148 / 153
148 毒と猛毒
しおりを挟む
前回、社長の娘の悪事を告発した、話の続き。
引き続き業務にあたっていたタカコだが、処分後から目に見えて社内の評判は落ちていった。
タカコ自身も仕事に嫌気がさしたのか、取り組みの姿勢は次第に悪くなっていた。
「甘やかされて育ったから、叱られた経験がないんだよ。だから1度の叱責で不貞腐れてるんだね。子供みたい」
「こないだ作成した書類の不備を注意されたら『そんなにあたしの作ったやつが嫌なら、あたしを解雇して新しい人雇って作らせたらいいじゃん!』って、臍曲げて泣いたらしいよ」
告発に対する罪悪感は相変わらず無かったが、業務停滞に対する罪悪感を感じ始めた頃、タカコは自ら退職を願い出た。
「嫉妬って怖いね。親の仕事とか、生まれ育った環境とか、何ならあたしの『サッパリした裏表の無い性格』とか。何がきっかけで目をつけられるか分からないからね」
不正を告発された理由を『嫉妬』と結論づけた『粘着質な性格』のタカコは、そう言い残し会社を去った。それでも、不正は不正なので私に罪悪感は芽生えなかった。
タカコが退職して数日後、私はこんな夢を見た。
夜、自宅に電話がかかってきた。相手は性別不明の嗄れた声をしていた。
『今からお前んちに行ってやる。覚悟しろぉぉぉ、後悔しろぉぉぉ』
『来れるもんなら来れば?』
私はぶっきらぼうに答え電話を切った。居間に家族みんなで待機するも、何の沙汰も無い。
『来ないね、逃げたんじゃね?』
『結局その程度なんだよ。怖がる必要も無い』
家族は口々に言い、私は席を立つ。勝手口のドアを開け、私は暗闇を凝視する。
そこには実際に無い謎の遊歩道があった。外灯も無い漆黒の闇の中、車椅子の人や着物姿の人など、多くの人々が行き交っていた。
(へえ、意外に多いな。それで、あの人は何処に居るんだろ)
こちらを向いて、立ち止まってる人が1人。小柄な女性に見えた。女性はニヤニヤ笑ってこっちを見ているようだが、その距離は遠く人相もよく分からない。
(あれかな。でもこっち来るわけじゃないのか。何したいんだ、アレ)
暗闇の中、こっちを見て笑う女は気持ちの良いものでは無いが、他にも沢山の人が行き交ってるし怖くない。私は一瞥してドアを閉めた。
夢から覚めた私は、あの女性はタカコの亡くなった母親なのではと思った。
私は故人に恨まれてしまったのか。だが、タカコ自身にも非がある。反省と再出発のチャンスを捨てたのは、他ならず彼女の意志だ。
タカコの母親は、私へ罪悪感を抱かせるべく威圧や恐怖感を与えたくて夢に出たのに、タカコの非のせいで不完全燃焼に終わったのか。
そして、2回も夢に出て来たにも関わらず、太々しく自分の主義主張を曲げない鬼の様な私。
アクの強い故人より、アクが強いかもしれない私の話。
引き続き業務にあたっていたタカコだが、処分後から目に見えて社内の評判は落ちていった。
タカコ自身も仕事に嫌気がさしたのか、取り組みの姿勢は次第に悪くなっていた。
「甘やかされて育ったから、叱られた経験がないんだよ。だから1度の叱責で不貞腐れてるんだね。子供みたい」
「こないだ作成した書類の不備を注意されたら『そんなにあたしの作ったやつが嫌なら、あたしを解雇して新しい人雇って作らせたらいいじゃん!』って、臍曲げて泣いたらしいよ」
告発に対する罪悪感は相変わらず無かったが、業務停滞に対する罪悪感を感じ始めた頃、タカコは自ら退職を願い出た。
「嫉妬って怖いね。親の仕事とか、生まれ育った環境とか、何ならあたしの『サッパリした裏表の無い性格』とか。何がきっかけで目をつけられるか分からないからね」
不正を告発された理由を『嫉妬』と結論づけた『粘着質な性格』のタカコは、そう言い残し会社を去った。それでも、不正は不正なので私に罪悪感は芽生えなかった。
タカコが退職して数日後、私はこんな夢を見た。
夜、自宅に電話がかかってきた。相手は性別不明の嗄れた声をしていた。
『今からお前んちに行ってやる。覚悟しろぉぉぉ、後悔しろぉぉぉ』
『来れるもんなら来れば?』
私はぶっきらぼうに答え電話を切った。居間に家族みんなで待機するも、何の沙汰も無い。
『来ないね、逃げたんじゃね?』
『結局その程度なんだよ。怖がる必要も無い』
家族は口々に言い、私は席を立つ。勝手口のドアを開け、私は暗闇を凝視する。
そこには実際に無い謎の遊歩道があった。外灯も無い漆黒の闇の中、車椅子の人や着物姿の人など、多くの人々が行き交っていた。
(へえ、意外に多いな。それで、あの人は何処に居るんだろ)
こちらを向いて、立ち止まってる人が1人。小柄な女性に見えた。女性はニヤニヤ笑ってこっちを見ているようだが、その距離は遠く人相もよく分からない。
(あれかな。でもこっち来るわけじゃないのか。何したいんだ、アレ)
暗闇の中、こっちを見て笑う女は気持ちの良いものでは無いが、他にも沢山の人が行き交ってるし怖くない。私は一瞥してドアを閉めた。
夢から覚めた私は、あの女性はタカコの亡くなった母親なのではと思った。
私は故人に恨まれてしまったのか。だが、タカコ自身にも非がある。反省と再出発のチャンスを捨てたのは、他ならず彼女の意志だ。
タカコの母親は、私へ罪悪感を抱かせるべく威圧や恐怖感を与えたくて夢に出たのに、タカコの非のせいで不完全燃焼に終わったのか。
そして、2回も夢に出て来たにも関わらず、太々しく自分の主義主張を曲げない鬼の様な私。
アクの強い故人より、アクが強いかもしれない私の話。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。
荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる