おお勇者よ、封印を解くとは何事だ!?

半熟紳士

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第3話 全裸の魔王様

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 ――うん、ちょっと待て。

 展開がいきなりすぎて頭がついていけない。

 えっと、何がどうしてこうなったんだ?

「おーい? なんじゃ呆けたツラしよって。妾のオーラに圧倒されるのは分からない話ではないがの。」

 まず、これまでの記憶を整理しよう。

 あの理不尽すぎる異世界の後、僕はタソックの街で冒険者になったんだよな・・・・・・

「聞いておるのか? 無視されると妾は結構応えるのじゃがの。」

 チートも無いから、ドラゴンなどの強力モンスターに太刀打ち出来るはずもなく、ウサギっぽいモンスター(羽生えてる)やら、鹿っぽいモンスター(草生えてる)などの比較的大人しいモンスターを狩って生計をたててたんだっけ。

「おーい、死にたいのかー? そろそろ我慢の限界なんじゃが。」

 で、そんな生活を続けて1年。狩りにも慣れてきたしそろそろ大物狩ってやるかーと、森の奥深くまで進んだのがマズかった。

 調子に乗った僕を待ち構えていたのは、上級冒険者ですら手こずる巨大熊『サーモン・ハンター』だった。

 この世界でも鮭がいるのかという素朴な疑問はさておくとして、まあそんなヤツに僕が敵うはずも無かった。

 武器のダガー(五本セットで1000マニー)を一撃で粉砕され戦意を喪失した僕は、ひーこーら洞窟に逃げ込んだと言うわけだ。

「お、おい。聞こえているんじゃろ? 見えているんじゃろ? 何かしら反応をしたらどうじゃ?」

 そしてその後、洞窟の奥で謎の棺を発見したんだっけ。

 で、その中には、なぜか格ゲーのコントローラーと、『この封印を解く者すなわち、天に昇る竜の如き拳を持つ者なり』という謎の立て札。

 ・・・・・・まさかなーそんなことないよなーと思いつつ、『→↓↘+P』を入力した。

 次の瞬間、棺桶がまばゆい光を発し、気が付いたら、自称魔王様が宙に浮いていた、と言うワケなんだけど・・・・・・

「・・・・・・コレが本当に魔王なのかな?。」

「コレとは何じゃボケー!」

「ぱぶろふっ!?」

 空中で3回転し、地面に墜落した。

 いってー!

 なんだよさっきの空中三回転。

 死ぬかと思ったじゃないか。

「魔王たる妾が降臨したのじゃぞ? そのリアクションがコレとはなんじゃいコレとは!」

 さっきまで威厳たっぷりの笑みを浮かべていた魔王様は、なぜか涙目で激昂していた。

「いやいやちょい待ってタイムタイム! なんで解放してあげた僕がぶん殴られなきゃならんの!?」

 あまりの剣幕に、ずざざっと後退した。

「? ・・・・・・ふむ、それもそうじゃな。確かに少し感情的になっていたのは謝ってやろう、感謝せい。」

 じゃがな、と、紅い瞳をきらめかせ、魔王は実に不満そうに僕を睨め付ける。

「王たる妾のことを無視して、なにやらブツブツ呟くのは不敬に値するぞ? 人族のこわっぱよ。」

「いやこわっぱ・・・・・・って、おまえだって子供もじゃないか。僕と同い年くらいだろ?」

 僕の言葉に、魔王はぷっと吹き出した。

 くそう、不覚にも可愛いと思ってしまった。

「言っておくがの、妾は二百四十じゃ。貴様のような毛も生えておらんようなこわっぱと一緒にされるのは心外じゃが・・・・・・外見が外見だしの。特別に許す。」

「いや毛ぐらい生えてるから! そこまで子供じゃないし!」

 どことは言わないけど!

「・・・・・・て言うかさ、いい加減服着たら?」

 いい加減我慢の限界だったので、魔王が一糸まとわぬ全裸であるということを指摘することにした。

「服?」

「そうすっぽんぽんで堂々とされてちゃ、こっちまで恥ずかしくなってるんだよ。服くらい持ってるだろ?」

いや、もうね。本当に目のやり場に困るんだよ。

 しかも、背がちっちゃい癖にそこそこおっぱい大きいもんだから直視できない。

「確かに何も着とらんのう。なるほど、お主が先程から妾を薄目で見とったのはそのせいか。」

「なっ・・・・・・」

 オイ馬鹿! 本当のこと言うなよ!

 それじゃ僕が本当に変態みたいじゃないか!

