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前編
第1話 無能な僕
しおりを挟む僕の名はエース。日本人だ。こんなキラキラネームを名付けた親のせいで、僕の人生は散々だった。学生時代は皆面白がってくれたが、社会人になると、この名前は、自分の能力以上の仕事を期待させてしまうというのが分かった。
「おい、なにがエースだ。こんな簡単な仕事もできないのか!」
上司からきつい言葉を受ける。僕は仕事を辞めてしまった。
自分というものに自信が全くなくなってしまった。僕は引きこもり、そしてついに、孤独死してしまった。27歳だった。
ふわふわとした浮遊感。白くぼんやりした視界に僕は目をこすった。
騒がしい声がする。ハッと気づくと、僕の前には十人ほどの白いひげを生やした老人たちが座っていた。彼らの前に一列の長い机が置いてあり、その光景は裁判でも受けているように感じられた。
がやがやと騒がしい声が静まると、中央にいる老人が厳かに尋ねてきた。
「君の名は?」
僕はこの状況が分からないが、藁にすがるような気持ちで老人の質問に答えた。
「エースです」
すると、他の座っている老人たちがまたがやがやと騒ぎ出した。中には頭を抱える者もいた。隣の者と口論してる者もいる。
質問してきた老人がまた尋ねてきた。
「君の長所、また得意なこと、自慢できるようなことは?」
質問の意図が全く分からなかったが、僕はしぶしぶ答えた。
「何もありません」
するとまた今度も老人たちは騒ぎ出した。それもさっきとは違い、何か好意的な反応が見て取れた。
老人の質問は続く。
「例えば、力が強いとか、足が速いとか。……気持ちの問題でもいい。良心だったり正義感とか、そんなものも全然ないのかね?」
僕は死ぬ寸前までの生活を思い出して、胸が苦しくなった。惨めな気持ちになり、自信を全く失った。
「はい。何もできないですし、何も感じません」
自分でも分かってたが、やはり今度も歓喜の声が湧きだった。しかし彼らが喜んでいる理由はよくわからなかった。
こんなマイナスなことを言って喜ばれるなんて初めてだ。
右から三番目の老人が僕に指をさして言う。
「君は人間のクズだ!」
隣りの老人がうんうんと大きくうなずく。
(なんなんだこいつらは……)
いきなり罵倒されて僕は眉をひそめた。
老人たちは次々と声を上げる。
「社会のゴミめ!」
「死んでしまえ!」
「卑怯者!」
僕は久しぶりに怒りというものを感じた。おそらく僕は死んだ。そして死んでもなお、罵倒されるとは。ここは地獄か。
ここから殴りに行ってやろうと思ったとき、一人の老人の言葉が僕の意思を遮った。
「だが……素晴らしい!」
(素晴らしい?)
僕の戸惑いを、気にもせず中央に座る老人は左右に尋ねた。
「それじゃあ、皆さんも良いですな」
そして老人たちが一斉に唱える。
「転移」
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