22 / 62
2章
2-6
それから俺とノア様は毎日手合わせを行った。ノア様の剣術は「剣道」と言うそうで、昔から伝えられているものらしい。俺とは違い、すり足で重心を移動させ、斬撃を受けてはうまく流していく。相手に隙が生まれた瞬間、的確に相手の弱点を切り裂いていく。ヤコフ爺さんに頼んで作ってもらった武器は、その動きに適したものになっているのだとか。
なるほど、裏刃と表刃で色が違っていたのはそのためか。焼き入れの際に何か手を加えて、受ける裏刃はしなやかに、切り込む表刃は硬く鋭く仕上げられている。こんなもの、フィカリア王国のどこを探しても見つけることはできない。
「とは言っても、馬上ではまた戦い方が変わるんだけどね」
「そちらの訓練はよろしいのですか?」
「うん。そうなる前に終わらせる。そのためにみんな訓練してるしね」
手合わせの後、お互い汗を拭いながら訓練場に目を向けた。俺たちがいる中庭から訓練場は直線上にあるため、少し視線を向けるだけですぐに様子を知ることができる。国王軍と聖騎士団が攻め込んでくるまで、残り一週間を切った。兵士たちは朝から晩まで陣形移動の訓練をしている。
ベルリアンの地図を用いて動きを確認し、実際に鎧を身につけて動いてみる。想像以上に重たい鎧を着込んで動くのは慣れるまで苦労を要する。完全包囲のためには少しでも早く移動し、周囲を囲むことが大切だ。そのためにも実践を想定して何度も移動を繰り返していた。
「僕が刀を使うのは最後の手段だ」
「はい。そうならないためにも、全力でお守りします」
「心強いね、ジョシュアがそう言ってくれると」
動き回ったため汗が滴るのか、ノア様は何度も顔を拭っている。どこか疲れが滲んでいるように見えるのは、俺の見間違いではないだろう。それもそのはず、今までもかなり無理をしていたのだ。加えて今は実践形式の手合わせを何時間もしているのだ。
それに、国王軍と聖騎士団が攻めてくるという事実は、俺たちの気持ちを不安定にさせる。不安と、疲労と、心配を吹き飛ばすかのようにノア様は素振りを何度も繰り返していた。
このままだと敵が来る前にノア様が倒れてしまうかもしれない。そうなったら作戦が台無しだ。少しでも疲れを取ってあげたいと思い、ノア様の頬に手を伸ばした。
「ん? 何、どうしたの?」
「いえ。お疲れのようでしたので、光魔法を使おうと思いまして」
今までもこうやって何度も光魔法を使ってきた。大抵はなんて事のない理由だったけれど、今は正しく使うべきタイミングだろう。そう思って指先に魔力を貯めたが。
ノア様は、なぜか顔色を変えて後に飛び退いた。
「だめ! 光魔法は使わないで!」
「な、なぜですか? どう考えてもノア様はお疲れです、光魔法で癒した方がいいではありませんか」
「そんなことに光魔法を使わないで!」
いやいや、どの口が言っているんですか。今まで俺が同じことを貴方に言ってきましたよね? その度にひどい癇癪を起こしていたのはどこの誰か覚えていますか? そもそも、光魔法って傷を癒すためにあるんですよ、今使わないで、いつ使うんですか。
などなど、言葉は溢れてくるが必死に飲み込んでおく。主人に反論するなんて従者がしていいことではない。
「とにかく、ジョシュアは光魔法を使わないで、絶対に」
「しかし、いざという時があるかもしれません」
「それでも、絶対に、だめ!」
「わ、わかりました! わかりましたから」
今までにない強い否定に驚いてしまい、思わず頷いてしまった。しかしなぜこうも光魔法を使うなと言うのだろうか。今までは使わなくていいことにまで使わせていたのに。
どうにも腑に落ちないが、ここはとりあえず納得しておくことにする。しかし、もしもノア様が怪我を負った時は。その時はどんなに怒られても光魔法を使おう。俺が守るべきはノア様なんだ。何があっても、どんなに小さなことでも、傷つけてはいけない。
決戦まであと一週間。滋養のある食事を多めに食べさせようと思い、頭の中で献立を考えていた。
なるほど、裏刃と表刃で色が違っていたのはそのためか。焼き入れの際に何か手を加えて、受ける裏刃はしなやかに、切り込む表刃は硬く鋭く仕上げられている。こんなもの、フィカリア王国のどこを探しても見つけることはできない。
「とは言っても、馬上ではまた戦い方が変わるんだけどね」
