」
「……あなたの中身がなんであれ、ノア様であることには違いありません。主人のことを心配するのは従者として当然でしょう」
「そうだね。ほら、もうすぐ父上たちがやってくる。用意をしよう」
まだ日が出たばかり。そんなにも早く事は動くだろうか。ノア様の言うことが正しければ、今日、王太子が崩御する。そしてその原因はベルリアンにあると言われるのだ。その先に待っているのは国王軍と聖騎士団がベルリアンに攻め込んでくるという未来だ。
そんな最悪の未来が本当に訪れるのか。起きなければいいと願う。しかし、そうなったらノア様の言うことが全て嘘になり、不敬罪で処罰されてしまう。そんな未来だって俺は望んでいない。俺は何を願えばいいのか。一晩寝ても答えは出てこないままだった。
「ノア様、ジョシュア! 起きているか!」
「父上、どうされたんですか」
突然、監禁部屋の扉が勢いよく開かれた。飛び込んできたのは父上で、普段は見られない慌てた様子だ。それだけでただ事ではないことが伝わってくる。どんな状況でも冷静沈着な父上がこんなにも顔色を変えるなんて。
まさか、ノア様の言ったことが本当に起きてしまったのだろうか。
「セオドラ、何があったか聞かせてくれる?」
「は……王太子が昨晩……崩御されました」
「な……っ!?」
頭のどこかで、もしかしたら、と覚悟していた。しかし完全に信じられなかったことも事実だ。ノア様の言っていることが事実だということがこれではっきりしてしまった。そうなるとこの後ベルリアンに待っている未来は悪夢でしかない。
背中に冷たい汗が流れる。手が震えた。頼むから嘘であってくれと願ってしまう。心臓に冷たい風が吹き込んだ。
「国王の声明は?」
「王太子殿下は昨晩、ベルリアンで作られた食材を召し上がった後に体調を崩し、そのまま崩御されたとのことです」
「毒殺だろうね。食材は関係ない。おそらく犯人は王室の誰か。表立って訴えることができないからベルリアンに責任を押し付けたんだと思う」
ノア様は淡々と言葉を紡ぎ、左手の人差し指で唇を撫でた。
「父上のところに行こう。今後のことを話し合わないとベルリアンが滅んでしまう」
「しかし、まだ伯爵様の了承が……!」
「構わん。伯爵様からの伝言だ。今すぐノア様とジョシュアを執務室に連れて来い、とな」
そう言って父上は柵の鍵を開けた。重たい音を立てて柵が開く。
父上に促され、俺たち二人は執務室に向かうための階段を登り始めた。
返事をしたいけれど、声が出ない。手を伸ばしても届かない。足元が沼に囚われているような感覚だ。早くここから抜け出さないと。じゃないと、ノア様が一人になってしまう。
「ジョシュア、朝だよ」
「は……朝……?」
「おはよう。よく眠れた?」
耳元から聞こえた声は紛れもなくノア様のものだ。それまでふわふわと浮いていたような感覚から、一気に冷たい石壁とゴツゴツした床に引き戻される。変な寝方をしたせいか体が痛い。
それに、普段は俺が叩き起こしているノア様に起こされるなんて。やっぱり昨日の出来事は夢じゃなかったんだ。
「ノア様、お身体は大丈夫ですか」
「うん。これまでのノアはもう副人格になっているから寝ている間も出てこなかったよ」
「いやそうではなくて……ちゃんと眠れたかを聞いているんです」
こんなひどい場所で快眠は難しいだろうが、それでも少しは疲れが取れていたらいいなと思った。よく考えてみたら俺よりもノア様の方が大きな変化を感じているんだ。いくら何度も経験していると言っても、やはり負担はあるだろう。
主人格とか副人格とか難しいことはわからない。でも、目の前にいるノア様が苦しんでいないかということだけが頭に浮かんでいた。そう伝えると、なぜかノア様は不思議そうな顔をした後、今度は困ったように笑った。
「何がおかしいんですか」
「いや、やっぱりジョシュアはジョシュアだなと思っただけ」
「……あなたの中身がなんであれ、ノア様であることには違いありません。主人のことを心配するのは従者として当然でしょう」
「そうだね。ほら、もうすぐ父上たちがやってくる。用意をしよう」
まだ日が出たばかり。そんなにも早く事は動くだろうか。ノア様の言うことが正しければ、今日、王太子が崩御する。そしてその原因はベルリアンにあると言われるのだ。その先に待っているのは国王軍と聖騎士団がベルリアンに攻め込んでくるという未来だ。
そんな最悪の未来が本当に訪れるのか。起きなければいいと願う。しかし、そうなったらノア様の言うことが全て嘘になり、不敬罪で処罰されてしまう。そんな未来だって俺は望んでいない。俺は何を願えばいいのか。一晩寝ても答えは出てこないままだった。
「ノア様、ジョシュア! 起きているか!」
「父上、どうされたんですか」
突然、監禁部屋の扉が勢いよく開かれた。飛び込んできたのは父上で、普段は見られない慌てた様子だ。それだけでただ事ではないことが伝わってくる。どんな状況でも冷静沈着な父上がこんなにも顔色を変えるなんて。
まさか、ノア様の言ったことが本当に起きてしまったのだろうか。
「セオドラ、何があったか聞かせてくれる?」
「は……王太子が昨晩……崩御されました」
「な……っ!?」
頭のどこかで、もしかしたら、と覚悟していた。しかし完全に信じられなかったことも事実だ。ノア様の言っていることが事実だということがこれではっきりしてしまった。そうなるとこの後ベルリアンに待っている未来は悪夢でしかない。
背中に冷たい汗が流れる。手が震えた。頼むから嘘であってくれと願ってしまう。心臓に冷たい風が吹き込んだ。
「国王の声明は?」
「王太子殿下は昨晩、ベルリアンで作られた食材を召し上がった後に体調を崩し、そのまま崩御されたとのことです」
「毒殺だろうね。食材は関係ない。おそらく犯人は王室の誰か。表立って訴えることができないからベルリアンに責任を押し付けたんだと思う」
ノア様は淡々と言葉を紡ぎ、左手の人差し指で唇を撫でた。
「父上のところに行こう。今後のことを話し合わないとベルリアンが滅んでしまう」
「しかし、まだ伯爵様の了承が……!」
「構わん。伯爵様からの伝言だ。今すぐノア様とジョシュアを執務室に連れて来い、とな」
そう言って父上は柵の鍵を開けた。重たい音を立てて柵が開く。
父上に促され、俺たち二人は執務室に向かうための階段を登り始めた。
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