いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

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2章

2-2

 国王軍が攻め込んでくるのは一ヶ月後だ。それまでの間に素人兵士たちをそれなりに動ける兵士に仕上げなければいけない。最初におおよその陣形の説明をし、動き方を教える。敵と直接戦うのは俺たち正規軍だけだ。即席の兵士たちには包囲のために動いてもらう。上手くいけば一度も剣を交えることなく戦いが終わるという戦法だ。

 しかし、少しでも臆して退けばあっという間に攻め込まれる。だから、ある程度の剣術は教えておかないといけない。今までは俺も指南役を担っていたが、今はノア様につきっきりだ。ノア様が先頭に立つ以上、騎士である俺も同じ場所で備えることになる。お互いの連携が重要になるため、昼間の訓練はずっと二人で行っていた。

「ノア様は基本的に馬上での戦いになるでしょう。しかしいざという時のために、剣技も磨いておかなければなりません」
「そうだね。僕も槍より剣の方が使い慣れてる」
「いや、慣れては……いない、と思いますが」

 そもそも幼い頃から決められたことから逃げ回ってきたノア様だ。特に体を動かす剣術は十八年で片手で収まる程度しか訓練を受けていない。そのわずかな機会も隙を見つけて逃げ出したくらいだ。

 だから槍とか剣とか言う前に、武器の扱いにすら慣れていない。はず、だけど。

「……なかなか様になりますね」
「そうかな」

 サーベルを手に、下段に構える姿は言葉通り慣れているように見えた。そのままゆったりと頭上まで振り上げ、空を切るように振り下ろす。ヒュン、と鋭い音が響いた。一体いつの間に訓練したのだろう。

 しかもノア様が手にしているのは刀身の重たいサーベルだ。他の剣と違い、叩き潰すのではなく斬り裂くことを目的にしている。おまけに両刃ではなく片刃のため、扱いづらいはずなのに。

「やっぱり木刀よりかなり重いね。慣れていかないと」
「ぼくとう? それはなんですか」
「昔振っていたんだ。色々と試したけれど、やっぱり両刃には慣れなくてさ。片刃のものにしようと思ったらサーベルしかなかったんだ」
「はあ……」

 だめだ、やっぱり何もわからない。剣といえば両刃が主流であり、重さがネックになるのならサーベルよりも軽いバスタードソードを使えばいい。ほとんど出回っていない片刃を選ぶのは、合理的じゃない気もする。

 ノア様にはノア様の考えがあるのかもしれないが。

 それがベルリアンのためになるのであれば、俺もわからないなりに協力したい。

「ヤコフに頼んで、軽いサーベルを用意しましょう」
「え?」

 このまま重たいサーベルを使っているといずれ無理をして体に支障が出てしまうかもしれない。そうなると、この作戦自体が終わってしまう。他の兵士であれば問題ないが、ノア様は先頭に立って、直接敵と斬り合う可能性が高い。

 そうなった時、使いづらい武器よりも扱いやすいものの方がいいだろう。そのためならヤコフ爺さんに頭を下げて専用の武器を作ってもらうくらい容易いものだ。

「ノア様の体に合わせた専用のサーベルです。片刃で、軽く、扱いやすいものを作りましょう」
「でも」
「お任せください、ヤコフ爺さんには俺が話をつけます。すぐに必要であれば俺も空いた時間に手伝うので」
「ま、待って待って! どうして急に、そんな、僕のために」

 どうして、だなんて。そんなのノア様のために決まっている。それ以外に何があると言うんだ。そこまで考えて、はたと気がついた。そうだ、俺は今までノア様に頼まれて初めて動いていた。しかし今は、自分からノア様のために何かをしようとしている。

 だから、ノア様は困惑しているのだ。初めて俺から与えられようとして、慌てふためいている。従者が主人のために先手を打って何かを用意することは当たり前の話ではあると言うのに。

 俺たちは、そんな当たり前ですらできていなかったのか。

「ノア様が不必要であるというのならやめておきます」
「そんなことない、むしろありがたいよ。でも、僕なんかのために」
「貴方だから、です。私は貴方の従者ですから」
「そっか……うん、ありがとう」

 そうしてやっと、俺たちは少しだけ正しい主従の形に近づいたのかもしれない。その事実が嬉しくて、柄を握る手に力がこもった。
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