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上り調子
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『結婚は人生の墓場』とかいうけれど、女の人生は『結婚』で一変すると思う。
日本の場合、夫の姓を名乗ったり夫の両親と同居したりと、女の側で生活が物理的に変化する場合が多いからかもしれないが。
「まーた、これ間違ってるよ」
その声に顔を上げると、片眉を上げた玄木紗羽子がPC画面を見つめていた。隣の長野育海はビクッと身体を震わせると、大声を出した。
「すみませんっ!!」
不意の大声に、室内の他の人間も一瞬ギョッとする。玄木は着座を促す。
「…あのね、前も言ったんだけど、ファイルの編集が完了したらちゃんと保存して。1個ずつ落ち着いてやれば大丈夫なんだから」
「はい! すみません…」
長野は3年前に中途採用で入社。不器用でマルチタスクが苦手な事から、未だに初歩的なミスが目立つ、ちょっと残念系OL。
新卒でこの会社に入社した玄木は、年齢こそ長野の1つ上だが在職歴が長く、まるで親の様に長野の仕事の世話を焼いている。
「あー、もう3年経っても毎日同じ事やってる気がするよ」
トイレで会った玄木は、ゆず子にそう言った。ゆず子は肩を竦めた。
「何かあの子、要領悪いよね。すごく真面目で謙虚なのに」
「長野さん、前職は小学生向けの学習塾の講師やってたけど、あの通りイレギュラー対応に弱いでしょ? だからほぼ『解雇状態』でここに来たの」
子供相手の仕事は想定外が起こりやすい。咄嗟の対応が出来ないのは致命的だ。
眉を描き直し玄木は続けた。
「だからかな、自信無さすぎなんだよね、なにするにしても。もうちょっと自信を持ってくれたらいいんだけど」
古い体質のこの会社は、意欲があっても『女性』にはあまり大きい仕事を任せていない。
玄木は仕事が出来るタイプなのだが、敢えて長野の世話を押し付けられている節が見える。
(彼女、この会社には勿体無い人材だと思うな…)
ゆず子は曖昧に微笑んで、ビニール手袋を外した。
「おはようございます!」
はきはきした挨拶に、声の主は誰かと思ったゆず子は仰天した。長野だったのだ。
「おはようございます。あら、何かいい事でもあったの?」
長野の挨拶はいつも弱弱しかった記憶がある。ゆず子の問いに長野は笑って返した。
「いいえー、普通ですよ?」
でも雰囲気が違うのは明らか。ゆず子はそれとなく玄木に尋ねた。
「あー、彼氏が出来たらしいよ」
玄木はさらっと答えた。
「友達の結婚式で連絡先交換して、2回目に会った時に『付き合おう』って言われたんだって。何か知らんけど、あの子あたしに『付き合おう言われたんですけど、どうしたらいいですか?!』って、テンパって電話かけてきてさ!」
長野にも親しい同期や他の友人も居る筈だが、『困ったら先輩へ聞く』という思考パターンが咄嗟に出てきたのには、ゆず子も笑ってしまった。
「とても信頼されてるのね、何か微笑ましい」
「いやいや、プライベートの事なんて自分でどうにかしてよって感じですよ」
とか言いつつ、妹分の吉報に玄木もまんざらでない表情だった。
「うーん。それ、ちゃんと上に言った方がいいと思う」
ゴミ袋を運ぶ途中、聞こえてきた長野の声。傍らには、同期の女性社員:中條。
「無駄だよ。課長が最後まで部下の話を訊かない事に関しては前からだし。いま声を上げても変わんないから、最初からそのつもりで周りに周知させた方が早いって」
2人は業務の問題点の事で揉めていた。
(珍しいな。あの子が他人に意見するなんて)
長野の珍しい光景は、他でも見かけるようになった。
「鳴瀬さん、トイレに掃除道具置き忘れてましたよ。気を付けて下さいね」
「こういう問題は、誰かが口に出さないと解決に向かえないと思います!」
「前もって、話し合って決めるべきだと思う。何もしないで後で困るなんて、子供じゃないんだから」
たまたま玄木と2人になった時に、ゆず子は話しかけた。
