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都合と期待
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「鳴瀬さんは同僚で、嫌いな人って居る?」
エントランスの掃き掃除中、房間恵恋はゆず子へ尋ねた。
「嫌いな人は居ないよ」
ゆず子の言葉に、恵恋は興味深々。
「じゃあ、嫌な人は?」
「『悪意』を持ってわざと嫌がらせする人は、居ないわね。合わない人は居るよ」
「そうなんだ。苦手な人と、どうしても組まないといけない時ってどうしてるの?」
気の合わない人と組まされたり、やり取りをしないとならない事は、人生において多々ある。
仕事なら『お金が絡んでるから』とか『どうせ業務終了までの辛抱だ』などの踏ん切りがつくが、人生経験の少ない小学生にとっては死活問題だろう。
ゆず子は明るく答えた。
「『この人面白いな』って、観察する」
「観察?」
「『何でこんなギャーギャー喚くんだろう?』とか。『あー、お腹空くと怒りっぽいんだ』とか、『揃ってないと機嫌悪いんだな』とか分析する」
「なるほど、被害を最小限で済ます方法を探すんだ」
恵恋は目を丸くする。
「まあ、頑張ってもダメな時もあるのよ。基本的に自分の力で他人をどうこうしよう、なんて思っちゃダメね」
「そうなんだ」
加藤志津と初めて顔を合わせたのは、所属する鳥海クリンネスでの新年会に、初めて参加した時の事だった。
「あー、大喜田さんに教えてもらってる人?」
「そうです。初めまして」
加藤はゆず子の15歳年上で、同居する姑の介護をしないため、仕事をしていると言う。
「身体動かないくせにまだボケて無いから、『施設は入らない、自宅で過ごしたい』って言うの。で、息子である旦那はまだ定年してないから私に『世話してあげて』って言うのよ。
姑が転んで骨折した時から、この仕事始めたよ。『あたしの職場の定年は75歳らしいから、定年してから介護に専念するね』って伝えてる」
「あ~ら、それ良いわね。どんどん年齢上げて行ったり?」
「そのつもり!」
それを聞き、恵恋は笑った。
「何か分かるかも。あたしもママに『いつになったら1人で髪の毛乾かすの?』って言われるけど『鏡花ちゃんもまだママに乾かしてもらってるらしいよ』って言っちゃう」
「そうね、事情知らないと誤魔化しが利くもんね」
ゆず子は塵取りを掴んだ。
「性格の悪い姑でね、かなりいびられたのよ。あんなにいびってきたくせに、何で介護して貰えると思ってんだか。都合良すぎよね」
加藤が言うと、大喜田は頷いた。
「あの人が介護して貰ってるなら自分もそうなるって考える人、居るよね。『そうなる』人には『そうなる』だけの理由があるのに~」
加藤との雑談は、大体が家族の愚痴であった。ある時のこと。
「息子がこないだ結婚したの」
「あら、おめでたいこと」
「相手が『ポワワン』とした子なのよ。あんな嫁で務まるのかしら」
「加藤さん、もう頭が『姑さん』になっちゃってるよ。いびらないようにね」
同僚らとゆず子は笑って言った。
息子夫婦は親との別居を考えていたが、加藤の希望で同居することとなった。義母の介護を息子の嫁にやらせて、自分がされたように『嫁いびり』をするためだった。
「うちのママとばあばはそういうの無いけど、何でお姑さんはお嫁さんをいびりたいんだろうね?」
「うーん…。人によるけど、下級生相手に『自分の方が年上で物を知ってるし偉い』って考えて、態度に出してくる感じかな?」
小学生に嫁姑問題を説明するのに、ゆず子は少々頭を捻った。
息子夫婦との同居が始まりしばらくした頃。加藤は不服そうな顔で言った。
「姑がデイサービス行き始めたのよ」
「あんなに嫌がってたのに? 良かったね」
「よくないよ、嫁の差し金だよ。『孫嫁ちゃんの負担を軽くしたい。あの子すごく良くしてくれるから、介護の休みの日を作りたいの』だって。
