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第15話 ダンジョンでは感情的になるべからず
しおりを挟むエアリの唾液治療を辞退し、取りあえず回復ポーションを飲んで、傷が癒えるのを待つ。高価なハイポーションならば、一瞬で傷が塞がるんだけど、僕が飲んだ安物では15分以上はかかるだろう。
「そう言えば、さっきのモンスターの名前って何だったんだ?」
「ん、妾は知らんのう。じゃが、メモリアには記録されているはずじゃぞ? ホレ、討伐したモンスターが記録されている所に、名前も記載されるじゃろ。」
「ああ、そう言えばそうだった。」
メモリアの画面をスクロールすると、そこには『チキンオーガ』という、鬼か鶏かはっきりしろと言いたくなるなるような名前が記されていた。
その名前をタッチすると、そのモンスターの生態、特色などが表示される。
「なになに・・・・・・チキンオーガはオーガの中でも最弱であり、自分より弱い物しか狙わない。知性も余り高くないので、どんな弱い冒険者でも、剣を振り回していればそのうち勝てる・・・・・・大きなお世話だ!」
畜生、メモリアからもなめられるとは・・・・・・!
この人をナメた結晶体を握りつぶしたい衝動に駆られたが、再発行するのにはかなりのお金がかかるので、ぐっとこらえた。
「ぷほほ、弱いじゃって。あんな子鬼共からもなめられておるとはなあ~!」
お腹を抱え、地面を転げ回るエアリにだが、こいつは忘れていないだろうか?
「じゃあ聞くけど、おまえの所に一匹向かっていったよな? あれ、おまえが弱いと思われたからなんじゃないか?」
ぴた、と動きを止めるエアリ。
「・・・・・・蛍よ。今、何と言った。」
感情を伺わせない、機械のような表情で僕に問いかける。
「だから、チキンオーガって弱いと思った奴を襲うんだろ? エアリを襲ったそいつは、エアリを弱いと思って襲ったんじゃないかって。要するになめられてたんだろ、おまえも。」
ぶるぶると、エアリが身体を震わせる。
「うがー!」
そして、予想通り見事な大爆発をした。
「許せん! 許せんぞあの子鬼共! 魔王たる妾に牙をむいただけではなく、妾を屈辱するとは・・・・・・! その不敬はぶっ殺しの刑に値するわぁ!」
1回鞘に収めたグリードを抜き放つと、うおぉぉぉぉと雄叫びを上げながら、ダンジョンの奥へと消えていった・・・・・・
「って待ってくれー!」
こんなところで1人置き去りにされては溜まらない。
空になったポーションの瓶を放り投げ、僕もその後を追った・・・・・・!
「・・・・・・迷ったな。」
「迷ったのう。」
案の定、と言うか何と言うか。
僕達は、ダンジョンで迷子になっていた。
「うむむ、妾を挑発させて、この迷宮に迷い込む罠だったか!」
「ただの自爆じゃねーか! どうすんだよコレ!?」
「そんなの、妾が知るか!」
「知っとけやボケェ!」
「ばかもーん!」
すぱーん、とハリセンでひっぱたかれた。
「お主は、すぐに人に責任を押しつける! そんなことをしてもどうにもなるまい! こんな非常事態にこそ、人同士の繋がりが試されるのじゃ、お主かそんなんでどうする?」
後半の、諭すような口調に、僕はなんて矮小な人間なんだと痛感した。
それに対して、エアリはどうだ。
こんな非常時に呼吸の一つも乱れず、平静を保っている。
これが魔王の器って奴か・・・・・・
・・・・・・って待てよ?