「彼氏出来てから、あの子変わったね。本来のデキる部分が出て来たのかな?」
だが、玄木は苦い顔をしていた。
「うーん、でもちょっと方向性が…、ねぇ。結局ミスの発生数は減ってないんだもん」
「え…、口だけ立つようになったの?」
「…自信持つ事は、悪い事じゃないんだけどね」
玄木は歯切れが悪そうに返事した。
しばらく経った頃。
トイレ掃除をしようとしているゆず子に、長野が声を掛けて来た。
「実はこの度、婚約する事になりました!」
「え? あら、おめでとう」
ただ会社に出入りする業者の1人という間柄なのに、わざわざ報告された。
(まあ、結婚は女子の一大イベントだからね。目に付いた人、皆に言いたくなるのがサガか)
長野は訊いても無いのに話を続けた。
「交際していた彼が、公務員試験に受かって市職員に内定しまして、『これを機に結婚しましょう』という運びになったんです。本当は交際1年を待ってからでも良かったんですが…。
それで来月結納をして、翌々月の交際1年の記念日に入籍する予定となってます」
「良かったですね。幸せな家庭を築いて下さいね」
言葉の端々に『公務員の妻となる予定』、『順調にスピード婚を成し遂げた』の自慢の様なものも見えるが、慶事は慶事だ。
だが、その一方で妙に気になる話も聞こえてきた。
「ねえ、ちょっとさぁ、長野さんなんだけど…」
仕事の合間に談笑する中條と別の同期女性社員に話しかけて来たのは、社内一のイケメン社員:碓田。
「どうしたんですか?」
「先週の部長の送別会で、帰りのタクシーでたまたま長野さんと乗り合わせたんだけど、『良ければ何処か寄りませんか?まだ未婚だし、碓田さんと何処か寄っても問題ないので!』とか、変な事言われて!」
顔色の悪い碓田の証言に、女子2人は大爆笑。
「何それ、ウケる!! 結婚前に男遊びしようってコト?! 『問題無いので!』って…、キャハハハ!!」
「勘違い甚だしいよね! 婚約してる自分は色気あるとでも思ってんのかな。てか、ちゃっかり顔で選んでるし!」
ある時は。
「え、子供出来てもこの部署続けるの? 繁忙期は残業も出張もあるのに」
「だから、婚約者は定時上がりが確実な市職員になったんです。私が残業しても、彼が保育園迎えに行って夕食作れるように、と思いまして」
「んー、でもキツイと思うよ?」
「…課長もしかして、結婚や妊娠出産を口実に、私に辞めて貰いたいのですか?」
「そんなつもりで言ったんじゃ無いけど」
(あらあら…)
長野の調子は留まらない。
「最近、ちょっと目に余るんだよね」
給湯室で会った玄木は、コーヒーを啜りながらゆず子に言った。
「マリッジ・ハイとでも言うのか…。口だけは立つのよ。旦那さんがそういう感じだから、影響されたのかしらね」
旦那さんと出会う前の長野は、それこそ不器用故のミスもしていたが、それとは別に真面目キャラで愛されていた。
現在も相変わらずミスが多く、でも『既婚=社会人として義務を果たしてる』『恋愛結婚=女として最高の名誉を手に入れた』故なのか、謎の強気な権利主張の様なものが目立つ。
「何か、旦那さんと出会ってから変わっちゃったわね、あの子」
「結婚式で旦那さん見たけど、普通の人だったんだよね。何だかなぁ」
玄木は、元気の無い目をしていた。
翌日。
ゆず子が掃除をしていると、長野が中條に何やら愚痴っているのが聞こえた。
「玄木先輩に注意されたの。『ミスが多すぎる。主張する前にやるべき事あるんじゃないか』って」
「へー、珍しい。玄木先輩怒るなんて」
ところが長野はこんな事を言い出した。
「嫉妬だよ、嫉妬。私がスピード円満婚したのが面白くないんだよ」
思わずゆず子も、中條と同じく目が点になった。長野は続けた。
「彼氏も居なくて未婚の仕事一筋の人と比べたら、既婚の私は仕事に使える神経が足りないのは当たり前なのよ。
『夕食何にする』とか『旦那さんのお母さんへのメールの返事どうしよう』とか、未婚の人は考える必要無い分、仕事に打ち込めるでしょ?」
