いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

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1章

1-15

 夜、長かった軍議もようやく終わった。ノア様の意見はまだ聞いてもらえない。それでも諦めずに何度も進言しているのは、なんとしてでもこの戦いを両者無傷で終わらせたいという気持ちがあるからだろう。最初は攻撃型の陣形で進んでいたが、今日の軍議で防衛型の陣形を取ることに決まった。

 これでようやく最初の一歩だ。伯爵様も安心しているだろう。

 それにしても、気を抜くと疲労感がどっと押し寄せてくる。朝から夜まで忙しく動いているためだ。兵士たちの訓練もあるし、自分の訓練もある。軍議には必ず同席しているから寝る時間も遅くなるから疲れが取れない。

 伯爵様たちは俺よりもずっと忙しいんだ。甘えたことは言っていられない。

 ノア様の寝る支度が終わったら俺も早く寝よう。今日はもう入浴も済ませているから、あとは明日の予定を伝えたらおしまいだ。時間が遅いため、廊下の火は全て消されていた。手にした蝋燭だけで足元を照らし、ノア様の部屋に向かう。

 ノックをすると、返事はない。あの日から必ず返事をしてくれているのに。まさか、元の人格に戻ってしまったのか? いや、まだその話は信じていないけれど。音を立てないようにドアを開けると、奥にある机に小さな灯りが見えた。どうやらまだ起きていたらしい。

「ノア様、そろそろお休みの……ノア様?」

 呼びかけても返事がなく、近づいてみると机に突っ伏して眠るノア様がいた。戦術書を開き、万年筆を握ったままだ。ペン先が紙に滲みを作っている。うっすらと開いた唇から細い寝息が漏れていた。

 橙色の火がハニーブロンドの髪を照らして、柔らかく瞬いている。

 思わず髪に手を伸ばしそうになって、ぴたりと手を止めた。

 いやいや、なんで頭を撫でそうになっているんだ。相手はノア様だぞ。あの我儘放題で自分勝手な、ノア様だ。

 そう、思ってみるけれど。

「……こんな時に風邪を引かれたら困りますからね」

 起こさないようにゆっくりと体を抱き上げる。腕の下と膝裏に手を回して、そっと持ち上げた。身長は俺とあまり変わらないけれど随分と軽い。ベッドに横たえても起きる気配はなかった。どうやら思いの外ぐっすりと眠っているらしい。

 毛布をかけてやると何か言いたそうに口元が動いていた。それにつられて髪がふわふわ揺れる。今度こそ手を伸ばして、そろりと頭を撫でた。

「俺は……あなたを信じてもいいのでしょうか、ノア様」

 信じたら、何かが変わるかもしれない。俺も、ノア様も、ベルリアンも。

 心から信じられない俺は従者失格なのだろうか。

 あなたはこんなにも変わったのに、俺だけが一人取り残されている。ろうそくの火が揺らめく中、俺はノア様の髪を撫で続けていた。
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