漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート～

染まる

　仕事関係の知人から『勉強になるから』と、ある会合に誘われた私は、渋々出席していた。 

　乗り気でないのには、理由があった。
　どう考えても、胡散臭い思想家が会合の主催者だったからだ。 


　通されたのは、地域の集会所の様な小さな座敷。 

(随分、粗末というか、低コストの布教活動なのね…) 

　席は、折り畳み式の長座卓に座布団(柄バラバラ)。食事は仕出し膳なのか、もう割り箸が並べてある。 


　席の正面は1段高くなっていて舞台のようになっていて、そこで天女か巫女を思わせる衣装を着た主催者が、謎の音楽に合わせて踊り始める。 

(え…、これを見ながら食事しろと？) 

　私は馬鹿馬鹿しい気持ちでいっぱいだった。 


　踊り終えた主催者が、持論を展開した説法を始める。 

「自然を守るために化学薬品は絶対に使わないで！　その為に出来る事は色々ありますから！」 

　私は右から左へ聞き流す。 

(こんな感じで説得される人、居るのかな？) 


　後日。 

　会合に居たAさんは思想に深く共鳴し、その後すぐ全財産を持って主催者の元へ行った。 

　同じくBさんは、家族や会社の同僚にその思想を強く説くようになった。 

　下水処理場勤務のCさんは、業務で使用する薬品を自己判断で不使用にして、大問題に発展した。 

(人って、こんな簡単に染まっちゃうの？) 

　私は信じられない気持ちでいっぱいだった。