中條も、さりげなく聞いてるゆず子も、耳を疑うような理論だった。長野は溜息をついた。
「未婚の人と比べないで欲しいよね。あの人も結婚したら分かるのに」
(…これは、やばいぞ)
ゆず子は口を真一文字にした。
約2ヶ月後、玄木は会社を去る事になった。かねてより希望していた業種へ、転職が叶ったのだ。
直後にゆず子も別の現場へ出向となり、3ヶ月後に戻った時には、また顔ぶれが変わっていた。
「あら、また顔ぶれが変わったわね」
昼休みに自分のデスクでスマホをいじる中條にゆず子が言うと、ニヤニヤしながら返してきた。
「あの子も辞めちゃったんだよ。おばちゃん覚えてる? 勘違いちゃん」
確かに、長野の席だった所には、男物のジャケットが椅子に掛かっている。中條は続けた。
「玄木先輩居なくなってから、続けて大きいミスをしちゃってね。異動の話が出たんだけど、『異動するぐらいなら退職する』ってなったの」
「そうなの…」
玄木という強力なフォロー役が居たからこそ、長野はどうにかここで働けていたのか。中條は笑って言った。
「玄木先輩が最終日の挨拶した時にね、長野さんに言った事がさぁ、すごかった!」
「どんな?」
「『私と違ってあなたは結婚出来たんだから、仕事もちゃんと出来るでしょう!!』だって。周りの皆も先輩無しで出来ないの分かってるから、完全に嫌味じゃん?
でも本人だけ分かってなくて、『そうですね。そのつもりです』って返して…。
ハハッ! 翌日からミス多発。終いには、会社に損害を与えかねない失敗しちゃってさ」
聞いてて胃が痛くなるような話の連続だった。中條は表情を切り替えると、話も替えた。
「そうそう玄木先輩、新しい会社で生き生きと働いてるみたい。何か、子守から解放されて自由になったというか。転職して正解だったね」
きっと、要領の悪い長野は、これまでの人生ある意味不遇だったのだろう。成功体験が少なく、褒められる事もあまり無く、自尊心が乏しかった。
そしてたまたま『男性の方からアプローチされ、結婚まで順調に進む』というミラクルが発生し、それを『自分の実力』と勘違いしてしまったのか。
自信家過ぎるのも困るが、自信が無さ過ぎても逆の現象が起こるのかも知れない。
日本の場合、夫の姓を名乗ったり夫の両親と同居したりと、女の側で生活が物理的に変化する場合が多いからかもしれないが。
「まーた、これ間違ってるよ」
その声に顔を上げると、片眉を上げた玄木紗羽子がPC画面を見つめていた。隣の長野育海はビクッと身体を震わせると、大声を出した。
「すみませんっ!!」
不意の大声に、室内の他の人間も一瞬ギョッとする。玄木は着座を促す。
「…あのね、前も言ったんだけど、ファイルの編集が完了したらちゃんと保存して。1個ずつ落ち着いてやれば大丈夫なんだから」
「はい! すみません…」
長野は3年前に中途採用で入社。不器用でマルチタスクが苦手な事から、未だに初歩的なミスが目立つ、ちょっと残念系OL。
新卒でこの会社に入社した玄木は、年齢こそ長野の1つ上だが在職歴が長く、まるで親の様に長野の仕事の世話を焼いている。
「あー、もう3年経っても毎日同じ事やってる気がするよ」
トイレで会った玄木は、ゆず子にそう言った。ゆず子は肩を竦めた。
「何かあの子、要領悪いよね。すごく真面目で謙虚なのに」
「長野さん、前職は小学生向けの学習塾の講師やってたけど、あの通りイレギュラー対応に弱いでしょ? だからほぼ『解雇状態』でここに来たの」
子供相手の仕事は想定外が起こりやすい。咄嗟の対応が出来ないのは致命的だ。
眉を描き直し玄木は続けた。
「だからかな、自信無さすぎなんだよね、なにするにしても。もうちょっと自信を持ってくれたらいいんだけど」
古い体質のこの会社は、意欲があっても『女性』にはあまり大きい仕事を任せていない。
玄木は仕事が出来るタイプなのだが、敢えて長野の世話を押し付けられている節が見える。
(彼女、この会社には勿体無い人材だと思うな…)
ゆず子は曖昧に微笑んで、ビニール手袋を外した。
「おはようございます!」
