おお勇者よ、封印を解くとは何事だ!?

半熟紳士

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第4話 チートの魔王様

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 なんでも・・・・・・ってことはアレだろ?

 あんなことやこんなこと、さらにはそんなことまで・・・・・・

 オイオイ、まさかのイベント発生しちゃってるじゃん今!

「肩をもんだりあんなことパン買ってきたりこんなこと、さらには妾と一緒に空を飛ぶそんなことってやつでもよいぞ?」

 ずっこけた。

「ん? どうした蛍よ。足下にララバの皮でも落ちていたのか?」

 ララバとは、この世界のバナナみたいなものだ。

 リンゴとマンゴーが混ざったような味で中々においしいが、皮がバナナの数倍は滑る。そのあまりの滑りやすさから、皮を道ばたに捨てるとテロ行為と見なされ、10万マニー以下の罰金もしくは1年以下の懲役が科せられるという、色々とツッコミ所満載な果実だ――

 ってそうじゃなくて!

「えーっと・・・・・・なんでもって言ったよな?」

「? なんじゃ、さっきのじゃ不満か?」

「不満。」

 大いに不満だ。

 最後のはともかく、そんな80年代のヤンキーみたいな願いを望むアホがいるとしたら、考え直せと肩を揺さぶるくらい不満だ。

「現金なやつじゃのう・・・・・・」

 うむむ、と首を捻る魔王だったが、やがて何かひらめいたのか、ポンと手を打った。

「じゃあ世界征服なんてどうじゃ!?」

「いきなりでっかくなったな!」

 魔王らしいっちゃらしいけど!

「普通、人はたまに『ああ、世界征服したいのう。』とか思うもんじゃろう?」

「思わねえよ! そんなの考えるのはおまえくらいだ!」

 こんな下らないことで魔王らしさを出さないで欲しい。

「ぬうう・・・・・・パンを買いに行くのも駄目で、世界征服も駄目・・・・・・これ以上妾は思いつかんぞ?」

「早くもネタ切れかよ・・・・・・て言うか、魔王は極端すぎるんだよ・・・・・・」

 そろそろお願いしようかと思ったそのとき、洞窟が揺れた。

 それど同時に、入り口の方から、複数の獣の唸り声。

「どわわわ!? え、ちょ何!?」

 オロオロしている僕とは対照的に、魔王は冷静に入り口の方を凝視している。

「ぬう、どうやらサーモン・ハンターが来たようじゃな。少なくても3頭はおるぞ。」

「さ、3頭!?」

 サッと血の気が引いた。

 1頭でさえ瞬殺されるサーモン・ハンターが、3頭。

「あ、でも待てよ。洞窟の入り口は結構狭いから、入ってこられないんじゃ・・・・・・」

「阿呆、あやつらが3頭集まったら、こんな洞窟の入り口くらい、容易に破壊できるわ。」

 落ち着き払った声で、僕の希望をへし折る魔王。

 脳内ムービーで、『3びきのくまさんのクッキングショー』が放送を始めた。

 もちろん、食材は僕。

 自慢の爪でサッと引き裂いて、後はワイルドにムシャムシャと・・・・・・

「おい、おい! 気をしっかりもたんか。たかだか熊3頭ぞ? 男がそれくらいで失禁しかけるなみっともない。」

「いやしてないから! ズボン濡れてないから!」

 瓦解寸前の体面を死守すべく、ムキになって反論した。

 その瞬間、ばごん、と岩が崩れる音。

 のっそりと、1頭のサーモン・ハンターが、洞窟内に入ってきた。

「ぎゃあああああああああああああああ!」

 体面が完全に崩壊した。

 見た目は、日本のヒグマやらツキノワグマと変わらないが、とにかくデカい。

 日本産のより、2、3倍はある。

「グルウゥ・・・・・・」

 ランチがまだだったのか、サーモン・ハンターさんはヨダレを垂らしながら低く唸った。

 これは、天罰なのか。

 カ●コンの某狩猟ゲームで、アシラさんを4桁になるまで狩りまくっていた罰なのか。

「こいつ弱っえー(笑)」と鼻で笑っていた僕に、ついにアシラ一族怒りが頂点に達し、「じゃあテメエを討伐してやるよ。」と、彼らの怨念がサーモン・ハンターの姿を借りて、僕の前に立ちふさがっているのか。

