おお勇者よ、封印を解くとは何事だ!?

半熟紳士

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第10話 深夜の攻防

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第10話 深夜の攻防

 RPGのように、この世界にもレベルという者が存在する。

 ざっくばらんに説明すると、

 レベル1 キングオブ駆け出し

 レベル2 普通の冒険者

 レベル3 かなりの実力派冒険者

 レベル4 冒険者の中では最高レベル

 レベル5 半分人間止めてんじゃね? と疑問に思うレベル



 ・・・・・・とまあ、こんな感じだ。

 レベルが上がることでステータスが上がると言う訳ではなく、これはあくまで称号みたいなもので、特定のモンスターを狩ればレベルを上げることが出来る。

 そんなわけで、レベル1でも、ものすごく強い冒険者もいる。

 ではレベルを上げる意味がないかというと、決してそうでは無い。

 レベルが上がることによって、受けるクエストが増えるので、収入アップも期待できる。

 それ故に、多くの冒険者はレベルアップクエストを受け、冒険者を始めて大体半年でレベル2になる。

 ・・・・・・が、僕は1年経ってもまだレベル1のままなのであった。

 まあ、単純にレベルアップクエストを受けてないだけなんだけどね。

 理由は数あれど、最も大きな理由はその大きなリスクだ。

 レベル2に上がるためのレベルアップクエスト『イクラ・イーターの討伐』。

 大体予想出来るかもだけど、イクラ・イーターはサーモン・ハンターの幼体だ。

 その名前の由来は、親が狩った鮭のイクラを与えられて育つというなんとも贅沢な生態にあるらしい。

幼体、と言っても弱いという訳ではない。

その体躯は成体より非力で小柄だが(・・・・・・と言っても普通のクマくらいの大きさなんだけど)、1番の特徴はそのスピードにある。

 その俊敏な動きで敵を翻弄し、窮地に陥ったらすぐさま退却する。

 なんでこんなずるがしこい頭脳を持っているのに、成体になったら脳筋になってしまうのかという疑問はさておくとして、そんなモンスターをソロで戦うのは中々にキツい。

 かつて、僕もイクラ・イーターと戦ったことがあるけど、てんで話にならなかった。

 攻撃を捌けても、最終的には逃げられてしまう。

 当然僕の足では追いつくことはできない。

 それ以来挑戦していないんだけど、サーモン・ハンターの恐怖が染みついている今、倒せる自信はもう在庫切れだ。

「でもなあ・・・・・・」

 僕はベッドでぐーすか眠っているエアリに目を向ける。

 ああ言うからには、絶対に僕にイクラ・イーターを狩らせるつもりなのだろう。

 レベル2に上がるためには、あれしかレベルアップクエストが無い。

 避けては通れないんだけど、やっぱ避けて通りたい・・・・・・

 が、それよりも。

 それよりもだ。

「この状況、一体なんなん?」

 今僕は、床に布団を敷いて寝ている。

 本来僕が横たわっているべきベッドは、今はエアリに占領されてしまっている・・・・・・

 ここだ。

 ここが一番の問題なのだ。

 今までなんとなくで流していたこの問題を、そろそろじっくり考える必要がある。

 今、僕の部屋に女の子(しかもものすごく可愛い!)がいるというこの現状を!

 しかも2人っきり!

 布団から抜け出し、エアリの寝顔を覗き込む。

 本当に、幸せそうに眠っている。

 大きく開けられた口の端からヨダレが垂れていた。

 寝顔も可愛いとか、反則だろ・・・・・・

 いや、美少女はなにしても美少女は可愛いって話もあるけど。

「・・・・・・で、どうしよう。」

 どうする金ケ崎蛍16歳!

 ベッドで無防備に寝てるとんでもねーロリ巨乳美少女(実年齢240歳)を前に、おまえはどうする!?

『どうもこうもないだろ、さっさと寝ろよ。』

 と、僕の中の神様が忠告してきた。

 いや、それは本当に正論なんだけどね。

 だが、正論だけで回らないのだが世の中である。

『いやいや、何か上手いこと言ってるようで全然上手くないからな? て言うか、おまえいくら思春期真っ盛りだからってそれはアウトだと思うな、ウン。』

 オイ! 僕はそんなこと考えてないからな!?

『じゃーなんだってんだよ、ん?』

 だーから! この非常にデンジャラスな状況をなんとかせにゃならんってことだよ!