はきはきした挨拶に、声の主は誰かと思ったゆず子は仰天した。長野だったのだ。
「おはようございます。あら、何かいい事でもあったの?」
長野の挨拶はいつも弱弱しかった記憶がある。ゆず子の問いに長野は笑って返した。
「いいえー、普通ですよ?」
でも雰囲気が違うのは明らか。ゆず子はそれとなく玄木に尋ねた。
「あー、彼氏が出来たらしいよ」
玄木はさらっと答えた。
「友達の結婚式で連絡先交換して、2回目に会った時に『付き合おう』って言われたんだって。何か知らんけど、あの子あたしに『付き合おう言われたんですけど、どうしたらいいですか?!』って、テンパって電話かけてきてさ!」
長野にも親しい同期や他の友人も居る筈だが、『困ったら先輩へ聞く』という思考パターンが咄嗟に出てきたのには、ゆず子も笑ってしまった。
「とても信頼されてるのね、何か微笑ましい」
「いやいや、プライベートの事なんて自分でどうにかしてよって感じですよ」
とか言いつつ、妹分の吉報に玄木もまんざらでない表情だった。
「うーん。それ、ちゃんと上に言った方がいいと思う」
ゴミ袋を運ぶ途中、聞こえてきた長野の声。傍らには、同期の女性社員:中條。
「無駄だよ。課長が最後まで部下の話を訊かない事に関しては前からだし。いま声を上げても変わんないから、最初からそのつもりで周りに周知させた方が早いって」
2人は業務の問題点の事で揉めていた。
(珍しいな。あの子が他人に意見するなんて)
長野の珍しい光景は、他でも見かけるようになった。
「鳴瀬さん、トイレに掃除道具置き忘れてましたよ。気を付けて下さいね」
「こういう問題は、誰かが口に出さないと解決に向かえないと思います!」
「前もって、話し合って決めるべきだと思う。何もしないで後で困るなんて、子供じゃないんだから」
たまたま玄木と2人になった時に、ゆず子は話しかけた。
「彼氏出来てから、あの子変わったね。本来のデキる部分が出て来たのかな?」
だが、玄木は苦い顔をしていた。
「うーん、でもちょっと方向性が…、ねぇ。結局ミスの発生数は減ってないんだもん」
「え…、口だけ立つようになったの?」
「…自信持つ事は、悪い事じゃないんだけどね」
玄木は歯切れが悪そうに返事した。
しばらく経った頃。
トイレ掃除をしようとしているゆず子に、長野が声を掛けて来た。
「実はこの度、婚約する事になりました!」
「え? あら、おめでとう」
ただ会社に出入りする業者の1人という間柄なのに、わざわざ報告された。
(まあ、結婚は女子の一大イベントだからね。目に付いた人、皆に言いたくなるのがサガか)
長野は訊いても無いのに話を続けた。
「交際していた彼が、公務員試験に受かって市職員に内定しまして、『これを機に結婚しましょう』という運びになったんです。本当は交際1年を待ってからでも良かったんですが…。
それで来月結納をして、翌々月の交際1年の記念日に入籍する予定となってます」
「良かったですね。幸せな家庭を築いて下さいね」
言葉の端々に『公務員の妻となる予定』、『順調にスピード婚を成し遂げた』の自慢の様なものも見えるが、慶事は慶事だ。
だが、その一方で妙に気になる話も聞こえてきた。
「ねえ、ちょっとさぁ、長野さんなんだけど…」
仕事の合間に談笑する中條と別の同期女性社員に話しかけて来たのは、社内一のイケメン社員:碓田。
「どうしたんですか?」
「先週の部長の送別会で、帰りのタクシーでたまたま長野さんと乗り合わせたんだけど、『良ければ何処か寄りませんか?まだ未婚だし、碓田さんと何処か寄っても問題ないので!』とか、変な事言われて!」
顔色の悪い碓田の証言に、女子2人は大爆笑。
「何それ、ウケる!! 結婚前に男遊びしようってコト?! 『問題無いので!』って…、キャハハハ!!」
「勘違い甚だしいよね! 婚約してる自分は色気あるとでも思ってんのかな。てか、ちゃっかり顔で選んでるし!」
ある時は。
「え、子供出来てもこの部署続けるの? 繁忙期は残業も出張もあるのに」