親戚来ると『孫嫁ちゃんはすごく良い子なの!』って自慢して『それに比べて志津は仕事を言い訳に家事もしない!』って貶してくるんだよ。誰の作ったご飯食べてるんだか!」
加藤が口を尖らすと、同僚は言った。
「へえ、嫁いびりする鬼の様な姑さんでも、孫嫁は可愛いもんなんだ」
「でも嫁ね、ちょっと足りない子なんだよ。洗った食器に汚れ残ってて、わざわざ洗い直してやったら『ありがとうございます~』って声かけて、謝罪もなくテレビ見始めるし。
ド派手なピンクのパンツ干してあったから、『やだ、こんなパンツどこで買ってるの?恥ずかしくない?』って言ったら『ああそれ、〇〇ってお店のです。今度一緒に行きません?可愛いのいっぱいありますよ』なんて言うんだよ?」
加藤は同意して欲しくて言ったみたいだが、反応は散々だった。
「えー、下着わざわざ見てどうこう言うの、ちょっとやり過ぎ」
「最近の子に空気読んで先回りしろって期待するの、無理だよ。具体的に指示しなきゃ」
「ははは! お嫁さん強いわね、それぐらい強くないと夫の親との同居は無理だわ!」
「加藤さん、目論見が外れちゃったんだ」
恵恋が言うと、ゆず子は頷いた。
「何かね、私の目から見て加藤さんは『目先のこと』に目が眩んで、もっと先がおざなりになる傾向がある人だったわ」
翌年、加藤にとって初孫が誕生した。だが、加藤の愚痴は加速するばかり。
「確かに可愛いよ、初孫だもの。でもお祝いは別よ」
「なに、何かしたの?」
「そもそも同居していて、生活費とか負担しているのもあるわけ。だから旦那に『お祝いあげる必要ないよね』って言ったのに、こっそり渡してたのよ。40万!」
「あら」
「姑もさあ、私が息子産んだ時は1円もくれなかったのに、30万もあげたんだよね。生まれたの女なのに、親戚中もチヤホヤするしさ。何なの、全く!」
「嫉妬ってやつだね」
恵恋は息をついた。
「扱いが違って腹が立つのは分かるけど、お嫁さんは介護してたから、その分もあるんじゃないかな?」
ゆず子は小さく拍手した。
「その通り。恵恋ちゃん、すごいわね」
「えへへ。だって先に聞いてたから」
加藤の愚痴に変化が現れたのは、孫が七五三を迎えた頃のことだった。
「私、孤立してるの」
「孤立? 仲間外れしてくる人が居るんですか?」
思わずゆず子がそう言うと、加藤はイラついた様子でペットボトルの茶を飲んだ。
「此処じゃない。うちの話よ」
「ああ、加藤さんち…」
「孫がさあ、定年迎えた旦那にベッタリなの。『大婆ちゃん、大婆ちゃん』て姑にも懐くのに、私にはサッパリ。息子は『一緒に居る時間が長い人に懐くんだよ』って言うけど、あれ嫁が吹き込んでるよ」
「お孫さん、何歳なんですか?」
「3歳よ。誕生日やクリスマスにプレゼントあげてるの、誰だと思ってるんだか。息子に『感謝が大事だよ』って小さい頃から教えてきたのに、孫だから貰って当然な感じで何も言わないし」
60歳を越えても仕事で家を空ける事の多い加藤は、家事や家族に関する事を息子の嫁に一任していた。ここに来て、『家に居場所が無くなった』様に感じる事が増えてきたようだ。
ゆず子は言った。
「そうね。長年家庭を支えて、今は外で仕事をして家計を支える加藤さんのこと、ご家族はもっと労うべきですね」
加藤はパッと表情が明るくなった。
「…そうよね? 私、報われるべきよね?」
ゆず子はその時、加藤に狂気めいたものを感じた。それは気のせいではなかった。
「私、独身になったの。熟年離婚したんだ」
加藤が嬉しそうに報告してきたのは、それから半年後のことだった。ゆず子を始め、同僚達は大いに驚いた。
「えー、本当にする人居るんだ」
「思い切ったねえ」
皆の視線を集め、加藤は得意そうに言った。
「最近、法律変わって年金分割出来るようになったでしょ? 収入も少しだけどあるから決断したの。年金分割はまだ話し中だけど、これまで尽くしてきたから当然だよ。
旦那は絶句してたけど、今まで都合よく私を扱ってきたから、その報いだね」
