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シンデレラ

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 私はある劇団の候補生になっていた。練習はハードだがやりがいがある。 


 迎えた昇格試験。会場は舞台が併設された、古びた4階建ての元ホテル。
 昭和初期は保養所として使われていて、劇団の前身はそこで演芸を披露する集団だったという。 

 最初の試験は自由演技。四方を客席に囲まれた(客は入ってない。居るのはこの道何十年のベテラン劇団員や審査官)、プロレスリングの様な舞台。 

「来たよ『デスマッチステージ』だ…」 

 他の候補生がビビって青ざめるなか、私は大興奮。 

(これが噂の聖地!!すごい!マジで四方に客席あるのね!) 

 噂では半数の候補生はここで脱落するという。360度審査官から査定される緊張で、潰れるとか。 


 クジ引きの結果、私が1番手。普通ならギョッとするのに、私は喜んだ。 

(よかった!いま丁度聖地を見て興奮してるとこだから、緊張する前に勢いで行ける!!) 

 私は自分の高揚感が途切れぬ前に、とびきりの笑顔でダンスを始めた。
 『ボロを着て家事を押し付けられても、合間に鳥や小動物と遊ぶシンデレラ』を表現したアカペラとダンスは、まぐれで意外に高評価。 


 候補生達の1次試験終了後、2次試験用の小道具を配布された。 

 美しい装飾のある模造ナイフと香水瓶、どちらかを用いた寸劇を半日で考え発表しろとのこと。私は香水瓶を選んだ。 

 ちなみに、昇格試験は合格できなければ毎年受けることになる。候補生の最年長は50代半ばの女性。『万年候補生』のイクエは、新人候補生いびりで悪名高い。 

(あの人、何年連続で落ちてるんだろう…?) 


 同期の候補生仲間から『無断外出』に誘われる。 

 見つかると面倒なので、断って彼らを眺めてると、イクエが飛び出して騒ぐ。 

「あー!! 勝手に出かけてるんですけど! いいんですかー?」 

(言い方、小学生かよ…) 

 廊下に並べられ上層部から厳重注意を受ける候補生達を尻目に、イクエは口を添える。 

「注意勧告だけだなんて温いですよ、連帯責任で彼らと同期の人間全員の資格を抹消して下さい!」 

 彼女は私をチラと見て言った。 

(1次で高評価の私を潰しにかかってるのか。うわ、引くわ) 

 上層部はイクエに言った。 

「必要があるかどうかを決めるのは、私達だ。決定権は君に無い」 

 自分より年下の上層部に一喝され、イクエの表情が険しくなる。急に走り出した彼女はどこに行ったのかと思うと…。 

 候補生の部屋に乱入し、配布された小道具を破壊し始めた。 

(おばさんご乱心かい!) 

 私はどさくさに紛れて、何とか香水瓶を死守するが。イクエは私をロックオンして追ってくる。 

(何で私なんだよ…) 

 私は廊下を全力疾走する羽目になった。シンデレラも、こうやって階段を駆けて行ったのだろうか? 

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