「だから、婚約者は定時上がりが確実な市職員になったんです。私が残業しても、彼が保育園迎えに行って夕食作れるように、と思いまして」
「んー、でもキツイと思うよ?」
「…課長もしかして、結婚や妊娠出産を口実に、私に辞めて貰いたいのですか?」
「そんなつもりで言ったんじゃ無いけど」
(あらあら…)
長野の調子は留まらない。
「最近、ちょっと目に余るんだよね」
給湯室で会った玄木は、コーヒーを啜りながらゆず子に言った。
「マリッジ・ハイとでも言うのか…。口だけは立つのよ。旦那さんがそういう感じだから、影響されたのかしらね」
旦那さんと出会う前の長野は、それこそ不器用故のミスもしていたが、それとは別に真面目キャラで愛されていた。
現在も相変わらずミスが多く、でも『既婚=社会人として義務を果たしてる』『恋愛結婚=女として最高の名誉を手に入れた』故なのか、謎の強気な権利主張の様なものが目立つ。
「何か、旦那さんと出会ってから変わっちゃったわね、あの子」
「結婚式で旦那さん見たけど、普通の人だったんだよね。何だかなぁ」
玄木は、元気の無い目をしていた。
翌日。
ゆず子が掃除をしていると、長野が中條に何やら愚痴っているのが聞こえた。
「玄木先輩に注意されたの。『ミスが多すぎる。主張する前にやるべき事あるんじゃないか』って」
「へー、珍しい。玄木先輩怒るなんて」
ところが長野はこんな事を言い出した。
「嫉妬だよ、嫉妬。私がスピード円満婚したのが面白くないんだよ」
思わずゆず子も、中條と同じく目が点になった。長野は続けた。
「彼氏も居なくて未婚の仕事一筋の人と比べたら、既婚の私は仕事に使える神経が足りないのは当たり前なのよ。
『夕食何にする』とか『旦那さんのお母さんへのメールの返事どうしよう』とか、未婚の人は考える必要無い分、仕事に打ち込めるでしょ?」
中條も、さりげなく聞いてるゆず子も、耳を疑うような理論だった。長野は溜息をついた。
「未婚の人と比べないで欲しいよね。あの人も結婚したら分かるのに」
(…これは、やばいぞ)
ゆず子は口を真一文字にした。
約2ヶ月後、玄木は会社を去る事になった。かねてより希望していた業種へ、転職が叶ったのだ。
直後にゆず子も別の現場へ出向となり、3ヶ月後に戻った時には、また顔ぶれが変わっていた。
「あら、また顔ぶれが変わったわね」
昼休みに自分のデスクでスマホをいじる中條にゆず子が言うと、ニヤニヤしながら返してきた。
「あの子も辞めちゃったんだよ。おばちゃん覚えてる? 勘違いちゃん」
確かに、長野の席だった所には、男物のジャケットが椅子に掛かっている。中條は続けた。
「玄木先輩居なくなってから、続けて大きいミスをしちゃってね。異動の話が出たんだけど、『異動するぐらいなら退職する』ってなったの」
「そうなの…」
玄木という強力なフォロー役が居たからこそ、長野はどうにかここで働けていたのか。中條は笑って言った。
「玄木先輩が最終日の挨拶した時にね、長野さんに言った事がさぁ、すごかった!」
「どんな?」
「『私と違ってあなたは結婚出来たんだから、仕事もちゃんと出来るでしょう!!』だって。周りの皆も先輩無しで出来ないの分かってるから、完全に嫌味じゃん?
でも本人だけ分かってなくて、『そうですね。そのつもりです』って返して…。
ハハッ! 翌日からミス多発。終いには、会社に損害を与えかねない失敗しちゃってさ」
聞いてて胃が痛くなるような話の連続だった。中條は表情を切り替えると、話も替えた。
「そうそう玄木先輩、新しい会社で生き生きと働いてるみたい。何か、子守から解放されて自由になったというか。転職して正解だったね」
きっと、要領の悪い長野は、これまでの人生ある意味不遇だったのだろう。成功体験が少なく、褒められる事もあまり無く、自尊心が乏しかった。
そしてたまたま『男性の方からアプローチされ、結婚まで順調に進む』というミラクルが発生し、それを『自分の実力』と勘違いしてしまったのか。
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