自分を顧みない家族、介護をしない事への負い目、居場所の無い家庭。全てから脱却した加藤はイキイキとしていた。
ところが離婚から3ヶ月も経たない頃、加藤の元夫が急性心不全により急死した。それから1年足らずで、元義母が老衰で亡くなった。加藤は荒れに荒れた。
「年金分割協議、まだ話し合ってる最中だったんだよ。年金分割出来ないし、死亡保険金の受取人も変更したから全部台無し‼︎ 姑があと1年早く死んでれば、離婚自体しなかったのに!」
恵恋は肩を竦めた。
「文句言っても、全部自分の都合だよね。怒ってもしょうがないよね?」
「そういうこと。そして息子さんのとこ、2人目が生まれることになったんだよね。そしたら…」
「加藤さん、1ヶ月お休みするって聞きましたが?」
「うん、迷惑かけるね。息子のとこ、2人目が生まれるから手伝いに」
加藤はニコニコしていた。ゆず子は尋ねた。
「お嫁さん、里帰りしないんですか?」
「息子の話では、上の子の幼稚園あるからしないみたい。人手はあった方いいでしょ? 手取りは減るけど、まあしょうがないって」
当時は無かった『産婦以外の育児休暇取得』を宣言した加藤だが、1週間で復帰した。人づてに聞いた話では。
「加藤さんのお嫁さん、里帰りしない代わりに自分のお母さんに来て貰ってたみたいね。加藤さん、息子さんの許可も無く押しかけたから、結局戻ったらしいよ」
「『何で長年住んだ家に泊まれないんだ!』とか憤慨してたけど、あの家は姑さん名義だったんでしょ? 姑さん死ぬ前に離婚したし、永久に自分の物になるわけ無いじゃん。
今は息子名義になってるなら、誰を呼ぼうが文句言えないよ」
「あらら~」
恵恋はバツが悪そうに笑った。
「加藤さん、『今度こそ必要とされる!』って意気込んじゃったんだね」
「加藤さん、今はどうしてるの?」
恵恋が言うと、ゆず子は寂しげな笑みで答えた。
「その次の年かな、自宅で倒れちゃってね。一命は取り留めたけど、復帰しないまま辞めちゃった。息子さん夫婦と暮らしてるのか、何してるのか分からない。元気だといいんだけどね」
「そうなんだ。『都合が良い』が口癖な人だったね」
恵恋は、何かを思案しているようだった。
エントランスの掃き掃除中、房間恵恋はゆず子へ尋ねた。
「嫌いな人は居ないよ」
ゆず子の言葉に、恵恋は興味深々。
「じゃあ、嫌な人は?」
「『悪意』を持ってわざと嫌がらせする人は、居ないわね。合わない人は居るよ」
「そうなんだ。苦手な人と、どうしても組まないといけない時ってどうしてるの?」
気の合わない人と組まされたり、やり取りをしないとならない事は、人生において多々ある。
仕事なら『お金が絡んでるから』とか『どうせ業務終了までの辛抱だ』などの踏ん切りがつくが、人生経験の少ない小学生にとっては死活問題だろう。
ゆず子は明るく答えた。
「『この人面白いな』って、観察する」
「観察?」
「『何でこんなギャーギャー喚くんだろう?』とか。『あー、お腹空くと怒りっぽいんだ』とか、『揃ってないと機嫌悪いんだな』とか分析する」
「なるほど、被害を最小限で済ます方法を探すんだ」
恵恋は目を丸くする。
「まあ、頑張ってもダメな時もあるのよ。基本的に自分の力で他人をどうこうしよう、なんて思っちゃダメね」
「そうなんだ」
加藤志津と初めて顔を合わせたのは、所属する鳥海クリンネスでの新年会に、初めて参加した時の事だった。
「あー、大喜田さんに教えてもらってる人?」
「そうです。初めまして」
加藤はゆず子の15歳年上で、同居する姑の介護をしないため、仕事をしていると言う。
「身体動かないくせにまだボケて無いから、『施設は入らない、自宅で過ごしたい』って言うの。で、息子である旦那はまだ定年してないから私に『世話してあげて』って言うのよ。
姑が転んで骨折した時から、この仕事始めたよ。『あたしの職場の定年は75歳らしいから、定年してから介護に専念するね』って伝えてる」
「あ~ら、それ良いわね。どんどん年齢上げて行ったり?」
「そのつもり!」
それを聞き、恵恋は笑った。