「そちらの訓練はよろしいのですか?」
「うん。そうなる前に終わらせる。そのためにみんな訓練してるしね」
手合わせの後、お互い汗を拭いながら訓練場に目を向けた。俺たちがいる中庭から訓練場は直線上にあるため、少し視線を向けるだけですぐに様子を知ることができる。国王軍と聖騎士団が攻め込んでくるまで、残り一週間を切った。兵士たちは朝から晩まで陣形移動の訓練をしている。
ベルリアンの地図を用いて動きを確認し、実際に鎧を身につけて動いてみる。想像以上に重たい鎧を着込んで動くのは慣れるまで苦労を要する。完全包囲のためには少しでも早く移動し、周囲を囲むことが大切だ。そのためにも実践を想定して何度も移動を繰り返していた。
「僕が刀を使うのは最後の手段だ」
「はい。そうならないためにも、全力でお守りします」
「心強いね、ジョシュアがそう言ってくれると」
動き回ったため汗が滴るのか、ノア様は何度も顔を拭っている。どこか疲れが滲んでいるように見えるのは、俺の見間違いではないだろう。それもそのはず、今までもかなり無理をしていたのだ。加えて今は実践形式の手合わせを何時間もしているのだ。
それに、国王軍と聖騎士団が攻めてくるという事実は、俺たちの気持ちを不安定にさせる。不安と、疲労と、心配を吹き飛ばすかのようにノア様は素振りを何度も繰り返していた。
このままだと敵が来る前にノア様が倒れてしまうかもしれない。そうなったら作戦が台無しだ。少しでも疲れを取ってあげたいと思い、ノア様の頬に手を伸ばした。
「ん? 何、どうしたの?」
「いえ。お疲れのようでしたので、光魔法を使おうと思いまして」
今までもこうやって何度も光魔法を使ってきた。大抵はなんて事のない理由だったけれど、今は正しく使うべきタイミングだろう。そう思って指先に魔力を貯めたが。
ノア様は、なぜか顔色を変えて後に飛び退いた。
「だめ! 光魔法は使わないで!」
「な、なぜですか? どう考えてもノア様はお疲れです、光魔法で癒した方がいいではありませんか」
「そんなことに光魔法を使わないで!」
いやいや、どの口が言っているんですか。今まで俺が同じことを貴方に言ってきましたよね? その度にひどい癇癪を起こしていたのはどこの誰か覚えていますか? そもそも、光魔法って傷を癒すためにあるんですよ、今使わないで、いつ使うんですか。
などなど、言葉は溢れてくるが必死に飲み込んでおく。主人に反論するなんて従者がしていいことではない。
「とにかく、ジョシュアは光魔法を使わないで、絶対に」
「しかし、いざという時があるかもしれません」
「それでも、絶対に、だめ!」
「わ、わかりました! わかりましたから」
今までにない強い否定に驚いてしまい、思わず頷いてしまった。しかしなぜこうも光魔法を使うなと言うのだろうか。今までは使わなくていいことにまで使わせていたのに。
どうにも腑に落ちないが、ここはとりあえず納得しておくことにする。しかし、もしもノア様が怪我を負った時は。その時はどんなに怒られても光魔法を使おう。俺が守るべきはノア様なんだ。何があっても、どんなに小さなことでも、傷つけてはいけない。
決戦まであと一週間。滋養のある食事を多めに食べさせようと思い、頭の中で献立を考えていた。
あなたにおすすめの小説
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜
天気
BL
完結に向けて頑張ります
5月中旬頃完結予定です
その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
転生したら最強辺境伯に拾われました
マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。
死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。
神子の余分
朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。
おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。
途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。