「やっぱテメェのせいじゃねえかアァァァァ!」
「ぺぷしっ!」
取りあえずひっぱたいた。
エアリの声から分かるように、そこまで強く叩いたつもりはなかったけど、エアリは頭を抑え、恨みがましい目で僕を見上げた。
「しょ、しょうがないであろう!? 王としての誇りに泥が塗られたのじゃ! ボコるしかあるまい!」
ぶんぶんとグリードを振り回しながら、言い訳をするエアリだが、まったく言い訳になっていない。
「・・・・・・て言うか、どうするんだよ? 帰り道がさっぱり分からないじゃないか。」
「うむ、妾もさっぱり分からん。」
うむうむ、と頷く魔王に、頭を抱える。
「複雑に入り組んだ道、おまけに視界も悪いし・・・・・・」
「気配を消せるモンスターなんかに襲われたら、かなりマズいのう・・・・・・あれ、蛍? どこに行ったのじゃ!?」
「いや、さっきから隣にいるけど。」
「おお、そこじゃったか。隠密スキルなんか使うから、分からなかったぞ?」
「・・・・・・」
使っていないんだが。
え、なに、僕はどれだけ陰薄いんだ?
ちょっと、目から汗が出てきちゃうぞ。
「ふむ・・・・・・うかつに進んでは危ういな。」
「その判断を、さっきもしてくれたら良かったんだけどな。」
ため息と共に、皮肉をはき出す。
「ばかもん、それよりも優先すべきコトがあったのじゃ。致し方あるまい。」
「その結果がこれだもんなあ・・・・・・なあエアリ。おまえ、なんか良い打開策とか持ってないのかよ?」
あれだけチートな魔王なのだ。
打開策のひとつやふたつや持っていると期待したのだけれど、エアリはゆるゆると首をふるだけだった。
「妾が出来るのは、あらゆる武器の強化とそれを使いこなすことしか出来ぬ。・・・・・・あ、でもラージュでダンジョンをぶっ壊しちゃうと言う手があるぞ?」
「却下。ダンジョンには他にも冒険者がいるんだぞ? そいつらの事を巻き込むつもりか?」
「あ、忘れていた。」
それは忘れてはいけない。
「ま、他の冒険者が来るまで待つしかないだろうな・・・・・・まだお昼過ぎくらいだし、そのうち会えるでしょ。」
「それもそうかのう・・・・・・」
取りあえず火をおこして、お茶を淹れ、のんびりと待つことにした。
――1時間経過
「まあ、そう簡単には通らないよね。」
「そうじゃのう。あ、お茶お代わり。」
――2時間経過
「どわー! またチキンオーガ!?」
「うおおおお! 死ねーい!」
――3時間
「うわあああああ! なんかヤバそうな奴キター!」
「じゃっきーん!」
――4時間、後
「来ないな・・・・・・」
「来ないのう・・・・・・」
結局、4時間も待っているのに、誰もここを通りはしなかった。
お茶を淹れる溜めの火はとっくに燃え尽きてしまっている。
火を熾そうと思えばすぐに熾せるのだけれど、そうするとモンスター達がわらわらと来るので、消さざるを得ない。
「蛍、食料はどれくらいある?」
「2日分かな。ああ、でもエアリの分を入れれば1日分しか無い。」
「困ったのう・・・・・・このまま居れば、いずれ見つけて貰えるかもじゃが、それもいつになるか分からんし・・・・・・」
「だよなあ・・・・・・ん?」
「どうした、ハンバーグでも転がっておったのか?」
「そんなの転がってる訳ないだろ・・・・・・」
仮に転がっていたとしたら、エアリはそれをどうするつもりなんだろう。
食うのか? もしかして。
「火が見えるだろ。ほら、あそこ。」
僕が指を指す対象を、エアリはじーっと凝視する。
「んん・・・・・・? おお! 確かにそうじゃな! やったぞ蛍! 助けが来たぞ、わーい!」
ぴゅーっと駆け出すエアリに遅れないように、軽い金属で出来たティーカップを、アイテムポーチの中に入れて、そのたいまつに向かって小走りで後を追う。
「おーい・・・・・・! む? なんだ、拳闘士の小娘では無いか。」
「あ・・・・・・? あ! テメーは蛍と一緒にいたガキじゃねーか!? どうしたんだ、こんなコトで!」
気づかれる前に隠密スキルを発動させた。
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