「何か分かるかも。あたしもママに『いつになったら1人で髪の毛乾かすの?』って言われるけど『鏡花ちゃんもまだママに乾かしてもらってるらしいよ』って言っちゃう」
「そうね、事情知らないと誤魔化しが利くもんね」
ゆず子は塵取りを掴んだ。
「性格の悪い姑でね、かなりいびられたのよ。あんなにいびってきたくせに、何で介護して貰えると思ってんだか。都合良すぎよね」
加藤が言うと、大喜田は頷いた。
「あの人が介護して貰ってるなら自分もそうなるって考える人、居るよね。『そうなる』人には『そうなる』だけの理由があるのに~」
加藤との雑談は、大体が家族の愚痴であった。ある時のこと。
「息子がこないだ結婚したの」
「あら、おめでたいこと」
「相手が『ポワワン』とした子なのよ。あんな嫁で務まるのかしら」
「加藤さん、もう頭が『姑さん』になっちゃってるよ。いびらないようにね」
同僚らとゆず子は笑って言った。
息子夫婦は親との別居を考えていたが、加藤の希望で同居することとなった。義母の介護を息子の嫁にやらせて、自分がされたように『嫁いびり』をするためだった。
「うちのママとばあばはそういうの無いけど、何でお姑さんはお嫁さんをいびりたいんだろうね?」
「うーん…。人によるけど、下級生相手に『自分の方が年上で物を知ってるし偉い』って考えて、態度に出してくる感じかな?」
小学生に嫁姑問題を説明するのに、ゆず子は少々頭を捻った。
息子夫婦との同居が始まりしばらくした頃。加藤は不服そうな顔で言った。
「姑がデイサービス行き始めたのよ」
「あんなに嫌がってたのに? 良かったね」
「よくないよ、嫁の差し金だよ。『孫嫁ちゃんの負担を軽くしたい。あの子すごく良くしてくれるから、介護の休みの日を作りたいの』だって。
親戚来ると『孫嫁ちゃんはすごく良い子なの!』って自慢して『それに比べて志津は仕事を言い訳に家事もしない!』って貶してくるんだよ。誰の作ったご飯食べてるんだか!」
加藤が口を尖らすと、同僚は言った。
「へえ、嫁いびりする鬼の様な姑さんでも、孫嫁は可愛いもんなんだ」
「でも嫁ね、ちょっと足りない子なんだよ。洗った食器に汚れ残ってて、わざわざ洗い直してやったら『ありがとうございます~』って声かけて、謝罪もなくテレビ見始めるし。
ド派手なピンクのパンツ干してあったから、『やだ、こんなパンツどこで買ってるの?恥ずかしくない?』って言ったら『ああそれ、〇〇ってお店のです。今度一緒に行きません?可愛いのいっぱいありますよ』なんて言うんだよ?」
加藤は同意して欲しくて言ったみたいだが、反応は散々だった。
「えー、下着わざわざ見てどうこう言うの、ちょっとやり過ぎ」
「最近の子に空気読んで先回りしろって期待するの、無理だよ。具体的に指示しなきゃ」
「ははは! お嫁さん強いわね、それぐらい強くないと夫の親との同居は無理だわ!」
「加藤さん、目論見が外れちゃったんだ」
恵恋が言うと、ゆず子は頷いた。
「何かね、私の目から見て加藤さんは『目先のこと』に目が眩んで、もっと先がおざなりになる傾向がある人だったわ」
翌年、加藤にとって初孫が誕生した。だが、加藤の愚痴は加速するばかり。
「確かに可愛いよ、初孫だもの。でもお祝いは別よ」
「なに、何かしたの?」
「そもそも同居していて、生活費とか負担しているのもあるわけ。だから旦那に『お祝いあげる必要ないよね』って言ったのに、こっそり渡してたのよ。40万!」
「あら」
「姑もさあ、私が息子産んだ時は1円もくれなかったのに、30万もあげたんだよね。生まれたの女なのに、親戚中もチヤホヤするしさ。何なの、全く!」
「嫉妬ってやつだね」
恵恋は息をついた。
「扱いが違って腹が立つのは分かるけど、お嫁さんは介護してたから、その分もあるんじゃないかな?」
ゆず子は小さく拍手した。
「その通り。恵恋ちゃん、すごいわね」
「えへへ。だって先に聞いてたから」
加藤の愚痴に変化が現れたのは、孫が七五三を迎えた頃のことだった。
