いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる

文字の大きさ
21 / 62
2章

2-5

 ノア様は届いたばかりの木刀を、俺は使い慣れたロングソードの訓練用の剣を手にする。右足を大きく引き、柄を顔まで引き上げた。やや高めの中段で刃を寝かせて静止する。グッと重心を落として構えてノア様に向き合う。ロングソードは攻撃と防御を同時に行う剣術だ。俺とノア様の身長差は約6センチ、それならば上段に近い中段で相手の動きを見る方が効率的だ。

 一体、どのように出てくるか。じっと様子を見ていると、ノア様は木刀を中段に構えた。切先がやや斜めに傾いているところを見ると、鉄の扉と呼ばれる構えだとすぐにわかった。しかし、足の開きが俺とは逆だ。左足を引き、踵がわずかに浮いている。重心がここまで前に来るとは。しかも体に無駄な力が入っていない。どこかリラックスしているかのようにも見える。

 それなのにどこにも隙がない。少しでもこちらが動けば斬り込まれるような、そんなピンと張り詰めた緊張感がある。今までのノア様からは考えられない、研ぎ澄まされた雰囲気を嫌というほど感じた。

「どこからでもいいよ、ジョシュア」
「ノア様こそ。本気で向かってきてください」
「言われなくても」

 その言葉を合図に、俺は引いていた右足を思い切り踏み出した。俺よりも身長の低いノア様は中段からの振り下ろしに弱いはずだ。俺の一撃を避けたところで下から切り上げる。そうすれば簡単に勝てると、そう思っていたのに。

 切りつけた先に、ノア様の姿はなかった。

「な……っ!」

 ノア様は音もなく俺の左側に動いていた。あ、と思う前に左手の甲を木刀で叩かれる。予想していなかった攻撃に思わず重心がブレた瞬間、喉元に木刀の剣先が突きつけられていた。喉を突かれる直前にぴたりと止められた剣先は、もし本物だったら確実の俺の喉を貫いていただろう。

 こんなにも簡単に、再び懐に入り込まれるとは。しかもたった一撃で。こうもあっさりと、急所を突かれるなんて。

「……一本、だね」
「ま、参りました」

 間違いなく俺の負けだ。油断していたという言い訳を抜いてもノア様は間違いなく強かった。俺とは異なる剣術を身につけている。

「ああ、久しぶりだったから緊張したなぁ」
「久しぶりと言いますが、今まで一度も手合わせはしていませんよ」
「こっちの世界ではね。ロングソードもサーベルも色々試したけど、やっぱり僕にはこれが一番使いやすい」

 また、こっちの世界と言った。それならこちらではない、別の世界でこの剣術を身につけたというのだろうか。力で押していく俺の剣術とは違い、ノア様はすり足で重心をずらし、流れるように俺の弱点を的確に狙ってきた。まさに、無駄のない動きだ。

 ロングソードは左手で剣先をコントロールする。逆に言うとそこが一番の弱点だ。また、力で押しつぶすような動きをするため重心は後ろから前に移動させる。だが、それにより隙が多くことも事実だ。

 ノア様はそれらを全て理解した上で、わずかな動きだけで俺に勝った。

「す、すごい……すごいです、ノア様!」
「あはは、そんなに褒められると照れちゃうね」
「一体どこでそんな技を身につけられたのですか!」
「うーん……なんて言えばいいかな」

 少し悩んだあと、ノア様は汗を拭いながら俯いた。そして小さな声で「君のいない世界で、だよ」と呟いた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
完結に向けて頑張ります 5月中旬頃完結予定です その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。 ​死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。