「ふふふ、そう取り乱すなこわっぱ。万物生きとし生けるものすべて全裸でこの世に産み落とされるもの。誕生とは聖なることじゃ。故に、その時の姿をしていて誇ることはあれど、恥ずかしがる必要はあるまい!」

「あるよ! こっちが恥ずかしいって言ってるだろ!? お願いですから魔王様さっさと服着てください!」

 全裸でドヤァ・・・・・・! とする魔王に、たまらずひれ伏した。

 このままだと、謎の罪悪感に心臓が押しつぶされそうだ。

 せっかくサーモン・ハンターの魔の手(正確にはクマの手だけど)からやっとの思いで逃げ出したというのに、こんなところで全裸の魔王見て死んでしまったんじゃ、シャレにならない。

「・・・・・・そこまで妾の全裸が気に入らないか?」

「そうじゃなくて! 裸って時点でもうアウトなの! 僕的には!」

「ふうん・・・・・・しょうがないのう。」

 どこが不満なんじゃ? とかなんとか呟きながら、魔王は指を鳴らした。

 その瞬間、無数の光が彼女の元へと集まり、服を形成し始めた。

「な・・・・・・!?」

 驚きの声を上げる頃には、もう魔王は裸では無く、赤紫の着物を身に包んでいた。

 着物、と言っても京都の修学旅行で女子が来ているような物では無い。

 肩の部分は露出してるし、襟下はザックリと短くカットされ、その引き締まった生足を惜しげも無く晒しているしで、なんかもう、大和撫子が悲鳴を上げて倒れそうな感じの改造着物なのだった。

 ポジティブに動きやすいとでも思っておくか・・・・・・

「うむ、これで大丈夫じゃろう?」

 改造和服の布質を堪能するかのように袖を撫でながら、魔王は地に降り立った。

「まあ、大丈夫だな。結構きわどいけどまあ直視できない程度じゃ無いし。」

「当たり前じゃ。この覇王具トレークハイトは妾がデザインした型を元に形作られておる。直視できなかったらぷちっとやっておったぞ?」

 ぷちっ、てなんだよ。

 明らかに僕の身体潰れてんじゃねーか。

「さて、こんな辛気くさいところに長居は無用じゃ。ほれ、さっさと出るぞ・・・・・・そういえば、お主の名前を聞いてなかったの。名乗るが良い。」

 なんでこいつはいちいち上から目線なんだろう?

 まあ魔王らしいから、これが普通の態度って話もあるけど。

「金ケ崎蛍だ。冒険者をやってる。」

「カネガサキ、ケイ・・・・・・うむ、良い名じゃ。カネガサキケイ、カネガサキケイ・・・・・・よし、確かに覚えたぞ。ではケイよ、これからお主は妾の臣下だ。光栄に思うが良いぞ。」

 びしいっと僕を指して、魔王は言った。

「・・・・・・は? 臣下? 猿が人になったってアレ?」

「そりゃ進化じゃろ。妾が言っておるのは、家来とか忠臣とか、そっちの方じゃ。それに、お主がなるってことじゃ、分からんのか?」

「いやいやいや。どこをどう解釈したら僕がおまえの臣下になるんだよ。」

「知らんわそんなの。妾がなれ、と言ったらお主は臣下になるのじゃ。そう言う決まりなの!」

 暴君かこいつ。

 彼女が治めていた国の人たちは、大変だったに違いない。

「その命令は断るよ。僕はおまえの国の民でも何でも無いからな。」

 僕が望むのは平穏な生活なのであって、魔王の部下になってひゃっはーするつもりなんて毛頭無い。

 ぶっちゃけ、僕が昇●拳のコマンドさえあのゲームコントローラーに入力したのが事の発端なのだが、今はそのことを悔やんだって無駄だ。

 過去を悔いたって、今の状況が好転すると訳ではないのだから。(今いいコト言った!)

「ぬうう、お主も頑固じゃのう。」

「石橋はバズーカーで壊してそこにコンクリート製の橋を架けてそれを渡るのが僕の主義なもんでね。」

 こればっかりは、命が危険にさらされない限りうんと頷くつもりは無い。

 じーっと上目遣いで見上げてくる魔王だったが、意を決したように腕を組んだ。

「では、こうしよう。」

「どうするんだ?」

「お主には妾を解き放ってくれた恩がある。そこで、じゃ。臣下になると約束するならば、お主の願いをなんでも叶えてやろう。」

 これは予想外の切り札だった。

「な・・・・・・! なん、でも?」

「ああ、なんでもじゃ。」

 硬直する僕に、魔王は妖艶に微笑んだ。
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