鳴瀬ゆず子の社外秘備忘録 〜掃除のおばさんは見た~

羽瀬川璃紗

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三姉妹と秘密の経歴 ※特定職業に対する偏見?的表現あり

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 窓の外を、制服姿の女子高生らしき2人が通り過ぎると、三女が口を開いた。

「いいねえ、午前授業でこれからエンジョイか」

 長女が応える。

「テスト期間じゃないの? エンジョイも何も勉強でしょ?」

 次女は伸びをしながら言う。

「あー。テストも受験もないし、大人サイコー」

 すると長女が頭を抱える。

「あたし大人なのに試験ある~。来年、資格1個取らないといけない」

「へえ、趣味で? それとも仕事?」

「仕事の方ね。一定年数勤めてると、必ず取らされるやつ。しかも、取ったからって給料上がる訳でも無い」

「あー…、そういう」


 あまりメジャーでは無いのだが、実は清掃に関する国家資格が存在していて、資格試験を受ける事が出来る。

(興味無いし、取ろうと思った事もないわね。取っても、仕事で使う事も無いだろうし)
 ゆず子は、珈琲を啜りつつ思った。


 次女が口を開く。

「『資格』って言えばだけどさ、お母さんが昔、占い師になろうとした話。精進落としの時に詳しく大叔母さんに訊けて、すごく面白かったよ」

「え、聞いたの? あたしもその話聞きたかった~」

 三女が口を尖らす。長女が意外そうに口を開く。

「占い師なの? あたし、『婚約破棄で自棄になって、霊能力者に弟子入りしようとした』って聞いたけど」

 次女は頷きつつ話を続けた。

「まあ似た様なもんだよ。1人で生きると決めたからには、手に職を!って奮起して、齢を取れば取るほど板についてくる、占い師を目指したらいいかもって考えて、最終的にシャーマン的な人に習ったみたいよ」

 三女は首を竦めた。

「『しゃーまん』? って、つまり何する人なん? 占い師と霊能力者とシャーマンって、どう違うの?」

 長女はアイスティーを飲みつつ言った。

「違いは分からないけど、占いも出来るしお化けも見れる人なのかな、シャーマンて。お母さん、霊感というか妙に鋭い時あるよね。おばあちゃんの急変も夢で見たらしいし」

 三女は苦笑した。

「うちら、だ~れもお母さんの霊感遺伝しなかったよね。でもお化けは見えないから、厳密には『第六感』か」

「「それな」」

 次女と長女の声が被り、3人は笑った。笑った後、次女は言った。

「大叔母さんが言ってたけど、習うにあたっての『入門試験』が特殊だったらしいよ。自筆で生年月日と名前を書いた紙と、顔写真、あと手相を見て決めたらしい」

「へー、でも手相以外は普通の会社と同じじゃない?」

 三女の言葉に長女が苦笑する。

「確かに、履歴書とおんなじだ。でも手相ってとこが、いかにもシャーマンだね」


(へえ、占い師に弟子入りねえ。取るか否かを『占い』で決めるってとこが、期待を裏切らないわね)

 友人知人関係でも、占い師になった者が居ないゆず子にとって、この話はある意味すごく興味深かった。


 三女は口を開いた。

「でもお母さん、お眼鏡かなって合格したんでしょ。珍しい手相でもあったんかね?」

 すると次女が声を上げた。

「それが大叔母さんの話では、例のシャーマンのとこって年間何十人と希望者来るんだけど、合格させるのは年に2,3人だけなんだって。だからお母さん、その狭い枠に入れたって事なのよ」

 その話に、長女と三女は感心の声を上げた。

「えー、そうだったんだ」

「へえ、だから個別指導だったんだね」

「そうだね。て言うか、入門希望者の中にはプロ占い師やそこそこ霊感強い人も居たらしいのに、それ押しのけてうちのお母さんってとこが、いまいちピンと来ないんだよね」

 次女が腑に落ちない表情をすると、三女が口を添える。

「まあ、そう言うのひっくるめて『シャーマンの占い教室』なんだろうね」

「あんたのその言い方!」

 長女と次女は笑った。三女は言った。

「結局、お母さん2年半通ったんでしょ? 何で占いの道、進まなかったんだろうね。趣味でもあるかもしれないけど、あんなに知識も技術もあって予知夢もよう見るし、ガッツリ素質あるじゃん」

 長女も不思議がった。

「あたしも何回か訊いた事あるけど、『色々あったから』とか、『お父さんとの結婚が決まったから』とか言われたなぁ。メグは大叔母さんから何か聞いた?」

 次女は思わせぶりな微笑みを浮かべたが、首を振った。

「残念ながら。でも、『もしやこれが理由かな?』って思う話は教えてもらった」

 長女と三女は目を輝かせる。

「どんな?」

「そのシャーマンの人、今もやってるのか聞いてみたんだよね。そしたら『後継者居ないから、今はやってない』ってお母さんが答えて。
すると大叔母さんが『息子居たじゃない?あの人、後継いでないの?』って言って、お母さんが『あの人は普段会社勤めで、休みの日だけ電話番と受付やってただけで、そういうのノータッチなんだよ』って。
それで大叔母さんが『あの○○さん(シャーマン)も大変だよね、お子さん亡くしたり障害あったりで、まともに育ったのあの息子さん一人だけなんだもん。ああいう仕事だからしょうがないね、サイちゃん(お母さん)占いやらなくて良かったね~』だって」


(ほう?)

 思わず目線を送ったゆず子は、三姉妹が頭を寄せ合っているのが見えた。


 次女の言葉に、アイスティーを飲んでいた長女が口を開く。

「…何かあたし、子供の頃にお母さんから似た話されたな」

 長女はグラスを置くと続けた。

「お母さんが昔『霊能力者に弟子入りした』事あるとは聞いていて、テレビで霊能力者の特集見た時に、『霊能力者カッコイイ』って言ったんだよね。
そしたらお母さんに『あのお仕事はね、悪いものや悪霊を背負うから、カッコ良くてもやるもんじゃないのよ。背負ったものは子供や孫にも受け継がれるんだから』って言われたんだよね」

 三女は何か閃いたのか、姿勢を正した。

「そういう目に見えない世界の仕事やると、子孫に悪い影響が出るってこと? お母さんはそれを知ったから、やらないようにした?」

 長女は何とも言えない表情をしていた。

「一概には言えないね。確かに『先生』にあたる人がそうだ、と言うのを目の当たりにして、思うとこがあったのかもしれないし。時期的にお父さんとの出会いもあっただろうから、単純に開業する暇が無かったのかもしれないよね」

 次女はアイスココアを飲んで、口を開いた。

「もし、アズの言う通りの影響があるとしてさ。お母さんがプロとして始めていたら、私達どうなっていたんだろうね」

 三姉妹はしばし沈黙したが、三女は事も無げに言った。

「シンプルに『婚期逃して独身』。だから、そもそもうちら生まれなかったんじゃね?」

 呆気に取られた長女と次女だが、笑った。

「あんたのそういうとこ、いいね」

「ほんとね」


 自分のこれまでにドラマがあるように、自分の親にも人知れぬドラマがあるものだ。それは知ろうとしないと知れない、同じものは一つとない、他人には知り得ない物語かもしれない。


(ほんと、今は口うるさく感じても、親と話をちゃんとしておかないとね。ボケたり最期を迎えたら、永久に話せなくなってしまうから。知れる話も知れなくなってしまうのよ)

 ゆず子は人知れず親目線で、三姉妹をこっそり見つめるのであった。

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