『いやだから寝ろっての。』

 寝られないからこうなってんだよ!

 そう簡単に寝られたらこんなことに1話費やしたりしてないから!

『最近はメタネタは流行らないって。いいから寝ろ。』

 もう睡眠ポーション飲んだわ!

 畜生思春期過ぎるだろ僕!

『落ち着け、そうなんでもかんでも思春期のせいにして思考停止をするな。なんでも恋愛感情に結びつけること並に愚かなことだ!』

 は? じゃあどうしろってんだよ!

『エアリをこの部屋から追い出すのは不可能・・・・・・ならば発想の転換だ。』

 発想の転換・・・・・・

『そう、つまりおまえが出ていけばいいんだ。そうすれば、こんなビンボー臭い部屋で異性と2人っきりという事態は無くなる』

 おお・・・・・・! って待て。

 エアリはあの部屋でしばらく生活する予定なんだぞ?

 じゃあ僕ずっと外で寝ることにならないか?

『・・・・・・ま、がんばれよ。』

 オイ待てええええ!

 無責任に消えるなああああ!



 ・・・・・・て言うか、本当にあるんだな脳内神様って

「こういうのって悪魔も同時出演するはずなんだけど・・・・・・」

 もしかして悪魔って僕か? それは勘弁願いたいけど。  

そんなことを考えながら、ドアを閉めた。

 自分の脳内神様ほど信頼できないものはこの世にないと断言できるが、こればかりは従っておこう。

「明日のことは明日考えればいいんだ!」

 ぐっと拳を握りしめる。

 かっこよく言ってるけど、ようは問題を棚上げしただけである。

 まあ、前の世界なんて徹夜は日常茶飯事だったわけだし、大丈夫だろう。

「まさか、ニートをしていて良かったと思うことがあるとはね。」

 世の中分からないなあ。

「・・・・・・それにしても、どうしようかな?」

 この世界でも、24時間営業の店というのは存在する。

 それらを冷やかすのも悪くないかもしれない。

 もしくは、採集クエストにでも繰り出すか?

「まあ手近なところなら、アレが出てくることも無いだろうし・・・・・・」

 しかし、なぜ僕はサーモン・ハンターを狩ろうと思ったのだろうか?

 普通はイクラ・イーターからだと思うんだけど・・・・・・

 昔から、たまに突拍子も無いことをすると言われていたが、どうやら今日もそれが発動してしまったらしい。

 こんな命がけなことで発動しないで欲しいんだけどな・・・・・・

「・・・・・・ん?」

 暗闇の向こうから歩いて来る人影を見つけた。

 人影はフラフラと不安定な歩き方をしていて、見るからに危なっかしい。

 酔っ払いか?

 まあこんな時間には珍しい話では無いけど・・・・・・

「・・・・・・って、フレッサ?」

 あの赤髪と褐色の肌の組み合わせは、この街には1人しかいない。

 まさかの再登場フレッサちゃんだった。

 いやいやいやいや。

 覚えてやがれーって言って退場するってのは、相手が忘れたころに再登場して『誰?』って言われるのがお約束の筈なのに。

 まだ1日も経ってないぞ?

 これ絶対お互い気まずいヤツじゃん!

「・・・・・・隠密スキル、発動!」

 暗殺者ジョブである僕の十八番!

 気配を遮断し、真っ正面に立っていても気付かれないという、脅威のお役立ちスキルだ。

 はいそこ、『単純に影が薄いだけじゃね?』とか言わない。

 今、フレッサは酔っ払ってるし、このまま切り抜けられるだろう。

 予想通り、かなり接近していても、フレッサは僕に気付かずに素通りして行った。

 これが暗殺者の神髄よ・・・・・・!

 酔っ払っているフレッサは、まったく僕に気付いていないらしい。

 目の前で阿波踊りでもしてやろうかな?

「――あ? ・・・・・・気のせいか。てっきり近くにヒック、蛍がいると思ったんだがヒック・・・・・・」

前言撤回。

 そう言えばこいつ心眼スキル(第六感が研ぎ澄まされるスキル)持ってたんだった。

 しばらく周囲を見回していたフレッサだったが、諦めたらしく、がしがしと乱暴に髪をかきむしり、ろれつが回らないまま月に向かって吠えた。

「ああクソ、あの野郎! 次会っちゃら顔面ひしゃげるくれぇぶん殴ってやりゃあ!」

 猛ダッシュで逃げた。
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