 こんなところで、現実世界のツケが回ってくるとは・・・・・・

 逃げようにも、入り口はふさがれてるし、そもそも腰が抜けて歩けない。

 完全に、詰んでいる。

「――うつけ者。お主はどこまで妾を侮辱するつもりなのじゃ?」

 と、魔王は実に不機嫌そうに手を腰に当てて、僕を見下ろして、見下していた。

 サーモン・ハンターには、見向きもせずに。

「あ、あのなあ! 今の状況を本当に理解できてるのか!?」

「んなもん知っとるわ。妾が言ってるのは、なぜお主が妾の側にいる癖に、そうガタガタ震えているのかってことじゃ!」

「は・・・・・・?」

 彼女が言っていることが理解できなかった。

「妾は魔王ぞ? 王たる妾がこの場にいるというのに、蛍。お主がぶるぶる子鹿のように震えておるようでは、妾がよわっちいみたいではないか!」

「そっち!?」

「そっちじゃ! 魔王たる妾の側にいる間は、お主は気楽に口笛を吹いておれば良いのじゃ。みっともなく震える必要は皆無なのじゃからな。だって妾、超強いもん。」

 えっへんと、子供のように胸を張る魔王。

「・・・・・・じゃ、じゃあさ。魔王は、あいつら倒せるのか?」

「無論じゃ! 妾の手にかかれば、こんな獣風情なぞ・・・・・・何というか、えーっと、ま、まあ・・・・・・アレじゃ、アレじゃよアレ、ちょ、超余裕なのじゃ!」

 ――駄目だ、もう不安要素しか無い。

「な、な!? なんじゃいその目は! 信用しとらんのか!?」

「前半かっこよかったけど、後半のぐだぐだでいっきに駄目になった感じはするような・・・・・・」

「むっきぃー! よくも言ったなこわっぱ! このエアリーズ・ソルレヴェンテの力を見せてやる! 後で泣いたって許さないからな!」

 泣いたって許さないって・・・・・・おまえがすでに泣いてるじゃん。

「魔王エアリーズ・ソルレヴェンテが命ず! 出でよ! 覇王具ラージュ!」

 涙目で(これで何回目だ?)そう叫ぶと、轟音と雷が洞窟を揺らした。

 反射で覆った目を開けると、魔王の手には、明らかに世界観を間違えたようなライフル銃が収まっていた。

 恐らく、これが覇王具ラージュなる武器なのだろう。

 日の光を反射し輝く銃口を、魔王はサーモン・ハンターに向けた。

「血に飢えた鮭の狩人よ・・・・・・灰燼になるがいい! ファイヤー!」

 そう言って、引き金を引いた。

 先程の雷に負けない轟音と共に、ライフルから一目で当たったら死ぬと分かる赤いビームが放たれた。

 それはサーモン・ハンターを包み込むと、一瞬で消滅させた。

 それだけに留まらず、入り口に待機していたであろう残りの2匹も、灰燼どころか跡形も無く吹き飛ばしてしまった。

「・・・・・・フッ、他愛ない。」

 最上級のキメ顔を浮かべて、魔王は振り向いた。

「・・・・・・どうじゃ蛍。妾の力、思い知ったか?」

「あ、ああうん。すごかった。」

 それくらいしか言葉が思い浮かばない。

 決めゼリフが壊滅的にダサいことはともかく、魔王の力は圧倒的だった。

 チートだ。

 チート過ぎる。

「ふふん、そうであろうそうであろう。妾強いじゃろう?」

 そう言い寄る様子が、なぜか僕には、『誉めて誉めて!』と飼い主にねだる子犬のように見えた。

「分かったって、魔王が強いことは十分に分かったって。」

「そうであろうな! ・・・・・・そう言えば、先程から、蛍は妾を魔王魔王呼んでいるが、堅苦しいからそれはやめい。エアリ様と呼ぶがよい。」

 まあ確かに、部長部長言われるような物だからな。

 オフの時は遠慮してほしい、みたいなアレか。

 確かに魔王魔王言うのはちょっと堅苦しいと思っていたんだ。

「分かったよ、エアリ。」

「おい、様はどうした様は。」

「いや、魔王は堅苦しいなら、様付けも同じじゃ無いか?」

 僕の指摘に、エアリはうむむと考え込んでいる。

「確かにそうなのじゃが・・・・・・いやでも王としての威厳も視野に入れねばなるまいし・・・・・・」

 しかし、やがて僕の案を飲む決心が付いたらしい。

「えーい分かった。それがお主の願いなのじゃろう? 約束は約束じゃ。蛍、お主には妾をエアリと呼び捨てすることを許す。感謝せよ。」

「ああ、ありがとうエアリ。」

 なぜだか、自然と、頬が緩んだ。

 対照的にエアリは、呆れたような眼差しで僕を見ている。

「なんというかのう。お主は臆病なのか肝が据わっておるのかサッパリ分からんやつじゃ。・・・・・・だが、願いは叶えたから、お主は今から妾の臣下じゃ。そのことは、分かっていような?」

「はいはい、分かったって・・・・・・」

 ・・・・・・あれ? ちょっと待てよ。

「ねえ。もしかして『エアリを呼び捨てにする』ってのが僕の願いってコト?」

「うむ!」

 ・・・・・・

「いや無し無し! 無いって! それはノーカンでしょ!」

「ぬ、なんじゃ。妾を呼び捨てに出来る者なぞ、今は亡き父上と母上。友人のケインとアリカとバーサク以下146人省略と肉屋のおばちゃんくらいしかいないのだぞ? その中のひとりにお主が新たに加わったのじゃ。もっと喜んでもよいのではないか?」

「結構多いじゃん! て言うか何者よ肉屋のおばちゃん!」

「肉ならば何でも切ることが出来る最強のおばちゃんじゃ。」

「すげえな肉屋のおばちゃん! って違う! 僕が希望してたのはそんなんじゃ無くて・・・・・・!」

 この小説に変なタグ付いちゃうようなヤツであってだな――!

「んー? もっとなんじゃ。言うてみい。」

「ぐっ・・・・・・な、何でもありません・・・・・・」

 じっと見つめられ、結局何も言えなかった。

 チクショー! やってしまった!

 今の僕は絶好球を見送ったアホなバッターと同じである。

 この千載一遇のチャンスを逃すなんて・・・・・・くっ金ケ崎蛍一生の不覚!

「そういう訳じゃ、さっさと街へ案内するがよい。」

 僕が悲嘆に暮れていることなんてお構い無しに、ぐいぐいとエアリは袖を引っ張ってくる。

 どうやら、このことは諦めるしかなさそうだった。

 まあしょうがない。これも人生だとも、ウン!(涙目)




 異世界転生してから1年。平凡な冒険者だった僕は、魔王の手下になりました。

 なっちゃいました。

 本当に何でこうなっちゃったのか。

 その理由は『昇●拳』のコマンドを知っていた、この一言に尽きる。

 こんなんで尽きちゃうのはどうかと思うけど、事実なのだから仕方ない。

 ・・・・・・仕方ないで済まないことをしている気がする気がしてならないが、今はまず、エアリとどう付き合っていくか、そのことを考えよう。
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