「私、孤立してるの」
「孤立? 仲間外れしてくる人が居るんですか?」
思わずゆず子がそう言うと、加藤はイラついた様子でペットボトルの茶を飲んだ。
「此処じゃない。うちの話よ」
「ああ、加藤さんち…」
「孫がさあ、定年迎えた旦那にベッタリなの。『大婆ちゃん、大婆ちゃん』て姑にも懐くのに、私にはサッパリ。息子は『一緒に居る時間が長い人に懐くんだよ』って言うけど、あれ嫁が吹き込んでるよ」
「お孫さん、何歳なんですか?」
「3歳よ。誕生日やクリスマスにプレゼントあげてるの、誰だと思ってるんだか。息子に『感謝が大事だよ』って小さい頃から教えてきたのに、孫だから貰って当然な感じで何も言わないし」
60歳を越えても仕事で家を空ける事の多い加藤は、家事や家族に関する事を息子の嫁に一任していた。ここに来て、『家に居場所が無くなった』様に感じる事が増えてきたようだ。
ゆず子は言った。
「そうね。長年家庭を支えて、今は外で仕事をして家計を支える加藤さんのこと、ご家族はもっと労うべきですね」
加藤はパッと表情が明るくなった。
「…そうよね? 私、報われるべきよね?」
ゆず子はその時、加藤に狂気めいたものを感じた。それは気のせいではなかった。
「私、独身になったの。熟年離婚したんだ」
加藤が嬉しそうに報告してきたのは、それから半年後のことだった。ゆず子を始め、同僚達は大いに驚いた。
「えー、本当にする人居るんだ」
「思い切ったねえ」
皆の視線を集め、加藤は得意そうに言った。
「最近、法律変わって年金分割出来るようになったでしょ? 収入も少しだけどあるから決断したの。年金分割はまだ話し中だけど、これまで尽くしてきたから当然だよ。
旦那は絶句してたけど、今まで都合よく私を扱ってきたから、その報いだね」
自分を顧みない家族、介護をしない事への負い目、居場所の無い家庭。全てから脱却した加藤はイキイキとしていた。
ところが離婚から3ヶ月も経たない頃、加藤の元夫が急性心不全により急死した。それから1年足らずで、元義母が老衰で亡くなった。加藤は荒れに荒れた。
「年金分割協議、まだ話し合ってる最中だったんだよ。年金分割出来ないし、死亡保険金の受取人も変更したから全部台無し‼︎ 姑があと1年早く死んでれば、離婚自体しなかったのに!」
恵恋は肩を竦めた。
「文句言っても、全部自分の都合だよね。怒ってもしょうがないよね?」
「そういうこと。そして息子さんのとこ、2人目が生まれることになったんだよね。そしたら…」
「加藤さん、1ヶ月お休みするって聞きましたが?」
「うん、迷惑かけるね。息子のとこ、2人目が生まれるから手伝いに」
加藤はニコニコしていた。ゆず子は尋ねた。
「お嫁さん、里帰りしないんですか?」
「息子の話では、上の子の幼稚園あるからしないみたい。人手はあった方いいでしょ? 手取りは減るけど、まあしょうがないって」
当時は無かった『産婦以外の育児休暇取得』を宣言した加藤だが、1週間で復帰した。人づてに聞いた話では。
「加藤さんのお嫁さん、里帰りしない代わりに自分のお母さんに来て貰ってたみたいね。加藤さん、息子さんの許可も無く押しかけたから、結局戻ったらしいよ」
「『何で長年住んだ家に泊まれないんだ!』とか憤慨してたけど、あの家は姑さん名義だったんでしょ? 姑さん死ぬ前に離婚したし、永久に自分の物になるわけ無いじゃん。
今は息子名義になってるなら、誰を呼ぼうが文句言えないよ」
「あらら~」
恵恋はバツが悪そうに笑った。
「加藤さん、『今度こそ必要とされる!』って意気込んじゃったんだね」
「加藤さん、今はどうしてるの?」
恵恋が言うと、ゆず子は寂しげな笑みで答えた。
「その次の年かな、自宅で倒れちゃってね。一命は取り留めたけど、復帰しないまま辞めちゃった。息子さん夫婦と暮らしてるのか、何してるのか分からない。元気だといいんだけどね」
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